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248.長き夢 (厩戸皇子・十六夜丸・中臣鎌足・夢主)
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約十日後、十六夜丸はいつもの石の上に腰掛けうずくまっていた。
お腹が空いて動けないのだ。
今までは周りの自然・・とりわけ月の光の清らかな気が十六夜丸の糧だった。
清らかで美しいこの明日香の斑鳩という所は十六夜丸にとっても申し分なく良い所だった。
だが今は違う。
お役目御免とばかりに守り神の地位をはく奪された十六夜丸はこの土地からの恵みは何一つない。
行く当てもないがこのままではいけないと何処かへ行こうと何度も思ったが厩戸皇子の『私は斑鳩へ還る』という言葉が心の奥底にひっかかり離れられずにいた。
そこへあの男がやって来た。
この間、最後尾の馬に乗っていた男だ。
(やはり私が見えるのか。)
十六夜丸は厩戸皇子が『人には多くはないが私のようにあなたのことを見ることが出来る者がいる』という言葉を思い出し、この男もそういう類の人間なのだと思ったが別に興味もない。
否、どちらかと言えばあまり好かない面構えに相手をしてやる必要はないとそっぽを向いていた。
男は十六夜丸の前でうやうやしく頭を下げてこう言った。
「どうか貴方様のお力をお貸し頂きたい。」
「・・今の私には何の力もない。無駄足だったな。それより・・何故厩戸皇子の屋敷に火を放った。」
十六夜丸の言葉に男は一瞬きょとんとしたが天性の勘と頭の良さで瞬時に計画を練り直していく。
「火矢を放ったのは山背大兄王様の御屋敷でございます。山背大兄王様は天皇への謀反を企んでいましたので仕方ありませんでした。」
と、まこと丁寧に十六夜丸に伝えた。
「山背大兄王?厩戸皇子ではないのか?」
「厩戸皇子様はもう二十年前にお亡くなりになられております。山背大兄王様は厩戸皇子のお子にございます。」
男の言葉に十六夜丸は言葉を失った。
雷によって砕け散った十六夜丸の僅かな【気】が十六夜丸として再生するのに二十年、二十年かかったのだ。
その間にいとも早く人間社会は変わっていたのだ。
十六夜丸に落胆の様子を見た男は更に申し出た。
「・・もしよろしければ明日厩戸皇子の墳墓にご案内いたしましょうか。」
十六夜丸は返事をしなかったが男は翌日も夜に再びやって来た。
十六夜丸無言だったが男の後をついて行った。
斑鳩より南西約15km。
着いたのは丸い丘・・円墳だった。
深夜だったため辺りは人気もなく男は石棺へつながる横穴の入り口へ立った。
「こちらです、どうぞ・・。」
手案内されたその横穴に十六夜丸は入っていった。
奥には三つの棺が並んでいた。
中央は石棺、他の二つは割と新しい乾漆棺だった。
十六夜丸には教えてもらわなくても誰が何処にいるのか分かった。
(ここに厩戸がいる・・)
静かに東側の乾漆棺に近づきしばらくじっと見下ろしていた。
そしてぎゅっと瞼をつぶると反対側を、もう一つの乾漆棺を睨みつけた。
(あの女の臭いがする。)
そう、もう一つの乾漆棺に埋葬されたのは厩戸皇子の妻のうちの一人だった。
(きっと人間どもは真相を誰も知らないのだ。)
厩戸皇子を死に至らしめた女が死後も同じ場所に眠るという事が十六夜丸にとって不愉快でたまらない。
「気に入りませんか。」
背後から急に声をかけられ十六夜丸はドキッとした。
何と返答していいのか十六夜丸は困った。
「どのような理由か存じませんが貴方様は膳大娘を憎んでいらっしゃる・・そうではございませんか?」
お前には関係ない、そう十六夜丸が言おうとした時、先に男の方が言った、
「人は首を取られると来世へ生まれ変われないという言い伝えがあります。もしお望みでしたら膳大娘が生まれ変われないように私がお手伝いいたしますが・・。」
男の口ぶりは極めて慎重で言葉巧みであった。
あの女がこの先も厩戸と共に有るなどとそんなことは十六夜丸の中では有り得ないことだった。
そして人間という生き物がどれだけ邪知深く狡猾であるかを十六夜丸は知らない。
ただ厩戸皇子を殺した女が許せなくて男の言い分に無意識にうなずいた。
「御意・・。」
男は十六夜丸が敵意を向けた棺を開けた。
亡骸はほぼ骨だけになっており、男は腰の剣を抜くとその首に当てた。
ゴリっという音とともに首は胴から離れた。
十六夜丸はそれを見てホッとしたのもつかの間自分の身に異変を感じた。
身体の自由がきかないのだ。
「なっ・・。」
何が起こったのかと周囲を見回すとあの男が切り離した首を片手に持ち何やらぶつくさと呟いている。
何をしているのか分からないが続けさせてはいけないと十六夜丸は手を伸ばして男から頭蓋骨を奪おうとしたが十六夜丸の意識はそこで途絶えた。
十六夜丸の姿は薄くなり、体の周りから光の粒子へと分化し浮遊した。
それは吸い込まれるように男の手の頭蓋骨へと吸い込まれていった。
全てが吸い込まれると男は止めていた息を一気に吐き出すように大きな声で笑った。
