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179.東の翁 (蒼紫・夢主・右近)
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武尊と蒼紫が通されたのは長い渡り廊下の向こうの離れだった。
離れといっても物置小屋ではない。
書院造の八畳間と、障子を隔てて押入れが付いた八畳間の二つの部屋が連なった小さいが風流のある建物となっている。
途中通った旅籠本館よりも上質の造りの家屋に武尊があっけにとられて部屋を眺めた。
「こ・・ここに泊まるんですか?」
建物だけでなくそこを取り巻く庭も立派すぎて思わずそう聞いてしまうほどだった。
「ここは千三百年前に行基様により開かれた湯の地でございます。徳川様の時代には会津藩の施設が多くございましたが明治になり、新政府がこの地を治めるようになってから会津藩の施設を温泉宿として開放しどなたでもお泊り頂ける宿となりました。この【青松の湯】もその一つでございまして四季折々の景色と名湯を求めておいでになる多くのお客様にお泊り頂いております。」
「ふううん。」
武尊が感心して聞いていると蒼紫も部屋を見まわしながら、
「・・明日はここに政府の役人が泊まるという事だな。」
と言った。
「はい、左様でございます。明日は本館の部屋にお移りいただく事になりますが本日はこちらでおくつろぎ下さい。」
「すまないな。」
「いえ・・では蒼紫様、武尊様、上着をお預かりいたします。」
「え、いいですよ。汚れてますから。泥を落とさないといけないし・・。」
と武尊が断っていると蒼紫が、
「武尊、翁に預かってもらえ。明日にはきれいにして返してくれる。ここはそういう所だ。ついでにズボンも預かってもらった方がいい。」
と言って自らコートを脱ぎだした。
「え、ええ、、と・・。」
ズボンも大分落ちたと言えども泥にまみれたあとがすごい。
かと言ってこの場で脱ぐわけにはいかないと狼狽えていると、
「ズボンは後ほど取りに伺いますので大丈夫ですよ。」
と主人が言った。
「じゃ、じゃあ・・お願いします。」
と武尊は遠慮がちにコートを渡しながら蒼紫を見ると、蒼紫が開いたコートの内側には小太刀が左右一本づつ隠されていた。
(隙がない・・。)
武尊が驚きながら蒼紫の用心深さに畏怖した。
「これはこちらで持っておく。」
「心得てございます。」
蒼紫は小太刀二本を片手で持つと反対の手でコートを翁に手渡した。
翁は二人のコートを預かり蒼紫に、
「宿帳の御名前は【クサカベ カン】で宜しいでしょうか。」
と聞くと蒼紫は、
「嗚呼、そうしておいてくれ。」
と言うと翁が、
「分かりました。では【クサカベ カン】様御夫妻としておきますので【武尊】様、ここに御滞在の間は【四乃森】ではなく【草部】の妻という事でお願いいたします。」
と言った。
「え?!」
立派な床柱だなぁと、レトロ好きの武尊はツヤツヤな柱に見入っていた所だったが今の言葉は聞き捨てならない。
武尊は驚いて凄い勢いで首を翁に向けた。
【クサカベ】という苗字はともかく蒼紫と夫婦!!
驚きすぎてリアクションが数秒遅れた武尊だったが我を取り戻して翁に反論しようとした間際に蒼紫の牽制が入った。
「俺も武尊も本名でない方がいいだろう。それに夫婦でもない者を同じ部屋に泊めるほど主人は甘くないぞ。」
確かに蒼紫は御尋ね者の身、新政府関係者が多く泊まるという宿であればどこから足がつくかもしれないと思うと武尊は何も言えなかった。
ただ、武尊の頭の中には、
(夫婦として蒼紫と同じ部屋・・同じ部屋・・同じ部屋・・!?)
という言葉がエンドレスにぐるぐる廻った。
心の準備がまるで無かった為、【夫婦】とか【同じ部屋】という文字がどうしても頭に入って来ない。
(誰と誰が夫婦で、誰と誰が同じ部屋だって?・・・・・落ち着け武尊・・・。取りあえず今日の宿を確保して温泉に入るためにはどうすればいいのか考えて・・・落ち着け・・落ち着け・・・・はい、深呼吸!)
強制的に深呼吸をして落ち着かせるように武尊は自分で自分に命令した。
どうして蒼紫と一緒にいる時はいつも予想外の事が起こるのだろう、ある意味斎藤と一緒にいる時よりも焦る事が多いのではないかと武尊は思った。
(落ち着け武尊、部屋は二つあるじゃないか。最悪布団を隣同士に敷かれても自分の布団を持ってもう一つの方へ行けばいいだけじゃないか・・よしっ!なんとかなる!)
