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223.流れてきた死体 (操・斎藤・署長)
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「【吸血鬼】?首に噛み付いて血を吸う西洋の物の怪だと?・・フン・・馬鹿馬鹿しい。まさかこの御時勢に警官ともあろうものがそんなものを信じているわけじゃないだろう。」
京都の警察署へ寄っていた斎藤の耳に早くも鴨川の岸に引っかかっていた死体の噂が耳に入った。
「でも藤田警部補、話によればここんところに牙がグサッって刺さった痕があったらしいですよ。魑魅魍魎の世界も開国っていうわけですかね!」
斎藤の目の前で若い署長の副官は興奮しながら首の側面を押さえて説明した。
斎藤一・・つまり、藤田警部補・・の名前は京都の警察では一部でちょいと知られるようになっていた。
この夏、東京よりあの川路大警視の代わりに事件を指揮した敏腕警部補で、
伝説の英雄人斬り抜刀斎を探しだし、
彼と共に京都大火をもくろむ一味を見事捕らえた・・と、いうことになっているからだ。
むろんその真相は極秘だったのでそれを知る者はごくごく少数であるがそのぶん藤田警部補の名がカリスマじみているのだ。
その藤田警部補が再び京都にやって来たものだから、夏の事件を知っている副官はペラペラと【吸血鬼】に襲われた死体の事を得意気に話したのである。
むろん斎藤にとっては有難迷惑な話だが自分の用事が済むまではここに居ざるを得ないので、煙草をふかしながら適当に聞き流した。
「待たせたね、藤田君。君がわざわざ来るなんて、また大きな事件なのかね。」
署長が昼飯からようやく戻って来て斎藤の姿に目を丸くしながら椅子に座った。
「いえ・・それほどでもありませんよ。ただ・・。」
斎藤は『ただ、影宮という人物が京都に潜入したという情報が入ったのですが何か掴んでませんか。』と、言おうとしてやめた。
函館の警察にも内部に影宮の手下がいたのだ。
もしかしたらこの口の軽そうな副官が意外にもその人物であるという可能性はなきにしも在らずなのだ。
下手に刺激をして掴める情報を逃しては元も子もないと思ったからだ。
その代わりに、
「ただ・・最近京都の街で新型の阿片が出回ってという話はないですか。ある地域ではそれによって村が全滅するような事件が起きているのです。今回それを調査をするのが自分の任務です。」
と言った。
もとよりそのような任務などなく、それは影宮を悪即斬のもとに斬る為に函館署の署長の許可も得ないで北海道から来た斎藤のでっち上げだが幸い誰もそのような事を知る由もない。
「おお、そうだったのか。阿片の問題は非常にやっかいだからなぁ。・・おいっ、藤田君に茶でも出さんか!」
「はっ、はい!」
署長は気が利かないと副官にお茶を入れさせにやった。
「人払いしなければいけないことでも。」
斎藤は署長にさりげなく言った。
「まあ、それほどでもないんだが。実は直接阿片のことではないんだが最近妙な死体が数件あがっててな。君も聞かなかったか?【吸血鬼】の話を。」
「ええ、まあ。」
先程しっかり聞かされたばかりだと思いながら斎藤は返事をした。
署長は、うむ、と言いながら、
「この十日間ですでに四件、鴨川から死体があがっている。いずれも体のどこかに刺し傷があった。まあ、今回のように二つもついていたのは初めてだが他の傷はどれも同じような感じだった。」
「つまり、同じ凶器が使われたと?」
「可能性はある。だがそれ以上に気になることもある。それは誰もが左腕に入墨をしていてな、」
「つまり前科者ですか。」
「そうだ、そんな柄の悪い奴らばかりなんだがどうやらこの辺のものではないことは分かっている。何のためにここに来て何故あのような死に方をしたのか、まったく分からんのだ。」
「そうですか・・。」
斎藤はスーっと煙草の煙を吐きながら窓際まで歩くと眉間にしわを寄せて遠くを見つめた。
