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177.母成峠を目指して (夢主・盛之輔・時尾・勉・恵・蒼紫)
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(武尊さん・・本当にもう会えないような別れ方。そんなことはないわよね、ね、武尊さん。)
時尾の胸の中を小さな不安という風が駆け抜けた。
* * * * * * *
武尊が会津を出発した日の翌日、昼前に一人の男が会津に着いた。
(会津には高荷恵がどこかにいるはずだ・・。)
蒼紫は武尊を見かけた者がいないかどうかを探ると同時に恵も探していた。
東京にいる間に武尊と恵の間に何か繋がりがあれば情報を得られるだろうと蒼紫は考えたからだ。
そして女医の方はすぐ手がかりがつかめた。
「先生、お先にお昼を済ませて来てください。」
「おお、いつもすまんね、恵君。」
渡部診療所では昼時も急患に備えて交代で診察室に待機する体制をとっていた。
恵は先生が診察室を出て行った後、窓を開け新鮮な空気を取り込んだ。
「あーあ、何だか最近肩がこるわねぇ~、やだわ、歳かしら。」
外の景色を見ながら両手を組んで伸びをし、診察室の椅子を元の位置に戻そうと窓に背を向けたとたんに、
「高荷恵。」
と不意に名前を呼ばた。
聞いたことのある声、けれどもまさかと思いながら恵がハッと振り向くとそこには蒼紫が立っていた。
居るはずのない男が目の前に現れて恵の心臓は一瞬止まった。
「御・・
、も・・もう、どうしてアンタはいつもそういう現れ方しか出来ないの!京都へ帰ったんじゃなかったの!」
恵は寿命が縮んだと言わんばかりに肩を震わせたが蒼紫はそんな事に構いはしない。
「武尊が会津に向かったと聞いた、知らないか。」
相変わらずこちらの用件を無視され恵はムッとしたが、この男はこういう男なのだと心を落ち着かせた。
「何故貴方がそんな事を聞くのよ。」
恵がそう答える事自体が【自分は武尊を知っている】という事だと蒼紫は見抜いた。
高荷恵とはそういう女なのだという事を蒼紫は掌握している。
蒼紫は無言でずいっと恵に一歩近づいた。
「な・・なによ・・。け・・剣さんがいないからって私を簡単に殺れると思ったら大間違いよ。」
こういう状況だと、志々雄真実と闘う為に神谷道場を去った剣心を何処だと言った蒼紫と状況が重なると恵は思った。
『喋らなければ殺す。』
その言葉が今の状況と重なって見えた。
あの時結果的に恵を助けることになった斎藤は現在北海道、ここに来られるはずはないと思った恵は、机に在った裁ちばさみをバッと握って蒼紫に刃の先を向けた。
「何をしている。」
蒼紫が不満そうに言った。
「だ・・だってまた『喋らないと殺す』とか言うんでしょ。」
恵は手を震わせながら気丈に振る舞った。
以前のように腰を抜かしてへたばっている場合ではないのだ、と。
そして武尊と約束したこと・・つまり薬の事は絶対に話すわけにいかないと。
恵がキッと蒼紫を睨んでいると蒼紫はため息を一つついた。
「勝手に想像するな。俺は手段と目的を選ぶ男だ。お前を殺して何の得になる・・武尊から縁を切られて終いだ。」
堂々と武尊の事を気にする蒼紫の言葉に恵は驚いた。
(もしかしてこの男まだ武尊を想って・・まさかその為に京都から武尊を追って来た・・とか?)
