「お前も迎えが来たようだしな。」



斎藤はそう言うと武尊の肩をぽんっと叩いて武尊を送りだすとクルリと背を向けながら手をひらひらと振った。



「一っ・・！」



武尊は突然来た別れの瞬間に斎藤の名前を呼ぶが声が詰まってそれ以上は何も言えなかった。


そして斎藤も振り返る事はなかった。



（一・・。）



武尊は斎藤の姿が見えなくなるまで見送っていたかったが、



「武尊。」



と自分を呼ぶ蒼紫の声でそれは叶わなかった。



「・・蒼紫。」



トーンは低かったが苛立ちを抑えたその声に武尊はおずおずと振り返った。


少し乱れた髪の毛。


汗は書いてない様子だがきっと自分を探して歩き回ったに違いない。


そこに好きな女が嫌いな男と楽しそうにしている姿を目の当たりにし面白いわけがない。


ということは言わなくても分かるぐらいなオーラが蒼紫から出ていた。



「用事は済んだのか？」


「あ、うん・・。」


「そうか、なら帰るぞ。」



蒼紫はそう言って踵を返す。


武尊はそのその後ろを黙ってついて行った。



いつもは横に並んで話をしながら歩くのに今は少しは速度を抑えて歩いてくれているのだろうが振り返ることない蒼紫の後ろ姿に武尊は少しだけ心がちくりとした。