おとぎ話は終わらない
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休日はカメラを手に流魂街へ赴くのが私の常であり、一番の休息だ。今日は見事に晴空が広がっており、写真を撮るにはぴったりな陽気だった。
つい先日に現世から取り寄せた立派なカメラで早く何か撮りたくて、その勢いで結構な山奥まで来てしまった。人気がすっかり無くなった代わりに自然に囲まれ、木々に咲き誇る花や枝に止まる可愛らしい野鳥にレンズを向けた。写真を撮る腕前はさて置いても、自分が満足出来ればそれで良い。
少し険しくなる道に息が上がり、思わず歩みを止めた。ふう、と息をついて天を仰ぎ、青く澄み渡る大空をついでに写真に収めた。
日が暮れては帰るのも億劫になってしまう、と早めに切り上げようとしたとき。前方にある大木の根元に何かの影があることに気が付いた。目を凝らしてみるとうつ伏せになっている人だと分かり、急いで駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
近寄って分かったことは、その人物は死覇装を身に纏っているということ。そして髪の毛は無く、いうなれば丸坊主ということ。そして死覇装を着ているのなら死神ということ。ならばどこかの隊に属している筈。
カメラを置いてうつ伏せの状態から仰向けにする為に力いっぱいその身体を引っ張った。やっと見えたその顔はあまりにも見覚えがあり過ぎた。目尻のあか色は特徴的であり、その正体は直ぐに分かった。十一番隊第三席の斑目一角だ。
よく見れば身体は傷だらけで流血も見られ、それでも苦しそうにしているが息はある。急いで伝令神機を取り出して四番隊に連絡をすると、救護班を向かわせる旨を伝えられた。しかし安堵している場合では無く、手拭いで傷口を塞ぐように押さえていると不意に手首を掴まれた。
「ひっ、」
突然のことに間抜けな声を上げてしまったが、私の手を掴む主には結構な力が余っていることが分かった。斑目三席の顔へ視線を移すと閉じられていた瞼が薄く開いた。
「…生きてんのか俺は」
こちらに問い掛けているかは定かでは無く、返答するか迷いながら険しい顔をする彼を覗き込んだ。
「あの、大丈夫ですか…?」
「何処だここは…」
「えっと、分からないです…」
私もこの場所は分からない。続いている道をただ歩き続けて来た結果、今に至る訳で。そう言えば四番隊に連絡した時も居場所は伝えなかったが、私の伝令神機から位置情報を辿れるらしい。こんな状況にも関わらず、どんどん発達する文明に感心してしまった。
「どっちにしろ俺は生きてんだな」
「そう…ですね」
「はっ、ツイてるぜ」
いやこんな大怪我してたらツイてないだろ。そりゃ死ぬよりはマシかもしれないけど、私だったらツイてないと思う。何故か口角を上げて笑い出す斑目三席の様子を見ながら相変わらずおかしな人だな、と肩を竦めた。
未だに掴まれたままの手首をどうすれば良いか分からず、そんな私を他所に彼は再び目を閉じた。今度こそ死んだのでは、と思っても次には寝息を立て始める始末。
聞こえてきた幾つかの足音に振り返ると救護鞄を背負った隊士数人の姿が見え、あとは彼らに任せることにして手首を掴む大きな手を仕方無く振り解いた。
◇◇◇
あれから数日が経ち、いつも通りの日々を過ごしていた。うちの隊は瀞霊廷通信という冊子を発行している為に季節問わずバタバタしているが、それももうすっかり慣れた。私はカメラを趣味としているが故に副隊長に頼み込まれて記事の写真を撮る役目を担っている。
今日も今日とて死神業務と同時進行で写真の選別をしているときだった。
「月下、ちょっといいか」
檜佐木副隊長の声に返事をしながら振り返ると彼の傍にもう一人、男性が立っていた。先日流魂街の山奥で見掛けた、というより助けてあげた斑目三席だった。
「斑目がお前に用があるそうだ」
「は、はあ」
「じゃ、俺はこれで」
「えっ!副隊長、」
颯爽と去っていく後ろ姿を呆然と見送ったあと恐る恐る視線を目の前の彼に向けると、私を見下ろす斑目三席は真顔だった。もうすっかり傷は治っており、その回復力に驚かされた。しかし何を思って私に会いに来たのか何の用なのか、予想がつかずに思わず顔が強ばる。座ったままでは失礼だよな、と立ち上がって何とか口を開いた。