自己防衛論を確立した武尊は自分自身を取り戻した。
武尊の動揺がおさまったのを見た翁は、
「ただ今浴衣をお持ちいたします。今宵はどうぞごゆるりとお過ごし下さいませ。」
そう言い残して本館の方へ戻っていった。
離れといっても物置小屋ではない。
書院造の八畳間と、障子を隔てて押入れが付いた八畳間の二つの部屋が連なった小さいが風流のある建物となっている。
途中通った旅籠本館よりも上質の造りの家屋に武尊があっけにとられて部屋を眺めた。
「こ・・ここに泊まるんですか?」
建物だけでなくそこを取り巻く庭も立派すぎて思わずそう聞いてしまうほどだった。
「ここは千三百年前に行基様により開かれた湯の地でございます。徳川様の時代には会津藩の施設が多くございましたが明治になり、新政府がこの地を治めるようになってから会津藩の施設を温泉宿として開放しどなたでもお泊り頂ける宿となりました。この【青松の湯】もその一つでございまして四季折々の景色と名湯を求めておいでになる多くのお客様にお泊り頂いております。」
「ふううん。」
武尊が感心して聞いていると蒼紫も部屋を見まわしながら、
「・・明日はここに政府の役人が泊まるという事だな。」
と言った。
「はい、左様でございます。明日は本館の部屋にお移りいただく事になりますが本日はこちらでおくつろぎ下さい。」
「すまないな。」
「いえ・・では蒼紫様、武尊様、上着をお預かりいたします。」
「え、いいですよ。汚れてますから。泥を落とさないといけないし・・。」
と武尊が断っていると蒼紫が、
「武尊、翁に預かってもらえ。明日にはきれいにして返してくれる。ここはそういう所だ。ついでにズボンも預かってもらった方がいい。」
と言って自らコートを脱ぎだした。
「え、ええ、、と・・。」
ズボンも大分落ちたと言えども泥にまみれたあとがすごい。
かと言ってこの場で脱ぐわけにはいかないと狼狽えていると、
「ズボンは後ほど取りに伺いますので大丈夫ですよ。」
と主人が言った。
「じゃ、じゃあ・・お願いします。」
と武尊は遠慮がちにコートを渡しながら蒼紫を見ると、蒼紫が開いたコートの内側には小太刀が左右一本づつ隠されていた。
(隙がない・・。)
武尊が驚きながら蒼紫の用心深さに畏怖した。
「これはこちらで持っておく。」
「心得てございます。」
蒼紫は小太刀二本を片手で持つと反対の手でコートを翁に手渡した。
翁は二人のコートを預かり蒼紫に、
「宿帳の御名前は【クサカベ カン】で宜しいでしょうか。」
と聞くと蒼紫は、
「嗚呼、そうしておいてくれ。」
と言うと翁が、
「分かりました。では【クサカベ カン】様御夫妻としておきますので【武尊】様、ここに御滞在の間は【四乃森】ではなく【草部】の妻という事でお願いいたします。」
と言った。
「え?!」
立派な床柱だなぁと、レトロ好きの武尊はツヤツヤな柱に見入っていた所だったが今の言葉は聞き捨てならない。
武尊は驚いて凄い勢いで首を翁に向けた。
【クサカベ】という苗字はともかく蒼紫と夫婦!!
驚きすぎてリアクションが数秒遅れた武尊だったが我を取り戻して翁に反論しようとした間際に蒼紫の牽制が入った。
「俺も武尊も本名でない方がいいだろう。それに夫婦でもない者を同じ部屋に泊めるほど主人は甘くないぞ。」
確かに蒼紫は御尋ね者の身、新政府関係者が多く泊まるという宿であればどこから足がつくかもしれないと思うと武尊は何も言えなかった。
ただ、武尊の頭の中には、
(夫婦として蒼紫と同じ部屋・・同じ部屋・・同じ部屋・・!?)
という言葉がエンドレスにぐるぐる廻った。
心の準備がまるで無かった為、【夫婦】とか【同じ部屋】という文字がどうしても頭に入って来ない。
(誰と誰が夫婦で、誰と誰が同じ部屋だって?・・・・・落ち着け武尊・・・。取りあえず今日の宿を確保して温泉に入るためにはどうすればいいのか考えて・・・落ち着け・・落ち着け・・・・はい、深呼吸!)
強制的に深呼吸をして落ち着かせるように武尊は自分で自分に命令した。
どうして蒼紫と一緒にいる時はいつも予想外の事が起こるのだろう、ある意味斎藤と一緒にいる時よりも焦る事が多いのではないかと武尊は思った。
(落ち着け武尊、部屋は二つあるじゃないか。最悪布団を隣同士に敷かれても自分の布団を持ってもう一つの方へ行けばいいだけじゃないか・・よしっ!なんとかなる!)
自己防衛論を確立した武尊は自分自身を取り戻した。
武尊の動揺がおさまったのを見た翁は、
「ただ今浴衣をお持ちいたします。今宵はどうぞごゆるりとお過ごし下さいませ。」
そう言い残して本館の方へ戻っていった。