忍たま_短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「う〜ん…」
放課後。皆それぞれの活動を始め誰も居なくなったがらんとした教室で
くのたま4年、善法寺稲美は山本シナ先生から渡されたプリントを見ながら悩んでいた。
プリントには房中術の実習について、の文字。
「来るべくして来た演習だけどね〜、…ふ〜〜ん」
覚悟はしていた内容だが実際に課題として出されると大きな壁だなぁと彼女は後ろに倒れ込んだ。
要項として、
相手として認められるのは教師を除く学園関係者であること、
本番行為は禁止(もし行為が認められた場合、相手を変えて補習)であること、
実習後に実習相手に実施事項を記載してもらい提出することが書かれていた。
相手の署名が必須では無いため偽書の術で誤魔化した先輩もいたらしいが
バレるともちろん補習であるためそれなら大人しく実習を受けるべきと考える稲美。
もとより、くのたまとしての技能を身につけたい彼女にとってはこの実習を避けて通ることは出来なかった。
しかしここで大問題にぶつかった。
実習相手問題である。
「(兵ちゃん達と留達は万が一、いや億が一でもその後気まずくなりたくない…)」
学園内の親しい異性は今後の関係を鑑みて除外。
「(1番人体や私自身のことに関して詳しいのは兄上…だけど……流石にちょっとなぁ…)」
1番頼りになりそうな兄は、兄であるため除外。
同じように委員会関連、後輩などを除外していくとめぼしい人はほとんど居なくなってしまった。
「……誰に頼めばいいんだろう…」
うんうんと頭を悩ませていると開けたままになっていた窓から元気な声が聞こえてきた。
何事かと外を窺いみると体育委員会が委員会活動をしているようだった。
いけいけどんどん!な七松小平太、先輩二人に振り回されている平滝夜叉丸、
そして"菩薩夜叉"と言われ恐れられている桜木清右衛門の3人と後輩数名で鍛錬をしているようだ。
「元気だなぁ…」
頭を悩ませている私にその元気を分けて欲しいと思いながら彼女は再度寝転んだ。
「何処かに居ないかなぁ…。
日頃関わりが少なめで、
実習に付き合って貰えるだけの体力があって…、
欲を言えばしっかり技術を持っていそうで
後腐れなくその手のことに付き合ってくれそうな人…」
そんな都合のいい人物いるわけが無い、とため息を付いた、その時だった。
「…ん?」
一人、浮かんだ人がいた。先程体育委員会を従えていた、桜木清右衛門先輩。
学年は2つ上の6年生、つまり学園関係者。
委員会が異なり、日頃の関わりは少ない。
聞いたところによるとどんなに大変な作業をしても疲れを見せないという、つまり体力がある。
それに記憶の中から関わった際のさっぱりとした性格、
整った容姿と学年から色事の一つや二つご経験なされているのでは?という発想に至った。
「……ダメ元だけれども頼んでみよう」
条件にこうも一致する人物は貴重だ。
ダメで元々と、稲美は桜木を探すために教室を後にした。
***
5年は組、食満留三郎は鉄双節棍の自主練をしていた。
愛用の武器は使い始めた頃より随分と手に馴染むようになった。
今では思うままに操ることも出来、技のキレや精度を上げるために日々自主練に取り組んでいた。
「励んでいるな、留三郎」
「!桜木先輩!」
留三郎に気配を気取られず背後から声を掛けたのは桜木清右衛門。にこやかな笑顔と共に現れた。
「随分上達したな」
「ありがとうございます、先輩のおかげです」
「そんな事はない、研鑽を積んだということだろう」
褒めて貰えるとは思わず、何処か面映ゆい留三郎。
そんな2人に声をかける者がいた。
「桜木先輩!」
「おお、善法寺妹。どうかしたか?」
「…稲?」
「あれ? …留も一緒だったんだ」
教室から学園中を探した稲美が声をかけた。
しかし、桜木と一緒に留三郎がいると気づかないまま声をかけてしまった。
「すみません、お邪魔をしてしまいました。後で出直します」
「いいや、留三郎の自主練を見学していたんだ。そうだな?留三郎」
「はい、…稲こそ桜木先輩になにか御用だったのか?」
留三郎から用向きを問われてしまう稲美。
流石に親しい友人のいる場で先輩に対して房中術の相手について切り出す勇気は彼女にはなかった。
「え、ああ…実は折り入ってお願いがありまして…」
「なるほど?」
少し歯切れの悪い稲美の顔を覗き込む桜木。
依頼の件でしどろもどろとしていた稲美へ、整った顔がすぐ近くに迫り思わず目が泳いでしまう。
「ふむ、場所を変えようか」
「!はい、ありがとうございます」
稲美の様子がおかしいのは普段関わりの少ない桜木から見ても明らかだった。
