Main story Ⅲ
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相澤「───音、ねぇ。」
そう言う相澤の前には、どよーんとした生徒たちがいる。
天気予報では今日の夜は嵐になるらく、時間が経つにつれ、強くなっていく風が木々を揺らしていた。
相澤「しかし、まさかお前ら、呪いなんて非合理的なもんじてるのか」
あきれたような相澤に八百万がおずおずと答える。
八百万「し、信じてはいませんが……しかし不可解な出来事が起きているとなると……」
『……女子寮の2階が一人なの……不安……』
飯田「先生!これは大変な事態です!我々の基盤となる生活空間に何かしらの異変が起きている事実。もしこれがずっと続くとなると、我々は授業に専念できなくなります! ここは早急に原因追及と事態の解決を望みます!」
峰田「い……いやだぁ!毎晩名前呼ばれたら眠れねえよ~!!! ベッドの中でならいざ知らず…いやベッドに入ってきたら呪い殺される……!でもそれが素っ裸の幽霊なら……いやでも……!」
呪いとエロの狭間で揺れる峰田が頭を抱えている。
相澤「呪いか…そういや、雄英にもそういう話があったな」
「「「えっ」」」
芦戸「本当ですか!?」
芦戸が聞くと、相澤は平然と答えた。
相澤「雄英七不思議のひとつで、たしか……ヒーローになれなかった卒業生の霊がさ迷ってて、それを見ると呪われるって話だった。よく学校裏の森に出るっていって……ああ、ちょうど今、寮の建ってるあたりだな」
「「「え」」」
上鳴「その幽霊が寮の中、さ迷ってるんじゃ… !」
峰田「やめてぇ〜!!」
上鳴「ハイツアライアンスは呪われた寮なんだあ!!」
いつもなら笑って流せるくらいの話でも、恐怖が蔓延している今は違う。
怖がらせるつもりはなかった相澤は、火に油を注いでしまい、しまったと思った。
相澤「おい、お前ら……」
峰田「寮全体呪われてたらどこにも逃げ場ねーじゃんか!」
芦戸「し、塩まかな…!!! あっ、ごま塩しかなかった……!!」
葉隠「どうしよう!? 透明な私でも幽霊に気づかれるのかな!? 気づかれたらやだよう!」
いつもなら一喝して黙らせるが、自分の責任でもあるので、まず落ち着かせようとしたが無駄だった。
相澤「───お前ら、いいかげんにしろよ?」
どれだけ恐怖の気持ちがあれど、骨身に染みている相澤の低い本気の声は生徒たちの耳に届いた。
恐怖を無理やり押しこめ、目の前の恐怖にプルプルと震えながら沈黙する生徒達。
相澤は皆を見るとため息を吐いた。
相澤「そんなに音が気になるんなら、今夜見回りをする。ちょうど今夜は嵐らしいし、そのほうが合理的だろう。点呼もするからちゃんと部屋にいろよ。」「「「「せっ、先生ぇ…!」」」」
口調は素つ気ないが、相澤の愛情を感じ生徒たちはそれぞれ目を潤ませた。
真夜中
夕方に振りだした雨は、夜には豪雨となっていた。強風も吹き荒れ、寮の窓はガタガタと揺れる。
ハイツアライアンスは築三日のスピード施工で建てたものだが、作りは頑丈だ。
だが、どんな建物も自然の結威の前ではただ嵐が過ぎ去るのを待つしかない。
二度目の雷が落ちた頃、女子達はなつの部屋に集まっていた。
予定していた点呼の時間になっても一向に相澤が現れないのを不思議に思って確かめに来たのだ。
『来てないよ。男子寮から回ってるんじゃないのかな…?』
耳郎「それにしたって、遅すぎない?」
八百万「あの相澤先生が時間どおりにいらっしゃらないなんて…何かあったのかしら……」
芦戸「やだ!怖い事言わないでよ〜!」
蛙吹「とりあえず相澤先生を探してみましょ。どこかに居るかもしれないわ。ケロッ」
女子たちは連れ立って一階へとやってきた。
瀬呂「それにしても嵐、すげえな」
飯田「万が一に備えて、避難の準備をしているか?みんな!雄英生たるもの、そういう準備も万端でいなければ!」
一階に降りると、男子達も同じ考えだったのか集まっていた。
瀬呂と飯田が窓に打ちつける雨を見ながら話していたそのとき、緑谷がハッとする。
緑谷「あれ?あそこに誰か……相澤先生……!?」
食事スペースのテーブル付近で、相澤が倒れていた。
八百万「どうしてこんなことに……」
相澤は気絶していた。
緊急事態に全員が談話スペースに集合している。
上鳴「な、なあ相澤先生の首に金髪絡まってたりしねぇよな…?…っ!!!金髪………?」
『っ!!!』
上鳴「あ、なんだ俺の毛か………」
上鳴がビビりながら相澤の首元を覗こうとして、自分の髪に驚く。
爆豪「そういうこと言うんじゃねえ、アホ面!」
