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275.辿り着いた答え (比古・夢主・十六夜丸)
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比古は自分の耳を疑った。
目を開いた武尊は確かに自分を愛していると全力で伝えてきた。
なのに口から出てきたのは初めて武尊と言葉を交わした時と同じ言葉。
(何故だ。)
寸前まで武尊の眼は生きていた。
死を願った眼ではなかった。
だが比古が深く考える前にその答えはすぐに分かった。
腕の中の武尊からにじみ出てきた禍々しい気。
真紅に変化していく眼。
感の良い比古は武尊に何が起こっているのか直ぐに分かった。
何故今そうなったかは分からないが。
「お前が十六夜丸か。武尊を返せ。」
比古の言葉に武尊は驚いた。
(どうして比古さんは今私が十六夜丸だって分かるの?!山を下りる前は私だって知らなかった名前なのに!)
十六夜丸も驚きはしたが、ニヤリと笑うと腰に回された比古の手を振りほどくように向きを変え、武尊のナップサックへ近づいた。
そしてこれから動くのにコートはじゃまだと脱ぐと刀袋を手に取った。
「・・俺の名前を知っていたことは驚きだ。だが名乗ったところで意味はない。俺がお今からお前を殺すからだ。」
十六夜丸は刀袋から斎藤の脇差を取り出し、更に鞘から刀を抜いてものの良さに嬉し気に頷いた。
「先程こいつは自分を殺してくれと言ったが果たして出来るかな。」
と、切っ先を比古に向けた。
比古は即答出来なかった。
分かるのは十六夜丸・・というのを斬れば傷つくのは武尊の身体だという事だ。
逆にどうすれば武尊を取り戻せるのか分からなかったからだ。
「・・こんなぼろ小屋だが壊されると修復が面倒なんでな。外でいいか。」
と、比古は表へ出た。
日は沈み、凍てつく空気が空から降りてくる。
十六夜丸は比古について後ろからついて行くが隙が全くない比古に感心した。
(ほぉ、これは狼以上に楽しめそうだ。)
そして十六夜丸は比古を殺した後のことを考えた。
(武尊の気を喰らった後、百年・・二百年・・・あるいは千年・・若しくは未来永劫、俺はこの京都の山奥で眠るのか・・。嗚呼、斑鳩は遠いな・・。)
十六夜丸は自身の気は飛ばせてもその実体は依り代がなければ自由に動けない。
蘇るには呪術を扱える人間と、人の不幸を省みず自分の欲を望むような魂の穢れた人間が必要なのだ。
が、元よりこんな山奥になど人など来ない。
己の未来も絶望。
少しだけ良い時代であったあのの遠い日を思い出していた。
帰れるものなら帰りたい。だが帰れない。
そこで十六夜丸はふと自分が取り付いている女に意識が向いた。
(こいつは帰って来た・・自分が一番戻りたい場所に・・)
十六夜丸にとって武尊はどちらかと言えばお気に入りの部類だった。
だが帰りたい所に帰って来た武尊と帰れない自分を比べた時、武尊に対し小さな憎しみの炎が沸き起こった。
それがあっという間に大きく広がる。
(殺す殺す殺す!こいつの目の前でこの男を肉の破片にしてやる!最初から殺すのは決定だが武尊が泣き叫んでやめてくれと言っても切り刻んでやる!)
自分と同じ絶望を味わえと十六夜丸は思った。