さては何か話しにくいことかと目星を付けた桜木は場所の変更を提案した。
稲美にとってこれは渡りに船であった。
「邪魔したな留三郎」
「ああいえ…」
「ごめんね、留」
「いや、問題ない」
行こうかと桜木が稲美と連れ立って留三郎から離れていく。
1人になった留三郎はしばらくぼんやりとしていた。
自主練に戻ろうとはしたが2人が離れていく様が頭から離れなかった。
「……つけよう」
他者に気付かれずに後をつけるのも立派な忍びとしての自主練だ!と自身に言い訳をしながら、
留三郎は2人が歩いていった方向に歩き出した。
***
自主練場所から離れてしばらく、稲美は桜木と向き合って改めて切り出した。
「先輩、お願いごとの前に質問させてはいただけないでしょうか」
「構わないが?」
「今お付き合いされている方はいらっしゃいますか?」
「??いないぞ?」
「ありがとうございます、これでお願いできます」
桜木とお付き合いしている人がいれば、今回のお願いは交際相手にも桜木本人にも不躾すぎる。
覚悟を決めて稲美は懐から、渡されたプリントを取り出した。
「こちらを見て頂いてよろしいでしょうか」
「おや、これは…」
ふぅんと薄く笑った桜木に、大変失礼なお願いなのですがこちらの実習のお相手を
桜木先輩にお願いしたいと思いまして…とモニョモニョ頼む稲美。
「何故この話を私に?」
「はい。実習をやるのであればしっかりと技術を学びたいと思いまして、体力があり、
年上で優秀な桜木先輩であれば色の技術も高いのではと思ってお声をかけさせて頂きました。
…決して浮ついた気持ちでの依頼ではございません」
「ふむ、貪欲に技術をか。それなら協力しようか」
「え…っ、ほ、本当ですか!?」
ダメ元で依頼をしたので良い返事を貰えて驚きを隠せない稲美。
そんな様子に桜木は声を上げて笑った。
「いいよ、技術を学びたい後輩を無下には出来ないだろう」
「ありがとうございます…!実習の際に必要になりそうなものについてもまとめてきているので
確認して頂いてもよろしいでしょうか」
「準備がいいなぁ。見せてみろ」
稲美は懐から覚書を取りだして桜木と確認する。
そこには房中術で必要な潤滑油や張形などが書き出され不足がないかを見てもらう。
「…うん、問題ないんじゃないか?」
「承知しました。ここに書いたものは私が用意しますので、先輩は身一つで私の部屋にお越しください。
準備が出来ましたらまたご連絡させて頂きます」
「同室は居ないのか?」
「一人部屋でして」
「なるほど。ではこちらで持っていきたいものがあれば準備しよう。また声をかけてくれ」
「はい、ありがとうございます」
それじゃあと手を振りながら去っていく桜木に深々と頭を下げる稲美。依頼大成功だ。
「…とりあえず、実習は問題ないかな」
あとは覚書に記載したものをなるべく早く揃えて先輩に連絡しなくては!と慌ただしく走っていくのであった。
***
「……」
「留三郎?」
「……いさく…」
「えっ!どうしたんだその顔!!」
随分日が傾いた頃に留三郎は長屋の部屋に戻った。
部屋で出迎えた同室、善法寺伊作は留三郎の顔を見て驚きのあまり声を上げた。
顔色が青から赤に、赤から青ざめてを繰り返していた。
「どうしたんだ、留三郎」
「……が」
「え?」
ボソボソと話す留三郎の声は伊作には届かなかった。
伊作が聞き返すと留三郎は顔を真っ青にしながら先程より少し大きくなった声で返した。
「桜木先輩に…稲が…食べられる…」
「えぇ??」
それだけを言うと留三郎は膝から崩れ落ち、伊作は大騒ぎしながら留三郎を受け止めた。
***
「落ち着いたかい…留三郎」
「すまん伊作…」
「で、なんの騒ぎだったんだ?」
伊作・留三郎の部屋には先程の騒ぎを聞き付けてきた、
潮江文次郎、立花仙蔵、七松小平太、中在家長次の6名が揃っていた。
崩れ落ちた留三郎は布団に寝かされ、他の面々がそれを囲むように座っている。
「僕にもよく分からなくて…一体何があったんだ、留三郎」
「…俺の自主練中に桜木先輩がいらっしゃって…」
伊作に促され、自主練中たまたま桜木が通りかかったこと、
そこに稲美が合流し桜木を連れ出したこと、
つけて行ったは良いものの稲美が房中術の実習の相手を桜木に依頼していたこと、
桜木がそれを快諾していたことを話した。話を聞いた面々も各々顔色が赤や青に変わっていた。
「…………なんという…」
最初に声を出せるようになったのは仙蔵だった。
「桜木先輩なら…まあ安心じゃないか?」
そろそろ学年的に色の実習の話も出てくるものではないのかと思いつつ
信頼のおける桜木なら問題ないと思う文次郎。
「何を言う文次郎、命が幾つあっても足らないぞ」
