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248.長き夢 (厩戸皇子・十六夜丸・中臣鎌足・夢主)
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厩戸皇子が十六夜丸の元を訪れたのは数年経ってからのことだった。
今夜も月が美しい夜だった。
「やあ・・久しぶりだね。」
聞き覚えのある声に少し苛立ちのため息を吐きながら十六夜丸は仕方なしに振り向き、そして驚いた。
「・・何だか変わったな。」
十六夜丸が開口一番そう言ったのも無理はない。
厩戸皇子は笑って言った。
「ああ、髭を生やしたからね。」
少年の面影を残した微笑みこそ変わらなかったが、髭を生やしたその風貌は数年が十数年会わなかったようだと十六夜丸は思った。
そんな皇子に十六夜丸は少しつっけんどんに、
「今更何しに来たんだ。」
と言った。
「そんな言い方はよしてくれ。前にも言ったが・・私はただ貴方に会いたかっただけなんだ。やっと私の斑鳩宮が完成してね、ようやく少し落ち着けそうなんだ。なんせこの三年、冠位十二階や十七條憲法の制定やらで忙しくてね、引っ越しさえなかなか出来なかったんだよ。」
厩戸皇子は肩をすくめて、それからホッとした顔を十六夜丸に見せた。
十六夜丸はやれやれと言わんばかりに、
「・・お前は休むことを知らない人間の様だからな。」
と言いつつ厩戸皇子にすぐそこの石に腰掛ける様に言うと座った皇子の頭上に手をかざした。
金色の細かな粒子が厩戸皇子に降り注ぐ。
最近ほとんど寝ることが出来ずに実は疲れ果てていた厩戸皇子は身体の重くどんよりした部分が爽快になっていくことを感じ、それを今、目の前の神が自分の為にしてくれていることに感動し十六夜丸を見つめた。
「ありがとう・・とてもよくなったよ。」
厩戸皇子が心から礼を言うと十六夜丸は、
「お前だけだ。今回は特別だ・・私のこの力はお前だけではなく此処に在るすべての土や草木、生きとし生ける物の為にあるのだからな。」
と大真面目な顔で言い、
「・・それに人を癒すのはとても疲れるのだ。」
と付け足した。
「そうか、それはすまなかった。それにしても誰かに癒されるというのがこれ程気持ちが良いものだとは思わなかったな、本当にありがとう。」
厩戸皇子の礼の言葉に十六夜丸は無言のまま厩戸皇子を見おろし、そして言った。
「もし・・また心浮かぬ時、此処に来たくば来ればいい。」
こうしてまた、厩戸皇子は時折十六夜丸に会いに来るようになった。
十六夜丸も仕方ないと言いつつも厩戸皇子の話を聞き、そのうち【人】が天皇を中心とした【国】を造ろうとしていることぐらいの知識は付いた。
そしてもう一つ。
この厩戸皇子が斑鳩の地に来てから見かけるようになった妙な姿をした者の正体が分かったのだ。
それはこの地のずっと先には海というものがあり、そのずっと先には別の地があり、そこにはまた別の【人】と【国】があるということ。
時々空を飛んでいるのはその【外の国】から迎えた【仏】や仏の護法神だということだった。
十六夜丸は自分達の土地によその国の神が入り込んで来たことにいい気はしなかったが、それらの者とは目を合わさぬよう自分の役目に集中した。
更に月日は経った。
月に一度は顔を見せにやって来た厩戸皇子がぱったりと来なくなった。
十六夜丸は何だかんだと文句を言いながらも年老いていく一人の人間を気にかけ身体の悪いところはその度に治していたので病ではないと信じていた。
三ヶ月も顔を見ないと十六夜丸はどうも気になって初めて厩戸皇子の住む斑鳩宮へ行くことにした。
深夜月灯りの下、斑鳩宮に近づくにつれ、空気が変わる。
東側に寺を持つ斑鳩宮。
その広い敷地の中を十六夜丸は厩戸皇子の気配を辿りながら彼の寝室へ着いた。
夜中にも関わらず厩戸皇子は目を覚まして十六夜丸を見た。
「厩戸!」
