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278.その後(蒼紫の場合:前編)
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今年も残すところあと八日と数時間。
年越しを葵屋衆皆で揃って過ごす為には操を東京から連れ戻さなければならないがもう日にちの余裕はない。
蒼紫が武尊を比古の元へ送り届け、今までの夫婦は『ごっこ』だったと皆に話した後、翁は操を迎えに行くためにお近とお増を向かわせようと指示をしたのだが・・
「翁、これからお節や仕出しで黒と白だけでは手が足りぬであろう。操の迎えは俺が行く。」
と、蒼紫が言い出した。
「えっ。」
蒼紫の言葉に思わず声を漏らしたお近だったが、その瞬間蒼紫の視線を受けて押し黙った。
「なんだお近、言いたいことがあったら言え。」
蒼紫にそう言われ、恐る恐るお近は口を開いた。
「あの・・操ちゃんは蒼紫様の『夫婦宣言』にショックを受けて出て行ったわけで、その・・蒼紫様が迎えに行かれてもすねて逆に帰らないって意地を張られそうで・・。」
すかさず、翁が、
「ま、そうじゃの。お近の言う事も然もありなん、といったところかの。どうじゃ、蒼紫。」
とお近に助け船を出した。
「そうかもしれぬ。だが、俺が行かなくては意味がない。操にはちゃんと話す。」
蒼紫がそう言うと今度は翁が驚いて突っ込んだ。
「あ、蒼紫、話すって何をじゃ!」
翁の不安は他の四人も同時に思った事だった。
「・・俺が一方的に武尊を好きになって比古清十郎の処へ帰したくなかったから武尊の大事な荷を隠し、返して欲しくば、暫しの間、夫婦のふりをしろと強要した・・。という事をだ。」
そんなことをしたんですか蒼紫様・・それで武尊さんは(夜にあんなに)蒼紫様にやられっぱなしだったのか。
っと、何人そう思ったかは知らないが、黒、白、お近、お増の全員が蒼紫と武尊は二人で楽しく、本当に睦まじく過ごしていたのを実際見ていたので、どこまでが本当なのか考えあぐねていた。
そこで蒼紫が更に念を押す。
「操には、俺と武尊は同じ部屋で寝起きはしたが何もなかった、ということにしておく。いいな。そして武尊に振り向いてもらえなかった俺は諦めて武尊を帰した、ということだ。
確かにその筋書きなら一連の行動に矛盾はないと一同は納得し、蒼紫はすぐさま東京へ向けて出立した。
途中、夜の船上、蒼紫は武尊を東京に連れて行ったことを思い出さずにはいられなかった。
それはたった数ヶ月前のことだったと。
武尊との出会いが、まさかこのような運命になろうとはあの時は全く予想だにしなかったと。
御庭番衆でもない、まして、幕末敵であったかもしれない得体の知れない女にここまで心を奪われようとは。
自身に納得のいかないまま、武尊に『友』になろうと言い出した時にはすでに武尊に惹かれ始めていたのだろう・・と。
武尊の仕草、振り向きざまの視線。
低めだが通りが良い声・・名を呼ばれると胸の奥まで震わされる。
はにかむ笑顔。
涙もろいが真っ直ぐに心をぶつけてくる・・。
正直で、最後まで俺のことを心を砕いて想ってくれた。
武尊の事を思い返していて蒼紫はハッと気が付いた。
(もしや『夫婦ごっこ』をしようと言ったのは俺の心を守る為・・だったのか武尊。)
もし、あのまま武尊を己の肉人形としていれば、己の欲に囚われた修羅と成り果てていただろう。そうなれば今度こそ人の心は取り戻せなくなっていた・・と。今になってみればあの時どれ程自分が見えなくなっていたかが分かる。
(俺の方が守られていたとは・・何という女だ、武尊。・・今ほどお前をこの手で抱きしめたいと思ったことはない。)
