忍たま_短編
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数日前から留三郎と稲美の二人が少し変化した。
稲美は入学以来、兄の伊作と特に仲の良い、
2年い組の潮江文次郎と立花仙蔵、2年ろ組の中在家長次と七松小平太、
そして2年は組の食満留三郎に対して、粗相をすることがないように丁寧な態度を貫いてきた。
しかしその態度は、丁寧さが過ぎており武家のご令息?と勘違いをされるほどの
悪い意味で一線引いた態度となっていた。
「そんな稲美と留三郎が親し気に呼び合い、話しをするようになったわけだが」
「急にどうした仙蔵」
「私たちには壁を感じるまま…」
「留三郎だけずるいぞ!」
「なんで僕も…?」
件のメンバーである文次郎、仙蔵、長次、小平太、そこに伊作を加えた5人は
放課後、校庭の片隅に集まっていた。
元々稲美の硬すぎる態度に違和感を覚えていた留三郎を含めた6人だったが、
留三郎にのみ態度が軟化した現状にさらに違和感を覚えていた。
「留三郎に対してああなれるのなら、我々にもできるはずだ」
「まあ留にできるならできる…よな」
「そもそも稲美は学年は異なるが伊作と双子…つまり私たちとは同い年だ」
「留三郎だけずるいぞ!」
「小平太、さっきも同じことを言っていた」
「だって長次も思っただろう! 距離を感じるのは寂しい!」
「そうだね…僕も稲がみんなともっと仲良くなったら嬉しいな」
5人の総意として稲美の態度の軟化を図ることはまとまった。
ただし、
「でもどう切り出そうか?入学して数か月、鉄壁のようだったから」
「「「ううん…」」」
伊作の言葉に腕を組んだ文次郎、長次、小平太。一方仙蔵は首を傾げた。
「そんなに悩むことか?」
「仙蔵にはいい手があるの?」
「我々は忍者の卵、にんたまだぞ。私にいい手がある」
こそこそと小声で作戦を話す仙蔵。その作戦は何とも忍たまらしいものだった。
「そうか!それなら稲も何とかなるかもしれない」
「さすがだな仙蔵」
「よせ、まだ成功したわけじゃない」
「じゃあ作戦通りに」
「いけいけどんどんだ!」
5人、もとい"稲美の態度を軟化させ隊"はさっそく稲美を探しに学園中に散開した。
***
「えっと…何事ですか」
「なんだなんだ、皆揃ってどうしたんだ」
稲美は囲まれていた。
放課後、涼しい池の畔で稲美は1年には少し難しい宿題をしていた。
そこへたまたま通りかかった留三郎が声をかけ、宿題を手伝っていた。
数日前から態度が軟化した稲美と留三郎は会えばあいさつを交わし、世間話をするまでになった。
今日も昨年自らが悩んだ宿題と同じように格闘している稲美に対して、解き方のヒントを教えていた。
大方解き終わった頃には夕方になっており、そろそろ長屋に戻ろうかと片づけをしていた所に、
"稲美の態度を軟化させ隊"が突然現れ稲美を取り囲んだ。
「留三郎もとりあえずこっちに来て」
「え?あぁ…」
伊作に言われ留三郎も首を捻りながらも隊のほうに加わった。
先陣を切ったのは伊作だった。
「稲、今の稲の態度は僕の友人に対して礼を欠いていると言わざるを得ない」
「えぇ?! ど、どういうことです?」
稲美からすれば寝耳に水のような話だ。
入学してから兄に怒られたことも注意されるようなこともほとんどしていない、
よい子と言われて差し支えなかった。
「稲は数日前から留三郎と親しいね?」
「っ、伊作待て!それはおれg」
「一人だけ違うのは良くないんじゃないかな?」
「「?」」
稲美の自分に対する態度から、何か咎められるのかと思い留三郎は止めに入ろうとしたが、
