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280.その後 (斎藤の場合)
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=番外編・斎藤・北海道=
斎藤が武尊と京都で別れてから数年後の早春のこと・・
札幌から千歳空港方面へ向かう途中、島松沢という場所がある。
そこに島松駅逓所(えきていしょ)というものがある。
(現在ではクラーク博士が「Boys, be ambitious(青年よ、大志を懐け)」という名言を残したという有名な場所でもある。)
駅逓所とは宿泊と運送の便を図るため設置された北海道独自の施設で、明治6年(1873年)に開通した函館-札幌間の道路(札幌本道)沿いにいくつも設置され、開拓期の交通や運送において重要な役割を果たしたものである。
斎藤一・・こと、藤田五郎警部補はいつもの密命により、網走刑務所に服役中の某人物に接触したある人物を追っていた。
その人物がこの島松駅逓所で見かけたという情報を掴んで周辺を張っていたのだ。
理由はここでは詳しく述べないが、例によって社会のダニを斎藤は許さない。
その男は追われていることを察知し、深い所では腰まで残雪が残る原生林を必死で逃げていた。
が、斎藤は先回りし崖の上でその男を発見した。
斎藤と目を合わせた小悪党は慌てて向きを変え、逃げようとするが崖を飛び降りてきた斎藤にあっけなく切り捨てられた。
男はそのまま絶命したのだが、斎藤が着地した衝撃で雪崩が起こった。
「しまった。」
斎藤は思わず上を見あげると雪の塊が迫って来るのが見えた・・その瞬間、雪崩は斎藤を飲み込んでいった。
斎藤が意識を取り戻した時、すっかり雪の中である事が分かった。
巻き込まれた時にあがいたのが良かったのか、上半身の周りに少し空洞が出来ており窒息は免れたがそう長くはもたなさそうだった。
(こんなところで終わりか・・?)
下手に牙突零式を発動すれば更に雪崩が深まり僅かな空洞が崩れる。
そうなればもともこもない。
だがこうしていても死ぬのを待つだけならダメ元でやってみるかと思っていると、随分上の方が何やら騒がしい。
沢山の足音・・だがどうやら人間ではないらしい。
そう思っているとオオーンと遠吠えが雪の中にも聞こえてきた。
(狼か・・ここ数年エゾシカの大量死で餌となるものが少なくなってきているからな。さっき斬ったあの男の血の臭いでも嗅ぎつけたか。)
あの男は喰われたか?などと考えていると狼たちの足音が乱れ、まるで暴れまわっているような音になって来た。
唸り声まで聞こえる。
その時、何発か銃声がして足音は散乱し、辺りは静かになった。
だが少しすると、何やら上で引っ掻くような音がする。
(何だ?)
斎藤が不審に思っていると人の声がして・・斎藤は無事掘り出された。
「よかったべさ、警官さん。」
と、声をかけられた斎藤が辺りを見回すと村の男衆が数人いた。
「助かった。だがどうして俺が埋まっていると分かった。」
斎藤が不思議がって聞くと、男達は一斉に遠く離れたところに斎藤の帽子を咥え低く伏せている一匹の白い狼を見て口々に言った。
「ここんとこ鹿不足で馬が襲われることが多くてさ、狼の遠吠えが近くで聞こえたもんで退治せねばと思ってこっちさ来たら丁度ここで狼たちが争ってたで狙ってぶっ放したらあいつ以外みんな逃げちまってさ。」
「けどあいつだけ何でか逃げないで警官さんが埋まってた上を何か掘ってたんだべさ。」
「したっけ警官さんの帽子を掘り出して咥えてこっちさ見てぴょんぴょん跳ねてだもんでさ、ひょっとしたらと思って掘ったんだべ。」
