※1 記憶を失っている時の名前は変換できません。
178.温泉宿 (夢主・蒼紫)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
暗い闇。
武尊は金縛りにあったように指先一本動かせない。
(・・・自分は死んだのか?いったいどうやって・・。)
ぬかるみに滑った後に後頭部に目から火花が散るような痛みがあった事を武尊は思い出した。
だが、自分で身体が動かせないわりには微かに振動する身体。
しかも風を頬が流れてゆく感触を武尊は感じていた。
そして鼻腔には人肌ほどの暖かな何かの匂い・・。
(何だろう・・どこかで匂った事がある匂いなんだけど・・・。)
生暖かなその感覚は地獄に落ちたにしては妙に生々しいというか汗臭いというか・・と思っているうちに覚醒しそうだった武尊の意識は夢の世界へ。
不思議な事だが今度ははっきり意識があるようだと武尊は自分で自覚した。
今まで何度も見た何処までも続く暗闇の中、武尊は白い光る球を見つけた。
(あの光は・・・蒼紫?
・・・・取り巻いていた四つの光がない。)
武尊がそう思った瞬間、現実の世界へと意識が戻った。
はっとして武尊は目を開いた。
開いた武尊の瞳に周りの景色が流れるように映った。
えっ、と反射的に身体を起そうとするが何かに縛られているようで武尊の身体は動かなかった。
だがその武尊の動きで流れていた景色は止まり、
「気がついたか。」
と声がした。
「蒼紫!?本当に蒼紫?」
武尊はいるはずもない蒼紫の声に驚いて声の方を振り向くと明らかに見覚えのある髪と姿。
そこで武尊はどうやら自分は今まで蒼紫におぶられていた事を知った。
「え?・・ええっ?どうして?」
武尊は自分の状況と目の前の男が蒼紫であるという事が理解できないでいた。
蒼紫は武尊が気がついたのならと、武尊と自分を縛りつけていたタスキを外し武尊を背から下ろして背負った理由を述べた。
「いくら呼んでも起きない、かといってあのような場所で休ませる所もなかったしな。」
蒼紫が言っているさなか、
「っ痛・・。」
と武尊は小さく呻き、地面に着けた足をさすった。
蒼紫はすぐに武尊の痛みの理由に気づいた。
「やはり転倒した際に捻じったな、大丈夫か。」
「ん・・軽い捻挫だと思う。大丈夫・・ほら。」
武尊は立ち上がって二、三歩歩いてみせた。
傷むが何とか歩けた武尊だった。
その様子を見ていた蒼紫は、
「武尊を背負ってきて良かった。歩いていれば日暮れまでにここまではたどり着かなかっただろう。ここはもう猪苗代だ。じき夕方になる、馬車を頼もう。」
と言った。
「え?馬車ってどこへ?猪苗代ならどこかに宿があったはず。今日はここに泊まろうと思ってたんだけど。」
武尊は宿があるのに蒼紫はどこへ行こうをするのか分からず首を傾げた。
すると蒼紫は、
「いや・・ここから会津寄りになるが良い温泉宿がある。」
と、武尊の思ってもいない事を言った。
「いや、その・・そこまでしなくても・・。」
そこまでしなくてもいいと、武尊は言おうとしたが温泉という言葉にぐっと魅かれた。
温泉に入りたいと先程まで思っていたばかりなのだ。
武尊の心にムズムズと温泉に対して期待感が急激に膨らんでいった。
お金も今なら懐にあるし、蒼紫に全額負担してもらわなくても折半すれば自分の気が済むと思うと自分でもちょっと嬉しさを隠せないと思いつつ、
「やっぱりそこに行こうか・・。」
と言うと蒼紫は少し目元を緩ませた。
「ああ、それがいい。そこの湯は打ち身や捻挫にも効くという。」