「あの…用とは…?」
「まずは礼を言う。この間は世話ンなった」
「この間…ああ、とんでもないです」
「そこでだ!」
「えっ!?」
「礼をさせろ」
「れ、礼……?」
指先を伸ばして頭を下げたあと、バッと顔を上げて物凄く真っ直ぐな瞳で声を張る彼にビックリしつつ、"礼"という単語に首を傾げた。しかしその意図は何となく汲める。私が救護班を呼んだことに対するお礼をしたいという訳だ。
「あの大丈夫ですよ、大したことしてませんし。こうしてお礼を言いに来てくださっただけで十分、」
「それじゃァ俺の気が済まねえ」
実を言うとこの人とは何度か言葉を交わしたことがある。何かと特集を組む為の取材する際に深く話す機会は無くとも、この人の人柄は何となく感じ取っていた。誠実というか義理堅いというか、何にせよ結構律儀なのだ。
「欲しいモンとか無えのか」
「ん~、特には…」
「何だよ女の癖に欲が無えな。んじゃァ、メシでも奢ってやる」
「えっ!?いやいやそんな、」
「遠慮すんな。今夜どうだ」
遠慮してる訳では無くて碌に接したことの無い男性と二人きりで食事することに気が引けるだけ。それを言ってしまえば怒られそう、と思いながら口篭ると予想通り斑目三席の表情は険しくなっていく。きっと今夜一回限りだろう、と腹を括った。
「じゃあ…ご馳走になります」
そう言うと満足そうにする様子にうっかり安堵してしまった。迎えに来っから待ってろよ、と言う彼の言葉に全身を巡る緊張感に心臓は五月蝿くなり、金縛りにあったように身体が動いてくれなかった。
◇◇◇
「いただきまーす…」
「おう、どんどん食え」
目の前に置かれた鉄鍋の中に高そうな肉を入れながらそう言う斑目三席の言葉に甘えて火の通ったものを口に運んだ。溶けそうなぐらい柔らかくて思わず美味しい、と零すと彼は口角を上げて笑った。
高級そうな店に連れてこられ、聞けばすき焼きが有名だという。場違いな雰囲気に戸惑っていたのだが斑目三席は慣れたように私をエスコートしてくれた。
「斑目三席も食べてください」
「あァ?ああ、食うから気にすんな」
意外と普通に喋れるし、思ったよりもずっと柔らかい彼の空気感に身体はすっかり解れていた。結構女性の扱いが上手いのか、と新しい一面を見れたことに少し嬉しくなった。
「斑目三席、彼女とか居ないんですか」
「居ねえよそんなモン。何だいきなり」
「だってほら、もし居たらダメじゃないですか。私と二人で食事したりして…」
「だから居ねえっつってんだろ」
そうですか、と言う私の器に次々に野菜や肉を入れてくれる手つきはやはり紳士的に見える。こんな人が彼氏だったら、と考え始める自分に驚き、慌てて野菜を口に含んだ。
「お前ェは居んのか」
「え?」
「男だ男。居たらマズいだろ」
「居ないですよ…居たら来てません」
「そりゃそうか」
はは、と笑う顔に思わず見惚れた。ずっと戦いのことばかり考えている人だと思っていたのにギャップを感じずには居られない。
「あの、」
「今度は何だ」
「私の名前知ってます?」
そう言えばこの人は私を誰だか分かっているのか、今更になって疑問に感じた。ちゃんと自己紹介をしたことは無いし、多分私のような下位席官の名前を知る機会も無いだろう。
「月下なつ」
「え、何で知ってるんですか」
「四番隊のヤツに聞いたぜ」
「ああ、そうですか」
救護班を呼んだ当人である私の名前をわざわざ聞いたらしい。まあそれぐらいしか知る機会など無いよな、と妙に納得した。
「あと瀞霊廷通信にも載ってたろ」
瀞霊廷通信のどこに、と考えて、確かに自分の撮った写真が載る際には小さく私の名前も記載される。それを見ていたとは、驚きの連続だった。ということは、以前から私の存在はこの人の中でまあまあ印象に残っていたのか。
そのあとも斑目三席は殆どの肉を私に食べさせ、それでも彼はやはり別れ際まで満足気に笑っていた。
しかし彼からの"礼"はそれだけでは終わらず、そのあとも週に一回は食事に誘われた。そして私は断れば何をされるか分からない、という不安の中で楽しみに感じている自分に居ることに気が付いており、そのお誘いを断ることは無かった。
