「まだ何か。」



観柳はずれてきた眼鏡を片手で持ち上げながら不機嫌な目で武尊を見た。


武尊は今しか操を助ける機会はないと、



「だがまだ薬の効果は安定してないんだろう？折角楽しい計画をしているのに失敗してしまっては面白くないじゃないか。だから先に私で試せば？」



余裕しゃくしゃくな顔を作り観柳に言った。




一瞬部屋に沈黙が流れた。




観柳は信じられないとばかりに目を見張り、



「は？貴方が？代わりに？薬の効果が安定しないということは死ぬかもしれないということを分かってますか？それともこの小娘を助けたいと自らを省みない美しい友情ですか？」



と武尊を馬鹿にした表情でそう言った。


武尊は、



「いや、そんな美しいものなんかじゃないね。武田さん、先ほどの貴方の言葉から察するに貴方は御庭番衆に恨みがある・・違いますか？」



と言った。


注射の相手を操から自分に向かせる大一番の芝居を武尊は今思いついたのだった。



「恨み・・ねぇ。彼らには失望しましたよ。以前彼らを雇っていたのですがね、自分達は最強だのとほざく割には全く役立たずで。特に御頭の四乃森蒼紫という男は・・


「そう、特に四乃森蒼紫という男は最低な男。」



観柳は自分の言葉を遮って聞こえた武尊の言葉に驚いた。


操も自分の耳を疑うほど驚いたが、また余計なことを言うと観柳に靴で顔を蹴られるので萎縮して何も言えずに武尊を見上げていた。


武尊は言葉を続けた。



「だから武田さん、四乃森蒼紫に一泡吹かせたいんだったら確実性を求める為にもまず私で薬を試した方がいいんじゃない？」



最後に意味深な目で観柳を見た武尊に観柳は少したじろいだ。



「何故だ！お前は自分を実験台にするんだぞ！分かっているのか？何故そんなことが言えるんだ！」


「何故って・・それは四乃森蒼紫に恨みがあるからに決まってるじゃない。それを武田さんが晴らしてくれるなら私の命ぐらい引き換えにしてもいいわ。」



いつの間にか女言葉に戻して武尊はちょっとお色気モードにしながら観柳を見た。（こんな言い方をする自分がものすごく恥ずかしいと思いながら）



「何故かって・・それは私の顔にこの傷をつけて台無しにしたのが四乃森蒼紫だから。四乃森蒼紫は強い。私では歯が立たない。それを武田さんの策でうまくやってよ。幸い四乃森は今京都にいる。復習するにはいい機会よ、どう？」



操は武尊の顔の傷が蒼紫によるものだと知って愕然とし、ショックで何も言えなかった。




観柳は抜刀斉と同じくらい憎い蒼紫が京都にいると知って気が高ぶり手と声が震えていた。



「ま・・あ・・貴方がそう言うならいいでしょう。貴方から実験台になってもらいましょうか。それにまさかそんな恰好をして女だったとはね。」



観柳は研究者に操の腕に注射をいつでも打てる体制を取らせておいて武尊に近づきグルグルと周り武尊を観察した。


最後に武尊の顔を覗き込んでよく見れば武尊の整った顔立ちと美しい肌に息をのみ鼻息を荒くした。


武尊はそれがおかしくて内心笑いながら、



「うまく私を薬漬けに出来たら好きにすればいいでしょ。その代わり四乃森蒼紫への復讐、必ず果たしてくださいよ。」



と言い黒い笑みを観柳に向けたのだった。