だが今は冬の身を斬るような冷たい風が甲板を強く吹くのみ。
蒼紫の隣には求めた女はいなかった。
蒼紫は武尊がいた自分の左側に何もない空間をじっとみていた。
武尊の原因不明の体調の悪さは蒼紫の知識をもってしても全くその原因が分からなかった。
ただ、数多の命を奪った者の経験からすればそれは命が消えゆく前兆のような気配を感じた。
夫として妻の願いを叶えられない夫ではいたくない、そう思ったのは間違いない。
例えそれが自分の手の内から武尊がいなくなるということが分かっていても、だ。
だから武尊を山へ帰したことに後悔はない・・
再び黒き海原を向くと、「すべては終わったのだ。」と、小さく自分に言い聞かせていた。
そしてふと思った。
武尊と過ごした日々は『楽しかった。』と。
御庭番衆の御頭として自らを鍛え、部下と作戦を実行し成果を上げた達成感とは全く違う感情。
「ふっ、これが『楽しい』という感情か。非情の極みと言われたこの俺が、、『楽しい』など、、。この俺にもそんな感情があったのだな・・。」
蒼紫は自嘲気味に呟いたがそれは決して後味の悪い感情ではなかった。
今となっては武尊との一つ一つ思い出が苦しかったことも含めて愛おしく、そしてそれは思い返せば『楽しい』と感じる。
そしてふっと口元に笑みを浮かべた時、武尊と出会った最初の頃に武尊が言った言葉を思い出された。
『四乃森さんの笑顔好きだな。もっと笑っていられるといいのにね。』
(・・武尊、きっと今俺の心は満ち足りて笑みを浮かべている。心は凪のように穏やかだ・・何だろうな、不思議な気持ちだ。
武尊、感謝する。出会えて良かった。お陰で俺の人生は良いものだったと胸を張って言える。)
この想いは永遠に己の胸の内へ。
誰にも見せない、誰にも触れさせない。
そしてこれから俺はまた御庭番衆御頭としての四乃森蒼紫に戻るのだ。
一旦目を閉じて、そして再び開かれたその眼光はまさに一皮むけた四乃森蒼紫だったのだ。
年越しを葵屋衆皆で揃って過ごす為には操を東京から連れ戻さなければならないがもう日にちの余裕はない。
蒼紫が武尊を比古の元へ送り届け、今までの夫婦は『ごっこ』だったと皆に話した後、翁は操を迎えに行くためにお近とお増を向かわせようと指示をしたのだが・・
「翁、これからお節や仕出しで黒と白だけでは手が足りぬであろう。操の迎えは俺が行く。」
と、蒼紫が言い出した。
「えっ。」
蒼紫の言葉に思わず声を漏らしたお近だったが、その瞬間蒼紫の視線を受けて押し黙った。
「なんだお近、言いたいことがあったら言え。」
蒼紫にそう言われ、恐る恐るお近は口を開いた。
「あの・・操ちゃんは蒼紫様の『夫婦宣言』にショックを受けて出て行ったわけで、その・・蒼紫様が迎えに行かれてもすねて逆に帰らないって意地を張られそうで・・。」
すかさず、翁が、
「ま、そうじゃの。お近の言う事も然もありなん、といったところかの。どうじゃ、蒼紫。」
とお近に助け船を出した。
「そうかもしれぬ。だが、俺が行かなくては意味がない。操にはちゃんと話す。」
蒼紫がそう言うと今度は翁が驚いて突っ込んだ。
「あ、蒼紫、話すって何をじゃ!」
翁の不安は他の四人も同時に思った事だった。
「・・俺が一方的に武尊を好きになって比古清十郎の処へ帰したくなかったから武尊の大事な荷を隠し、返して欲しくば、暫しの間、夫婦のふりをしろと強要した・・。という事をだ。」
そんなことをしたんですか蒼紫様・・それで武尊さんは(夜にあんなに)蒼紫様にやられっぱなしだったのか。
っと、何人そう思ったかは知らないが、黒、白、お近、お増の全員が蒼紫と武尊は二人で楽しく、本当に睦まじく過ごしていたのを実際見ていたので、どこまでが本当なのか考えあぐねていた。