恵だって未だ剣心の事を忘れたわけじゃない。
心の中には今も剣心に対する敬愛の気持ちが満ちている。
だが愛した人から託された願い【医術で多くの人を救う】を叶えるために自分の人生を捧げようと誓い、焦れる気持ちは胸に秘めているのだ。
だが目の前のこの男は自分以上に【自分】という人間を客観的に見れるはずなのにと、恵は予想外の行動の蒼紫をただ目を大きくして見るばかり。
どうしちゃったのよ、と突っ込みたいのを我慢して恵は、
「武尊武尊って言うけど、あの子はどうしたのよ。」
と蒼紫に尋ねた。
もちろん【あの子】とは操の事。
縁の件で恵は操の蒼紫に対する気持ちもしっかり見ていた。
同じ御庭番同士、そっちの路線で事は運ぶと恵は思っていた。
「・・俺が何をどうしようとお前には関係ない。」
恵の言った【あの子】が誰を指しているのか蒼紫が気づかないわけがない。
「それはそうだけど・・そうね、私が口を出す問題じゃないわね。」
この男に自分が何を行っても無駄だろうということで恵は武尊がここへ来たことを話すことにした。
奥には先生もいる、先生に聞かれたらどうせ分かってしまうことだと恵は蒼紫に武尊が来た事実を伝えることにした。
「武尊は確かに昨日ここへ来たわ。来た理由は靴ずれ。会津に着いてすぐにかけこんだ診療所がたまたまここだったそうよ。私も武尊を見た時は驚いたけど。」
そう言って恵はふと考えた。
手当後飛び出して行った後、武尊は何処へ行ったのだろう。
あれから患者も来たので時尾の家に聞きに行くこともしなかった恵であったが、恵にとって盛之輔の話は気になるものであった。
「・・昨日か。」
蒼紫は恵の話を聞いてそう呟いた。
昨日会津に武尊が着いたというのなら東京を出たのは五日前、つまり五日で会津まで来たことになる。何をそんなに急いでいたのか・・。
海軍少尉との約束した日にはまだ日にちがあるというのにだ。
そして何の目的で会津に来たのか。
それが蒼紫にとって一番気になる事であった。
「おい。」
「ねぇ。」
蒼紫と恵は同時に声をかけた。
「・・何よ、いいわよ、お先にどうぞ。」
「・・武尊は五日で東京から会津に到着している。普通ならば七日ぐらいかかるところを何故そんなに急ぐ必要があったのか。」
「し・・知らないわよ。それより・・ねぇ、武尊って会津藩に関わり合いがあるの?」
蒼紫にとってそのような話は初耳だった。
だが恵がそう言い出したからには根拠があるはずだと蒼紫は考えた。
「何故そう思う。」
「実は武尊の手当が終わった直後に来た人が十年前に母成峠で武尊に助けられたと言ったわ。そして武尊はそれを聞いてここを飛び出した。・・何かあるわ。」
恵は時尾達のことは伏せてそう言った。
「十年前・・母成峠・・という事は会津戦争か。」
蒼紫は腕を組んで考えた。
「十年も経った今だがこの町に用事がないとすればそこかもしれんな。」
「行くの?・・母成峠へ。」
「他に手がかりがないのなら行くしかないだろう。今の武尊の様子ではそれほど早く歩けまい。すぐに追いつく。」
行き先を決めた蒼紫の目にはもう恵は映っていなかった。
「それで?武尊をどうするのよ。」
恵が片方の髪を耳にかけようと首を少し回した刹那、すでに蒼紫の姿はなかった。
また窓から出て行ったのだろう。
「もう、何でアンタはいつもそうなのよ!斎藤がいないからって武尊はアンタの手には落ちないわよ!」
半ばヤケになって恵は窓から叫んだのだった。
時尾の胸の中を小さな不安という風が駆け抜けた。
* * * * * * *
武尊が会津を出発した日の翌日、昼前に一人の男が会津に着いた。
(会津には高荷恵がどこかにいるはずだ・・。)
蒼紫は武尊を見かけた者がいないかどうかを探ると同時に恵も探していた。
東京にいる間に武尊と恵の間に何か繋がりがあれば情報を得られるだろうと蒼紫は考えたからだ。
そして女医の方はすぐ手がかりがつかめた。
「先生、お先にお昼を済ませて来てください。」
「おお、いつもすまんね、恵君。」
渡部診療所では昼時も急患に備えて交代で診察室に待機する体制をとっていた。
恵は先生が診察室を出て行った後、窓を開け新鮮な空気を取り込んだ。
「あーあ、何だか最近肩がこるわねぇ~、やだわ、歳かしら。」
外の景色を見ながら両手を組んで伸びをし、診察室の椅子を元の位置に戻そうと窓に背を向けたとたんに、
「高荷恵。」
と不意に名前を呼ばた。
聞いたことのある声、けれどもまさかと思いながら恵がハッと振り向くとそこには蒼紫が立っていた。
居るはずのない男が目の前に現れて恵の心臓は一瞬止まった。
「御・・
、も・・もう、どうしてアンタはいつもそういう現れ方しか出来ないの!京都へ帰ったんじゃなかったの!」
恵は寿命が縮んだと言わんばかりに肩を震わせたが蒼紫はそんな事に構いはしない。
「武尊が会津に向かったと聞いた、知らないか。」
相変わらずこちらの用件を無視され恵はムッとしたが、この男はこういう男なのだと心を落ち着かせた。
「何故貴方がそんな事を聞くのよ。」
恵がそう答える事自体が【自分は武尊を知っている】という事だと蒼紫は見抜いた。
高荷恵とはそういう女なのだという事を蒼紫は掌握している。
蒼紫は無言でずいっと恵に一歩近づいた。
「な・・なによ・・。け・・剣さんがいないからって私を簡単に殺れると思ったら大間違いよ。」
こういう状況だと、志々雄真実と闘う為に神谷道場を去った剣心を何処だと言った蒼紫と状況が重なると恵は思った。
『喋らなければ殺す。』
その言葉が今の状況と重なって見えた。
あの時結果的に恵を助けることになった斎藤は現在北海道、ここに来られるはずはないと思った恵は、机に在った裁ちばさみをバッと握って蒼紫に刃の先を向けた。
「何をしている。」
蒼紫が不満そうに言った。
「だ・・だってまた『喋らないと殺す』とか言うんでしょ。」
恵は手を震わせながら気丈に振る舞った。
以前のように腰を抜かしてへたばっている場合ではないのだ、と。
そして武尊と約束したこと・・つまり薬の事は絶対に話すわけにいかないと。
恵がキッと蒼紫を睨んでいると蒼紫はため息を一つついた。
「勝手に想像するな。俺は手段と目的を選ぶ男だ。お前を殺して何の得になる・・武尊から縁を切られて終いだ。」
堂々と武尊の事を気にする蒼紫の言葉に恵は驚いた。
(もしかしてこの男まだ武尊を想って・・まさかその為に京都から武尊を追って来た・・とか?)
