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分からない正解

雲一つない晴天。週末だからか街には人が溢れかえっていた。色とりどりの服や鞄が舞い踊る。
いつものように橋の柵にもたれ掛かって、カラ松は溜息をついた。
原因は弟である一松だ。
─お前なんか大嫌いだよ
先程言われた言葉が脳裏に蘇る。ちくりと胸の辺りが痛んだ。手で抑え、呼吸を整える。
一松は昔から照れ屋で素直じゃなかった。そのことを頭では分かっていても、やはり多少は傷つく。
話しかけた途端、急いで離れて睨みつけてきた姿を思い出す。あの時、嫌悪感や敵意、憎悪は真っ直ぐ自分だけに向いていた。
何で。
心の中で呟く。
何で、あんな態度なんだ。何で、あんなことを言うんだ。何で。
おれを嫌っているんだ。
一松は、カラ松にとってかけがえのない存在だ。初恋相手で、今も尚想っている。
何で、好きになったんだっけ。
思い出そうとしても思い出せない。多分、気付いたら好きになっていたのだろう。
一人で全て抱え込んでしまう所や、口が悪くて無愛想のくせに本当は兄弟思いな所とか。愛おしくて、守りたくて。いつも気付けば目で追っていた。少しでも困っていると、手を差し伸べた。
でも、その手はいつも振り払われる。
どうしたら。
おれの手を取ってくれる?おれに笑いかけてくれる?
分からない。何度考えても、答えは一向に出ない。ふと、曲がり角にある本屋さんに目を留めた。その店先には様々な種類の参考書が並んでいる。
『入試対策問題』『中一 数学』
そんな色とりどりの文字がやけに眩しくて、ほんの少し目を細めた。
勉強はいい。考えれば答えが出る。分からなかったら解説を見ればいいし、他の人に聞くこともできる。
今自分が抱えている問題に答えは出るのだろうか。助けてくれる教師はいない。一緒に解き方を考えてくれる仲間もいない。たった一人で向き合わなければいけない。そんなこと、出来るのだろうか。自信がないという以前に、そもそも答えがあるのかさえ思う。
「情けないな……」
呟く。弟を好きになってしまったことも、そのことに関して身動きが取れなくなってしまっていることも全て情けない。
微かな風が前髪を撫でる。顔を上げた。いつもの見慣れた街の風景は歪み、頬に冷たいものが転がり落ちた。

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