「こんな小娘が御庭番衆ですか。まあ御庭番衆と言っても結局は負け犬、大道芸人や化け物ばかりでしたからね。」



観柳は操のすぐそばまで来て四角い眼鏡の向こうから軽蔑するように見下した。


操は観柳の顔を見てギョッとした。


陥没した頬に、ずれたアゴ、折れた歯のところには金の差し歯。


そう、観柳は死なずとも剣心の一撃で重症を負ったのだった。


そして砕かれた頬骨とアゴは元のようには戻らなかったのだ。


本人曰く、自称美青年が抜刀斉の所為で二度と街中を歩けない顔にされてしまった恨みは恐ろしく深い。



「失礼な。そんなに驚いた顔をしなくとも・・人を見た目で判断するのは良くないと、そんな簡単なことも教えないのですか？・・・四乃森蒼紫は。」



蒼紫の名前を聞いて操はハッと思い出した。


以前薫から聞いた蒼紫の話・・つまり蒼紫と般若達の最後の事を。


そこで出て来た名前が武田観柳。



『あんた・・もしかして武田観柳？！』



と言ったつもりが猿ぐつわの所為でごにょごにょとしか聞こえない。


操の怒りに満ちた目に観柳は薄い笑みを浮かべ、側の男に操の猿ぐつわを外させた。


操は間髪入れず、



「あんたが武田観柳ね！般若君たちを殺した！！」



と食いつくように言った。


観柳はそれが嬉しくて、



「あの屑どもをガトリングガンで撃ち殺したのは、そう、私。この観柳様だ。御頭から聞いたのかな、私の武勇伝を。」



と自慢気に言った。



「武勇伝なんて馬鹿じゃないの！蒼紫様がそんな話私にするわけなんかないじゃない！この人殺し！」



操は観柳をにらみつけてそう言った。



「たった四人殺しただけでそんな言われ方をするなんて心外ですよ、本当に。いや、彼らが勝手に弾の前に飛び出してきたんですから私に非はありませんよ。それより御頭が今まで何人殺したか・・あなたは知っているんですか？」



と、観柳は笑みを浮かべ狡猾な口調でしゃべった。



「あんたがこんな所で何やってんだか知らないけれど、覚悟しなさい！きっと蒼紫様が助けてくれるんだから！」



怒る操の啖呵に観柳は高らかに笑った。



「ハーハハハハ！こりゃ何の冗談か。久々に笑わせてもらったよ。四乃森蒼紫が今頃何処をほっつき歩いているかしらないが、此処が分かるわけない。お前はここで死ぬんだ。ハーハハハハハ。」


「何がおかしいのよ！蒼紫様は絶対来てくれるんだから！」


「うるさい！」



観柳の叱咤の言葉と同時に操の悲鳴が聞こえた。


観柳は操の蒼紫様という言葉が非常に耳障りだったのか、起き上がれない操の頭を靴で踏みつけたのだった。



「黙れ！黙れ！黙れ！」



観柳は顔を真っ赤にして操の頭を連続してガシガシと踏みつけた。


そしてハァハァ言いながら靴のつま先でぐりぐりと捻じり込み、



「この観柳様に向かって偉そうな口をきくなボケがぁ！」



と、操の腹を蹴り込んだ。



グハっと操は目をむいた。



「観柳様。」



蒼紫や抜刀斉に対して怒りマックスな観柳はまだまだその怒りが収まらないまでもひと段落ついた自分の感情に部下の呼びかけに応じた。



「そ、そうだったな。目的が違ったな。」



と観柳は少し乱れた自分の襟を正すと操に、



「そうだ、お前に選ばせてやる。」



と、いいことを思いついたと操の首を縛っている縄をほどいて手に持ち、操を引きずりながら部下と廊下に出た。


首が締まりそうで泡を吹きそうになった操だが観柳がすぐに止まったので咳き込むだけで済んだ。


そんな操に観柳は、



「誰か一人、お前が選べ。」



と言った。