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177.母成峠を目指して (夢主・盛之輔・時尾・勉・恵・蒼紫)
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盛之輔が先を歩き、その後ろを時尾が武尊をエスコートするように歩く。
武尊は盛之輔の後ろ姿を見て、まさかあの時助けた人が時尾の弟だという事に不思議さというか奇妙なつながりを感じた。
人生何がどうつながるのか、これほど不思議なものはないと武尊は感じていた。
武尊は周囲の景色を見回しながら歩いているうちに今日抱いた疑問がまた思い出されて時尾に尋ねた。
「ねぇ時尾さん、会津にはお城があったと思ったのですが・・今日私が会津に着いてからまだ一度もその姿を見ていないのですがどこにあるのでしょう。」
時尾は武尊の顔を見て少し辛そうに
「・・鶴ヶ城は明治七年に廃城となって今は石垣を残して取り壊されてしまいましたわ。あんなに立派なお城でしたのに。」
と言った。
「武尊さん、此処に立ってみて下さい。」
丁度辻の曲がり角に来た盛之輔はすぐ向こうの木が少し茂った辺りを指差した。
「あそこが外堀なんですよ。」
武尊がその方向を見るとそこには木と石垣のようなものが少し見えた。
(お城・・壊されたんだ。やっぱり明治政府に最後まで抵抗した勢力の象徴だからだったからなのかな・・でもテレビでこないだお城映ってたよ?あれれ。)
と、一瞬記憶を飛ばしていると時尾がこちらですよと手招いた。
はいと返事をして曲がり角から四件目に【高木】と書いた表札の家があった。
「もう着いた!」
思ったよりも近すぎたことに武尊が驚くと、
「でしょ。」
と、時尾がにっこりした。
「さあ、どうぞ。」
と、盛之輔が武尊を招き入れた。
そこは小さいがちゃんとした一軒家だった。
足音を立て賑やかに返って来たからだろうか、小さな竹刀を持った男の子が庭の方から出てきた。
「叔父上、母上、お帰りなさい。」
幼稚園に通うような小さな子ながらハキハキとした物言いに武尊は驚いた。
そしてハッと時尾の方を向くと時尾は頷いた。
「母上、お客様ですか?」
「ええ、父上の大事なお客様ですよ。粗相のないようにね。」
と言うと、
「ようこそいらっしゃいました。」
と、武尊に挨拶をして家の奥へと行ってしまった。
「あれが勉です。」
「何と言うか・・目元が時尾さんそっくりですね。」
可愛らしい男の子だと武尊は思わず微笑んだ。
「ええ、でも一日中竹刀を振り回してばっかりなのよ。」
「きっと藤田警部補みたいに将来は剣の達人になるんでしょうね。」
武尊は斎藤が息子の頭を撫でる子煩悩な父親な姿が見えるようだった。
「そうね。」
きっと時尾も武尊と同じ姿を見ていたのだろう、二人は顔を見合わせて笑った。
「さ、武尊さん。狭い家ですが上がって下さい。」
「すみません、お邪魔いたします。」
久しぶりに心から休まる気がすると武尊は通された客間の畳に座ってほっとした。
「武尊さん、今日はどのような御予定ですの?もしよかったらしばらくお泊りになってはいかがですか。」
と、時尾がお茶とお茶菓子を持って来た。
「いえ、おかまいなく。早く用事を済ませて東京に戻らないといけないのでお茶を頂いたら出発します。」
「まあ、そんなに早く・・。折角またお会い出来たというのに。」
残念そうに時尾はため息をついた。
「こちらに来たのはお兄様を探されての事ですか?」
時尾は以前藤田家の食事時に夫の転勤の話が出た際、武尊は夫と共に北海道へ行かずに兄を探しに放浪すると言った事を覚えていた。
「え。あ、・・はい。」
思わず時尾から直球を投げられ返答に武尊が困っていると盛之輔が女二人を連れて武尊の所へ来た。
「土岐さん、母と祖母です。」
盛之輔が武尊に紹介すると、二人は武尊に頭を畳につけてお礼を言った。
「その節は盛之輔を助けていただきまして何とお礼を申してよいのか・・。」
いきなりそのように礼を言われても面食らう武尊であった。
「ちょっと待って下さい。何の事ですか。盛之輔さんを助けたのは私ではありません。」
武尊は嘘をついた。