「こんだら不思議なことはねぇべなぁ。」
斎藤がその話を聞きながら白狼を見ていた。
白狼は足や首元から血を滲ませていた。
(まさか俺を助ける為に仲間にやられたのか。)
斎藤は何故か興味が湧き、白狼の所に近づこうとした。
「警官さん!危ないべさ!」
「大丈夫だ。」
斎藤は数メートルにまで近づきしゃがんで言った。
「咥えているものをよこせ。」
斎藤が手を出すと白狼は伏せたまま、片足を引きずりながらも一歩、また一歩と近づいた。
「ひどくやられたな。」
斎藤はそう声をかけた。
近くで怪我を見て見ると白狼の傷はやはり噛み傷だった。
白狼は斎藤の前まで来ると耳を垂れて咥えていた帽子を置いた。
そしてすぐに方向を変えると数メートル先に移動し雪を掘り始めた。
動きを止め、斎藤を見てはまた掘っていく。
まるでここほれワンワンだ。
「おい、雪かき道具をかせ。」
斎藤は男達から雪かき道具を借りると狼が掘っている所に近づいた。
狼はここだここだとばかりに前足で雪をかいた。
「ちょっとどいてろ。」
斎藤がそこを掘ると雪崩で手放した刀があった。
「まさかな。」
斎藤がそう呟きながら刀を鞘に納めた。
斎藤が白狼の目をじっと見ると白狼も斎藤をじっと見つめた。
少し思案した斎藤は白狼に、
「そこを動くなよ。」
と言うと、ザッザッと白狼に近寄り、抱き上げた。
「旦那っ!噛まれっぺ!そいつぁ狼だべ!」
と男達は慌てた。
「こいつは怪我して歩くのも不自由だ。この怪我が俺の所為なら俺はこいつの手当ぐらいはしてやらないとな。な。」
最後の『な。』は狼に対しての念押しの言葉だ。
白狼は斎藤に抱き上げられても大人しくしていた。
そして斎藤の目を食い入るように見てペロリと頬を舐めた。
こらっ、と言いつつ斎藤が狼を見ると腹から下が見えた。
「雌かお前・・。」
斎藤が呟くと白狼はちょっとだけ首を傾げる動作をしてハッハッと息をした。
「まあいい。・・大人しくしておけよ。」
斎藤は自分の帽子を白狼の頭に被せると村の方に歩いて行ったのだ。
斎藤が武尊と京都で別れてから数年後の早春のこと・・
札幌から千歳空港方面へ向かう途中、島松沢という場所がある。
そこに島松駅逓所(えきていしょ)というものがある。
(現在ではクラーク博士が「Boys, be ambitious(青年よ、大志を懐け)」という名言を残したという有名な場所でもある。)
駅逓所とは宿泊と運送の便を図るため設置された北海道独自の施設で、明治6年(1873年)に開通した函館-札幌間の道路(札幌本道)沿いにいくつも設置され、開拓期の交通や運送において重要な役割を果たしたものである。
斎藤一・・こと、藤田五郎警部補はいつもの密命により、網走刑務所に服役中の某人物に接触したある人物を追っていた。
その人物がこの島松駅逓所で見かけたという情報を掴んで周辺を張っていたのだ。
理由はここでは詳しく述べないが、例によって社会のダニを斎藤は許さない。
その男は追われていることを察知し、深い所では腰まで残雪が残る原生林を必死で逃げていた。
が、斎藤は先回りし崖の上でその男を発見した。
斎藤と目を合わせた小悪党は慌てて向きを変え、逃げようとするが崖を飛び降りてきた斎藤にあっけなく切り捨てられた。
男はそのまま絶命したのだが、斎藤が着地した衝撃で雪崩が起こった。
「しまった。」
斎藤は思わず上を見あげると雪の塊が迫って来るのが見えた・・その瞬間、雪崩は斎藤を飲み込んでいった。
斎藤が意識を取り戻した時、すっかり雪の中である事が分かった。
巻き込まれた時にあがいたのが良かったのか、上半身の周りに少し空洞が出来ており窒息は免れたがそう長くはもたなさそうだった。
(こんなところで終わりか・・?)
