※1 記憶を失っている時の名前は変換できません。
201.船上のサプライズ (夢主・山本少尉・カフェおじさん・オンナスキー)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
武尊は例のごとく、荒れ狂う様に馬を走らせる山本少尉の腰を死に物狂いにしがみついて何とか落馬を免れた。
「なんでこんなに街中で馬を飛ばすんだ!危ないだろう!今度こんなことをしたら海軍との約束は破棄だ!」
物凄いスピードで駆ける馬の横を人が慌てふためき避けていたのは武尊は見ていた。
こんなことで死人が出たらそれこそ自分が死ななきゃ罪の意識で生きていけないと武尊は思った。
「大丈夫ですよこれくらい。」
山本少尉はまるで武尊の怒鳴り声なんか聞こえてないくらいに軽い返事をした。
そして武尊の怒りにはお構いなくポケットから懐中時計を取り出し、
「次の横浜行きの陸蒸気の出発に間に合った。行きますよ、土岐殿。」
そう、山本少尉が向かったのは新橋駅だった。
横浜へ行くのは間違いなさそうだと武尊は思いながらも自分の怒りを軽くあしらわれて武尊はむっときた。
「何故横浜なんだ。」
「急ぎましょう、陸蒸気が出ます。」
噛み合わない会話。
武尊を気にもしないで山本少尉は駅員に馬は駅の裏側に置いておくようにと命じ、二人分の切符を買ってさっさと改札を通った。
不快、まったくもって不快。
あんな約束はしなければよかったと武尊は山本少尉の後に仕方なくついていきながらそう思った。
けれども鯨波を拘置所から出す算段をもちかけたのは武尊の方だったし今更こちらの方から約束はなかったことにするなんて言い出せなかった。
客車の車内の乗客はまばらだった。
武尊は山本少尉と斜め向かいの窓側に座った。
列車は大好きだけれども今の武尊ははしゃぐ気にはなれず窓の外を眺めていた。
「陸蒸気は初めてですか?窓からの景色は素晴らしいでしょう。」
窓の外をずっと眺めている武尊に山本少尉は少し得意気に言った。
「・・何度か乗った事があります。」
不機嫌な口調でそう返され山本少尉はため息をついた。
「そうですか、でも貴方がそうやって御機嫌斜めだと事後に影響が出ては困りますからね。私が悪かった、これで機嫌をなおしてくれませんか。」
もちろん武尊が男なら薩摩男子の山本少尉は絶対にこんな事は言わない。
けれども西洋学を少々勉強した海軍のこの若き将校は女性には甘かった。
無論武尊は山本少尉に性別を聞かれたわけではないので男物の洋装をして短髪の自分が女だと知れているとは思っていなかったけれども。
「本当に?(そんなに簡単に悪かったなんて言われても本心じゃないでしょ、それ。)」
なんて思いながら返事をした武尊だったが一応謝罪の言葉を聞いて無意識にもムスッとしていた口元が緩んだ。
そして山本少尉もそれを見て安堵し
「ええ。」
と答えた。
武尊は武尊で少し機嫌も直り、また窓の外を見ながらコートのポケットに両手を突っ込んだ。
「!」
指に当ったのは昨晩ようやく回収した例の薬包。
ちゃんとどこかにしまわなきゃと思いつつも入れっぱなしにしていた。
神谷道場へ戻ったら蒼紫がいない時にナップサックに入っている裁縫道具でどこかにしっかり縫い付けよう、と、武尊は指先で薬包を転がした。
とりあえず関係のない者にこれ以上この薬包の存在を知られずに済んでよかったと武尊は思った。
薬の科学的解明なんかこの時代には無理だったんだよね、と武尊は車窓に映る景色を遠く眺めながら思った。
(よくよく考えれば、分析ったってこの時代にあるのは光学顕微鏡ぐらいでそれだって一般の医者が持っているかどうかも分からない時代なんだよねー。)
と武尊はついでにため息も漏らした。
もともと分析してもらうために比古の小屋から持ち出した薬なのだが分析は不可能だという現実を武尊は今更ながら思い知った。
(ならば・・どうする・・?)
