「蒼紫様！武尊さんがまだ中に！」



操はそう言いながら蒼紫に駆け寄った。


武尊さんを助けて、そう言いたかったがこの状況では望みは万に一つもないと操は呆然と立ち尽くした。


そして蒼紫も操の状況から絶望という二文字が目の前に降りて来た気がした。


あの時、回転剣舞で扉を破った時、何故心の引っかかりを確かめなかったのか。


きっと武尊は何らかの理由でまだ奥にいたのだ。



【何故あの時】



悔いても悔いても後の祭りである。


蒼紫は武尊を失った衝撃でただアジトの入り口を言葉なしにただ見るしかなかった。


吹き出した煙が白く夜空に舞い上がっていく。



「・・武尊。」



蒼紫の口が小さく動く。


まるで悪夢の再来だとただアジトの入り口を見ていると何か揺らぐものが見えた。


蒼紫も操もハッとしてそれに注目した。




煙の中からゆっくりと誰かが出て来る。




それは武尊を肩に担ぎ、片方で抜刀している斎藤だった。



「斎藤・・。」

「武尊さん！・・と、不良警官！」



予測できなかった二人の登場に蒼紫は言葉がなかったが気を取り直して一番の疑問を斎藤にぶつけた。。



「何故お前が此処にいる。」


「その言葉、そっくり返してやる。それに何故イタチ娘までいるんだ。」



蒼紫と斎藤のやり取りを横に操は武尊の名を呼びながら駆け寄ろうとした。



「近寄るな！」



近づく操に斎藤が怒鳴った。


操はいつもの嫌味な口調ではないきつい斎藤の口調にビクっと驚き足を止めた。



「な・・何よ！ただ心配してるだけなのに何であんたにそんな言われ方しなくちゃならないのよ！」


「五月蠅い。」



嫌味のかけらもない真面目な斎藤の言葉に操は何も言えなかった。


斎藤は蒼紫に視線を移し、



「武尊がこうなった理由を説明しろ。」



と言った。



「俺はお前に言われた九条の屋敷から馬車を追ってここに来た。中で武尊には会っていない。・・操、お前は何か知っているのか。」


「話せ、イタチ娘。知っていることを手短に分かるように、だ。」



蒼紫も斎藤と同感だった。


操は蒼紫からも自分を非難めいた視線を感じると思いつつ自分が捕まってここに連れてこられたこと、新型阿片で男達が死んでいったこと、突然現れた武尊によって助けられたことから今に至るまでの事を話した。



「と、いうわけなの。だから早く観柳の悪だくみの書類っていうのを探そうと思って・・。」



操は話の終わりの頃にはしゅんと首をうなだれながら話していた。


話を最後まで聞いてやっと斎藤が、



「阿呆が。この爆発を予想した武尊がお前を早く逃がそうとした偽りの話だと気づかなかったのか。もっとも気が付かないお前だからそのような嘘を言ったんだろうがな。」



と呆れて言った。



「だが・・。」



と喋り始めて斎藤は口をつぐんだ。


蒼紫もそこで口を挟んだ。



「操、お前はもういい。翁や皆も心配している。先に葵屋へ戻れ。」


「え？でも蒼紫様や武尊さんも一緒に・・。」


「斎藤は俺に話があるようだ。」


「私、終わるまで待ちます！」


「俺は戻れと言ったんだ。」



そう言った蒼紫の口調とこの場の空気に操は逆らえなかった。


本当は三人で一緒に帰りたいのに、と思いつつ操は小さく『はい・・』と頷くと葵屋へ向かって駆けだした。