あまりにも瘦せこけ生気のない厩戸皇子の姿に十六夜丸は驚き駆け寄った。
「はは・・来てくれたんだね・・もう会えないと思っていた・・。」
「どうしたのだ、これは・・。」
「どうもこうも・・私もいい歳をした老人だ・・いつかは命の火も消える、ただそれだけだ。」
「そんな馬鹿な!」
千年も色々な生き物の生死を見てきた十六夜丸にはすぐ分かった。
これは自然な寿命ではないということが。
それを示すが如く、厩戸皇子の部屋は感じたこともない邪気で満ちていた。
その邪気は皇子の部屋から何処かへと続いていた。
十六夜丸はそれを追って部屋を出ようとすると皇子に呼び止められた。
「十六夜雷大神・・。」
消えそうなその声に十六夜丸の足が止まる。
「何も喋るな!今この邪気を何とかする!」
皇子はそんな十六夜丸に微笑むと枕元をごそごそと手で探り小さな木箱を取り出し開けた。
そこには水晶の勾玉の首飾りがあった。
「これを貴方にと思って作らせた。・・あ、しかし貴方は神だからつけてもらうことなど出来なかったか。ははは・・。」
実態のない十六夜丸にどうやってつけてもらおうというのだと厩戸皇子はそんな事にも気が付かなかった自分を笑った。
「これを・・私の為に・・?」
貢物など自分は貰ったこともない。
社のある大きな名のある神なら人々の神供を受けることもあるが十六夜丸は小さな自然の神であるが故、人々はその存在すら気が付かないのだ。
十六夜丸は胸がたまらなく熱くなりその目からは初めて涙が溢れて落ちた。
数多の人の死など今まで多く見てきたのにこんなにも胸が痛く苦しくなることはなかったのに、と十六夜丸は自らの手を皇子のその手に差し出した。
「・・受け取ろう。」
十六夜丸は自らの力で自らを具現化させた。
長くはもたないが、と思いつつその手は骨ばった皇子と首飾りを握りしめた。
「感謝に耐えない。」
皇子の目からも涙がこぼれた。
首飾りは肉体を具現化させた十六夜丸の首にしっかりかけられた。
「泣くでない・・私の大神よ・・輪廻転生、私魂はまたいつかこの斑鳩に帰る、それまでこの地を・・貴方の治める斑鳩を頼みます・・私は貴方のことを初めて見た時からずっと・・
厩戸皇子はそこで事切れた。
今夜も月が美しい夜だった。
「やあ・・久しぶりだね。」
聞き覚えのある声に少し苛立ちのため息を吐きながら十六夜丸は仕方なしに振り向き、そして驚いた。
「・・何だか変わったな。」
十六夜丸が開口一番そう言ったのも無理はない。
厩戸皇子は笑って言った。
「ああ、髭を生やしたからね。」
少年の面影を残した微笑みこそ変わらなかったが、髭を生やしたその風貌は数年が十数年会わなかったようだと十六夜丸は思った。
そんな皇子に十六夜丸は少しつっけんどんに、
「今更何しに来たんだ。」
と言った。
「そんな言い方はよしてくれ。前にも言ったが・・私はただ貴方に会いたかっただけなんだ。やっと私の斑鳩宮が完成してね、ようやく少し落ち着けそうなんだ。なんせこの三年、冠位十二階や十七條憲法の制定やらで忙しくてね、引っ越しさえなかなか出来なかったんだよ。」
厩戸皇子は肩をすくめて、それからホッとした顔を十六夜丸に見せた。
十六夜丸はやれやれと言わんばかりに、
「・・お前は休むことを知らない人間の様だからな。」
と言いつつ厩戸皇子にすぐそこの石に腰掛ける様に言うと座った皇子の頭上に手をかざした。
金色の細かな粒子が厩戸皇子に降り注ぐ。
最近ほとんど寝ることが出来ずに実は疲れ果てていた厩戸皇子は身体の重くどんよりした部分が爽快になっていくことを感じ、それを今、目の前の神が自分の為にしてくれていることに感動し十六夜丸を見つめた。
「ありがとう・・とてもよくなったよ。」
厩戸皇子が心から礼を言うと十六夜丸は、
「お前だけだ。今回は特別だ・・私のこの力はお前だけではなく此処に在るすべての土や草木、生きとし生ける物の為にあるのだからな。」
と大真面目な顔で言い、
「・・それに人を癒すのはとても疲れるのだ。」
