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247.千三百年前の出会い (蒼紫・斎藤・夢主・十六夜丸)
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聖徳太子・・いや、厩戸皇子はそれから何度かこの地にやって来た。
その度にシーンは飛ぶのだが、武尊はまるで映画を見ているように十六夜丸を見続けた。
「十六夜雷大神、今日もやって来たよ。だいぶ稲穂が膨らんだね。」
「十六夜雷大神、難波の方では大雨で稲の刈入れが遅れたがこちらは大丈夫のようだね、良かった。」
と、何度も厩戸皇子は十六夜丸の所を訪れた。
最初は自分と話が出来る人間が少し珍しいと思っていただけだったが、この頃祈りの最中に話しかけられると少し鬱陶しいと感じていた十六夜丸だったので、
「どうしてお前はこんなにも私の所へ来るのだ。用がないのなら来る必要はない。私も人間には用はない。」
と言った。
「用がなければ来てはいけないのかい。私はただ貴方に会いたいと思っているだけなんだがいけないか?」
本来ならばもっとちゃんとした言葉・・相手は神なのだから天皇以上に丁寧に話さなければいけないと思いつつもこの目に見える神が自分と同じくらいの歳の外見の故に親しみが湧きついこのように話しかけてしまうのだ。
宮中では絶対このような言葉は発することなどないのにと驚きながらもだ。
十六夜丸は、
「別に・・少しだけなら構わない・・。」
自分の口から出た言葉は実に心外だと十六夜丸自身が驚いた。
「そうか、良かった。」
と笑みを返されると十六夜丸は胸の中に僅かに沸き起こった今までに感じたことのない感情に戸惑いを感じた。
そしてその戸惑いを打ち消すように祈りを続けたのだった。
そのうち十六夜丸は厩戸皇子が来るのを待っているのではないかと武尊は思うぐらい十六夜丸の様子が変わってきたのが感じ取れた。
そしてある時やって来た厩戸皇子に十六夜丸の方から話しかけた。
「お前は本当に変わっている、よくも飽きもせず私に会いに来るんだな。人の命は短い、私に構わずお前のやるべき事をするべきだ。」
「確かに人の命は短い・・ははっ、実は最近とても忙しくてね。隋を見習い我が国でも天皇を基本とした律令国家をつくる為の算段がいろいろとあってね・・。だが貴方の所へ来るとその疲れも取れる気がするんだ。」
十六夜丸は少しだけ驚いた顔をした。
そして月を仰ぎおもむろに、
「・・私は月の光から生まれた神だ。お前が私の所へ来て疲れが取れるというならばそれはきっと月の癒しの力をお前が感じるからなんだろうな。」
と、言った。
そして、
「天皇とは、隋とは何だ。律令国家とは何だ。私は人の世に関わる気はないがお前がこの土地に住処を作ると言い出してからどうもこの辺りの【気】がおかしい。」
と続けた。
「資材を運ばせている人の往来も増えたからね。静かな貴方の土地を騒がしくしてすまない。」
「いや・・人の行き交うのが騒がしいというわけではない・・。」
と十六夜丸は難しい顔をした。
何だか嫌な予感というのか、小さな胸騒ぎがするというのか・・
そんな十六夜丸に厩戸皇子は、
「貴方はこうしてずっと一人なのか。」
と、突然聞いた。
意表を突いた質問に十六夜丸は、
「一人とか・・そんな事は考えた事もなかったな。此処の土神は私だけだしそれ故何処にも行くことはない。」
と答えると厩戸皇子は、
「そうか・・私は人で親もあり妻もあり親類もあり、恵まれた地位と部下を持ち、国造りという崇高な仕事に精を出し、日々忙しいながらも充実した毎日を送っている。だが貴方に会った時・・何というのか・・心の何処かにある隙間が満たされるというのか・・そんな感じがしたんだ。」