恵だって未だ剣心の事を忘れたわけじゃない。
心の中には今も剣心に対する敬愛の気持ちが満ちている。
だが愛した人から託された願い【医術で多くの人を救う】を叶えるために自分の人生を捧げようと誓い、焦れる気持ちは胸に秘めているのだ。
だが目の前のこの男は自分以上に【自分】という人間を客観的に見れるはずなのにと、恵は予想外の行動の蒼紫をただ目を大きくして見るばかり。
どうしちゃったのよ、と突っ込みたいのを我慢して恵は、
「武尊武尊って言うけど、あの子はどうしたのよ。」
と蒼紫に尋ねた。
もちろん【あの子】とは操の事。
縁の件で恵は操の蒼紫に対する気持ちもしっかり見ていた。
同じ御庭番同士、そっちの路線で事は運ぶと恵は思っていた。
「・・俺が何をどうしようとお前には関係ない。」
恵の言った【あの子】が誰を指しているのか蒼紫が気づかないわけがない。
「それはそうだけど・・そうね、私が口を出す問題じゃないわね。」
この男に自分が何を行っても無駄だろうということで恵は武尊がここへ来たことを話すことにした。
奥には先生もいる、先生に聞かれたらどうせ分かってしまうことだと恵は蒼紫に武尊が来た事実を伝えることにした。
「武尊は確かに昨日ここへ来たわ。来た理由は靴ずれ。会津に着いてすぐにかけこんだ診療所がたまたまここだったそうよ。私も武尊を見た時は驚いたけど。」
そう言って恵はふと考えた。
手当後飛び出して行った後、武尊は何処へ行ったのだろう。
あれから患者も来たので時尾の家に聞きに行くこともしなかった恵であったが、恵にとって盛之輔の話は気になるものであった。
「・・昨日か。」
蒼紫は恵の話を聞いてそう呟いた。
昨日会津に武尊が着いたというのなら東京を出たのは五日前、つまり五日で会津まで来たことになる。何をそんなに急いでいたのか・・。
海軍少尉との約束した日にはまだ日にちがあるというのにだ。
そして何の目的で会津に来たのか。
それが蒼紫にとって一番気になる事であった。
「おい。」
「ねぇ。」
蒼紫と恵は同時に声をかけた。
「・・何よ、いいわよ、お先にどうぞ。」
「・・武尊は五日で東京から会津に到着している。普通ならば七日ぐらいかかるところを何故そんなに急ぐ必要があったのか。」
「し・・知らないわよ。それより・・ねぇ、武尊って会津藩に関わり合いがあるの?」
蒼紫にとってそのような話は初耳だった。
だが恵がそう言い出したからには根拠があるはずだと蒼紫は考えた。
「何故そう思う。」
「実は武尊の手当が終わった直後に来た人が十年前に母成峠で武尊に助けられたと言ったわ。そして武尊はそれを聞いてここを飛び出した。・・何かあるわ。」
恵は時尾達のことは伏せてそう言った。
「十年前・・母成峠・・という事は会津戦争か。」
蒼紫は腕を組んで考えた。
「十年も経った今だがこの町に用事がないとすればそこかもしれんな。」
「行くの?・・母成峠へ。」
「他に手がかりがないのなら行くしかないだろう。今の武尊の様子ではそれほど早く歩けまい。すぐに追いつく。」
行き先を決めた蒼紫の目にはもう恵は映っていなかった。
「それで?武尊をどうするのよ。」
恵が片方の髪を耳にかけようと首を少し回した刹那、すでに蒼紫の姿はなかった。
また窓から出て行ったのだろう。
「もう、何でアンタはいつもそうなのよ!斎藤がいないからって武尊はアンタの手には落ちないわよ!」
半ばヤケになって恵は窓から叫んだのだった。