と付け足した。
「そうか、それはすまなかった。それにしても誰かに癒されるというのがこれ程気持ちが良いものだとは思わなかったな、本当にありがとう。」
厩戸皇子の礼の言葉に十六夜丸は無言のまま厩戸皇子を見おろし、そして言った。
「もし・・また心浮かぬ時、此処に来たくば来ればいい。」
こうしてまた、厩戸皇子は時折十六夜丸に会いに来るようになった。
十六夜丸も仕方ないと言いつつも厩戸皇子の話を聞き、そのうち【人】が天皇を中心とした【国】を造ろうとしていることぐらいの知識は付いた。
そしてもう一つ。
この厩戸皇子が斑鳩の地に来てから見かけるようになった妙な姿をした者の正体が分かったのだ。
それはこの地のずっと先には海というものがあり、そのずっと先には別の地があり、そこにはまた別の【人】と【国】があるということ。
時々空を飛んでいるのはその【外の国】から迎えた【仏】や仏の護法神だということだった。
十六夜丸は自分達の土地によその国の神が入り込んで来たことにいい気はしなかったが、それらの者とは目を合わさぬよう自分の役目に集中した。
更に月日は経った。
月に一度は顔を見せにやって来た厩戸皇子がぱったりと来なくなった。
十六夜丸は何だかんだと文句を言いながらも年老いていく一人の人間を気にかけ身体の悪いところはその度に治していたので病ではないと信じていた。
三ヶ月も顔を見ないと十六夜丸はどうも気になって初めて厩戸皇子の住む斑鳩宮へ行くことにした。
深夜月灯りの下、斑鳩宮に近づくにつれ、空気が変わる。
東側に寺を持つ斑鳩宮。
その広い敷地の中を十六夜丸は厩戸皇子の気配を辿りながら彼の寝室へ着いた。
夜中にも関わらず厩戸皇子は目を覚まして十六夜丸を見た。
「厩戸!」
あまりにも瘦せこけ生気のない厩戸皇子の姿に十六夜丸は驚き駆け寄った。
「はは・・来てくれたんだね・・もう会えないと思っていた・・。」
「どうしたのだ、これは・・。」
「どうもこうも・・私もいい歳をした老人だ・・いつかは命の火も消える、ただそれだけだ。」
「そんな馬鹿な!」
千年も色々な生き物の生死を見てきた十六夜丸にはすぐ分かった。
これは自然な寿命ではないということが。
それを示すが如く、厩戸皇子の部屋は感じたこともない邪気で満ちていた。
その邪気は皇子の部屋から何処かへと続いていた。
十六夜丸はそれを追って部屋を出ようとすると皇子に呼び止められた。
「十六夜雷大神・・。」
消えそうなその声に十六夜丸の足が止まる。
「何も喋るな!今この邪気を何とかする!」
皇子はそんな十六夜丸に微笑むと枕元をごそごそと手で探り小さな木箱を取り出し開けた。
そこには水晶の勾玉の首飾りがあった。
「これを貴方にと思って作らせた。・・あ、しかし貴方は神だからつけてもらうことなど出来なかったか。ははは・・。」
実態のない十六夜丸にどうやってつけてもらおうというのだと厩戸皇子はそんな事にも気が付かなかった自分を笑った。
「これを・・私の為に・・?」
貢物など自分は貰ったこともない。
社のある大きな名のある神なら人々の神供を受けることもあるが十六夜丸は小さな自然の神であるが故、人々はその存在すら気が付かないのだ。
十六夜丸は胸がたまらなく熱くなりその目からは初めて涙が溢れて落ちた。
数多の人の死など今まで多く見てきたのにこんなにも胸が痛く苦しくなることはなかったのに、と十六夜丸は自らの手を皇子のその手に差し出した。
「・・受け取ろう。」
十六夜丸は自らの力で自らを具現化させた。
長くはもたないが、と思いつつその手は骨ばった皇子と首飾りを握りしめた。
「感謝に耐えない。」
皇子の目からも涙がこぼれた。
首飾りは肉体を具現化させた十六夜丸の首にしっかりかけられた。
「泣くでない・・私の大神よ・・輪廻転生、私魂はまたいつかこの斑鳩に帰る、それまでこの地を・・貴方の治める斑鳩を頼みます・・私は貴方のことを初めて見た時からずっと・・
厩戸皇子はそこで事切れた。