そこで蒼紫が更に念を押す。
「操には、俺と武尊は同じ部屋で寝起きはしたが何もなかった、ということにしておく。いいな。そして武尊に振り向いてもらえなかった俺は諦めて武尊を帰した、ということだ。
確かにその筋書きなら一連の行動に矛盾はないと一同は納得し、蒼紫はすぐさま東京へ向けて出立した。
途中、夜の船上、蒼紫は武尊を東京に連れて行ったことを思い出さずにはいられなかった。
それはたった数ヶ月前のことだったと。
武尊との出会いが、まさかこのような運命になろうとはあの時は全く予想だにしなかったと。
御庭番衆でもない、まして、幕末敵であったかもしれない得体の知れない女にここまで心を奪われようとは。
自身に納得のいかないまま、武尊に『友』になろうと言い出した時にはすでに武尊に惹かれ始めていたのだろう・・と。
武尊の仕草、振り向きざまの視線。
低めだが通りが良い声・・名を呼ばれると胸の奥まで震わされる。
はにかむ笑顔。
涙もろいが真っ直ぐに心をぶつけてくる・・。
正直で、最後まで俺のことを心を砕いて想ってくれた。
武尊の事を思い返していて蒼紫はハッと気が付いた。
(もしや『夫婦ごっこ』をしようと言ったのは俺の心を守る為・・だったのか武尊。)
もし、あのまま武尊を己の肉人形としていれば、己の欲に囚われた修羅と成り果てていただろう。そうなれば今度こそ人の心は取り戻せなくなっていた・・と。今になってみればあの時どれ程自分が見えなくなっていたかが分かる。
(俺の方が守られていたとは・・何という女だ、武尊。・・今ほどお前をこの手で抱きしめたいと思ったことはない。)
だが今は冬の身を斬るような冷たい風が甲板を強く吹くのみ。
蒼紫の隣には求めた女はいなかった。
蒼紫は武尊がいた自分の左側に何もない空間をじっとみていた。
武尊の原因不明の体調の悪さは蒼紫の知識をもってしても全くその原因が分からなかった。
ただ、数多の命を奪った者の経験からすればそれは命が消えゆく前兆のような気配を感じた。
夫として妻の願いを叶えられない夫ではいたくない、そう思ったのは間違いない。
例えそれが自分の手の内から武尊がいなくなるということが分かっていても、だ。
だから武尊を山へ帰したことに後悔はない・・
再び黒き海原を向くと、「すべては終わったのだ。」と、小さく自分に言い聞かせていた。
そしてふと思った。
武尊と過ごした日々は『楽しかった。』と。
御庭番衆の御頭として自らを鍛え、部下と作戦を実行し成果を上げた達成感とは全く違う感情。
「ふっ、これが『楽しい』という感情か。非情の極みと言われたこの俺が、、『楽しい』など、、。この俺にもそんな感情があったのだな・・。」
蒼紫は自嘲気味に呟いたがそれは決して後味の悪い感情ではなかった。
今となっては武尊との一つ一つ思い出が苦しかったことも含めて愛おしく、そしてそれは思い返せば『楽しい』と感じる。
そしてふっと口元に笑みを浮かべた時、武尊と出会った最初の頃に武尊が言った言葉を思い出された。
『四乃森さんの笑顔好きだな。もっと笑っていられるといいのにね。』
(・・武尊、きっと今俺の心は満ち足りて笑みを浮かべている。心は凪のように穏やかだ・・何だろうな、不思議な気持ちだ。
武尊、感謝する。出会えて良かった。お陰で俺の人生は良いものだったと胸を張って言える。)
この想いは永遠に己の胸の内へ。
誰にも見せない、誰にも触れさせない。
そしてこれから俺はまた御庭番衆御頭としての四乃森蒼紫に戻るのだ。
一旦目を閉じて、そして再び開かれたその眼光はまさに一皮むけた四乃森蒼紫だったのだ。