そうまでして嘘をつくのは十年前盛之輔に会った姿が今と変わらないと言われると語りたくない事まで触れる可能性があるからだ。
だが盛之輔はこう言った。
「人違いでも良いのです。今一度だけ母や祖母の気の済むようにさせてあげてください。」
「でも・・。」
と武尊が戸惑っていると盛之輔の母が、
「盛之輔が生きて帰って来てくれたお蔭で高木家が存続出来たのです。私達は十年前に盛之輔から助けて頂いたという話を聞いてからずっとその方にお礼を申し上げたいと思っていたのです。」
と言った。
何だか難しい話になって来たと武尊は思った。
斎藤がこの場にいたらならば後から詳しい事情も聞けたと思う武尊だったが昔の家の事を言われてもピンと来なかった。
ただ思ったのは家を継ぐのはやっぱり男何だなぁという事。
「父は禁門の変で戦死しました。その為私は十一で高木家の家督を継ぎました。」
「え、十一!」
思わず武尊は驚いて声を出した。
「ええ、ですから母成峠で私が死んでいたら高木家は養子をもらわなければなりませんでした。と言っても姉さんは私なんかよりずっと立派な義兄さんに嫁いだから義兄さんが高木家を継いでも良いと思ってますが。」
「盛之輔!」
時尾の叱咤の声が飛んだ。
初めて見た時尾の厳しい声に武尊はその場に固まってしまったほどだった。
「すみません姉さん、分かってます。そんなつもりで言ったわけではありません。」
盛之輔は時尾に謝り武尊に向かって、
「とにかく我が家はこんな事情があるんです。父の分まで祖母や母、姉夫婦の為、高木家の為私は頑張らなければなりません。それが出来るのも命を助けて頂いたお蔭なのです。」
と言った。
未来に向かって強く生きようとする人の心が武尊には眩しかった。
そして羨ましかった。
「・・きっと盛之輔さんを助けた人も喜んでいるでしょうね。」
「そうだとしたら私も嬉しいです。」
盛之輔は目元優しく武尊にそう答えると、
「それでは私はそろそろ行かねばなりませんので失礼いたします。・・土岐さん、私が会津に戻って来ていて貴方に会えたという事は神様が引き合わせてくれたとしか思えません。長年胸につかえていた思いを伝えられてよかったです。」
と立ち上がろうとした。
「あ、ちょっと待ってください。あと5分だけ。・・あの・・、私これから母成峠へ行きたいのですが道を教えて頂けませんか。」
と、武尊は筆記用具を取り出した。
「いいですよ。」
自分を助けたのは間違いなくこの人だと盛之輔は確信した。
だがそれは自分の胸の内に留めておくべきだと盛之輔は武尊の申し出を心よく承諾して道を詳しく武尊に話し、武尊はそれを書きとめた。
盛之輔は仙台へ帰って行った。
仕事でたまたま一昨日から会津に来ていたという事だったのだ。
「盛之輔は検察官なの。」
と時尾は武尊に説明した。
各地の裁判所を回っているそうだ。
武尊もまた盛之輔との出会いを人生の不思議な接点だと思わざるを得なかった。
後一日会津に着くのが遅かったら、いや、まさに今日のあの時間に診療所に行かなければ出会う事はなかったであろう。
そして武尊もまた自分が助けた人が今も健在に生きていると知る事はなかっただろう。
武尊は母成峠への道筋をしっかりと書きとめた事だしと出発しようとすると、時尾に少しだけ待ってと言われた。
時尾もあえて武尊を引き留めようとはしなかった。
縁側で待っていた武尊に時尾が手渡したものは竹の皮に包まれたおにぎり。
「武尊さん、先を急がれるということで何もありませんがせめてこれをお持ちになって下さい。そして道中どうかお気をつけて。母成峠に行くまでに日が暮れてしまいますから猪苗代でお宿を取った方がいいと思いますよ。」
「ありがとうございます。・・時尾さんもどうかお元気で。」
武尊はいつも気を的確に気を聞かせてくれる時尾に今までの全てに感謝をして微笑んだ。
「そんな言い方を・・なさらないで下さい。何だかもう会えないみたいな感じじゃないですか。」
今回用が済んだら武尊はもう会津へ来ることはないだろう、とそう思っていた。
時尾に会うのも、一に会うのも、もう終わりにしよう、それが自分のけじめだと武尊はそう思った。
それでも時尾には感謝でいっぱいで武尊は時尾を抱きしめた。
「時尾さん、いろいろありがとう・・・っ痛てーーー!」
