「ちょっと！」


案内すると言ったくせにサッサと、本当にサッサと行ってしまう蒼紫の後を武尊は追いかけた。



「私、泊るなんて言ってない！」



と後ろから武尊は蒼紫に向かって言った。


廊下の角を曲った蒼紫を武尊も追う。



「うっ・・ぷす！（Oops!）」



急ぎ足で歩いていた武尊は急ブレーキをかけた。


曲がったその先で蒼紫が立ち止まり武尊を振り返っていたからだ。


危く蒼紫にぶつかりそうになった武尊は蒼紫を見上げると蒼紫は少しきつい眼をして武尊を見ていた。



「ならば何故葵屋へ来た。荷を受け取るだけなら葵屋の前で立ち尽くす必要はなくさっさと中に入って来ればよかったはずだ。」


「そ、それは・・。」



蒼紫に尋ねられ武尊は言葉に詰まった。


本当は、聞いてもらいたい事、いや、蒼紫に言った方がいいのかどうか、それすらまだ悩んでいる最中だからだ。


蒼紫は、



「ともかく・・雨に打たれ心まで冷え切った身体では頭も回るまい、今日は余計な事を考えずに休んでいけ。」



と言った。



「・・はい。」



蒼紫の言うことは何一つ間違ってはいない。


武尊はイエスの返事をするしかなかった。


蒼紫は武尊の返事を聞いて少し歩くスピードを落として武尊の部屋へと向かった。


武尊は黙って後をついて行った。