下手に牙突零式を発動すれば更に雪崩が深まり僅かな空洞が崩れる。
そうなればもともこもない。
だがこうしていても死ぬのを待つだけならダメ元でやってみるかと思っていると、随分上の方が何やら騒がしい。
沢山の足音・・だがどうやら人間ではないらしい。
そう思っているとオオーンと遠吠えが雪の中にも聞こえてきた。
(狼か・・ここ数年エゾシカの大量死で餌となるものが少なくなってきているからな。さっき斬ったあの男の血の臭いでも嗅ぎつけたか。)
あの男は喰われたか?などと考えていると狼たちの足音が乱れ、まるで暴れまわっているような音になって来た。
唸り声まで聞こえる。
その時、何発か銃声がして足音は散乱し、辺りは静かになった。
だが少しすると、何やら上で引っ掻くような音がする。
(何だ?)
斎藤が不審に思っていると人の声がして・・斎藤は無事掘り出された。
「よかったべさ、警官さん。」
と、声をかけられた斎藤が辺りを見回すと村の男衆が数人いた。
「助かった。だがどうして俺が埋まっていると分かった。」
斎藤が不思議がって聞くと、男達は一斉に遠く離れたところに斎藤の帽子を咥え低く伏せている一匹の白い狼を見て口々に言った。
「ここんとこ鹿不足で馬が襲われることが多くてさ、狼の遠吠えが近くで聞こえたもんで退治せねばと思ってこっちさ来たら丁度ここで狼たちが争ってたで狙ってぶっ放したらあいつ以外みんな逃げちまってさ。」
「けどあいつだけ何でか逃げないで警官さんが埋まってた上を何か掘ってたんだべさ。」
「したっけ警官さんの帽子を掘り出して咥えてこっちさ見てぴょんぴょん跳ねてだもんでさ、ひょっとしたらと思って掘ったんだべ。」
「こんだら不思議なことはねぇべなぁ。」
斎藤がその話を聞きながら白狼を見ていた。
白狼は足や首元から血を滲ませていた。
(まさか俺を助ける為に仲間にやられたのか。)
斎藤は何故か興味が湧き、白狼の所に近づこうとした。
「警官さん!危ないべさ!」
「大丈夫だ。」
斎藤は数メートルにまで近づきしゃがんで言った。
「咥えているものをよこせ。」
斎藤が手を出すと白狼は伏せたまま、片足を引きずりながらも一歩、また一歩と近づいた。
「ひどくやられたな。」
斎藤はそう声をかけた。
近くで怪我を見て見ると白狼の傷はやはり噛み傷だった。
白狼は斎藤の前まで来ると耳を垂れて咥えていた帽子を置いた。
そしてすぐに方向を変えると数メートル先に移動し雪を掘り始めた。
動きを止め、斎藤を見てはまた掘っていく。
まるでここほれワンワンだ。
「おい、雪かき道具をかせ。」
斎藤は男達から雪かき道具を借りると狼が掘っている所に近づいた。
狼はここだここだとばかりに前足で雪をかいた。
「ちょっとどいてろ。」
斎藤がそこを掘ると雪崩で手放した刀があった。
「まさかな。」
斎藤がそう呟きながら刀を鞘に納めた。
斎藤が白狼の目をじっと見ると白狼も斎藤をじっと見つめた。
少し思案した斎藤は白狼に、
「そこを動くなよ。」
と言うと、ザッザッと白狼に近寄り、抱き上げた。
「旦那っ!噛まれっぺ!そいつぁ狼だべ!」
と男達は慌てた。
「こいつは怪我して歩くのも不自由だ。この怪我が俺の所為なら俺はこいつの手当ぐらいはしてやらないとな。な。」
最後の『な。』は狼に対しての念押しの言葉だ。
白狼は斎藤に抱き上げられても大人しくしていた。
そして斎藤の目を食い入るように見てペロリと頬を舐めた。
こらっ、と言いつつ斎藤が狼を見ると腹から下が見えた。
「雌かお前・・。」
斎藤が呟くと白狼はちょっとだけ首を傾げる動作をしてハッハッと息をした。
「まあいい。・・大人しくしておけよ。」
斎藤は自分の帽子を白狼の頭に被せると村の方に歩いて行ったのだ。