バシっといい音が響いた。
いいムードだったのにと、武尊は悲鳴を上げて後ろを振り向いた。
そこには小さな竹刀を持った勉の姿。
「母上に何をする!父上に言いつけるぞ!」
武尊はお尻を竹刀で叩かれたのだった。
「違うのよ勉、武尊さんは・・。」
と言いかけた時尾を武尊は制した。
「いや、いいんです。男物の洋服を着てれば間違われても仕方がないです・・イテテ。」
と、武尊は笑ってお尻を押さえながら勉の顔を見ると可愛い顔の中にも正義感あふれる強い意志がみえた。
「うんうん、さすが藤田警部補の血を引いてる・・いい剣筋。藤田警部補が戻って来るまでこの家を頼んだよ。」
そう言って武尊は勉の頭を撫でた。
勉は何か言いたそうだったが黙って武尊を見上げていた。
「ふふ・・。」
武尊は勉の頭から手を放し、おにぎりをナップサックに入れると、
「それでは時尾さん、勉君さようなら。」
と、別れの挨拶をして会津を後にした。
武尊は盛之輔の後ろ姿を見て、まさかあの時助けた人が時尾の弟だという事に不思議さというか奇妙なつながりを感じた。
人生何がどうつながるのか、これほど不思議なものはないと武尊は感じていた。
武尊は周囲の景色を見回しながら歩いているうちに今日抱いた疑問がまた思い出されて時尾に尋ねた。
「ねぇ時尾さん、会津にはお城があったと思ったのですが・・今日私が会津に着いてからまだ一度もその姿を見ていないのですがどこにあるのでしょう。」
時尾は武尊の顔を見て少し辛そうに
「・・鶴ヶ城は明治七年に廃城となって今は石垣を残して取り壊されてしまいましたわ。あんなに立派なお城でしたのに。」
と言った。
「武尊さん、此処に立ってみて下さい。」
丁度辻の曲がり角に来た盛之輔はすぐ向こうの木が少し茂った辺りを指差した。
「あそこが外堀なんですよ。」
武尊がその方向を見るとそこには木と石垣のようなものが少し見えた。
(お城・・壊されたんだ。やっぱり明治政府に最後まで抵抗した勢力の象徴だからだったからなのかな・・でもテレビでこないだお城映ってたよ?あれれ。)
と、一瞬記憶を飛ばしていると時尾がこちらですよと手招いた。
はいと返事をして曲がり角から四件目に【高木】と書いた表札の家があった。
「もう着いた!」
思ったよりも近すぎたことに武尊が驚くと、
「でしょ。」
と、時尾がにっこりした。
「さあ、どうぞ。」
と、盛之輔が武尊を招き入れた。
そこは小さいがちゃんとした一軒家だった。
足音を立て賑やかに返って来たからだろうか、小さな竹刀を持った男の子が庭の方から出てきた。
「叔父上、母上、お帰りなさい。」
幼稚園に通うような小さな子ながらハキハキとした物言いに武尊は驚いた。
そしてハッと時尾の方を向くと時尾は頷いた。
「母上、お客様ですか?」
「ええ、父上の大事なお客様ですよ。粗相のないようにね。」
と言うと、
「ようこそいらっしゃいました。」
と、武尊に挨拶をして家の奥へと行ってしまった。
「あれが勉です。」
「何と言うか・・目元が時尾さんそっくりですね。」
可愛らしい男の子だと武尊は思わず微笑んだ。
「ええ、でも一日中竹刀を振り回してばっかりなのよ。」
「きっと藤田警部補みたいに将来は剣の達人になるんでしょうね。」
武尊は斎藤が息子の頭を撫でる子煩悩な父親な姿が見えるようだった。
「そうね。」
きっと時尾も武尊と同じ姿を見ていたのだろう、二人は顔を見合わせて笑った。
「さ、武尊さん。狭い家ですが上がって下さい。」
「すみません、お邪魔いたします。」
久しぶりに心から休まる気がすると武尊は通された客間の畳に座ってほっとした。
「武尊さん、今日はどのような御予定ですの?もしよかったらしばらくお泊りになってはいかがですか。」
と、時尾がお茶とお茶菓子を持って来た。
「いえ、おかまいなく。早く用事を済ませて東京に戻らないといけないのでお茶を頂いたら出発します。」
「まあ、そんなに早く・・。折角またお会い出来たというのに。」
残念そうに時尾はため息をついた。
「こちらに来たのはお兄様を探されての事ですか?」
時尾は以前藤田家の食事時に夫の転勤の話が出た際、武尊は夫と共に北海道へ行かずに兄を探しに放浪すると言った事を覚えていた。
「え。あ、・・はい。」