武尊のポケットにあるのはまぎれもなく危険な薬であるのは斎藤によって証明された。
これさえあればこの明治の世でも十六夜丸は現れるのだ。
武尊の目にあのゲリラ豪雨の時の情景がありありと思い出された。
「・・・。」
武尊は薬包から指を放し、窓枠に片肘をついた。
(十六夜丸は一の話によると人を治す力があるという・・。兄様は十六夜丸に人斬りをさせていたけれど一はあの時十六夜丸に私自身を治すように言ったに違いない・・そうでないとあの傷では私は助からなかった・・。)
あの日、斎藤の機転のお陰で武尊は助かった。
斎藤が薬を使ったことは後から斎藤に聞いて確かめた武尊だったが、そこで何が起こったかそういえば聞いてなかったので武尊はそのあたりを想像してみた。
だが武尊の頭の中にもう一つ、ふと浮かんだ事があった。
それは斎藤が十六夜丸に何と言ったかではなく、もっと基本的な事。
(薬を飲ませたというか、あの薬と混ぜた血・・。きっとその血の持ち主の人の命令を聞くんだわ、十六夜丸って・・。)
以前市彦からは【蛇の血】と言われていたころは深く考えなかったが、斎藤がやった事を振り返ればその推論にたどり着く。
武尊は分かっているようで気づいてなかった。
つまり極端な話、斎藤が蒼紫の血と混ぜた薬の杯を持ってきて武尊に飲ませれば蒼紫のいう事を十六夜丸はきくという事。
そして武尊はある疑問を持った。
(あの薬を私が私自身の血を混ぜて飲んだら・・?)
いったいどうなるのか。
(十六夜丸がこの私の言いなりになる・・?)
そんな馬鹿なと思いつつ、散々迷惑をかけさせられたあいつに命令できたらさぞかし気持ちがいいもんだと武尊は思ったりもしたが、
(ちょっと待て。私はあいつが出てきている時は意識がない・・という事は命令出来ないってこと?!)
うわーっ、なんて面白くないんだろうと武尊は先程とは違う意味でため息をついた。
だけれども万が一、万が一に自分が自分の意志で自由に十六夜丸となることが出来たなら・・と、武尊は考えた。
ずっと外を見ながら武尊は考えた。
しかし、
(外見は私、でも中身は十六夜丸で・・で、どうやって自分のやって欲しい事を頼むんだ?無理でしょう・・。)
と思考はそこで終わってしまう。
だけれども、と武尊はもう一度仮定をし直してその先も考えてみた。
(もしも、もしもそれで私の意志の通りに十六夜丸が動くとすれば何を言う?)
武尊は自分にそう問うてそして思った。
(もしも命令出来たとしても・・・・十六夜丸にやって欲しい事なんて何もありはしないのに。)
そう、所詮そんな都合のいい力なんてこの世に有りはしない、あってはいけないのだからと武尊は少し悲しくなって眉を寄せた。
十六夜丸は現実にいる。
だけどもその存在は自然の摂理とは合わない。
(おばけや幽霊なら多少不気味な話で済むだろうけど十六夜丸は人間に干渉しすぎだ・・あるべき存在ではない。)
武尊はそう十六夜丸を否定しつつも十六夜丸に自分の姿を重ねた。
この世にあってはならないのは自分自身・・。
この身はクローン、誰かのうつし身。
きっと本物の人間がどこかに存在する。
どこにいるのか、いつの時代の人なのかも分からないけれども、もし、本物に出会ってしまったら・・・
と武尊はそれを考えるとパニックになりそうだった。
(私の枷・・・。)
比古に言われた言葉が武尊の脳裏をよぎる。
(『枷を自分自身で外せない限り死にたい病は治らない』・・ってか。まさにその通りだよね・・。今この瞬間、何もかもこの世にあるすべての存在が希薄に思えて自分の存在なんて消えてなくなってもいい・・ってまだ思えるもんね・・。)
【一がいない世界なんて】
武尊は誰にも聞こえないくらいの声でそうぼそっと声をこぼした。
そして遠くの景色をじっと見た。
見える景色も聞こえる車輪の音も、すべてが明治という時代の記録映画の中の世界のようで、目を閉じれはすべてが何もない無の世界・・だと思えて・・・。
武尊はフウと息をついて窓を見るのを止め、背もたれにトンともたれた。
どんより曇った空。
そして見えてきた暗い海。
一と見た青く輝く海と同じ景色のはずなのにこうも悲しく思うのは自分の心が弱いせいだと武尊は自分を叱咤した。