署長の話に斎藤は長年の勘というのであろうか、一つの仮説が即座に思いついたのだった。
「新型阿片がこの辺りにも出回っているとすれば、よそ者を捕まえてきてその効果を試している・・という事も考えられなくはない。」
斎藤はそう言った。
「なるほど、阿片絡みならばそういう事も考えられるな。」
署長はちょっとだけ自慢の顎鬚をちょろちょろとなでながら答えた。
斎藤は、
「そういう事で私はしばらく京都にいます、何か情報がありましたらよろしくお願いします。あ・・若しよろしければ例の物の怪に殺られたという死体を確認したいのですが発見されたというのはどの辺りでしょうか。」
と言った。
物の怪に殺られたとまで騒がれるような傷痕に興味が湧いたからだ。
「嗚呼、あれはあのまま騒がれるのはかなわんのでな、早々に回収して地下に置いてある。おい、藤田警部補を地下まで案内したまえ。」
丁度お茶を持って戻ってきたばかりの副官に署長は指示をした。
すると斎藤は、
「構いませんよ、勝手知ったるなんとかですから・・。」
と言いながらお茶に手を伸ばし飲み干した。
そして湯呑を副官の盆に返し部屋を後にしようとしたその時、署長が斎藤を呼び止めた。
「そうそう、この連続死体の件だが・・
不明な事が多すぎて警察の情報収集力だけでは対応できないと思ってな、表ざたには出来んがこの件、京都探索方に依頼をしたところだ。まだ返事はもらってないが藤田君も何か掴んだら是非こちらに一報を頼むよ。」
斎藤は一瞬耳を疑った。
「署長、今何と・・。」
出来れば京都で一番関わりたくない名前に斎藤は顔をしかめた。
「京都探索方の葵屋だよ、ほら藤田君もよく知っているだろ。彼等ほど京都の裏事情に詳しいのはおらんし・・そうだ、新型阿片の件もついでに聞いてみたらどうだ?」
署長は斎藤が内心どう思っているかなど分かるはずもなく、自分は中々良いことを言ったと丸い体を揺らしてはっはっはと笑った。
何が可笑しいと斎藤は腹の中で苦味を潰したが今は人前では体(てい)のよい藤田という警官なのでそこはぐっと堪えた。
「そうですね・・考えておきます。・・では。」
斎藤は一言も二言も言いたいことを我慢して地下へと向かったのだった。
2016.5.16
京都の警察署へ寄っていた斎藤の耳に早くも鴨川の岸に引っかかっていた死体の噂が耳に入った。
「でも藤田警部補、話によればここんところに牙がグサッって刺さった痕があったらしいですよ。魑魅魍魎の世界も開国っていうわけですかね!」
斎藤の目の前で若い署長の副官は興奮しながら首の側面を押さえて説明した。
斎藤一・・つまり、藤田警部補・・の名前は京都の警察では一部でちょいと知られるようになっていた。
この夏、東京よりあの川路大警視の代わりに事件を指揮した敏腕警部補で、
伝説の英雄人斬り抜刀斎を探しだし、
彼と共に京都大火をもくろむ一味を見事捕らえた・・と、いうことになっているからだ。
むろんその真相は極秘だったのでそれを知る者はごくごく少数であるがそのぶん藤田警部補の名がカリスマじみているのだ。
その藤田警部補が再び京都にやって来たものだから、夏の事件を知っている副官はペラペラと【吸血鬼】に襲われた死体の事を得意気に話したのである。
むろん斎藤にとっては有難迷惑な話だが自分の用事が済むまではここに居ざるを得ないので、煙草をふかしながら適当に聞き流した。
「待たせたね、藤田君。君がわざわざ来るなんて、また大きな事件なのかね。」
署長が昼飯からようやく戻って来て斎藤の姿に目を丸くしながら椅子に座った。
「いえ・・それほどでもありませんよ。ただ・・。」
斎藤は『ただ、影宮という人物が京都に潜入したという情報が入ったのですが何か掴んでませんか。』と、言おうとしてやめた。
函館の警察にも内部に影宮の手下がいたのだ。
もしかしたらこの口の軽そうな副官が意外にもその人物であるという可能性はなきにしも在らずなのだ。
下手に刺激をして掴める情報を逃しては元も子もないと思ったからだ。