『そ、そうよ上鳴君!怖いじゃないっ!!』
爆豪「怖くねェわ!!」
爆豪が通常運転のように叫ぶが、その声はどこか強張っている。
なつは恐怖のあまり、爆豪にピタッとくっついていた。
峰田「呪いか!? やっぱり呪いなのか…!?」
尾白「それより 敵の襲撃かもしれないだろ!相澤先生を気絶させるなんてこと…!」
泣き叫ぶ峰田に、反論する尾白。
他の生徒達も「やっぱり呪いだ」とか「幽霊だ」や「ヴィランだ…」など各々に騒いでいる。
飯田「落ち着け!! 落ち着くんだ、みんなー!!」
飯田の叫ぶ声も、騒ぎにまぎれて効果はない。
蛙吹「それより今は、相澤先生のことを他の先生に知らせたほうがいいんじゃないかしら」
喧騒の隙間を突いていつもの冷静な声であった蛙吹のその言葉にみんなは我に返った。
飯田「そのとおりだ、梅雨ちゃん君!確か、先生の部屋に内線が通っているはず……」
飯田がそう言ったとき、大きな雷が落ち、次の瞬間、ハイツアライアンスは暗闇に包まれた。停電だ。
『ひゃあ!?』
上鳴「こんなときに停電かよ……」
常闇「っ……落ち着けダークシャドウ……!」
上鳴「ちょっ、常闇!ダークシャドウ出すなよ!?」
峰田「わあああ! 誰か俺を呪いから守ってくれえ!!」
明るさを失い、近くにいても誰が誰だかわからない。
なつは隣にいる爆豪の腕をギュッと握った。
飯田「みんな!落ち着くんだ!」
八百万「み、みなさん、落ち着いて!キャアアア!?」
耳郎「その声、ヤオモモっ?」
『ヤオモモっ!!ど、どうしたの!?』
耳郎となつが声を頼りに尋ねる。
八百万はガクガクと震えながら声をあげた。
八百万「な、何かが足の間を通り抜けて……!」
麗日「何かってなに……ヒャア!?な、何かいる…!!」
そのやりとりを聞いていた麗日の足元を、素早く何かが通っていった。
上鳴「だから何かってなんだよ!?」
『ひゃあっ!!?もうヤダァ!!』
半泣きの声をあげる上鳴となつ。
なつの足元にも何かが通っていき、抱きつく腕がさらに強くなる。
飯田「誰か灯りを!」
飯田の声に、我に返った上鳴と爆豪が、舌打ちしながらそれぞれの個性で暗闇に一瞬灯りをともした。
その一瞬のなか、宙を素早く移動する白い何かが浮かび、そしてすぐさま闇の中へ消えた。
『「───!?」』
全員が声にならない叫びをあげる。そして静寂は一瞬で崩壊した。
葉隠「なななななななななんんかいたぁ……!」
上鳴「幽霊かよ、幽霊かよオ!! 幽霊ってあんな感じなのかよオ!初めて見るからわかんねぇ!!」
パニック状態の葉隠と上鳴。
その近くで轟も動揺を隠せないでいた。
轟「み、緑谷……幽霊には氷と炎、どっちが効くんだ…?」
緑谷「効く?いや、そんなこと考えたこともないからわかんないんだけど、幽霊つて冷たいイメージがあるから逆に炎なんじゃないかなぁ!? というより物理攻撃効かないんじゃ…!ほら実体がないのが幽霊なわけだし…っ」
同じく動揺しながらも冷静な緑谷の分析に轟は絶望した。
轟「!どうすりゃいいんだ……!」
峰田「もうダメだ!!! 俺たち、みんな呪い殺されるんだぁー!!ちくしょう!どうせ死ぬなら女体に挟まれて圧死したかった…!!」
峰田がそう叫んだそのとき、玄関のドアが開いた。
凍りつく生徒達の前で、長い金髪がペタリ…と入ってきた。
その髪からごり落ちる滴が、一歩、また一歩と生徒たちの前へと近づいてくる。
「ん……お前ら───」
金髪が生徒たちに気づいたように顔を上げた直後。
『「「「金髪の幽霊だー!!!!!」」」』
そう叫びながら、全員で一斉に攻撃した。
常闇の個性ダークシャドウも飛び出す。
黒影「ソノ獲物ヲ仕留メルノハ俺ダァァ!!」
「ちょっ……おい!」
金髪の幽霊があげた声は、攻撃にかき消された。幽霊が倒れた音がして、生徒たちがハッと我に返る。次の瞬間、電気が復旧した。
ダークシャドウも「キャン!」と常閣の中へ戻る。
暗闇から解放され、思わずホッとする生徒たち。
あたりは爆破や氷結や炎や酸などが入り交じり、もくもくと煙が立ちこめている。その煙が消えると倒れている金髪の幽霊が見えた。
峰田「ゆ、幽霊なのに消えてねぇ……」
愕然とする峰田。
峰田の個性もぎもぎもそこら中に散らばっている。
生徒たちはピクリとも動かない幽霊を見て、恐る恐る近づと、だらりと顔を覆う金髪の隙間から、金色のちょび髭が見えた。細身だが体格はしっかりとしている。
芦戸「……え、女じゃない……っていうかどっかで見たような……」
耳郎「ゲッ…この金髪、プレゼント・マイク先生じゃん!」
『「「「「え?……あー!!!」」」」』
