速度松(おそチョロ)
「今、シコ松と上手くいってないでしょ」
「あー、確かに……って何でお前が知ってるんだよ!」
怖くなって離れようとすると、一松はさらにタッパーを手に押し付けてきた。胸の前に大きなバッテンを作って、受け取らないことを表現する。
そんなおそ松を見て、一松はやれやれというように肩を竦めた。ついさっきおそ松が飛び出してきた部屋を指差し、唇の端だけで笑う。
「見てれば分かる。何?あいつとイチャイチャしたくないんだ?それなら、おれはもう行くけど」
「イチャイチャしたくないって言ったら、嘘になるけど……。それとこれが何の関係があるんだよ?」
「それが関係大ありなわけ。まあ、チョロ松に食べさせてみなよ。お楽しみが待ってるから」
「お楽しみ?」
「そ。ほら、騙されたと思って」
騙されるも何も最初から分からないことだらけだが、興味をそそられておそ松はタッパーを受け取った。見た目とは裏腹に意外に軽く、ひんやりと冷たい感触がした。
ふひっと笑うと一松はマスクを上げ、そのまま去っていく。おそ松の横を通り過ぎるとき「……じゃあ、楽しんでねえ」と面白そうに呟いた。
一人残ったおそ松は、タッパーを開けてみた。キャベツやレタス、キュウリなどが入ったいわゆるサラダが詰まっており、所々に見えた茶色の物はクルミのようだ。香ばしい匂いが辺りに漂う。
若干拍子抜けしながらも、「お楽しみ」という一松の言葉を信じて部屋に戻る。
もうにゃーちゃんグッズの整理は終わっており、チョロ松はソファに寝っ転がって求人誌を読んでいた。
就職しないくせに熱心だなあと、ある意味感心しながら近付く。クルミの香りに気付いたのか、チョロ松が顔を上げた。おそ松が持っているタッパーに目をとめる。
「何それ?」
「あっ、さ、サラダ!いや、お前ライブ帰りだろ?お腹空いてるかなあと思ってさ!作った」
「へえ、おそ松兄さんが?ありがとう。丁度、何か食べたいと思ってたんだよね」
手を伸ばすチョロ松に渡そうとして、箸がないと食べられないことに気付く。少し待っててとサラダを渡して、急いで台所へ走った。途中、居間でビーズをしていたトド松の背中を思いっ切り蹴ってしまい、「ぎゃー!!」という苦悶の叫び声を浴びながら箸を持っていく。
渡すと、チョロ松は再びお礼を言ってからサラダを口に運んだ。モグモグと噛んで、顔を輝かせる。
「美味しい!」
「あ、ほんと?」
「うん。おそ松兄さんってこんなに美味しいサラダ作れたんだね!知らなかった」
「だ、だろー?あははー……」
正確には作ったのは一松なのだが、ここは自分の手柄にしておこう。嘘をつくのは心苦しいが、ここまで褒められておいて「ほんとは一松が作りました」などと言えない。
もしゃもしゃとすごいスピードで食べていたチョロ松だが、段々その様子がおかしくなっていった。顔が赤くなり、荒い息を繰り返している。少し足を擦り合わせているようにも見えた。
「どした?気分悪いのか?」
「おそ松兄さん……」
潤んだ瞳で見上げられ、思わず口を手で覆った。これ以上ないほどニヤけそうになる頬を必死で引っ張り、人としての尊厳を何とか保つ。可愛すぎる恋人を見つめ、心の中で叫び声を上げた。
何これー!!可愛すぎんだろぉー!もしかして、このサラダの効果?!お楽しみってこういうこと?!一松様、ありがとうございまあーす!!
よく見ると、少しだけだかチョロ松の股間が盛り上がっている。今にも飛んでいきそうな理性を繋ぎ止め、すーっとズボンの上から形をなぞった。大袈裟なほど、チョロ松はビクッと震える。抑えきれない嬌声が小さな口から漏れた。
「んっ……」
ブチッ。
何かが自分の中で切れた音がした。何でこうなったとか、サラダの謎の効果とか、そういうことは頭の中からすっぽり抜け落ちる。勢いのまま、おそ松はチョロ松の上に覆い被さった─
二人の様子をこっそり覗いていた一松は、静かに襖を閉じた。ここからは二人きりにしてやろうと、足音を立てないよう部屋から離れる。おそ松の、人の言葉をすぐに信じる素直さに思わず苦笑が零れた。
バッカだねぇ……。サラダとクルミの組み合わせが『媚薬』の効果があるともしらずに……。
暇つぶしにいじっていたトッティのスマホで、偶然見つけたネット記事。これは面白いと、一番身近にいるカップルに試してみたくなったのだ。あのチョロ松の様子を見ると、どうやら記事は本当だったらしい。
でも……。
一松は足を止めた。
気になるのがチョロ松。あれが媚薬だとしても効くのが早すぎやしないか。気持ちが伴うと身体への反応も早くなると書いてあったが……。
まさか、媚薬効果があると分かっていてわざと食べた?おそ松とうまくいっていないことをチョロ松も気にしていて、おそ松があのサラダを持ってきたから……。
考えすぎか。
一松は軽く頭を振った。今おそ松とチョロ松が楽しんでいるであろう部屋に向かって、低く呟く。
「おれが協力してあげたんだから、仲良くしなよ……。心配だから」
小さな声は誰にも聞かれることなく、静かに空気の中へと消えていった。
~終わり~
いかがでしたでしょうか?
媚薬ネタかすごく微妙な作品ですが……。
作者が一松推しなので、これからもちょくちょく登場すると思います!