「…私にこんなに食べさせて、肥えさせて食べる気ですか」
「バカ言ってんじゃねえよ、さっさと食え」
今日はお寿司をご馳走になっており、あまりに沢山のネタの乗る銀シャリが並ぶ光景に冗談を口にせずには居られなかった。いや、半分本気だ。このままでは太ってしまう。
「太っちゃいます」
「その分動け」
「えー…」
「太って困ることでもあんのか」
あるに決まってんだろ、と思っても口には出せず。女の子が体型を気にするのは当たり前では、と言いかけても、この人に分かって貰うのは難しいことだった。それに私には密かな夢があった。それは身体が重くなっては叶えられない。
「ほら、だって…お姫様抱っこして貰えないじゃないですか」
「何だ、なんつった」
「だから!もし彼氏が出来た時にお姫様抱っこして貰えないじゃないですか!」
つい大きな声で言い放ってしまったことに手で口を押さえた。そして込み上げる恥ずかしさ。絶対に馬鹿にされる、と思っていたのに目の前の斑目三席の表情は変わらなかった。
「それだけが理由ってんじゃねえだろうな」
「それだけですけど」
「馬鹿かお前」
「馬鹿じゃないです」
「女一人抱えられねえ男なんざ情けねえ野郎に違いねえ。そんな男に惚れなきゃ良い話だ」
「それはそう、ですけど。運命の人が力持ちな人とは限らないんですよ。ひ弱な人が私の運命の人かも」
「お前…ソレ本気で言ってんのか?」
物凄く呆れた顔をする彼に次に込み上げたのは苛立ち。今度こそ馬鹿にされるに違い無い、と恨めしく思いながら見つめ返すと、斑目三席は大きく溜め息をついていた。
「分ァった分ァった、んじゃァ運命なんざお前ェの力でねじ曲げてやれ」
「うわあ、面倒臭いからそれらしいこと言って誤魔化してる」
よく分かってンじゃねえか、と言う斑目三席の不意に見せる笑顔を目の当たりにするのはもう何度目だろう。その度に高鳴る胸、加えてこの空間がとても心地良くて、いつも帰りたく無いと感じてしまう。
きっとこの人の気が済んだらもうこうして食事を共にすることも無くなる。その日が来て欲しくないと思ってしまった。
つい先日に現世から取り寄せた立派なカメラで早く何か撮りたくて、その勢いで結構な山奥まで来てしまった。人気がすっかり無くなった代わりに自然に囲まれ、木々に咲き誇る花や枝に止まる可愛らしい野鳥にレンズを向けた。写真を撮る腕前はさて置いても、自分が満足出来ればそれで良い。
少し険しくなる道に息が上がり、思わず歩みを止めた。ふう、と息をついて天を仰ぎ、青く澄み渡る大空をついでに写真に収めた。
日が暮れては帰るのも億劫になってしまう、と早めに切り上げようとしたとき。前方にある大木の根元に何かの影があることに気が付いた。目を凝らしてみるとうつ伏せになっている人だと分かり、急いで駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
近寄って分かったことは、その人物は死覇装を身に纏っているということ。そして髪の毛は無く、いうなれば丸坊主ということ。そして死覇装を着ているのなら死神ということ。ならばどこかの隊に属している筈。
カメラを置いてうつ伏せの状態から仰向けにする為に力いっぱいその身体を引っ張った。やっと見えたその顔はあまりにも見覚えがあり過ぎた。目尻のあか色は特徴的であり、その正体は直ぐに分かった。十一番隊第三席の斑目一角だ。
よく見れば身体は傷だらけで流血も見られ、それでも苦しそうにしているが息はある。急いで伝令神機を取り出して四番隊に連絡をすると、救護班を向かわせる旨を伝えられた。しかし安堵している場合では無く、手拭いで傷口を塞ぐように押さえていると不意に手首を掴まれた。
「ひっ、」
突然のことに間抜けな声を上げてしまったが、私の手を掴む主には結構な力が余っていることが分かった。斑目三席の顔へ視線を移すと閉じられていた瞼が薄く開いた。
「…生きてんのか俺は」
こちらに問い掛けているかは定かでは無く、返答するか迷いながら険しい顔をする彼を覗き込んだ。
「あの、大丈夫ですか…?」
「何処だここは…」
