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257.壊れた心 (斎藤・夢主・蒼紫・翁・操)
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武尊は歩きながら自分の手をじっと見つめながら思った。
さっきは本当に自分の存在自体を消してしまいたかったのだと・・。
明治にいるから自分の本当の姿を忘れていたのだろうか。
きっと現代に帰ったら自分の存在にまた苦しむのは間違いない。
生きて帰ってもしあの狂人博士にでも捕まったら今度こそ生きながら解剖されてしまう、そんな悪い予感を強く感じる。
だがそれより気になるのは【何故自分は今存在しているのか】ということ。
消えない自分の肉体。
クローン元の肉の破片が150年かけて土に還れば自分が甦る事などないはずなのに・・。
(こういうのをタイムパラドックスっていうんだっけ?)
仮にタイムマシーンか何かで過去に行くことが出来たとして、その事で過去の歴史が変わったりすると生まれてくるはずの人が生まれなかったりする・・はずなのだが。
(ん~~?)
考え込んでも武尊には分からない。
(もともとこういう論理の理解は得意じゃないんだよね・・だからと言って明治時代の人にいきなり話を振っても理解してもらえるかどうかわからないし・・。)
と、武尊は思わず横の斎藤を様子見る。
するとばっちり目が合った。
「何だ。」
「いや、あの・・。」
武尊はダメ元だと意を決して疑問をぶつけた。
「ねぇ・・、もしもだよ?・・一が過去に戻れたら・・薩長の思う通りにさせなかった?」
「は?」
いきなりな質問に斎藤は少し目を見開いたがすぐにフッと笑って意味あり気な目で答えた。
「さあ・・どうかな。」
「もう・・っ、何それ!真面目に聞いてるのに!」
「何それな質問をしたのはお前だろうが。」
「『もしも』の話だって。そんな事があったらって考えたことない?」
「ないな。」
即答され武尊はむぅと唸った。
「だがもしそんな事になったのなら俺がそこに二人いることになるだろうが。」
「あっ、そっか・・。」
「阿呆。」
「うっ・・。」
まさか明治人に突っ込まれるとは不覚だと思いつつも武尊は言葉を詰まらせた。
すると斎藤は横で煙草を大きく吸って言った。
「『過去に戻れたら』か・・。」
武尊はその言葉に斎藤の顔を見るとその目は一瞬だけ遠い目をした。
(あの戊辰戦争の事を考えたらやっぱり何かを変えれたらと思うよね・・。)
武尊が斎藤にも想う所ありなんだなぁと思った瞬間、斎藤が横目で武尊を見てにやりと笑った。
(このニヤリ顔にはいいことはないっ!)
武尊が警戒しようとした瞬間、斎藤に頭を髪の毛ごとワシワシと掴まれた。
「痛たたたた!」
ひ~っ!と悲鳴を上げる武尊に斎藤は、
「愛情だ、我慢しろ。」
「最近その愛情が激しくない!?」
「当り前だ、抱いてないからな。」
「・・っ!」
たった一言の言葉と斎藤の熱を持った視線が瞬時に武尊の顔に熱を持たせる。
「溜まってるんだよ、俺も。」
「『俺も・・』って。」
「お前は違うのか。」
意地悪な目線で言われて胸に疼く熱が耳まで赤くする。
「だが・・抱いてやる事は出来なさそうだ。」
斎藤が残念そうにそう呟いた。
「え?」
思わず斎藤の顔を覗き込む武尊に斎藤は、
「フ、残念そうな顔をするな。」
「してないよ!」
思わずそう言い返す武尊だったが心の奥底に閉じ込めた気持ちが切なく痛い。
(自分が一を探したのは最後のさよならを伝える為だったんだから!しっかりしろ自分!)
と、武尊は自分の心を奮い立たせた。
けれども今この瞬間にも斎藤の温もりが自分を暖かく包んでいるのが感じられて心臓がきゅっと掴まれる感覚に涙が出そうになる。
(切ない・・でも・・でもこの恋は今度こそお終い。)
街に着いて二人の足がそれぞれの方向に向かえばもう二度と会わない。
その覚悟を今度こそと武尊が思った瞬間、
「抱いて欲しくば北海道へ来い、待ってるぞ。」
と声を掛けられた。
(一・・)
じんわり優しく響く斎藤の声に武尊は言葉が出なかった。