翌朝・・武尊は目を覚ました時、しっかり自分がいつものように布団に入っていることに気が付いた。


確か昨晩は・・と思い返す武尊に心当たりのある事は蒼紫のこと。


きっと帰って来た時にあんなところでだらしなく寝ていた自分を風邪をひかないように布団に寝かせてくれたに違いない。


と、思うと情けないのと恥ずかしい気持ちが入り混じって膨らんでいく。


「はぁ～～～。」


武尊は大きなため息を思わずつくが、何の気なしにあの蒼紫の大きなきれいな手が自分を抱き上げた・・なんて考えてしまい無意識のうちに身体がぶるっと震えた。


その震えで武尊は自分の身が今どうなったのか認識した。



「やだ・・（私・・感じてる・・）。」



欲求不満なのか、いや、そんなはずはない。


いくらなんでも斎藤のいない中そんな不節操なはずはないと自問自答するも自分を好きだ好きだとプレッシャーをかけてくるイケメンに毒されたのかという気持ちも否定できなかった。



他に何かされなかったのか不安にかられて武尊はすぐさま顔を洗いに行った。


自分の部屋に鏡がないのがこれほど不便だとは思わなかったと井戸水をくみ上げた桶の水鏡で自分の顔や首筋を見ようと頑張っては見たが、所詮水鏡、うまく映らない。


そんな時、



「そんなに桶を覗き込んでどうした。」



と蒼紫の声。


ビクッと振り返って武尊は蒼紫の姿を確認した。



「蒼紫・・おはよう。」



武尊がそう言っている間にも蒼紫はつっかけを履いて武尊の方へ近寄って来た。



「水・・使う？」


「嗚呼。」



数個ある桶の一つに武尊は汲んだ水を入れ、どうぞと蒼紫に言い次に自分の顔洗いように水を入れた。


蒼紫はザザッを手で顔を洗うと首にかけていた手ぬぐいで顔を拭いた。


それをずっと見ていた武尊は、


「蒼紫・・布団・・ありがとう。」


と気恥ずかしさの混じったお礼を言った。


蒼紫は顔を拭き終わると武尊の方を見て、


「・・待っていたのか？」


と聞いた。


そうであろうと推測するのだが蒼紫は武尊の口からそれを聞きたかったのだ。


「うん・・まあね。でも寝ちゃったから全然恰好つかないけど。」


やはりそうだったのかと、蒼紫は武尊の言葉を嬉しく思いながらも、


「夜は冷える・・無理はするな。」


と言った。


蒼紫の優しい言葉に武尊は黙ってしまい手も止まってしまった。


「・・どうかしたのか。」


蒼紫もいつもと少し違う武尊の態度に違和感を覚えたのだろうか。


「ううん、・・何でもない。」


武尊はそう言うと、もやもやする気持ちを洗い流すようにザバザバと顔を洗ったのだった。


「・・で、どうだった？」


少し冷静さを取り戻した武尊は蒼紫に九条邸の様子を聞いた。


「詳しくは朝餉の後、俺の部屋でいいか。」


「うん・・分かった。」


取り急いだ事を言わないところを見ると大して重要な情報はなかったのかと武尊は少し落胆したが、ともかく朝餉の後話を聞かないと・・とそう思った。