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234.紅葉の名所 (蒼紫・夢主)
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「で、どこに行くの?」
だんだん街中から離れる自分たち。
鴨川沿いを北に向かっているのは武尊にも分かった。
「比叡山の麓だ。」
やっと行先を言った蒼紫だったが聞いた武尊はびっくり仰天だった。
「比叡山!?・・の麓!?」
鴨川の向こう、北東の遠くに見える山が比叡山だ。
(歩いていくの!?まじで!?)
と、思ったがよくよく思えば会津から東京まで蒼紫と歩いたのだ。
確かに往復・・日帰りできない距離ではなさそうだが気合を入れないと行く気もしない。
先ほどの武尊の様子からようやく手を放した蒼紫は歩く速さを緩めて武尊に言った。
「この速さでもあと巳(み)の刻ぐらいには着く。」
未だこの時代の人は昔の言い方で時を言うことも多い。
武尊はひいふうみいと指を折った。
(確か葵屋を出たのは午前六時前だから・・子の刻から始まるのが午前0時・・だから巳(み)の刻は・・って午前10時じゃん!四時間も歩くんかい!!)
自分で自分に突っ込みを入れてみても、こうなったら歩くしかないのだ。
少し歩くと回りの空気が変わっていくように思えた。
空は白み始め、星影が消えてゆく。
道が明瞭に見え、止まっていた時が動き出すように木々が息をし鳥が鳴き始めた。
眠れる森の美女が眠りから覚める時もこんな感じなのかと思ってしまうくらいだ。
黒かった木々は鮮やかな色を放ち始め、もみじでなくとも緑や黄色が美しかった。
しかし赤い紅葉はひと際鮮やかに自分を主張し存在感を見せた。
そのくらい明るくなった頃、蒼紫は懐をごそごそし、懐紙を取り出し武尊に渡し、
「少し休むか?」
と言った。
「ん?なあに、これ?」
武尊は立ち止って受け取り中を開くとどら焼きより一回り小さいお菓子が一つ入っていた。
「わ、おいしそう!・・って、蒼紫のは?」
「・・。」
蒼紫の無言の返事から、恐らく一つだけしか持ってないのだろうと武尊は推測した。
「ありがとう、じゃぁ・・はい。」
一つだけの時は何度もそうしてきた。
武尊は半分に割ってそれを蒼紫に渡した。
そしていつも思う。
この変わった【友】との関係を。
うぬ惚れているわけではないが、こんなにすごいイケメンが何故か縁もゆかりもない自分を好きになった。
それはそれでありがたいことなのだろうが(それ故に命を何度も助けられているのだが)、自分はそのすごい人の申し出を断った。
普通はそれで縁は切れそうなのに、まだこうして一緒に歩いている。
つくづく不思議だと思う。
これも蒼紫が言った【運命】だからなのだろうか。
武尊は食べ終わった後も歩きながら、ふと横にいる男のことを考えた。
でもいずれ、この関係も終わる。
私はどちらにしても今年中には比古さんのところへ帰る。
そのことは蒼紫もわかっているはずなのに。
手に入らないもののために、どうしてこんなに尽くしてくれるのか武尊は理解しがたいと思ったが、しつこいぐらい断ってもそれを受け入れない蒼紫に武尊は手の打ちようがない。
そのお陰か、今日もこうして蒼紫の提案どおりにつらい早起きであったが行動し、感動という贈り物をもらった。
どんづまりの気持ちをこんなに晴れやかにしてくれたのは微妙な関係のこの【友】なのだ。
今見ている景色、光に照らされて赤く燃える紅葉の美しさも蒼紫の贈り物なのだ。
武尊は蒼紫の顔を思わず振り返った。
「どうした。」
「ううん・・紅葉がとてもきれいだなって思って。ありがとう蒼紫、今日はこんな素敵なところに連れてきてくれて。」
自然の中にいると心は素直になるらしい。
武尊は思った感謝をそのまま口にした。
すると蒼紫は少し得意げに笑って、
「感動するにはまだ早い。今日連れていく処はもっと良い処だ。」
と言った。
「あ、そうだったね。本を借りに行くんだったね。」
「違う、その前に寄る処だ。」
「え、紅葉ってこうして山の中を歩くことじゃないの?」
