神谷道場に置き去りにした荷物一式を蒼紫が持って帰ってくれたのは有り難い事だったのだが一番大事な刀を返してもらってない。



（あの刀は一から託された大事な形見・・ってまだ一は死んでないけど。）



心で突っ込みを入れつつも全く返してもらえる気配すらない蒼紫に武尊は不満を漏らす。



（蒼紫は『然るべき時が来たら返す』って言ったけど然るべき時っていったい何時よ。しかも『どうしても返してほしければ俺を倒せ』って無理難題言うし・・。）



隠し場所は蒼紫しか知らないと言った。



（忍の屋敷でもある葵屋には私に知られないような隠し場所は沢山あるんだろうけど・・私ならそんな所より自分の部屋に隠す。）



と武尊は妙な確信をする。


そしてきっと蒼紫もそうするだろうと直感すると身体が勝手に布団からがばっと起き上がった。



（もしかして今がチャンス！？）



明日明後日にでも比古のもとに帰るつもりでいた武尊だが蒼紫が刀を返してくれそうには思えないと思うと家探し、もとい、部屋探しをするには今がうってつけではないかと武尊は思うのだった。



「今しかない・・・。」



部屋の主に黙って部屋荒らしなんか悪い事に決まっている。



「だけど返してくれない蒼紫が悪いんだからね。」



と自分に言い訳して武尊は蒼紫の部屋に侵入した。



・・侵入といっても普通に障子を開けてみればスっっと開いた。





これだけ星明りがあると障子越しでも物陰ぐらいは分かる。


灯りがなくて当たり前の時代に随分適合したもんだと苦笑しながら武尊は蒼紫の部屋を探し始めた。



（翁さんの部屋なら隠し小判とか見られちゃいけない危ない物があるかもしれないけど蒼紫の部屋にはそんなものなさそう・・あ、でも意外に熱烈な恋文とか隠してあったりして！）



武尊は勝手に想像してクスクス笑いがこぼれる。


蒼紫が帰ってきたらやばいから早く見つけなければと思った部屋荒らしだったが思いの他普通に何も見つからず武尊は時間が経つのを忘れてやっきになって探していた。


蒼紫がいると自分の事をいつも見られているようでとてもじゃないがこんな風に部屋荒らしなんかできないという焦りと蒼紫がいつも行く禅寺なら歩いて往復なら結構時間がかかるということが武尊の読みを甘くしていた。


遂には畳をひっくり返して床下を覗いていると、



「何をしている。」



と低い声がした。



2018.2.15