駄文、失礼しました!
「あー、確かに……って何でお前が知ってるんだよ!」
怖くなって離れようとすると、一松はさらにタッパーを手に押し付けてきた。胸の前に大きなバッテンを作って、受け取らないことを表現する。
そんなおそ松を見て、一松はやれやれというように肩を竦めた。ついさっきおそ松が飛び出してきた部屋を指差し、唇の端だけで笑う。
「見てれば分かる。何?あいつとイチャイチャしたくないんだ?それなら、おれはもう行くけど」
「イチャイチャしたくないって言ったら、嘘になるけど……。それとこれが何の関係があるんだよ?」
「それが関係大ありなわけ。まあ、チョロ松に食べさせてみなよ。お楽しみが待ってるから」
「お楽しみ?」
「そ。ほら、騙されたと思って」
騙されるも何も最初から分からないことだらけだが、興味をそそられておそ松はタッパーを受け取った。見た目とは裏腹に意外に軽く、ひんやりと冷たい感触がした。
ふひっと笑うと一松はマスクを上げ、そのまま去っていく。おそ松の横を通り過ぎるとき「……じゃあ、楽しんでねえ」と面白そうに呟いた。
一人残ったおそ松は、タッパーを開けてみた。キャベツやレタス、キュウリなどが入ったいわゆるサラダが詰まっており、所々に見えた茶色の物はクルミのようだ。香ばしい匂いが辺りに漂う。
若干拍子抜けしながらも、「お楽しみ」という一松の言葉を信じて部屋に戻る。
もうにゃーちゃんグッズの整理は終わっており、チョロ松はソファに寝っ転がって求人誌を読んでいた。
就職しないくせに熱心だなあと、ある意味感心しながら近付く。クルミの香りに気付いたのか、チョロ松が顔を上げた。おそ松が持っているタッパーに目をとめる。
「何それ?」
「あっ、さ、サラダ!いや、お前ライブ帰りだろ?お腹空いてるかなあと思ってさ!作った」
「へえ、おそ松兄さんが?ありがとう。丁度、何か食べたいと思ってたんだよね」
手を伸ばすチョロ松に渡そうとして、箸がないと食べられないことに気付く。少し待っててとサラダを渡して、急いで台所へ走った。途中、居間でビーズをしていたトド松の背中を思いっ切り蹴ってしまい、「ぎゃー!!」という苦悶の叫び声を浴びながら箸を持っていく。
渡すと、チョロ松は再びお礼を言ってからサラダを口に運んだ。モグモグと噛んで、顔を輝かせる。
「美味しい!」
「あ、ほんと?」
「うん。おそ松兄さんってこんなに美味しいサラダ作れたんだね!知らなかった」
「だ、だろー?あははー……」
正確には作ったのは一松なのだが、ここは自分の手柄にしておこう。嘘をつくのは心苦しいが、ここまで褒められておいて「ほんとは一松が作りました」などと言えない。
もしゃもしゃとすごいスピードで食べていたチョロ松だが、段々その様子がおかしくなっていった。顔が赤くなり、荒い息を繰り返している。少し足を擦り合わせているようにも見えた。
「どした?気分悪いのか?」
「おそ松兄さん……」
潤んだ瞳で見上げられ、思わず口を手で覆った。これ以上ないほどニヤけそうになる頬を必死で引っ張り、人としての尊厳を何とか保つ。可愛すぎる恋人を見つめ、心の中で叫び声を上げた。
何これー!!可愛すぎんだろぉー!もしかして、このサラダの効果?!お楽しみってこういうこと?!一松様、ありがとうございまあーす!!
よく見ると、少しだけだかチョロ松の股間が盛り上がっている。今にも飛んでいきそうな理性を繋ぎ止め、すーっとズボンの上から形をなぞった。大袈裟なほど、チョロ松はビクッと震える。抑えきれない嬌声が小さな口から漏れた。
「んっ……」
ブチッ。
何かが自分の中で切れた音がした。何でこうなったとか、サラダの謎の効果とか、そういうことは頭の中からすっぽり抜け落ちる。勢いのまま、おそ松はチョロ松の上に覆い被さった─
二人の様子をこっそり覗いていた一松は、静かに襖を閉じた。ここからは二人きりにしてやろうと、足音を立てないよう部屋から離れる。おそ松の、人の言葉をすぐに信じる素直さに思わず苦笑が零れた。
バッカだねぇ……。サラダとクルミの組み合わせが『媚薬』の効果があるともしらずに……。
暇つぶしにいじっていたトッティのスマホで、偶然見つけたネット記事。これは面白いと、一番身近にいるカップルに試してみたくなったのだ。あのチョロ松の様子を見ると、どうやら記事は本当だったらしい。
でも……。
一松は足を止めた。
気になるのがチョロ松。あれが媚薬だとしても効くのが早すぎやしないか。気持ちが伴うと身体への反応も早くなると書いてあったが……。
まさか、媚薬効果があると分かっていてわざと食べた?おそ松とうまくいっていないことをチョロ松も気にしていて、おそ松があのサラダを持ってきたから……。
考えすぎか。
一松は軽く頭を振った。今おそ松とチョロ松が楽しんでいるであろう部屋に向かって、低く呟く。
「おれが協力してあげたんだから、仲良くしなよ……。心配だから」
小さな声は誰にも聞かれることなく、静かに空気の中へと消えていった。
~終わり~
いかがでしたでしょうか?
媚薬ネタかすごく微妙な作品ですが……。
作者が一松推しなので、これからもちょくちょく登場すると思います!
駄文、失礼しました!
4/4ページ