どうやらそうではないらしい。
「どういうことでしょうか」
「留三郎と同じように丁寧に接していた者、つまりここにいる皆に対して
同じように接するべきなんじゃないかな」
「し、しかし…」
言い淀む稲美に仙蔵が畳みかける。
「たしかに、兄の友人である私たちに対して丁寧に接したいという稲美の気遣いの気持ちはわかる」
「で、でh」
更に長次、文次郎、小平太も続く。
「だが私たちも平等に接してほしい」
「留三郎に対してできるのだ、我々にもできるはずだ」
「なにより!今の接し方は距離を感じる!私たちは悲しい!」
「え、えぇ…」
矢継ぎ早に言われ戸惑い、一人にだけ態度を改めたことに対して罪悪感をあおられる稲美。
これが仙蔵の作戦。
一人だけに対して態度を改めたことを逆手に取り、尊敬する兄からの指摘で動揺を誘い、
悲しいと同情心を煽る、哀車の術である。
そして動揺している間に要求を通してしまおうという作戦だ。
「まあとりあえず一回呼んでみればいいんじゃないかな?ね」
「へ? は、はい」
兄からのとりあえずの言葉に首を縦に振るしかない。
その隙を"軟化させ隊"は逃さなかった。
伊作は長次を指し、忘れていることはないと思うけど、と稲美に名前を言うように促す。
「中在家どn、…ではなく、…中在家長次、さん」
「名前だけでいい、稲美」
「…ち、ちょうじ」
「あぁ、改めてよろしく、稲美」
手を差し出されておずおずと握手する稲美と長次。
一息つかないうちに次は私!と小平太が手を挙げた。
「留三郎が留なのだから私は小平太の"こへ"でいいぞ」
「こ、こへ」
「ああ!!よろしくな、稲!」
にこにこと稲美の手を取り、元気いっぱいぶんぶんと上下に動かす。
その勢いに、目が回るかもしれないと稲美が思っていたら文次郎が止めた。
「小平太!腕がもげる!」
「え?あーすまん!」
「まったく…おれは文次郎だから"文次"だな」
「も、もんじ…」
「うむ」
満足げにうなずく文次郎。これで残るは仙蔵だけになった。
「最後は私だな。私は仙蔵、名前でもいいが…ふむ…"仙ちゃん"でもいいぞ」
「せ、せん、ちゃん…?」
うんうんと頷く仙蔵。その様子に伊作も嬉しそうに頷く。
「(ちょっと強引だったけど…作戦成功だ)」
"軟化させ隊"にもみくちゃにされている妹が皆ともっと仲良くなったらいいなと思う伊作。
「…」
そんな様子を見ながら留三郎は少し複雑な気持ちになっていた。
「(皆と稲美が親しくなることはいいことだ。いいことなのだが…なんだろう…)」
少し面白くないような、モヤモヤとする気持ちは。
「…?」
「あの、留」
「あ、ああすまん、どうした?」
気づくと任務を完了させた"軟化させ隊"は長屋のほうへ向かっており、
あたりには稲美と留三郎だけになっていた。
長屋に向かおうとせず立ち止まっている留三郎に稲美が声をかけたようだ。
「皆行ってしまいますよ」
「…また畏まっているぞ」
「あ、えーと…行っちゃったけど?」
「ああ…じゃあおれ達も行くか」
長屋へと向かおうとした留三郎だが、待ってと袖を引かれて立ち止まった。
袖を引いたのはもちろん稲美だ。
「?どうした?」
「あの、ちょっと急だったけど、…皆と親しくなることができました。留のおかげです」
確かに今日の囲い込みの大元となったきっかけは、おそらくあの夜の少々強引な先輩命令である。
「だから…あ、ありがとう、留」
「!ああ、よかったな!」
夕日に照らされながら嬉しそうに笑う稲美に、言いようのないモヤモヤが急に些末なことに思え、
稲美と同じような笑顔になる留三郎だった。