武尊は違うのかと驚いた。
こんなにこんなにきれいなのに蒼紫の話では更にすごい紅葉があるみたいだ。
「・・瑠璃光院だ。」
蒼紫はついにネタばらしをするように目的地を武尊に告げた。
「るりこういん?」
「嗚呼。」
「それってお寺?」
「嗚呼・・まあ、ついてからのお楽しみだ。」
「むー!」
実にもったいぶった言い方に武尊は頬を膨らませた。
蒼紫は武尊のそんな様子を鼻で少し笑った。
それからまたしばらく回りの景色を楽しみながら歩いた武尊だったが、目的地が近くなったからなのか蒼紫が口を開き始めた。
「そろそろ八瀬だ。もうまもなく着く。」
「『やせ』?」
聞いたことがない地名に武尊はオウム返しに聞いた。
「嗚呼、『八瀬』という地は、八に瀬戸物の瀬と書くが一方『矢背』・・弓矢の矢に背中の背とも記される。
その昔、壬申の乱で背中に矢傷を負われた大海人皇子、天武天皇のことだが、この八瀬の釜風呂で傷を癒されたという言い伝えより、古来より貴族や上流武家の保養地として知られている地なのだ。」
まったく歩く辞典というか、その若さでどれだけの知識が詰まっているのかとまたもや思い知らされた武尊だったが、非常にわかりやすい説明に、
「へ~~~。」
というしかなかった。
「でもなんでそんなこと知ってるの?」
やっぱり聞いてしまうこの質問。
そんな質問に蒼紫は時効だと思ったからなのだろうか、
「ここは幕末、尊王攘夷派の三条実美が特に気に入っていた場所だ。京都探索方も特に目を光らせていたからな。」
と言った。
政治的背景が絡んでいたと聞いて武尊はちょっと気まずくなった。
尊王攘夷派と言えば幕府の敵、つまり蒼紫達の敵だからだ。
いくら紅葉が美しいからといっても勝ち組ひいきの土地に連れてきてもらったということでなんだか申し訳なかったと武尊が思っていると、
「気遣いは無用だ。今の俺には幕府も、、それに明治政府も関係ない。・・見えたぞ武尊。」
武尊が蒼紫の視線の先を追うと吊り橋の向こうにお寺の壁らしきものが見えた。
「やっと着いた!」
おおよそ四時間あるいて思わず漏らした武尊の安堵の言葉。
とりあえず休憩できると武尊は喜んだ。
雑学余談:
比叡山のふもとといえば、るろ剣ファンだったらもうお分かり・・例の場所です。
そこへ蒼紫は向かおうとしてます。
方治の部屋にはたくさん本がありましたからねぇ。
以前にきっと何冊かパラパラ見でもしたのでしょう。
さて、その途中に寄る場所としてどこかいいところはないかと検索したところ・・
ありました!それが瑠璃光院です!
知らなかったところだったのですがものすごく素晴らしい場所に思えたので夢小説に繰り入れてみました。
(創作も入ってますので正しい情報はネットでお願いします)
http://rurikoin.komyoji.com/
https://www.kyoto-amagase.com/origin/rurikouin/
で蒼紫と夢主が訪れた場所はこんなところだったんだとイメージを膨らませて頂けましたらより長編をお楽しみ頂けると思います。
追記:現在瑠璃光院は通常の一般公開は行われていないようですのでご注意下さい。
2016.8.13
だんだん街中から離れる自分たち。
鴨川沿いを北に向かっているのは武尊にも分かった。
「比叡山の麓だ。」
やっと行先を言った蒼紫だったが聞いた武尊はびっくり仰天だった。
「比叡山!?・・の麓!?」
鴨川の向こう、北東の遠くに見える山が比叡山だ。
(歩いていくの!?まじで!?)
と、思ったがよくよく思えば会津から東京まで蒼紫と歩いたのだ。
確かに往復・・日帰りできない距離ではなさそうだが気合を入れないと行く気もしない。
先ほどの武尊の様子からようやく手を放した蒼紫は歩く速さを緩めて武尊に言った。
「この速さでもあと巳(み)の刻ぐらいには着く。」
未だこの時代の人は昔の言い方で時を言うことも多い。
武尊はひいふうみいと指を折った。
(確か葵屋を出たのは午前六時前だから・・子の刻から始まるのが午前0時・・だから巳(み)の刻は・・って午前10時じゃん!四時間も歩くんかい!!)