その代わりに、
「ただ・・最近京都の街で新型の阿片が出回ってという話はないですか。ある地域ではそれによって村が全滅するような事件が起きているのです。今回それを調査をするのが自分の任務です。」
と言った。
もとよりそのような任務などなく、それは影宮を悪即斬のもとに斬る為に函館署の署長の許可も得ないで北海道から来た斎藤のでっち上げだが幸い誰もそのような事を知る由もない。
「おお、そうだったのか。阿片の問題は非常にやっかいだからなぁ。・・おいっ、藤田君に茶でも出さんか!」
「はっ、はい!」
署長は気が利かないと副官にお茶を入れさせにやった。
「人払いしなければいけないことでも。」
斎藤は署長にさりげなく言った。
「まあ、それほどでもないんだが。実は直接阿片のことではないんだが最近妙な死体が数件あがっててな。君も聞かなかったか?【吸血鬼】の話を。」
「ええ、まあ。」
先程しっかり聞かされたばかりだと思いながら斎藤は返事をした。
署長は、うむ、と言いながら、
「この十日間ですでに四件、鴨川から死体があがっている。いずれも体のどこかに刺し傷があった。まあ、今回のように二つもついていたのは初めてだが他の傷はどれも同じような感じだった。」
「つまり、同じ凶器が使われたと?」
「可能性はある。だがそれ以上に気になることもある。それは誰もが左腕に入墨をしていてな、」
「つまり前科者ですか。」
「そうだ、そんな柄の悪い奴らばかりなんだがどうやらこの辺のものではないことは分かっている。何のためにここに来て何故あのような死に方をしたのか、まったく分からんのだ。」
「そうですか・・。」
斎藤はスーっと煙草の煙を吐きながら窓際まで歩くと眉間にしわを寄せて遠くを見つめた。
署長の話に斎藤は長年の勘というのであろうか、一つの仮説が即座に思いついたのだった。
「新型阿片がこの辺りにも出回っているとすれば、よそ者を捕まえてきてその効果を試している・・という事も考えられなくはない。」
斎藤はそう言った。
「なるほど、阿片絡みならばそういう事も考えられるな。」
署長はちょっとだけ自慢の顎鬚をちょろちょろとなでながら答えた。
斎藤は、
「そういう事で私はしばらく京都にいます、何か情報がありましたらよろしくお願いします。あ・・若しよろしければ例の物の怪に殺られたという死体を確認したいのですが発見されたというのはどの辺りでしょうか。」
と言った。
物の怪に殺られたとまで騒がれるような傷痕に興味が湧いたからだ。
「嗚呼、あれはあのまま騒がれるのはかなわんのでな、早々に回収して地下に置いてある。おい、藤田警部補を地下まで案内したまえ。」
丁度お茶を持って戻ってきたばかりの副官に署長は指示をした。
すると斎藤は、
「構いませんよ、勝手知ったるなんとかですから・・。」
と言いながらお茶に手を伸ばし飲み干した。
そして湯呑を副官の盆に返し部屋を後にしようとしたその時、署長が斎藤を呼び止めた。
「そうそう、この連続死体の件だが・・
不明な事が多すぎて警察の情報収集力だけでは対応できないと思ってな、表ざたには出来んがこの件、京都探索方に依頼をしたところだ。まだ返事はもらってないが藤田君も何か掴んだら是非こちらに一報を頼むよ。」
斎藤は一瞬耳を疑った。
「署長、今何と・・。」
出来れば京都で一番関わりたくない名前に斎藤は顔をしかめた。
「京都探索方の葵屋だよ、ほら藤田君もよく知っているだろ。彼等ほど京都の裏事情に詳しいのはおらんし・・そうだ、新型阿片の件もついでに聞いてみたらどうだ?」
署長は斎藤が内心どう思っているかなど分かるはずもなく、自分は中々良いことを言ったと丸い体を揺らしてはっはっはと笑った。
何が可笑しいと斎藤は腹の中で苦味を潰したが今は人前では体(てい)のよい藤田という警官なのでそこはぐっと堪えた。
「そうですね・・考えておきます。・・では。」
斎藤は一言も二言も言いたいことを我慢して地下へと向かったのだった。
2016.5.16