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231.牛肉の話題は災いのもとなのか (黒・白・お近・お増・蒼紫・夢主)
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黒、白、お近、お増は蒼紫の不可思議な反応には慣れていた。
よく分からない所が多いのが御頭でいちいち気にしていては身も心も持たない。
四人とも蒼紫の事はさておき、まかない作りの続きをしながらあーだこーだと話をするのだった。
そんないつもの四人とは違って部屋へ戻る蒼紫の顔はすこぶる険しかった。
もとい、別にわざと険しくしているわけではない。
ただ、蒼紫の脳は一つの可能性を追求してめまぐるしく回っているため、傍目には険しく見えるのだった。
だが自室の前に来ると、自分の様子を武尊に気づかれまいと一つ深呼吸をして障子を開けた。
武尊が疲れた目で蒼紫を見上げた。
蒼紫は元の位置に座ると武尊にお茶を出しだ。
「少し気を落ち着かせろ。」
「・・ありがとう。」
武尊は受け取った湯呑より受け取る時に触れた蒼紫の指にビクッとしたが何とか湯呑を受け取った。
蒼紫はそんな武尊の様子を見ながら自分も湯呑を持って茶を二口ほど飲んだ。
飲みつつもじっと武尊を観察し続ける・・
武尊はお茶の水面を見ながらため息をついた。
弱く立ち上る湯気が武尊の顔にゆらりと当たる。
そして武尊はまた、ため息をひとつついた。
出来れば言いたくない自分の過去。
その過去に必ずついて来る斎藤との思い出。
もう二度と会う事はないと覚悟を決めて見送ったのはついこの間。
今は斎藤のことを思い出す場ではないと思いつつも湯気の奥を覗き込むと過去に引きづられそうな気がして武尊はお茶を飲むことが出来なかった。
「ときに・・武尊。」
不意に呼ばれた自分の名。
しびれを切らし蒼紫の方から話の催促をしに来たかと武尊はつらそうに視線を蒼紫から外した。
「牛鍋は好きか。」
「・・はい!?・・え?」
何かの気のせいかと思った。
武尊は驚いて蒼紫に視線を戻した。
「もしかして今、牛鍋って・・言った?」
空耳にしてはあまりにもはっきりした蒼紫の声だったような気がして武尊は聞き返した。
「言ったが。どうなんだ。」
どうやら蒼紫は確かに『牛鍋は好きか』と自分に言ったらしいがその話題はいつどこから湧いてきたのかと武尊はついて行けなかった。
武尊があっけにとられて蒼紫を見ていると蒼紫は少し困ったような顔をした。
それを見て武尊は、
(もしかして・・蒼紫は私がこんなだから少し笑いを取って気を紛らわそうとした・・とか?)
と思った。
だとすればなんとセンスのない話題の振り方だろうと武尊は思った。
だがこれがド真面目な蒼紫の精一杯だとするとここで真面目にスルーすると蒼紫が可哀想な気がして、そして武尊はそんな蒼紫が少し可愛く感じた。
これがすっかり滅入っていた自分を蒼紫なりに何とか立ち直らせようとした結果なのだ・・と。
「ぷっ。」
たまらず武尊はちょっとだけ噴き出した。
蒼紫はいきなり訳も分からず笑われ少しむっとした顔になった。
「何だいきなり。」
「ううん・・ごめん・・そしてありがとう。」
蒼紫は武尊の考えが全く読めずに面食らった。
なぜ牛鍋が好きかと聞いて笑われ、そして礼を言われなければならないのか。
けれども蒼紫は武尊が少しでも笑顔を見せたことにムッとした気持ちもどこかへ吹き飛んだ。
武尊は、
「あまり話せないかもしれないけれど・・。」
と前置きして少し遠い眼をしてお茶をコクリと一口飲み込んだ。
武尊は何か少しだけ心が軽くなった気がしたのだった。
2016.7.20
よく分からない所が多いのが御頭でいちいち気にしていては身も心も持たない。
四人とも蒼紫の事はさておき、まかない作りの続きをしながらあーだこーだと話をするのだった。
そんないつもの四人とは違って部屋へ戻る蒼紫の顔はすこぶる険しかった。
もとい、別にわざと険しくしているわけではない。
ただ、蒼紫の脳は一つの可能性を追求してめまぐるしく回っているため、傍目には険しく見えるのだった。
だが自室の前に来ると、自分の様子を武尊に気づかれまいと一つ深呼吸をして障子を開けた。
武尊が疲れた目で蒼紫を見上げた。
蒼紫は元の位置に座ると武尊にお茶を出しだ。
「少し気を落ち着かせろ。」
「・・ありがとう。」
武尊は受け取った湯呑より受け取る時に触れた蒼紫の指にビクッとしたが何とか湯呑を受け取った。
蒼紫はそんな武尊の様子を見ながら自分も湯呑を持って茶を二口ほど飲んだ。
飲みつつもじっと武尊を観察し続ける・・
武尊はお茶の水面を見ながらため息をついた。
弱く立ち上る湯気が武尊の顔にゆらりと当たる。
そして武尊はまた、ため息をひとつついた。
出来れば言いたくない自分の過去。
その過去に必ずついて来る斎藤との思い出。
もう二度と会う事はないと覚悟を決めて見送ったのはついこの間。
今は斎藤のことを思い出す場ではないと思いつつも湯気の奥を覗き込むと過去に引きづられそうな気がして武尊はお茶を飲むことが出来なかった。
「ときに・・武尊。」
不意に呼ばれた自分の名。
しびれを切らし蒼紫の方から話の催促をしに来たかと武尊はつらそうに視線を蒼紫から外した。
「牛鍋は好きか。」
「・・はい!?・・え?」
何かの気のせいかと思った。
武尊は驚いて蒼紫に視線を戻した。
「もしかして今、牛鍋って・・言った?」
空耳にしてはあまりにもはっきりした蒼紫の声だったような気がして武尊は聞き返した。
「言ったが。どうなんだ。」
どうやら蒼紫は確かに『牛鍋は好きか』と自分に言ったらしいがその話題はいつどこから湧いてきたのかと武尊はついて行けなかった。
武尊があっけにとられて蒼紫を見ていると蒼紫は少し困ったような顔をした。
それを見て武尊は、
(もしかして・・蒼紫は私がこんなだから少し笑いを取って気を紛らわそうとした・・とか?)
と思った。
だとすればなんとセンスのない話題の振り方だろうと武尊は思った。
だがこれがド真面目な蒼紫の精一杯だとするとここで真面目にスルーすると蒼紫が可哀想な気がして、そして武尊はそんな蒼紫が少し可愛く感じた。
これがすっかり滅入っていた自分を蒼紫なりに何とか立ち直らせようとした結果なのだ・・と。
「ぷっ。」
たまらず武尊はちょっとだけ噴き出した。
蒼紫はいきなり訳も分からず笑われ少しむっとした顔になった。
「何だいきなり。」
「ううん・・ごめん・・そしてありがとう。」
蒼紫は武尊の考えが全く読めずに面食らった。
なぜ牛鍋が好きかと聞いて笑われ、そして礼を言われなければならないのか。
けれども蒼紫は武尊が少しでも笑顔を見せたことにムッとした気持ちもどこかへ吹き飛んだ。
武尊は、
「あまり話せないかもしれないけれど・・。」
と前置きして少し遠い眼をしてお茶をコクリと一口飲み込んだ。
武尊は何か少しだけ心が軽くなった気がしたのだった。
2016.7.20