蒼紫はそれだけ言うと、二人は猪苗代の大きな通りを目指して歩いた。
歩きながら武尊は蒼紫のコートの裾が気になってしょうがなかった。
特に自分の靴が当たっていた所は泥だらけだ。
武尊が泥を払おうとすると払わなくていいと言われた。
「俺よりも武尊の方がすごいぞ。髪の毛まで泥だらけだ。宿でゆっくり汚れを落とすがいい。」
蒼紫に言われて自分の後頭部に手をやればガビガビと泥がついていた。
慌ててコートを脱いでよく見てみるとナップサックを含め背中から髪の毛まで泥まみれだった。
「あ・・ああ~。」
思わず落胆の声を出す武尊に蒼紫は、
「頭は痛くないか。多分滑った時に後頭部を打ち付けて気を失ったんじゃないか。」
と聞いた。
武尊は手で頭を探り膨らんでいる所を見つけた。
「あ、ここにたんこぶがある。やっぱり打ってたみたい。・・ちょっと考え事してたらうっかり滑っちゃった。」
「何を考えていたんだ。」
蒼紫に突っ込まれて武尊は思わず蒼紫から目を逸らした。
黙りこんだ武尊に蒼紫は、
「いいたくなければ深くは問わん、ただあの辺りは野盗がよく出る所だ。最初に通りかかったのが俺のようでよかった。」
蒼紫の言葉に武尊は固唾をのんだ。
気を失っていては何をされても無抵抗だ。
大事な刀やお金を取られては今までの苦労も水の泡・・と、武尊はハッとして財布を確認した。
「財布ある、よかった・・。」
「金を持っているのか。」
「うん・・ひと月働いた分だ、って斎藤さんがくれたの。」
「そうか・・。」
「ところで蒼紫はどうして会津へ?」
蒼紫は一呼吸置いて、
「武尊が京都へ帰る路銀がないと思い・・迎えに来た。」
と言った。
わざわざこんな遠くまで、しかもどうやって自分を見つけたのかと驚愕しながらも武尊は蒼紫に感謝した。
「ありがとう・・心配かけちゃったね。」
「いや・・。」
今度は蒼紫が武尊から目を逸らして道の向こうへ顔を向けた。
ただ武尊に会いたかっただけなのだ。
その気持ちを伝えられず蒼紫は遠く山を見つめた。
「蒼紫?」
急に余所を向かれて武尊はどうかしたのかと聞いた。
「馬車が来る。」
蒼紫が顔を向けた方向から少し経ってガラガラと荷台をひいた馬車が見えてきた。
「本当だ、すごい!馬車が気来た。」
荷物を運ぶ馬車だったが自分の恰好を見ればこれの方が気が気がひけなくていいと武尊は思った。
丁度会津へ行くというので蒼紫は御者と話をして途中まで荷台に乗せてもらうことになった。
「よかったね。」
荷台の後部で蒼紫の横に座った武尊はこれで一安心と蒼紫ににっこりした。
「嗚呼。」
京都にいた時には思い出せば切なくなる武尊の声が今はすぐ横で聞こえる。
蒼紫の心は水が染み込むように満たされていった。
武尊は金縛りにあったように指先一本動かせない。
(・・・自分は死んだのか?いったいどうやって・・。)
ぬかるみに滑った後に後頭部に目から火花が散るような痛みがあった事を武尊は思い出した。
だが、自分で身体が動かせないわりには微かに振動する身体。
しかも風を頬が流れてゆく感触を武尊は感じていた。
そして鼻腔には人肌ほどの暖かな何かの匂い・・。
(何だろう・・どこかで匂った事がある匂いなんだけど・・・。)
生暖かなその感覚は地獄に落ちたにしては妙に生々しいというか汗臭いというか・・と思っているうちに覚醒しそうだった武尊の意識は夢の世界へ。
不思議な事だが今度ははっきり意識があるようだと武尊は自分で自覚した。
今まで何度も見た何処までも続く暗闇の中、武尊は白い光る球を見つけた。
(あの光は・・・蒼紫?
