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280.その後 (斎藤の場合)
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斎藤は狭い借家へ白狼を連れて帰ると傷に軟膏を塗ってやった。
「暫くこんなものは使っていないから遠慮するな。」
白狼は独特の臭いの軟膏に顔を背けながらも大人しくしていた。
「いい子だ。」
軟膏を塗り終え白狼の頭を撫でてやると、白狼は嬉しそうに鼻先を斎藤の手に押し当てた。
「大人しくしていろよ。」
斎藤はぐっと頭を抑えつける様に撫で終えると玄関土間に腰掛け、
「さて、どうするかな。」
と煙草に火を点けた。
恐らく・・であろうが、自分を助ける為に仲間と喧嘩をし、歩くのも不自由なくらいの怪我を負ったのを斎藤は放置してあの場を去る気にはなれなかったのだ。
(何故こいつが俺を助けたのかは分からんがな。)
斎藤はそう思いながら白狼をちらりと見た。
連れて帰って来る時は白狼の頭に自分の帽子を深く被せての抱っこだったので、通行人にすれ違いざまにチラチラ見られるぐらいで済んだが人里で狼の姿をあからさまに見せる訳にはいかない。
「とにかく、だ。明日俺が仕事から戻ってくるまでは大人しくしていろよ。」
と、斎藤は白狼に言ったところではたと気が付いた。
「お前にも名前がないと不便だな。」
艶のある白い毛だが純白とは違う少しクリームがかった白。
そこで斎藤は首から下げている首巻きが視界に入った。
それは以前武尊からもらったもの。
柔らかく、軽く、暖かく、大変重宝しているものだ。
その首巻きと同じ色。
斎藤は思わず、
「武尊。」
と呟いた。
すると目を閉じてじっとしていた白狼の耳がピクリと動き、目を開いて斎藤をじっと見た。
よく見れば白狼の目も武尊と同じく僅かに緑が入った独特の少し明るい茶色の目。
斎藤は武尊と目を合わせているような錯覚に陥った。
「はっ、まさかな。」
斎藤は驚いて細い目を少し大きくしたがそんな馬鹿なことはないと、
「お前はこれから『シロ』だ。そのままの名前で悪いがこの方が分かりやすいからな。」
と白狼に言った。
白狼の白は軽く頷くようなそぶりをしてまた目を閉じたのだった。
だが斎藤の本心は、
(悪いな、シロ。お前を『武尊』と呼ぶと俺の心がいつも武尊を追いかけてしまいそうになるからな。)
というものだった。
その後、怪我が治った『シロ』は斎藤により、狼の血が入った犬ということで扱われ、密偵犬として北海道時代の斎藤の仕事をよく手伝った。
(例えば人食い熊退治とか(普通の警官の被害も出たため、斎藤に何故か白羽の矢が立った)、遭難者捜索、麻薬捜査などなど。)
やがて斎藤が北海道を離れ、家族のもとに帰った時もシロを一緒に連れて帰り、シロは斎藤の家族と共に暮らした。
見た目から野犬などに間違われないようにと、時尾がシロに『フジタ シロ』と刺しゅうをした赤い布を首に巻いてやったりした。
おつかいが出来る利口な犬と近所ではちょっと有名な犬になったりもしたが、晩年、斎藤が自宅で息を引き取った同日に後を追うようにしてなくなったのだった。
2022/2/3
「暫くこんなものは使っていないから遠慮するな。」
白狼は独特の臭いの軟膏に顔を背けながらも大人しくしていた。
「いい子だ。」
軟膏を塗り終え白狼の頭を撫でてやると、白狼は嬉しそうに鼻先を斎藤の手に押し当てた。
「大人しくしていろよ。」
斎藤はぐっと頭を抑えつける様に撫で終えると玄関土間に腰掛け、
「さて、どうするかな。」
と煙草に火を点けた。
恐らく・・であろうが、自分を助ける為に仲間と喧嘩をし、歩くのも不自由なくらいの怪我を負ったのを斎藤は放置してあの場を去る気にはなれなかったのだ。
(何故こいつが俺を助けたのかは分からんがな。)
斎藤はそう思いながら白狼をちらりと見た。
連れて帰って来る時は白狼の頭に自分の帽子を深く被せての抱っこだったので、通行人にすれ違いざまにチラチラ見られるぐらいで済んだが人里で狼の姿をあからさまに見せる訳にはいかない。
「とにかく、だ。明日俺が仕事から戻ってくるまでは大人しくしていろよ。」
と、斎藤は白狼に言ったところではたと気が付いた。
「お前にも名前がないと不便だな。」
艶のある白い毛だが純白とは違う少しクリームがかった白。
そこで斎藤は首から下げている首巻きが視界に入った。
それは以前武尊からもらったもの。
柔らかく、軽く、暖かく、大変重宝しているものだ。
その首巻きと同じ色。
斎藤は思わず、
「武尊。」
と呟いた。
すると目を閉じてじっとしていた白狼の耳がピクリと動き、目を開いて斎藤をじっと見た。
よく見れば白狼の目も武尊と同じく僅かに緑が入った独特の少し明るい茶色の目。
斎藤は武尊と目を合わせているような錯覚に陥った。
「はっ、まさかな。」
斎藤は驚いて細い目を少し大きくしたがそんな馬鹿なことはないと、
「お前はこれから『シロ』だ。そのままの名前で悪いがこの方が分かりやすいからな。」
と白狼に言った。
白狼の白は軽く頷くようなそぶりをしてまた目を閉じたのだった。
だが斎藤の本心は、
(悪いな、シロ。お前を『武尊』と呼ぶと俺の心がいつも武尊を追いかけてしまいそうになるからな。)
というものだった。
その後、怪我が治った『シロ』は斎藤により、狼の血が入った犬ということで扱われ、密偵犬として北海道時代の斎藤の仕事をよく手伝った。
(例えば人食い熊退治とか(普通の警官の被害も出たため、斎藤に何故か白羽の矢が立った)、遭難者捜索、麻薬捜査などなど。)
やがて斎藤が北海道を離れ、家族のもとに帰った時もシロを一緒に連れて帰り、シロは斎藤の家族と共に暮らした。
見た目から野犬などに間違われないようにと、時尾がシロに『フジタ シロ』と刺しゅうをした赤い布を首に巻いてやったりした。
おつかいが出来る利口な犬と近所ではちょっと有名な犬になったりもしたが、晩年、斎藤が自宅で息を引き取った同日に後を追うようにしてなくなったのだった。
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