(一はあの海の遠い所で頑張っているんだ。一人だって負けるもんか・・約束したんだ、一に。)
いったい今頃何をしているんだろうと武尊は遠い所を見つめながら思った。
(時尾さんがいなくても御飯をちゃんと食べているだろうか、家に帰ってちゃんと寝ているだろうか、煙草の吸殻はちゃんと捨てているだろうか・・。)
武尊がそう思うと、
『自分の事も危いのに人の心配なんかしてる余裕なんてあるのか阿呆。』
と空から声が返ってくるような気がした。
(阿呆だもん・・心配するよ・・。)
武尊が片肘をついて物思いにふけっている間に陸蒸気はブレーキをかけスピードを落としていく。
横浜に着いたのだ。
「なんでこんなに街中で馬を飛ばすんだ!危ないだろう!今度こんなことをしたら海軍との約束は破棄だ!」
物凄いスピードで駆ける馬の横を人が慌てふためき避けていたのは武尊は見ていた。
こんなことで死人が出たらそれこそ自分が死ななきゃ罪の意識で生きていけないと武尊は思った。
「大丈夫ですよこれくらい。」
山本少尉はまるで武尊の怒鳴り声なんか聞こえてないくらいに軽い返事をした。
そして武尊の怒りにはお構いなくポケットから懐中時計を取り出し、
「次の横浜行きの陸蒸気の出発に間に合った。行きますよ、土岐殿。」
そう、山本少尉が向かったのは新橋駅だった。
横浜へ行くのは間違いなさそうだと武尊は思いながらも自分の怒りを軽くあしらわれて武尊はむっときた。
「何故横浜なんだ。」
「急ぎましょう、陸蒸気が出ます。」
噛み合わない会話。
武尊を気にもしないで山本少尉は駅員に馬は駅の裏側に置いておくようにと命じ、二人分の切符を買ってさっさと改札を通った。
不快、まったくもって不快。
あんな約束はしなければよかったと武尊は山本少尉の後に仕方なくついていきながらそう思った。
けれども鯨波を拘置所から出す算段をもちかけたのは武尊の方だったし今更こちらの方から約束はなかったことにするなんて言い出せなかった。
客車の車内の乗客はまばらだった。
武尊は山本少尉と斜め向かいの窓側に座った。
列車は大好きだけれども今の武尊ははしゃぐ気にはなれず窓の外を眺めていた。
「陸蒸気は初めてですか?窓からの景色は素晴らしいでしょう。」
窓の外をずっと眺めている武尊に山本少尉は少し得意気に言った。
「・・何度か乗った事があります。」
不機嫌な口調でそう返され山本少尉はため息をついた。
「そうですか、でも貴方がそうやって御機嫌斜めだと事後に影響が出ては困りますからね。私が悪かった、これで機嫌をなおしてくれませんか。」
もちろん武尊が男なら薩摩男子の山本少尉は絶対にこんな事は言わない。
けれども西洋学を少々勉強した海軍のこの若き将校は女性には甘かった。
無論武尊は山本少尉に性別を聞かれたわけではないので男物の洋装をして短髪の自分が女だと知れているとは思っていなかったけれども。
「本当に?(そんなに簡単に悪かったなんて言われても本心じゃないでしょ、それ。)」
なんて思いながら返事をした武尊だったが一応謝罪の言葉を聞いて無意識にもムスッとしていた口元が緩んだ。
そして山本少尉もそれを見て安堵し
「ええ。」
と答えた。
武尊は武尊で少し機嫌も直り、また窓の外を見ながらコートのポケットに両手を突っ込んだ。
「!」
指に当ったのは昨晩ようやく回収した例の薬包。
ちゃんとどこかにしまわなきゃと思いつつも入れっぱなしにしていた。
神谷道場へ戻ったら蒼紫がいない時にナップサックに入っている裁縫道具でどこかにしっかり縫い付けよう、と、武尊は指先で薬包を転がした。
とりあえず関係のない者にこれ以上この薬包の存在を知られずに済んでよかったと武尊は思った。
薬の科学的解明なんかこの時代には無理だったんだよね、と武尊は車窓に映る景色を遠く眺めながら思った。
(よくよく考えれば、分析ったってこの時代にあるのは光学顕微鏡ぐらいでそれだって一般の医者が持っているかどうかも分からない時代なんだよねー。)
と武尊はついでにため息も漏らした。
もともと分析してもらうために比古の小屋から持ち出した薬なのだが分析は不可能だという現実を武尊は今更ながら思い知った。
(ならば・・どうする・・?)