・・・・取り巻いていた四つの光がない。)
武尊がそう思った瞬間、現実の世界へと意識が戻った。
はっとして武尊は目を開いた。
開いた武尊の瞳に周りの景色が流れるように映った。
えっ、と反射的に身体を起そうとするが何かに縛られているようで武尊の身体は動かなかった。
だがその武尊の動きで流れていた景色は止まり、
「気がついたか。」
と声がした。
「蒼紫!?本当に蒼紫?」
武尊はいるはずもない蒼紫の声に驚いて声の方を振り向くと明らかに見覚えのある髪と姿。
そこで武尊はどうやら自分は今まで蒼紫におぶられていた事を知った。
「え?・・ええっ?どうして?」
武尊は自分の状況と目の前の男が蒼紫であるという事が理解できないでいた。
蒼紫は武尊が気がついたのならと、武尊と自分を縛りつけていたタスキを外し武尊を背から下ろして背負った理由を述べた。
「いくら呼んでも起きない、かといってあのような場所で休ませる所もなかったしな。」
蒼紫が言っているさなか、
「っ痛・・。」
と武尊は小さく呻き、地面に着けた足をさすった。
蒼紫はすぐに武尊の痛みの理由に気づいた。
「やはり転倒した際に捻じったな、大丈夫か。」
「ん・・軽い捻挫だと思う。大丈夫・・ほら。」
武尊は立ち上がって二、三歩歩いてみせた。
傷むが何とか歩けた武尊だった。
その様子を見ていた蒼紫は、
「武尊を背負ってきて良かった。歩いていれば日暮れまでにここまではたどり着かなかっただろう。ここはもう猪苗代だ。じき夕方になる、馬車を頼もう。」
と言った。
「え?馬車ってどこへ?猪苗代ならどこかに宿があったはず。今日はここに泊まろうと思ってたんだけど。」
武尊は宿があるのに蒼紫はどこへ行こうをするのか分からず首を傾げた。
すると蒼紫は、
「いや・・ここから会津寄りになるが良い温泉宿がある。」
と、武尊の思ってもいない事を言った。
「いや、その・・そこまでしなくても・・。」
そこまでしなくてもいいと、武尊は言おうとしたが温泉という言葉にぐっと魅かれた。
温泉に入りたいと先程まで思っていたばかりなのだ。
武尊の心にムズムズと温泉に対して期待感が急激に膨らんでいった。
お金も今なら懐にあるし、蒼紫に全額負担してもらわなくても折半すれば自分の気が済むと思うと自分でもちょっと嬉しさを隠せないと思いつつ、
「やっぱりそこに行こうか・・。」
と言うと蒼紫は少し目元を緩ませた。
「ああ、それがいい。そこの湯は打ち身や捻挫にも効くという。」
蒼紫はそれだけ言うと、二人は猪苗代の大きな通りを目指して歩いた。
歩きながら武尊は蒼紫のコートの裾が気になってしょうがなかった。
特に自分の靴が当たっていた所は泥だらけだ。
武尊が泥を払おうとすると払わなくていいと言われた。
「俺よりも武尊の方がすごいぞ。髪の毛まで泥だらけだ。宿でゆっくり汚れを落とすがいい。」
蒼紫に言われて自分の後頭部に手をやればガビガビと泥がついていた。
慌ててコートを脱いでよく見てみるとナップサックを含め背中から髪の毛まで泥まみれだった。
「あ・・ああ~。」
思わず落胆の声を出す武尊に蒼紫は、
「頭は痛くないか。多分滑った時に後頭部を打ち付けて気を失ったんじゃないか。」
と聞いた。
武尊は手で頭を探り膨らんでいる所を見つけた。
「あ、ここにたんこぶがある。やっぱり打ってたみたい。・・ちょっと考え事してたらうっかり滑っちゃった。」
「何を考えていたんだ。」
蒼紫に突っ込まれて武尊は思わず蒼紫から目を逸らした。
黙りこんだ武尊に蒼紫は、
「いいたくなければ深くは問わん、ただあの辺りは野盗がよく出る所だ。最初に通りかかったのが俺のようでよかった。」
蒼紫の言葉に武尊は固唾をのんだ。
気を失っていては何をされても無抵抗だ。
大事な刀やお金を取られては今までの苦労も水の泡・・と、武尊はハッとして財布を確認した。
「財布ある、よかった・・。」
「金を持っているのか。」
「うん・・ひと月働いた分だ、って斎藤さんがくれたの。」
「そうか・・。」
「ところで蒼紫はどうして会津へ?」
蒼紫は一呼吸置いて、
「武尊が京都へ帰る路銀がないと思い・・迎えに来た。」
と言った。
わざわざこんな遠くまで、しかもどうやって自分を見つけたのかと驚愕しながらも武尊は蒼紫に感謝した。
「ありがとう・・心配かけちゃったね。」
「いや・・。」
今度は蒼紫が武尊から目を逸らして道の向こうへ顔を向けた。
ただ武尊に会いたかっただけなのだ。
その気持ちを伝えられず蒼紫は遠く山を見つめた。
「蒼紫?」
急に余所を向かれて武尊はどうかしたのかと聞いた。
「馬車が来る。」
蒼紫が顔を向けた方向から少し経ってガラガラと荷台をひいた馬車が見えてきた。
「本当だ、すごい!馬車が気来た。」
荷物を運ぶ馬車だったが自分の恰好を見ればこれの方が気が気がひけなくていいと武尊は思った。
丁度会津へ行くというので蒼紫は御者と話をして途中まで荷台に乗せてもらうことになった。
「よかったね。」
荷台の後部で蒼紫の横に座った武尊はこれで一安心と蒼紫ににっこりした。
「嗚呼。」
京都にいた時には思い出せば切なくなる武尊の声が今はすぐ横で聞こえる。
蒼紫の心は水が染み込むように満たされていった。