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221.黒と白の想い (葵屋の面々・翁・蒼紫)
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深夜、町内の寄合に顔を出していた翁が帰って来た。
胸の内がもやもやするので何となく蒼紫の部屋の方を見ると薄ぼんやり明るいのが確認出来た。
「・・やれやれじゃ。」
翁はため息と共に蒼紫の部屋の前まで歩むとすぐに、
「翁か、用事があるならさっさと入れ。」
と蒼紫の声がした。
「心配して様子を見に来たのに何ともな言われようじゃのぅ。」
翁はそう言いながら障子を開けるとそこには巻物を広げる蒼紫の姿があった。
蒼紫は翁が入ってきても一向に構うことなく読み続けいた。
そんな蒼紫を翁は横目で見ながらおもむろに、
「土岐君が見えんようじゃがどうした。あれだけ慌てて東京へ向かったんじゃ、何もなしにそのように落ち着いているお前ではあるまい。・・それとも土岐君の事を諦めたのかの。」
「俺は諦めたと一言も言ってないぞ。」
「ふーむ。」
土岐の名を出した途端に即答かと、翁は顎ひげを数度引っ張った。
すると今度は蒼紫が翁に言った。
「武尊は必ず近いうちに葵屋へ来るはずだ。俺がいない間に武尊が来たら必ず引き留めておいてくれ・・いや、『武尊の荷はすべて俺が預かっている』と伝えるだけでいい。」
「ぬ?」
読めぬ状況に翁は驚いた。
「土岐君の荷物をお前がか?・・まあ、よいわ。お前の口から聞くより土岐君の口から聞いた方が何やら事の流れが分かりやすい気がするわい。で、お前はどうするんじゃ?」
「明日からまたしばらく禅寺へ通う。」
「ふむ。」
そう言って翁はまた顎ひげをくるくるといじった。
いじりながら蒼紫の心境を推し量ろうとしていいると蒼紫から、
「翁、朝までにその白粉の匂いを落としておけ、またお増に怒られるぞ。寄合いだと理由づけてまた芸者に絡んできたのだろう、いい加減にしておけ。」
と不意打ちを食らった。
確かに寄り合いでは酒も飲んだし芸子も呼んだ。
そして調子に乗って蒼紫の察する以上に芸子の尻を追いかけまわしてきたばかりの翁としては何度か咳払いをするしかなかった。
「ゴホン、あー、ゴホン、ゴホン・・これは儂の若さの源じゃ、言わば必要不可欠・・
「別に俺は翁の個人的趣味をどうのと言うつもりはない。」
翁は苦しい言い訳をスパッと終了され言葉を失った。
そして悔し紛れと苦し紛れに、
「お前に言うのも今更じゃが、たまには儂みたいに息抜きでもせんか。お前ならどのような女子(おなご)も選り取り見取りじゃろうが。」
「世迷いごとも大概にしろ。俺が必要以上に女と話すのは好まぬ事ぐらい翁も承知のはず。」
「じゃがのぅ、、。」
まだ何か言いたそうな翁に蒼紫は、
「ふっ、未だ女の尻を追いかけまわすその姿、右近に見せてやりたいものだ。」
と呆れ半分フッと笑った。
「何と!蒼紫、今何と言った!」
もう十年以上会っていない同胞笹川右近。
互いに先代御頭の片腕となり御庭番衆を率いた頃からのライバル。
蒼紫が御頭を継いでから東の翁、西の翁と別れていたが、その東の翁の名を蒼紫が今言ったのだ、ほろ酔い気分も一気に醒めた。
「右近だ、もはや忘れたわけではないだろう。」
「会ったのか、右近に。右近は確か会津のはずじゃが・・もしや会津まで行ったのか!」
「声が大きいぞ翁、少し寄っただけだ。ただ右近が翁によろしくと申し伝えるように言っていた事、確かに伝えたからな。」
「蒼紫。」
「話はここまでだ、急ぎの用でなければ明日にしてくれ。」
蒼紫はそう言いながら巻物を先へと進めた。
「帰った早々何を調べとるんじゃ・・。」
お前の方こそ明日にすればいいではないかと翁が覗きこむと、そこには家系図らしきものが描いてあった。
「何じゃこれは。」
翁が驚くのも無理はない。
「摂家の家系図だ。」
京都探索方として収拾された資料は幾つかの蔵に分散して保管してある。
そこにあるものは世間の記録とは違い裏の情報まで書いてある。
蒼紫はその中から一巻拝借していたのだ。
「んん?」
翁にはまったく蒼紫が何をしようとしているのか見当もつかない。
「大したことではない、少し確認したいだけだ。」
障子の音が開いて閉まる。
蒼紫の言葉に翁は黙って部屋を出た。