武尊のポケットにあるのはまぎれもなく危険な薬であるのは斎藤によって証明された。
これさえあればこの明治の世でも十六夜丸は現れるのだ。
武尊の目にあのゲリラ豪雨の時の情景がありありと思い出された。
「・・・。」
武尊は薬包から指を放し、窓枠に片肘をついた。
(十六夜丸は一の話によると人を治す力があるという・・。兄様は十六夜丸に人斬りをさせていたけれど一はあの時十六夜丸に私自身を治すように言ったに違いない・・そうでないとあの傷では私は助からなかった・・。)
あの日、斎藤の機転のお陰で武尊は助かった。
斎藤が薬を使ったことは後から斎藤に聞いて確かめた武尊だったが、そこで何が起こったかそういえば聞いてなかったので武尊はそのあたりを想像してみた。
だが武尊の頭の中にもう一つ、ふと浮かんだ事があった。
それは斎藤が十六夜丸に何と言ったかではなく、もっと基本的な事。
(薬を飲ませたというか、あの薬と混ぜた血・・。きっとその血の持ち主の人の命令を聞くんだわ、十六夜丸って・・。)
以前市彦からは【蛇の血】と言われていたころは深く考えなかったが、斎藤がやった事を振り返ればその推論にたどり着く。
武尊は分かっているようで気づいてなかった。
つまり極端な話、斎藤が蒼紫の血と混ぜた薬の杯を持ってきて武尊に飲ませれば蒼紫のいう事を十六夜丸はきくという事。
そして武尊はある疑問を持った。
(あの薬を私が私自身の血を混ぜて飲んだら・・?)
いったいどうなるのか。
(十六夜丸がこの私の言いなりになる・・?)
そんな馬鹿なと思いつつ、散々迷惑をかけさせられたあいつに命令できたらさぞかし気持ちがいいもんだと武尊は思ったりもしたが、
(ちょっと待て。私はあいつが出てきている時は意識がない・・という事は命令出来ないってこと?!)
うわーっ、なんて面白くないんだろうと武尊は先程とは違う意味でため息をついた。
だけれども万が一、万が一に自分が自分の意志で自由に十六夜丸となることが出来たなら・・と、武尊は考えた。
ずっと外を見ながら武尊は考えた。
しかし、
(外見は私、でも中身は十六夜丸で・・で、どうやって自分のやって欲しい事を頼むんだ?無理でしょう・・。)
と思考はそこで終わってしまう。
だけれども、と武尊はもう一度仮定をし直してその先も考えてみた。
(もしも、もしもそれで私の意志の通りに十六夜丸が動くとすれば何を言う?)
武尊は自分にそう問うてそして思った。
(もしも命令出来たとしても・・・・十六夜丸にやって欲しい事なんて何もありはしないのに。)
そう、所詮そんな都合のいい力なんてこの世に有りはしない、あってはいけないのだからと武尊は少し悲しくなって眉を寄せた。
十六夜丸は現実にいる。
だけどもその存在は自然の摂理とは合わない。
(おばけや幽霊なら多少不気味な話で済むだろうけど十六夜丸は人間に干渉しすぎだ・・あるべき存在ではない。)
武尊はそう十六夜丸を否定しつつも十六夜丸に自分の姿を重ねた。
この世にあってはならないのは自分自身・・。
この身はクローン、誰かのうつし身。
きっと本物の人間がどこかに存在する。
どこにいるのか、いつの時代の人なのかも分からないけれども、もし、本物に出会ってしまったら・・・
と武尊はそれを考えるとパニックになりそうだった。
(私の枷・・・。)
比古に言われた言葉が武尊の脳裏をよぎる。
(『枷を自分自身で外せない限り死にたい病は治らない』・・ってか。まさにその通りだよね・・。今この瞬間、何もかもこの世にあるすべての存在が希薄に思えて自分の存在なんて消えてなくなってもいい・・ってまだ思えるもんね・・。)
【一がいない世界なんて】
武尊は誰にも聞こえないくらいの声でそうぼそっと声をこぼした。
そして遠くの景色をじっと見た。
見える景色も聞こえる車輪の音も、すべてが明治という時代の記録映画の中の世界のようで、目を閉じれはすべてが何もない無の世界・・だと思えて・・・。
武尊はフウと息をついて窓を見るのを止め、背もたれにトンともたれた。
どんより曇った空。
そして見えてきた暗い海。
一と見た青く輝く海と同じ景色のはずなのにこうも悲しく思うのは自分の心が弱いせいだと武尊は自分を叱咤した。
(一はあの海の遠い所で頑張っているんだ。一人だって負けるもんか・・約束したんだ、一に。)
いったい今頃何をしているんだろうと武尊は遠い所を見つめながら思った。
(時尾さんがいなくても御飯をちゃんと食べているだろうか、家に帰ってちゃんと寝ているだろうか、煙草の吸殻はちゃんと捨てているだろうか・・。)
武尊がそう思うと、
『自分の事も危いのに人の心配なんかしてる余裕なんてあるのか阿呆。』
と空から声が返ってくるような気がした。
(阿呆だもん・・心配するよ・・。)
武尊が片肘をついて物思いにふけっている間に陸蒸気はブレーキをかけスピードを落としていく。
横浜に着いたのだ。
1/3ページ