自分で自分に突っ込みを入れてみても、こうなったら歩くしかないのだ。
少し歩くと回りの空気が変わっていくように思えた。
空は白み始め、星影が消えてゆく。
道が明瞭に見え、止まっていた時が動き出すように木々が息をし鳥が鳴き始めた。
眠れる森の美女が眠りから覚める時もこんな感じなのかと思ってしまうくらいだ。
黒かった木々は鮮やかな色を放ち始め、もみじでなくとも緑や黄色が美しかった。
しかし赤い紅葉はひと際鮮やかに自分を主張し存在感を見せた。
そのくらい明るくなった頃、蒼紫は懐をごそごそし、懐紙を取り出し武尊に渡し、
「少し休むか?」
と言った。
「ん?なあに、これ?」
武尊は立ち止って受け取り中を開くとどら焼きより一回り小さいお菓子が一つ入っていた。
「わ、おいしそう!・・って、蒼紫のは?」
「・・。」
蒼紫の無言の返事から、恐らく一つだけしか持ってないのだろうと武尊は推測した。
「ありがとう、じゃぁ・・はい。」
一つだけの時は何度もそうしてきた。
武尊は半分に割ってそれを蒼紫に渡した。
そしていつも思う。
この変わった【友】との関係を。
うぬ惚れているわけではないが、こんなにすごいイケメンが何故か縁もゆかりもない自分を好きになった。
それはそれでありがたいことなのだろうが(それ故に命を何度も助けられているのだが)、自分はそのすごい人の申し出を断った。
普通はそれで縁は切れそうなのに、まだこうして一緒に歩いている。
つくづく不思議だと思う。
これも蒼紫が言った【運命】だからなのだろうか。
武尊は食べ終わった後も歩きながら、ふと横にいる男のことを考えた。
でもいずれ、この関係も終わる。
私はどちらにしても今年中には比古さんのところへ帰る。
そのことは蒼紫もわかっているはずなのに。
手に入らないもののために、どうしてこんなに尽くしてくれるのか武尊は理解しがたいと思ったが、しつこいぐらい断ってもそれを受け入れない蒼紫に武尊は手の打ちようがない。
そのお陰か、今日もこうして蒼紫の提案どおりにつらい早起きであったが行動し、感動という贈り物をもらった。
どんづまりの気持ちをこんなに晴れやかにしてくれたのは微妙な関係のこの【友】なのだ。
今見ている景色、光に照らされて赤く燃える紅葉の美しさも蒼紫の贈り物なのだ。
武尊は蒼紫の顔を思わず振り返った。
「どうした。」
「ううん・・紅葉がとてもきれいだなって思って。ありがとう蒼紫、今日はこんな素敵なところに連れてきてくれて。」
自然の中にいると心は素直になるらしい。
武尊は思った感謝をそのまま口にした。
すると蒼紫は少し得意げに笑って、
「感動するにはまだ早い。今日連れていく処はもっと良い処だ。」
と言った。
「あ、そうだったね。本を借りに行くんだったね。」
「違う、その前に寄る処だ。」
「え、紅葉ってこうして山の中を歩くことじゃないの?」
武尊は違うのかと驚いた。
こんなにこんなにきれいなのに蒼紫の話では更にすごい紅葉があるみたいだ。
「・・瑠璃光院だ。」
蒼紫はついにネタばらしをするように目的地を武尊に告げた。
「るりこういん?」
「嗚呼。」
「それってお寺?」
「嗚呼・・まあ、ついてからのお楽しみだ。」
「むー!」
実にもったいぶった言い方に武尊は頬を膨らませた。
蒼紫は武尊のそんな様子を鼻で少し笑った。
それからまたしばらく回りの景色を楽しみながら歩いた武尊だったが、目的地が近くなったからなのか蒼紫が口を開き始めた。
「そろそろ八瀬だ。もうまもなく着く。」
「『やせ』?」
聞いたことがない地名に武尊はオウム返しに聞いた。
「嗚呼、『八瀬』という地は、八に瀬戸物の瀬と書くが一方『矢背』・・弓矢の矢に背中の背とも記される。
その昔、壬申の乱で背中に矢傷を負われた大海人皇子、天武天皇のことだが、この八瀬の釜風呂で傷を癒されたという言い伝えより、古来より貴族や上流武家の保養地として知られている地なのだ。」
まったく歩く辞典というか、その若さでどれだけの知識が詰まっているのかとまたもや思い知らされた武尊だったが、非常にわかりやすい説明に、
「へ~~~。」
というしかなかった。
「でもなんでそんなこと知ってるの?」
やっぱり聞いてしまうこの質問。
そんな質問に蒼紫は時効だと思ったからなのだろうか、
「ここは幕末、尊王攘夷派の三条実美が特に気に入っていた場所だ。京都探索方も特に目を光らせていたからな。」
と言った。
政治的背景が絡んでいたと聞いて武尊はちょっと気まずくなった。
尊王攘夷派と言えば幕府の敵、つまり蒼紫達の敵だからだ。
いくら紅葉が美しいからといっても勝ち組ひいきの土地に連れてきてもらったということでなんだか申し訳なかったと武尊が思っていると、
「気遣いは無用だ。今の俺には幕府も、、それに明治政府も関係ない。・・見えたぞ武尊。」
武尊が蒼紫の視線の先を追うと吊り橋の向こうにお寺の壁らしきものが見えた。
「やっと着いた!」
おおよそ四時間あるいて思わず漏らした武尊の安堵の言葉。
とりあえず休憩できると武尊は喜んだ。
雑学余談:
比叡山のふもとといえば、るろ剣ファンだったらもうお分かり・・例の場所です。
そこへ蒼紫は向かおうとしてます。
方治の部屋にはたくさん本がありましたからねぇ。
以前にきっと何冊かパラパラ見でもしたのでしょう。
さて、その途中に寄る場所としてどこかいいところはないかと検索したところ・・
ありました!それが瑠璃光院です!
知らなかったところだったのですがものすごく素晴らしい場所に思えたので夢小説に繰り入れてみました。
(創作も入ってますので正しい情報はネットでお願いします)
http://rurikoin.komyoji.com/
https://www.kyoto-amagase.com/origin/rurikouin/
で蒼紫と夢主が訪れた場所はこんなところだったんだとイメージを膨らませて頂けましたらより長編をお楽しみ頂けると思います。
追記:現在瑠璃光院は通常の一般公開は行われていないようですのでご注意下さい。
2016.8.13