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253.幕末よりの再会 (九条・夢主の兄と名乗った男・夢主・斎藤・蒼紫)
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市彦に連れていかれたのは井戸からそう遠くない山小屋だった。
周りはあの井戸と山小屋以外道もなく、本当にこの周りには誰も住んでないというのが分かる。
まさに隠れ家というべき場所は九条にとって好都合の場所だった。
ここに来るためにはあの井戸から洞窟を通り滝の裏から出入りするしかないのだ。
「急に来られても何もない。餅と干し柿ぐらいか・・。」
小屋に着いて市彦は九条にそう言った。
「酒はないのか。」
と九条は聞いたが還俗したお前とは違い俺は酒は飲まん、と市彦に言われ会話もろくに続かなかった。
九条はただ焼いただけの餅を数個食らうとと寒さ避けに汚いむしろを仕方なしにかぶり横になった。
囲炉裏の灯りで籠を編む市彦を横目に九条はこれからの事を考えた。
(明日はあまり気のりはしないがが観柳の所へ行き馬車を手配させるか・・取り合えず早く京都から離れた方がいいだろう。)
気になるのは御庭番衆の動きだった。
(そういえば御庭番衆だと名乗った小娘を捕らえて観柳の所へ送ったんだったな。場合によってはその小娘を人質に使うか・・。)
函館で裏の部下を二人失った事に加え、更に四乃森蒼紫に部下をやられ、戦力的に不利だと感じた九条はあの手この手と策を考えていたが、心身疲労していた九条は睡魔に勝てなく目を閉じるとそのまま寝てしまった。
そこに夜中の地震があった。
短い時間だったが大きな揺れに市彦は洞窟が崩れてはしないかと朝を待たずに灯りを持って飛び出したのだった。
九条も流石にあの揺れには目を覚ました。
そして出て行った市彦を見て今が薬を探すチャンスだと思い片っ端から山小屋の中を探した。
探したのはもちろん武尊を十六夜丸に変えるあの【薬】だ。
あれだけ大量に作った薬だったが幕末市彦が屋敷を抜け出す際に全部持ち出した。
ずっと此処に住んでいるのなら何処かにあるはず・・と思うも、
「ない!ないぞ、何故ないんだ!」
家具などほとんどない狭い小屋の何処にも【薬】は見当たらない。
そうこうしているうちに足音が近づいて来た。
(ち、もう帰ってきたのか。)
眠気もすっかり冷めた九条は囲炉裏の前に座って市彦を待った。
「何処へ行っていた。」
九条が尋ねると、
「井戸が崩れてないか見に行っていた。それよりもう一つの隠れ家の方に何か異常があったようだ。誰かが使っていたのは知っていたが事故でもあったのか、煙が上がっていたぞ。」
市彦の言葉に九条は跳ねる様に外に出た。
観柳に貸したアジトの方が明るい。
そしてその明るさで煙が白く出ているのが分かった。
(風向きの関係でこちらに煙が流れて来なかったから気付かなかったのか!?)
九条は唖然と立ち尽くした。
これからいよいよ阿片の製造も本格的に始めようとした矢先に一体何が起こったというのか。
しかもこの間大阪から運び込んだ武器弾薬もそこに隠しておいたばかりだ。
観柳に何かがあったのかとも思うが自分が見込んだ観柳の商才に間違いはない。
それに武器の扱いにも慣れている観柳が事故を起こすとは考えられない。
全ては順風満帆に事は進んでいるはずだったのに何故、と九条は自問した。
小屋に戻って来ない九条を市彦が心配して出て来た。
「どうした。」
「べ・・別に・・ただ戦を思い出しただけだ。」
乾いた笑いを残して九条は小屋へ戻った。
市彦はゴロリと横になった早々にイビキをかきだした。
だが九条は寝られない。
もしあのアジトがダメになったら自分の財産の半分以上を失ったことになる。
それに計画にも大きな狂いが出てくる。
こうなったら絶対【薬】を手に入れなければとぎらついた目を暗い小屋の壁に行き来させるのだった。