「ハーハッハッハッツ!やったぞやったー!私は最強の式神を手に入れたぞ!これからの時代この国を治めるのは私、否、わが一族なのだ!千年栄華も夢ではなくなった!」
男の狂喜はしばらく続き、夜の墳墓に不気味に響いたのであった。
お腹が空いて動けないのだ。
今までは周りの自然・・とりわけ月の光の清らかな気が十六夜丸の糧だった。
清らかで美しいこの明日香の斑鳩という所は十六夜丸にとっても申し分なく良い所だった。
だが今は違う。
お役目御免とばかりに守り神の地位をはく奪された十六夜丸はこの土地からの恵みは何一つない。
行く当てもないがこのままではいけないと何処かへ行こうと何度も思ったが厩戸皇子の『私は斑鳩へ還る』という言葉が心の奥底にひっかかり離れられずにいた。
そこへあの男がやって来た。
この間、最後尾の馬に乗っていた男だ。
(やはり私が見えるのか。)
十六夜丸は厩戸皇子が『人には多くはないが私のようにあなたのことを見ることが出来る者がいる』という言葉を思い出し、この男もそういう類の人間なのだと思ったが別に興味もない。
否、どちらかと言えばあまり好かない面構えに相手をしてやる必要はないとそっぽを向いていた。
男は十六夜丸の前でうやうやしく頭を下げてこう言った。
「どうか貴方様のお力をお貸し頂きたい。」
「・・今の私には何の力もない。無駄足だったな。それより・・何故厩戸皇子の屋敷に火を放った。」
十六夜丸の言葉に男は一瞬きょとんとしたが天性の勘と頭の良さで瞬時に計画を練り直していく。
「火矢を放ったのは山背大兄王様の御屋敷でございます。山背大兄王様は天皇への謀反を企んでいましたので仕方ありませんでした。」
と、まこと丁寧に十六夜丸に伝えた。
「山背大兄王?厩戸皇子ではないのか?」
「厩戸皇子様はもう二十年前にお亡くなりになられております。山背大兄王様は厩戸皇子のお子にございます。」
男の言葉に十六夜丸は言葉を失った。
雷によって砕け散った十六夜丸の僅かな【気】が十六夜丸として再生するのに二十年、二十年かかったのだ。
その間にいとも早く人間社会は変わっていたのだ。
十六夜丸に落胆の様子を見た男は更に申し出た。
「・・もしよろしければ明日厩戸皇子の墳墓にご案内いたしましょうか。」
十六夜丸は返事をしなかったが男は翌日も夜に再びやって来た。
十六夜丸無言だったが男の後をついて行った。
斑鳩より南西約15km。
着いたのは丸い丘・・円墳だった。
深夜だったため辺りは人気もなく男は石棺へつながる横穴の入り口へ立った。
「こちらです、どうぞ・・。」
手案内されたその横穴に十六夜丸は入っていった。
奥には三つの棺が並んでいた。
中央は石棺、他の二つは割と新しい乾漆棺だった。
十六夜丸には教えてもらわなくても誰が何処にいるのか分かった。
(ここに厩戸がいる・・)
静かに東側の乾漆棺に近づきしばらくじっと見下ろしていた。
そしてぎゅっと瞼をつぶると反対側を、もう一つの乾漆棺を睨みつけた。
(あの女の臭いがする。)
そう、もう一つの乾漆棺に埋葬されたのは厩戸皇子の妻のうちの一人だった。
(きっと人間どもは真相を誰も知らないのだ。)
厩戸皇子を死に至らしめた女が死後も同じ場所に眠るという事が十六夜丸にとって不愉快でたまらない。
「気に入りませんか。」
背後から急に声をかけられ十六夜丸はドキッとした。
何と返答していいのか十六夜丸は困った。
「どのような理由か存じませんが貴方様は膳大娘を憎んでいらっしゃる・・そうではございませんか?」
お前には関係ない、そう十六夜丸が言おうとした時、先に男の方が言った、
「人は首を取られると来世へ生まれ変われないという言い伝えがあります。もしお望みでしたら膳大娘が生まれ変われないように私がお手伝いいたしますが・・。」
男の口ぶりは極めて慎重で言葉巧みであった。
あの女がこの先も厩戸と共に有るなどとそんなことは十六夜丸の中では有り得ないことだった。
そして人間という生き物がどれだけ邪知深く狡猾であるかを十六夜丸は知らない。
ただ厩戸皇子を殺した女が許せなくて男の言い分に無意識にうなずいた。
「御意・・。」
男は十六夜丸が敵意を向けた棺を開けた。
亡骸はほぼ骨だけになっており、男は腰の剣を抜くとその首に当てた。
ゴリっという音とともに首は胴から離れた。
十六夜丸はそれを見てホッとしたのもつかの間自分の身に異変を感じた。
身体の自由がきかないのだ。
「なっ・・。」
何が起こったのかと周囲を見回すとあの男が切り離した首を片手に持ち何やらぶつくさと呟いている。
何をしているのか分からないが続けさせてはいけないと十六夜丸は手を伸ばして男から頭蓋骨を奪おうとしたが十六夜丸の意識はそこで途絶えた。
十六夜丸の姿は薄くなり、体の周りから光の粒子へと分化し浮遊した。
それは吸い込まれるように男の手の頭蓋骨へと吸い込まれていった。
全てが吸い込まれると男は止めていた息を一気に吐き出すように大きな声で笑った。
「ハーハッハッハッツ!やったぞやったー!私は最強の式神を手に入れたぞ!これからの時代この国を治めるのは私、否、わが一族なのだ!千年栄華も夢ではなくなった!」
男の狂喜はしばらく続き、夜の墳墓に不気味に響いたのであった。