麗日「せ、先生~!?プレゼント・マイク先生~!」
麗日が心配する横で耳郎がイヤホンジャックで、心音を確かめる。
耳郎「大丈夫、気絶してるだけ。」
『ち、治癒しなくちゃ!!』
飯田「もしかして、停電になったから来てくれたのだろうか?それなのに、申し訳ないことを… 」
なつが慌てて個性を使い、飯田が委員長として責任を感じたとき、後ろから聞き慣れた声がかけられた。
相澤「おい、お前ら……」
生徒たちが振り返ると、一斉攻撃の音で目を覚ました相澤が立っていた。
「「「先生~!」」」
上鳴「金髪の幽霊が来たかと思って攻撃を……!」
芦戸「先生、いったい何があったんですか!ヴィランですか、それとも本物の幽霊に……?」
葉隠「白い幽霊が寮の中にいるんですー!!」
相澤「落ち着け」
生徒達は条件反射のようにサッと姿勢を正す。
相澤はまずプレゼント・マイクを吹きこむ雨から濡れない位置に移動させると、天井を見上げてウロウロとなにやら探しだした。
耳郎「…ちょっと待って。あのヴィィって音すんだけど……」
「「「「えっ」」」」
相澤「……あった。」
何かをみつけた相澤は、天井を指さした。
相澤「蛙吹、あのちっこいのわかるか。取ってくれ」
蛙吹「……あの黒いものかしら?ええもちろん。」
蛙吹が舌を伸ばし、天井にあったよく見ないとわからない大きさの黒い粒のようなものを取り、相澤に渡す。
その物体からヴィイと音がしていた。
相澤「これが俺が気絶した原因で、謎の音の正体だ」
「「「「ええっ」」」」
相澤「天井についてたのを取ろうとしてテーブルに上がったら、出しっぱなしにしてあった台布巾で滑っちまってな。」
葉隠「あっ、私だ!早く部屋戻らなきゃと思って台布巾すっかり忘れてた!」
てへっと悪びれない葉隠に、相澤は何か言いたそうに視線を向けた。
相澤「…まぁ、とりあえず今はいい」
粒のようなものを生徒たちによく見えるように差し出す。じつとそれに目を凝らす生徒たち。
八百万が創造で作った拡大鏡を通してみると、極小サイズの機械だった。移動用のモーターがついていて、これが音の発生源だった。
八百万「でも何でこんなものが.......?」
相澤「見知らぬ機械といえば、たぶんアレだろ。」
相澤はそう言って、女子風呂入り口に設置されているのぞき対策のセキュリティアイテムの近くの壁にその極小サイズの機械を放した。
すると、その機械はまるで巣に戻る虫のようにセキュリティアイテムの中へ入っていった。
「充電中……充電中……」と声がする。
作った本人に確かめるのが一番合理的だと相澤はパワーローダーに連絡を取り、発目にかわってもらった。
発目「それはですね、夜中も勝手に見回りしてくれるドッ可愛いオプションアイテムなんですよ!そちらの寮にはどえらい変態さんがいらっしやるとのことでしたので、その方……えー……お名前忘れましたが、その方だけ、ちゃんと部屋にいるか確認機能もつけてあります!フフフすごいでしょう!それじゃあ私はベイビーの設計図を書かねばなりませんので!」
通話はプチッと一方的に切られる。
峰田「よけいなことを!!…けど、呪いじゃなくてよかったぜ~っ!!」
上鳴「で、でもあの白いのはっ!?みんな見たよな!?」
そう言う上鳴の横に、白いものが現れた。
思わず悲鳴をあげそうになる上鳴だったが、その白いものは口田に抱かれているペットのウサギだった。
口田「ごめん、部屋のドア、閉め忘れてたみたいで…」
口田はウサギを抱きながら恐縮している。
部屋から出てきたウサギが、みんなの騒ぎに興奮して走り回っていたらしい。
上鳴「なぁんだよ~、人生初、幽霊見たかと思ったぜ。」
盛大にホッとしてへにゃっと笑う上鳴を見て、皆も安心したように笑った。
「「よかったぁ〜〜」」
相澤「どこがよかったんだ………?」
「「「え…….」」」
周囲を見渡すと、玄関付近はまるで爆弾でも落ちたかのように、ボロボロの有様だ。ドアもガラスも吹き飛んで、雨風が盛大に吹きこんできている。
相澤「まだ建って間もねぇっていうに……。原因は怪談だったな?それらいでパニックになるとは…」
鬼のような目で見てくる相澤に、生徒たちは直立不動で恐怖に飲みこまれた。
相澤「…明日までに全員反省文提出!しばらくの間、就寝時間は八時!以後、この寮では怪談禁止!! いいな!」
「「「はい……!」」」
呪いも幽霊も怖いが、本気で怒ったときの相澤先生が何よりも怖いんだと改めて身にしみたA組生徒達だった。
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