「えっと、分からないです…」
私もこの場所は分からない。続いている道をただ歩き続けて来た結果、今に至る訳で。そう言えば四番隊に連絡した時も居場所は伝えなかったが、私の伝令神機から位置情報を辿れるらしい。こんな状況にも関わらず、どんどん発達する文明に感心してしまった。
「どっちにしろ俺は生きてんだな」
「そう…ですね」
「はっ、ツイてるぜ」
いやこんな大怪我してたらツイてないだろ。そりゃ死ぬよりはマシかもしれないけど、私だったらツイてないと思う。何故か口角を上げて笑い出す斑目三席の様子を見ながら相変わらずおかしな人だな、と肩を竦めた。
未だに掴まれたままの手首をどうすれば良いか分からず、そんな私を他所に彼は再び目を閉じた。今度こそ死んだのでは、と思っても次には寝息を立て始める始末。
聞こえてきた幾つかの足音に振り返ると救護鞄を背負った隊士数人の姿が見え、あとは彼らに任せることにして手首を掴む大きな手を仕方無く振り解いた。
◇◇◇
あれから数日が経ち、いつも通りの日々を過ごしていた。うちの隊は瀞霊廷通信という冊子を発行している為に季節問わずバタバタしているが、それももうすっかり慣れた。私はカメラを趣味としているが故に副隊長に頼み込まれて記事の写真を撮る役目を担っている。
今日も今日とて死神業務と同時進行で写真の選別をしているときだった。
「月下、ちょっといいか」
檜佐木副隊長の声に返事をしながら振り返ると彼の傍にもう一人、男性が立っていた。先日流魂街の山奥で見掛けた、というより助けてあげた斑目三席だった。
「斑目がお前に用があるそうだ」
「は、はあ」
「じゃ、俺はこれで」
「えっ!副隊長、」
颯爽と去っていく後ろ姿を呆然と見送ったあと恐る恐る視線を目の前の彼に向けると、私を見下ろす斑目三席は真顔だった。もうすっかり傷は治っており、その回復力に驚かされた。しかし何を思って私に会いに来たのか何の用なのか、予想がつかずに思わず顔が強ばる。座ったままでは失礼だよな、と立ち上がって何とか口を開いた。
「あの…用とは…?」
「まずは礼を言う。この間は世話ンなった」
「この間…ああ、とんでもないです」
「そこでだ!」
「えっ!?」
「礼をさせろ」
「れ、礼……?」
指先を伸ばして頭を下げたあと、バッと顔を上げて物凄く真っ直ぐな瞳で声を張る彼にビックリしつつ、"礼"という単語に首を傾げた。しかしその意図は何となく汲める。私が救護班を呼んだことに対するお礼をしたいという訳だ。
「あの大丈夫ですよ、大したことしてませんし。こうしてお礼を言いに来てくださっただけで十分、」
「それじゃァ俺の気が済まねえ」
実を言うとこの人とは何度か言葉を交わしたことがある。何かと特集を組む為の取材する際に深く話す機会は無くとも、この人の人柄は何となく感じ取っていた。誠実というか義理堅いというか、何にせよ結構律儀なのだ。
「欲しいモンとか無えのか」
「ん~、特には…」
「何だよ女の癖に欲が無えな。んじゃァ、メシでも奢ってやる」
「えっ!?いやいやそんな、」
「遠慮すんな。今夜どうだ」
遠慮してる訳では無くて碌に接したことの無い男性と二人きりで食事することに気が引けるだけ。それを言ってしまえば怒られそう、と思いながら口篭ると予想通り斑目三席の表情は険しくなっていく。きっと今夜一回限りだろう、と腹を括った。
「じゃあ…ご馳走になります」
そう言うと満足そうにする様子にうっかり安堵してしまった。迎えに来っから待ってろよ、と言う彼の言葉に全身を巡る緊張感に心臓は五月蝿くなり、金縛りにあったように身体が動いてくれなかった。
◇◇◇
「いただきまーす…」
「おう、どんどん食え」
目の前に置かれた鉄鍋の中に高そうな肉を入れながらそう言う斑目三席の言葉に甘えて火の通ったものを口に運んだ。溶けそうなぐらい柔らかくて思わず美味しい、と零すと彼は口角を上げて笑った。
高級そうな店に連れてこられ、聞けばすき焼きが有名だという。場違いな雰囲気に戸惑っていたのだが斑目三席は慣れたように私をエスコートしてくれた。
「斑目三席も食べてください」
「あァ?ああ、食うから気にすんな」
