白黒のその写真に写るその娘は明らかに異人そのものであった。


武尊自身は似ていないと言っていたその顔を斎藤は注視した。


明らかに異人の顔をしているが一つ一つのパーツをじっと見れば確かに目元や口元が似ている所があるように斎藤は感じた。


けれどもこの程度のことは取りようによってはどうとも取れると斎藤は思った。



「俺にもさほど似ているようには思えんが。」



一応そう言いつつ斎藤は写真をマーティンに返した。



「ソウカモシレナイ、ダガソレデモ　コノジンセイノオワリトナロウコノタビニオイテハ　カノジョトノ　デアイガ　マサニ　カミカラノ　オクリモノダッタノダ。モハヤ　オモイノコスコトハナイ。」


「そうか。」



斎藤はそう言うと歩き出した。



「ドコヘイク、フジタ。」


「水をもらおうと思ってな。もらえる場所を探しに行く所だ。」


「ソレナラ　ココヲ　マッスグイキ　ヨッツメノ　ドビラカラ　シタヘ　オリルトイイ。【 ヴァダー 】ト　イエバ　ワカルハズダ。」


「それはどうも、ご協力感謝する。」






斎藤は歩きながら、



『素直なお礼じゃない！』



と言って怒る武尊の顔がフッと浮かんだ。



「素直になれずに悪かったな。」



と一人ぼやきながら斎藤は歩き進んだ。








ここは甲板の上、静かなはずなのに斎藤の耳に豚の鳴き声のようなものが聞こえてきた。


一瞬耳を疑ったがすぐさま同じ鳴き声が斎藤の耳に届いた。



（何だ？食糧の豚か？それにしても甲板近くに豚なぞしまっておく部屋なんかがあるのか？）



丁度斎藤の行く経路上にあるその声の発生源である部屋のカーテンから灯りが漏れている。




斎藤がその隙間から中を覗き見ると驚いた事に豚のような声をあげていたのはあのオンナスキーだった。


しかも裸で四つ這いになっている。


傍らには革のベルトで出来た、だが裸同然の妙な衣装を着けた彼の妻が尖った踵の高い靴でオンナスキーの尻を踏みつけていた。


そして何か叫びつつ手に持っていたムチでオンナスキーをビシャリと叩くとオンナスキーは例の豚のような声をあげるのだった。



「・・・。」



つまらん物を見たと斎藤はその場を立ち去った。


そして食事の時のナターシャの顔を思い出した。


斎藤は、



（あの女、武尊の傷を見て俺が虐待好きだと勘違いしたな。まったくの誤解だ、阿呆が。）



と鼻で笑った。