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256.タイムパラドックス (斎藤・夢主)
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「・・・ん。」
武尊は頭に血が上る感じと定期的に揺れる身体に意識を取り戻した。
どうやらその揺れは歩く時の振動によるもので自分は誰かに担がれているのだと気が付いた。
と同時に良く聞き慣れた低い声が耳に入る。
「気が付いたか。」
斎藤はそう言うと武尊を下した。
「ん。」
少し放心状態の武尊目を斎藤は少し屈んで覗き込む。
武尊はじっと斎藤の目を見つめ返した。
数秒経って武尊の目が斎藤の目から外れキョロキョロと周囲に泳いだ。
外はすっかり夜だった。
周りはまだ街中へ戻る途中なのかまだ山の中だった。
「あれ・・私・・。」
確か洞窟にいたはずだと武尊は辺りを見回した。
「収集が付かなくなったんでな、一発喰らわせてここまで運んだんだ。」
斎藤はそう言ってため息をついた。
武尊はそう言われて鳩尾にかなりきつい一発を喰らったことを思い出し痛たたと今更ながらそこをさすった。
「ったく・・何をあんなに取り乱したんだ。」
「ん・・。」
斎藤は別に武尊を責めるわけでなく片手で優しく武尊の頭を撫でた。
武尊は目を瞑って先程の事を思い出す。
斎藤の手のひらから精神安定剤が出てるのではないかと思うほど武尊は自分が落ち着いていられていることに不思議さを覚えながら目を閉じた。
「ぅん・・。」
武尊は自分が蘭子のクローンだという事に気が付いてしまった。
それをまた思い出して涙がじわっと溢れてくる。
「ごめんなさい・・自分でもまだ気持ちが整理出来ない。」
本当に何をどうやって斎藤に説明しようか、出来るのか。
今の武尊にはその言葉が全然見つからなかった。
そしてふと思った疑問を斎藤に聞いてみた。
「九条・・もしかして置いて来ちゃった?ごめん、私を担いで来ちゃったせいで運べなかったんじゃないの?」
「九条か・・俺は奴をもとより法の下で裁くつもりなどない。」
斎藤は武尊に歩けるかと聞き、最後にポンを武尊の頭を叩くと煙草に火を点け歩き出した。
「・・そっか。」
武尊は小さく返事をした。
「もう奴から狙われる事もない、よかったな。」
「うん・・。」
それはもう誰も十六夜丸の力を求めて武尊を狙う事はないという安心の言葉だった。
だが実のところは十六夜丸の事は契約不履行の為、まだその力を使っていない。
そしてその契約が履行される時は自分の命が終わるときだと・・
そんな事情を斎藤が知るわけもなく、今の『よかったな』という武尊を安心させる為の物言いに『そうでもないよ』なんて水を差すような言葉は言えないと武尊は思った。
(一にはこのまま北海道へ戻ってもらって私を忘れて・・・幸せになって欲しい・・)
穢れた自分の事など忘れて。
その事だけを思う。
自分に比べてどんなに辛く惨めな運命にあっても自分の信念を貫く一人の男の存在が眩しくて羨ましくて、そんな人の記憶に残る事さえ申し訳なく思えて武尊は俯く。
切なくなってつい涙ぐんでしまうと武尊が思った時、斎藤がとんでもない事を言った。
「まあ、九条は【死んでない】からそもそも死体を引きずって持って帰ってもややこしいだけだからな。」
ビックリ仰天の話につい涙が引っ込んでしまったのは良かったと思った武尊だったが今の話は聞き逃せない。
「死んでないって・・死んだんじゃないの!?」
いや、どう見てもあれは死んでたんじゃないのと武尊は洞窟の九条の姿を思い出した。
「本物は死んだが影武者が生きている。恐らく今も表向きの仕事は影武者が難なくこなすだろうから本物の死体を持って行っても帰って面倒な事になるということだ。だが裏の仕事阿片については今回の事故でかなりの打撃を受けたはずだ・・ここから先は俺の仕事だ。」
お前が居れば仕事がはかどるし充実するんだがな、という気持ちが胸に湧き上がって来るのを抑えながら斎藤は煙草をふかす。
そして視線を横を歩いている武尊の頭に落とす。
何度も何度も武尊を連れて行こう、連れて行けたらと思う気持ちは今も変わらない。
だがその道を斎藤は武尊自身で選んでくれないと意味がないと考えている。
「ここまで気が長いとは俺自身思っていなかったな。」
「え?」
「ふっ。」
最後の言葉は斎藤の独り言のようだった。
武尊がその意味を聞こうとしたが斎藤は口元に笑みを浮かべるだけだった。
「もう・・。」
いつものように頬を膨らませた武尊に斎藤は視線を和らげた。
「やっともとに戻ったな。」
「んー。」
おかしくなっていた自分を落ち着かせようと気を使ってくれていた優しさに胸がキュっと締め付けられる。
その優しさにせめて今だけは応えたいと思った武尊はミエミエかと思われるかもしれないがカラ元気をに見せるのだった。
そして歩きながらふと思った。
(あれ・・何で私生きてるんだろ?壺を全部壊したんだからこれから150年経てば全部土に還ってしまうんじゃないの?)
だとすれば壺発見のニュースもなく、クローンの実験も行われないはずなのに。
(あれ?あれ?)
頭に沸いた疑問符は消えない。
2017.12.15