意外と普通に喋れるし、思ったよりもずっと柔らかい彼の空気感に身体はすっかり解れていた。結構女性の扱いが上手いのか、と新しい一面を見れたことに少し嬉しくなった。
「斑目三席、彼女とか居ないんですか」
「居ねえよそんなモン。何だいきなり」
「だってほら、もし居たらダメじゃないですか。私と二人で食事したりして…」
「だから居ねえっつってんだろ」
そうですか、と言う私の器に次々に野菜や肉を入れてくれる手つきはやはり紳士的に見える。こんな人が彼氏だったら、と考え始める自分に驚き、慌てて野菜を口に含んだ。
「お前ェは居んのか」
「え?」
「男だ男。居たらマズいだろ」
「居ないですよ…居たら来てません」
「そりゃそうか」
はは、と笑う顔に思わず見惚れた。ずっと戦いのことばかり考えている人だと思っていたのにギャップを感じずには居られない。
「あの、」
「今度は何だ」
「私の名前知ってます?」
そう言えばこの人は私を誰だか分かっているのか、今更になって疑問に感じた。ちゃんと自己紹介をしたことは無いし、多分私のような下位席官の名前を知る機会も無いだろう。
「月下なつ」
「え、何で知ってるんですか」
「四番隊のヤツに聞いたぜ」
「ああ、そうですか」
救護班を呼んだ当人である私の名前をわざわざ聞いたらしい。まあそれぐらいしか知る機会など無いよな、と妙に納得した。
「あと瀞霊廷通信にも載ってたろ」
瀞霊廷通信のどこに、と考えて、確かに自分の撮った写真が載る際には小さく私の名前も記載される。それを見ていたとは、驚きの連続だった。ということは、以前から私の存在はこの人の中でまあまあ印象に残っていたのか。
そのあとも斑目三席は殆どの肉を私に食べさせ、それでも彼はやはり別れ際まで満足気に笑っていた。
しかし彼からの"礼"はそれだけでは終わらず、そのあとも週に一回は食事に誘われた。そして私は断れば何をされるか分からない、という不安の中で楽しみに感じている自分に居ることに気が付いており、そのお誘いを断ることは無かった。
「…私にこんなに食べさせて、肥えさせて食べる気ですか」
「バカ言ってんじゃねえよ、さっさと食え」
今日はお寿司をご馳走になっており、あまりに沢山のネタの乗る銀シャリが並ぶ光景に冗談を口にせずには居られなかった。いや、半分本気だ。このままでは太ってしまう。
「太っちゃいます」
「その分動け」
「えー…」
「太って困ることでもあんのか」
あるに決まってんだろ、と思っても口には出せず。女の子が体型を気にするのは当たり前では、と言いかけても、この人に分かって貰うのは難しいことだった。それに私には密かな夢があった。それは身体が重くなっては叶えられない。
「ほら、だって…お姫様抱っこして貰えないじゃないですか」
「何だ、なんつった」
「だから!もし彼氏が出来た時にお姫様抱っこして貰えないじゃないですか!」
つい大きな声で言い放ってしまったことに手で口を押さえた。そして込み上げる恥ずかしさ。絶対に馬鹿にされる、と思っていたのに目の前の斑目三席の表情は変わらなかった。
「それだけが理由ってんじゃねえだろうな」
「それだけですけど」
「馬鹿かお前」
「馬鹿じゃないです」
「女一人抱えられねえ男なんざ情けねえ野郎に違いねえ。そんな男に惚れなきゃ良い話だ」
「それはそう、ですけど。運命の人が力持ちな人とは限らないんですよ。ひ弱な人が私の運命の人かも」
「お前…ソレ本気で言ってんのか?」
物凄く呆れた顔をする彼に次に込み上げたのは苛立ち。今度こそ馬鹿にされるに違い無い、と恨めしく思いながら見つめ返すと、斑目三席は大きく溜め息をついていた。
「分ァった分ァった、んじゃァ運命なんざお前ェの力でねじ曲げてやれ」
「うわあ、面倒臭いからそれらしいこと言って誤魔化してる」
よく分かってンじゃねえか、と言う斑目三席の不意に見せる笑顔を目の当たりにするのはもう何度目だろう。その度に高鳴る胸、加えてこの空間がとても心地良くて、いつも帰りたく無いと感じてしまう。
きっとこの人の気が済んだらもうこうして食事を共にすることも無くなる。その日が来て欲しくないと思ってしまった。
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