と言った。
生まれた時から政治的に気が休まることがなかった厩戸皇子の本音だった。
その言葉に十六夜丸は益々驚き困惑した。
人と話したのもこの男が初めてというのに、人の事情と心の隙間とやらの話をされてもよく分からなかったからだ。
厩戸皇子は十六夜丸のそんな顔を見て、
「貴方は孤独を感じたことはないのか。」
と言った。
「【孤独】?」
十六夜丸は聞き返した。
十六夜丸には【孤独】という言葉の意味すら全く見当がつかなかったからだ。
厩戸皇子は、
「すまない、貴方は神だから人の弱気心などというものを理解するのは難しかったか。つい貴方が私と同じような歳に見えるのも私が誰にも言えない心の内を語りたくなる原因なのかもしれないね。」
と、また微笑みながら言った。
十六夜丸はそう言われると元の顔つきに戻りフンっと少し鼻で笑い、
「お前と同じ歳だと?私は千年前からすでに此の世に在り一日欠かさず祈りを捧げている。お前は今は若く私と同じような齢に見えるかもしれないがすぐに歳を取り土に還るのだ。」
と言った。
厩戸皇子はそれを聞いて眉毛を八の字に下げ仕方なさそうに十六夜丸を見た。
「そうだね、だから私が死んだ後も世が乱れないように律令と仏教を政治に取り入れようとしているんだ。貴方や他の神々のお力だけでは今や国は守れない。」
「おい、私は私の守るべき土地この斑鳩が豊かで良き処であるようにするのが務めだ。人の治世の話に私を巻き込むな!まして他の神をもだ。」
人が何をしようとしているのか、何を目指しているのか。
十六夜丸には理解出来なかった。
ただこの数百年、人という生き物がこの土地にやって来て作物を植え、それらを食べ、穏やかに暮らして来たこの営みが失われていくような予感が十六夜丸の胸に湧き上がった。
「今日はもう帰れ・・祈りの邪魔だ。」
十六夜丸がそう言うと厩戸皇子はしばし沈黙した後静かに帰って行った。
それから数年、厩戸皇子が十六夜丸の元を訪れることはなかった。
その度にシーンは飛ぶのだが、武尊はまるで映画を見ているように十六夜丸を見続けた。
「十六夜雷大神、今日もやって来たよ。だいぶ稲穂が膨らんだね。」
「十六夜雷大神、難波の方では大雨で稲の刈入れが遅れたがこちらは大丈夫のようだね、良かった。」
と、何度も厩戸皇子は十六夜丸の所を訪れた。
最初は自分と話が出来る人間が少し珍しいと思っていただけだったが、この頃祈りの最中に話しかけられると少し鬱陶しいと感じていた十六夜丸だったので、
「どうしてお前はこんなにも私の所へ来るのだ。用がないのなら来る必要はない。私も人間には用はない。」
と言った。
「用がなければ来てはいけないのかい。私はただ貴方に会いたいと思っているだけなんだがいけないか?」
本来ならばもっとちゃんとした言葉・・相手は神なのだから天皇以上に丁寧に話さなければいけないと思いつつもこの目に見える神が自分と同じくらいの歳の外見の故に親しみが湧きついこのように話しかけてしまうのだ。
宮中では絶対このような言葉は発することなどないのにと驚きながらもだ。
十六夜丸は、
「別に・・少しだけなら構わない・・。」
自分の口から出た言葉は実に心外だと十六夜丸自身が驚いた。
「そうか、良かった。」
と笑みを返されると十六夜丸は胸の中に僅かに沸き起こった今までに感じたことのない感情に戸惑いを感じた。
そしてその戸惑いを打ち消すように祈りを続けたのだった。
そのうち十六夜丸は厩戸皇子が来るのを待っているのではないかと武尊は思うぐらい十六夜丸の様子が変わってきたのが感じ取れた。
そしてある時やって来た厩戸皇子に十六夜丸の方から話しかけた。