この中で1番桜木との付き合いの長い小平太は真顔で冷や汗を流している。
「…稲の事だから、
折角実習するのなら百戦錬磨の様な人にお願いしたいって考えではあるのだろうけど…
いきなり大将首の様な人に頼むかなぁ…」
妹の無謀とも取れる行動に頭を抱える伊作。
「もそ…」
留三郎の顔色を伺う長次。
稲美のことも心配だが、目の前で半分目を回している留三郎の心の心配をしていた。
ここにいる皆、留三郎の稲美に対する想いは知っており、少なからず応援している立場だが、
これに関しては自分たちに打てる手はないため憐憫の目を向けざるを得なかった。
「大丈夫かい?留三郎…」
「…1番恐ろしいのが、この実習を通して桜木先輩と稲が好い仲になってしまったら…おれは…どうすれば…」
「「「「「(憐れだ…)」」」」」
日頃犬猿の仲の文次郎も心の底から憐れんだ。
「寝込むとはまだまだだな、留三郎」
いつの間にか部屋の障子が開かれ、件の桜木が立っていた。
「桜木先輩!」
「まさか目を回しているとまでは思わなかったが」
桜木は留三郎の枕元に座り、留三郎は伊作に支えられながら起き上がった。
「どうして…」
「つけてきていただろう、あの後」
「気づいておられたんですか…」
「安心しろ、善法寺妹は気づいていなかったぞ」
さすがは最高学年の桜木、留三郎がつけてきたことに気が付いていた。
「聞こえていたかわからないが、善法寺妹からは純粋に技術目的と言われたよ」
「(桜木先輩に面と向かって技術目的って言ったのかい稲ーー!!)」
突然の流れ弾が伊作の胃を襲う。
「…私から、留三郎に変わってもらってくれと伝えるか?」
「え…」
桜木の提案は意外なものだった。
「な、なぜ」
「惚れているのだろう、善法寺妹に」
「な…っ!!」
菩薩のような笑顔の発言に留三郎は言葉を失う。
「心の通いはないが、好いた者に実習相手とは言え他の男が寄り付くのはいい気分ではないだろう?」
「それは、そうですが…」
確かに桜木の言う通り、他の者が触れるのは我慢ならない。
実習がきっかけで二人が好い仲になったらとまで危惧していた留三郎にとっては
願ってもない桜木の辞退の話だ。
「今ならまだ間に合うが、どうする?」
「…いえ」
俯きながら留三郎ははっきりと否を唱えた。
「いいのか?」
目を丸くした桜木が留三郎に再度問う。それに対して留三郎は顔を上げ、はいと頷きながら答えた。
「稲が、実習を完璧にこなしたいのであれば俺じゃない方がいいです。
俺はきっと桜木先輩以上の相手にはなれません。…それに」
「それに?」
「…好いた者を目の前にして、実習と割りきれるほどの忍耐が俺にはまだありません」
桜木は再度驚いた顔をすると、正直なやつめと笑った。彼は次に伊作を見やる。
「伊作もいいのか?妹だろう?」
「え、えっと…兄だからと妹が決めた実習に対して口を挟むわけにはいきません」
妹をよろしくお願いします。と頭を下げた伊作に桜木は頷いた。
「わかった。では申し受け通りにするとしよう。…留三郎」
「はい」
「分かっているとは思うが、言わないと伝わらないぞ。…いつまでも共にあれるとは限らないのだから」
「…肝に銘じます」
留三郎の返事に桜木はよろしいと頷くと部屋を出て行った。
桜木が去って数秒、部屋の中にいた6人は大きく息を吐いた。
「び、びっくりした…」
「まさか桜木先輩がいらっしゃるとは思わなかった…」
「まったくだ」
「というか留三郎、桜木先輩にばれていたな」
「…尾行も想いもばれていた」
「うっ…」
長次の言葉が刺さる留三郎。桜木には何もかにもがお見通しだった。
留三郎はもう一度大きく息を吐き、よしと立ち上がった。
「もういい加減腹を括る…、稲の実習が終わったらこの気持ちをしっかりと伝える!」
「!いいぞ留三郎!いけいけどんどんで伝えろ!」
「まあ…何かあったら骨は拾ってやる」
「おい文次!なんで振られる前提なんだ!」
今までとは一転、勝負だー!と息巻いている留三郎にやんややんやと煽りを入れる小平太と文次郎。
「何と勝負する気なんだ」
「ははは…上手くいくといいなぁ」
「大丈夫だろう…留三郎なら」
これからどうなるんだろうかと思案しながらも想いが成就することを願う仙蔵、伊作、長次。
「(稲は留三郎のこと、どう思っているんだろう)」
兄の目から見ても、2人の仲は良いと思える。
しかし恋をしているかといわれると難しい。
誰とでも穏やかに接する妹に誰かを特別に、というそぶりは感じられなかった。
「(強いて言うなら僕が一番特別扱いされているかも…)」
同室と妹の恋路の邪魔はできない。否、したくない。
そのためにもっとしっかりしようと伊作はひっそりと決意を新たにしたのだった。
