94_短編



何故この人と一緒にいるのだろうとぼんやり思う。

「(あぁそうだ…)」

早朝と呼ばれる時間に彼は忽然と現れた。なんの脈絡もなく部屋におり、微睡んでいた私は大層驚いた。
彼が私を訪ねて来ることなどないと思っていた。
彼は何故か微睡みつつあった私に話しかけ、おかしな話をいくつもした。

お気に入りの町のこと、そこに暮らす同胞たちのこと、昔馴染みのこと、
半分靄がかかった頭ではろくな感想も出てこず、込み上げる笑いを合いの手に彼は話をした。
とうとう私の反応も途切れ途切れになった頃、
彼はいつもの意地の悪い笑顔に、柔らかい何かが混ざった顔をして私をベッドへ誘った。

差し出された手を取り、覚束無い足で寝所に数歩。
たどり着くと共に私は引き込まれるようにベッドに倒れた。
モゾモゾとシーツを被る私を、彼は子供を寝かしつけるかのように見守った。

「眠れそうかね、愛されたい寂しがりさん」
「ふふ……貴方が自分の好きなこと以外をするとは思いませんでした……」
「なんと、この私が好ましく思っているキミのことを蔑ろにすると?」

戯けるように大袈裟なリアクションをする彼にまた破顔。

「(この人は…寝かしつけに来てくれたのか…)」

愛されたい寂しがり屋。
その事がわかって気まぐれとほんの少しの好意でやってくれたことにこんなにも嬉しくなるなんて。
とろとろと重い瞼が落ちてくる。

「……また……」
「?」
「またこうして、…たまにでいいので、側にいてくださいね」

彼の手を握りながら言うとそれはそれは意地悪そうに彼は笑い、

「もちろんだとも。…気が向いたらね」

と言うと私に1つキスをして来た時よろしく忽然と消えたのだった。
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