「お前は本当に変わっている、よくも飽きもせず私に会いに来るんだな。人の命は短い、私に構わずお前のやるべき事をするべきだ。」
「確かに人の命は短い・・ははっ、実は最近とても忙しくてね。隋を見習い我が国でも天皇を基本とした律令国家をつくる為の算段がいろいろとあってね・・。だが貴方の所へ来るとその疲れも取れる気がするんだ。」
十六夜丸は少しだけ驚いた顔をした。
そして月を仰ぎおもむろに、
「・・私は月の光から生まれた神だ。お前が私の所へ来て疲れが取れるというならばそれはきっと月の癒しの力をお前が感じるからなんだろうな。」
と、言った。
そして、
「天皇とは、隋とは何だ。律令国家とは何だ。私は人の世に関わる気はないがお前がこの土地に住処を作ると言い出してからどうもこの辺りの【気】がおかしい。」
と続けた。
「資材を運ばせている人の往来も増えたからね。静かな貴方の土地を騒がしくしてすまない。」
「いや・・人の行き交うのが騒がしいというわけではない・・。」
と十六夜丸は難しい顔をした。
何だか嫌な予感というのか、小さな胸騒ぎがするというのか・・
そんな十六夜丸に厩戸皇子は、
「貴方はこうしてずっと一人なのか。」
と、突然聞いた。
意表を突いた質問に十六夜丸は、
「一人とか・・そんな事は考えた事もなかったな。此処の土神は私だけだしそれ故何処にも行くことはない。」
と答えると厩戸皇子は、
「そうか・・私は人で親もあり妻もあり親類もあり、恵まれた地位と部下を持ち、国造りという崇高な仕事に精を出し、日々忙しいながらも充実した毎日を送っている。だが貴方に会った時・・何というのか・・心の何処かにある隙間が満たされるというのか・・そんな感じがしたんだ。」
と言った。
生まれた時から政治的に気が休まることがなかった厩戸皇子の本音だった。
その言葉に十六夜丸は益々驚き困惑した。
人と話したのもこの男が初めてというのに、人の事情と心の隙間とやらの話をされてもよく分からなかったからだ。
厩戸皇子は十六夜丸のそんな顔を見て、
「貴方は孤独を感じたことはないのか。」
と言った。
「【孤独】?」
十六夜丸は聞き返した。
十六夜丸には【孤独】という言葉の意味すら全く見当がつかなかったからだ。
厩戸皇子は、
「すまない、貴方は神だから人の弱気心などというものを理解するのは難しかったか。つい貴方が私と同じような歳に見えるのも私が誰にも言えない心の内を語りたくなる原因なのかもしれないね。」
と、また微笑みながら言った。
十六夜丸はそう言われると元の顔つきに戻りフンっと少し鼻で笑い、
「お前と同じ歳だと?私は千年前からすでに此の世に在り一日欠かさず祈りを捧げている。お前は今は若く私と同じような齢に見えるかもしれないがすぐに歳を取り土に還るのだ。」
と言った。
厩戸皇子はそれを聞いて眉毛を八の字に下げ仕方なさそうに十六夜丸を見た。
「そうだね、だから私が死んだ後も世が乱れないように律令と仏教を政治に取り入れようとしているんだ。貴方や他の神々のお力だけでは今や国は守れない。」
「おい、私は私の守るべき土地この斑鳩が豊かで良き処であるようにするのが務めだ。人の治世の話に私を巻き込むな!まして他の神をもだ。」
人が何をしようとしているのか、何を目指しているのか。
十六夜丸には理解出来なかった。
ただこの数百年、人という生き物がこの土地にやって来て作物を植え、それらを食べ、穏やかに暮らして来たこの営みが失われていくような予感が十六夜丸の胸に湧き上がった。
「今日はもう帰れ・・祈りの邪魔だ。」
十六夜丸がそう言うと厩戸皇子はしばし沈黙した後静かに帰って行った。
それから数年、厩戸皇子が十六夜丸の元を訪れることはなかった。