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245.契約違反 (斎藤・蒼紫・夢主・十六夜丸)
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「どうせそこらへんにいるんでしょ?」
武尊は十六夜丸に向かって話しかけた。
きっとまた見下すような目で見ているはずだ。
ならばこっちから見つけてやると武尊は目を閉じて深呼吸した。
そうして精神を、オーラを集中させて・・
再び目を開いた。
きっと賽の河原に自分が立っているのが見えるはずだと。
「!!!」
再び目を開けた武尊の視界に飛び込んだのは十六夜丸の紅い目だった。
その距離約10cmといったところだろうか。
「なっ!」
武尊は心臓が止まりそうなほど驚き、反射的に後ろへ下がろうとしたが十六夜丸の片手が武尊の髪を上からむんずと掴んだ。
「ちょっ!」
武尊はその手を払いのけようとしたが身体を動かすことが出来なかった。
十六夜丸の力の所為だからだろうか。
いつもだったらそのことをもっと考える余裕があったはずだった。
けれどもこの時余りにも十六夜丸の顔が怖かったのでついその眼を食い入るように見たのである。
十六夜丸といっても自分と同じ顔。
だがその顔は怒りの表情だった。
何が気に入らないのか武尊は分からなくて戸惑っていると十六夜丸が、
「この大馬鹿が!」
と一喝した。
物事には理という物がある。
それが人の世の事であってもなくても、だ。
十六夜丸と主の契約もまた然り。
通常身体を捧げることとなる依り代は薬を飲むとどうなるのかは知らされていない。
何故ならあの十六夜丸の力を人が自分の都合で好き放題に利用出来るのならばはっきり言って無敵だからだ。
幾千の敵を撃破し、味方の負傷者は治す。
そんな都合の良い力を人が持ってよいはずがない。
だから・・
依り代たる者が自分で十六夜丸に望みを命じた時、任務完了と共にその命の火をすべて十六夜丸に吸い取られるのである。
つまり、死を意味するのである。
その時の【命の気】というのはいわば花が満開に咲いた瞬間に喰らうというもので何より芳醇で逝ってしまうほどに十六夜丸にとって甘美なものであるのだ。
過去にも何度かそのような甘美の気を以て命を終わらせた女の気をすすってきた十六夜丸だったが武尊の気はただでさえ極上なもので十六夜丸としてはまだまだ喰らいたいものなのだ。
だから今回武尊がこのような事をしでかした所為で次にすする武尊の気が最後になることを考えると勝手なことをされたと非常に腹ただしいのだ。
そしてその一方で、武尊の最高に咲いた命の気はどれほどまでに甘美なのかと想像すると思わず喉がゴクリと鳴る。
喰らいたい・・
しかし今はその時ではない、武尊を生かしていればまだまだ美味い気をすする機会があるはずだった・・
そこへ十六夜丸も予測してないまさかの薬の自分飲み。
どれだけ十六夜丸は焦ったことだろう。
そして阿片の静脈注射によって引き起こされた急激な中毒症状に十六夜丸はパニック寸前だった。
刀や銃の肉体的損傷による傷ならば治すのは得ているが、急性阿片中毒による自律神経の暴走を何とか抑えようと今でも十六夜丸が頑張っているのだ。
そうでもなければ依り代の武尊の心肺が停止してしまう状況なのだ。
とてもじゃないが武尊に話しかける余裕などなかった。
そのお陰で武尊は十六夜丸が薬を飲んだにも関わらず何も起こらなくてぶつくさ言っていたのだが、それが武尊が望みを言わなかったという結果になったのは不幸中の幸いだと十六夜丸は思っている。
しかし武尊を怒鳴ったほどの憤りはただそれだけではなかった。
自分で薬を飲んだ時に得られる神がかった力の代償に自分の命の灯を全部吸われる、というのが依り代となった者のリスクであれば、契約が遂行されずに依り代が死んでしまった場合には十六夜丸にもリスクがある。
これは十六夜丸が今の姿となった時に定められたもう一つの契約。
そしてそれは十六夜丸の唯一の望みを絶たれることを意味する。
だから十六夜丸は強く感情を武尊にぶつけたのだ。