吐いた白い息がはっきり見えるほどの明るい月明かりにに翁は夜空を見上げた。
「先程までの雲は何処ぞ。月は十六夜、こりゃ今夜も冷えるのぅ。厠へ行ってさっさと寝るとするか。」
2016.4.28
胸の内がもやもやするので何となく蒼紫の部屋の方を見ると薄ぼんやり明るいのが確認出来た。
「・・やれやれじゃ。」
翁はため息と共に蒼紫の部屋の前まで歩むとすぐに、
「翁か、用事があるならさっさと入れ。」
と蒼紫の声がした。
「心配して様子を見に来たのに何ともな言われようじゃのぅ。」
翁はそう言いながら障子を開けるとそこには巻物を広げる蒼紫の姿があった。
蒼紫は翁が入ってきても一向に構うことなく読み続けいた。
そんな蒼紫を翁は横目で見ながらおもむろに、
「土岐君が見えんようじゃがどうした。あれだけ慌てて東京へ向かったんじゃ、何もなしにそのように落ち着いているお前ではあるまい。・・それとも土岐君の事を諦めたのかの。」
「俺は諦めたと一言も言ってないぞ。」
「ふーむ。」
土岐の名を出した途端に即答かと、翁は顎ひげを数度引っ張った。
すると今度は蒼紫が翁に言った。
「武尊は必ず近いうちに葵屋へ来るはずだ。俺がいない間に武尊が来たら必ず引き留めておいてくれ・・いや、『武尊の荷はすべて俺が預かっている』と伝えるだけでいい。」
「ぬ?」
読めぬ状況に翁は驚いた。
「土岐君の荷物をお前がか?・・まあ、よいわ。お前の口から聞くより土岐君の口から聞いた方が何やら事の流れが分かりやすい気がするわい。で、お前はどうするんじゃ?」
「明日からまたしばらく禅寺へ通う。」
「ふむ。」
そう言って翁はまた顎ひげをくるくるといじった。
いじりながら蒼紫の心境を推し量ろうとしていいると蒼紫から、
「翁、朝までにその白粉の匂いを落としておけ、またお増に怒られるぞ。寄合いだと理由づけてまた芸者に絡んできたのだろう、いい加減にしておけ。」
と不意打ちを食らった。
確かに寄り合いでは酒も飲んだし芸子も呼んだ。
そして調子に乗って蒼紫の察する以上に芸子の尻を追いかけまわしてきたばかりの翁としては何度か咳払いをするしかなかった。
「ゴホン、あー、ゴホン、ゴホン・・これは儂の若さの源じゃ、言わば必要不可欠・・
「別に俺は翁の個人的趣味をどうのと言うつもりはない。」
翁は苦しい言い訳をスパッと終了され言葉を失った。
そして悔し紛れと苦し紛れに、
「お前に言うのも今更じゃが、たまには儂みたいに息抜きでもせんか。お前ならどのような女子(おなご)も選り取り見取りじゃろうが。」
「世迷いごとも大概にしろ。俺が必要以上に女と話すのは好まぬ事ぐらい翁も承知のはず。」
「じゃがのぅ、、。」
まだ何か言いたそうな翁に蒼紫は、
「ふっ、未だ女の尻を追いかけまわすその姿、右近に見せてやりたいものだ。」
と呆れ半分フッと笑った。
「何と!蒼紫、今何と言った!」
もう十年以上会っていない同胞笹川右近。
互いに先代御頭の片腕となり御庭番衆を率いた頃からのライバル。
蒼紫が御頭を継いでから東の翁、西の翁と別れていたが、その東の翁の名を蒼紫が今言ったのだ、ほろ酔い気分も一気に醒めた。
「右近だ、もはや忘れたわけではないだろう。」
「会ったのか、右近に。右近は確か会津のはずじゃが・・もしや会津まで行ったのか!」
「声が大きいぞ翁、少し寄っただけだ。ただ右近が翁によろしくと申し伝えるように言っていた事、確かに伝えたからな。」
「蒼紫。」
「話はここまでだ、急ぎの用でなければ明日にしてくれ。」
蒼紫はそう言いながら巻物を先へと進めた。
「帰った早々何を調べとるんじゃ・・。」
お前の方こそ明日にすればいいではないかと翁が覗きこむと、そこには家系図らしきものが描いてあった。
「何じゃこれは。」
翁が驚くのも無理はない。
「摂家の家系図だ。」
京都探索方として収拾された資料は幾つかの蔵に分散して保管してある。
そこにあるものは世間の記録とは違い裏の情報まで書いてある。
蒼紫はその中から一巻拝借していたのだ。
「んん?」
翁にはまったく蒼紫が何をしようとしているのか見当もつかない。
「大したことではない、少し確認したいだけだ。」
障子の音が開いて閉まる。
蒼紫の言葉に翁は黙って部屋を出た。
吐いた白い息がはっきり見えるほどの明るい月明かりにに翁は夜空を見上げた。
「先程までの雲は何処ぞ。月は十六夜、こりゃ今夜も冷えるのぅ。厠へ行ってさっさと寝るとするか。」
2016.4.28