思わず時尾から直球を投げられ返答に武尊が困っていると盛之輔が女二人を連れて武尊の所へ来た。
「土岐さん、母と祖母です。」
盛之輔が武尊に紹介すると、二人は武尊に頭を畳につけてお礼を言った。
「その節は盛之輔を助けていただきまして何とお礼を申してよいのか・・。」
いきなりそのように礼を言われても面食らう武尊であった。
「ちょっと待って下さい。何の事ですか。盛之輔さんを助けたのは私ではありません。」
武尊は嘘をついた。
そうまでして嘘をつくのは十年前盛之輔に会った姿が今と変わらないと言われると語りたくない事まで触れる可能性があるからだ。
だが盛之輔はこう言った。
「人違いでも良いのです。今一度だけ母や祖母の気の済むようにさせてあげてください。」
「でも・・。」
と武尊が戸惑っていると盛之輔の母が、
「盛之輔が生きて帰って来てくれたお蔭で高木家が存続出来たのです。私達は十年前に盛之輔から助けて頂いたという話を聞いてからずっとその方にお礼を申し上げたいと思っていたのです。」
と言った。
何だか難しい話になって来たと武尊は思った。
斎藤がこの場にいたらならば後から詳しい事情も聞けたと思う武尊だったが昔の家の事を言われてもピンと来なかった。
ただ思ったのは家を継ぐのはやっぱり男何だなぁという事。
「父は禁門の変で戦死しました。その為私は十一で高木家の家督を継ぎました。」
「え、十一!」
思わず武尊は驚いて声を出した。
「ええ、ですから母成峠で私が死んでいたら高木家は養子をもらわなければなりませんでした。と言っても姉さんは私なんかよりずっと立派な義兄さんに嫁いだから義兄さんが高木家を継いでも良いと思ってますが。」
「盛之輔!」
時尾の叱咤の声が飛んだ。
初めて見た時尾の厳しい声に武尊はその場に固まってしまったほどだった。
「すみません姉さん、分かってます。そんなつもりで言ったわけではありません。」
盛之輔は時尾に謝り武尊に向かって、
「とにかく我が家はこんな事情があるんです。父の分まで祖母や母、姉夫婦の為、高木家の為私は頑張らなければなりません。それが出来るのも命を助けて頂いたお蔭なのです。」
と言った。
未来に向かって強く生きようとする人の心が武尊には眩しかった。
そして羨ましかった。
「・・きっと盛之輔さんを助けた人も喜んでいるでしょうね。」
「そうだとしたら私も嬉しいです。」
盛之輔は目元優しく武尊にそう答えると、
「それでは私はそろそろ行かねばなりませんので失礼いたします。・・土岐さん、私が会津に戻って来ていて貴方に会えたという事は神様が引き合わせてくれたとしか思えません。長年胸につかえていた思いを伝えられてよかったです。」
と立ち上がろうとした。
「あ、ちょっと待ってください。あと5分だけ。・・あの・・、私これから母成峠へ行きたいのですが道を教えて頂けませんか。」
と、武尊は筆記用具を取り出した。
「いいですよ。」
自分を助けたのは間違いなくこの人だと盛之輔は確信した。
だがそれは自分の胸の内に留めておくべきだと盛之輔は武尊の申し出を心よく承諾して道を詳しく武尊に話し、武尊はそれを書きとめた。
盛之輔は仙台へ帰って行った。
仕事でたまたま一昨日から会津に来ていたという事だったのだ。
「盛之輔は検察官なの。」
と時尾は武尊に説明した。
各地の裁判所を回っているそうだ。
武尊もまた盛之輔との出会いを人生の不思議な接点だと思わざるを得なかった。
後一日会津に着くのが遅かったら、いや、まさに今日のあの時間に診療所に行かなければ出会う事はなかったであろう。
そして武尊もまた自分が助けた人が今も健在に生きていると知る事はなかっただろう。
武尊は母成峠への道筋をしっかりと書きとめた事だしと出発しようとすると、時尾に少しだけ待ってと言われた。
時尾もあえて武尊を引き留めようとはしなかった。
縁側で待っていた武尊に時尾が手渡したものは竹の皮に包まれたおにぎり。
「武尊さん、先を急がれるということで何もありませんがせめてこれをお持ちになって下さい。そして道中どうかお気をつけて。母成峠に行くまでに日が暮れてしまいますから猪苗代でお宿を取った方がいいと思いますよ。」
「ありがとうございます。・・時尾さんもどうかお元気で。」
武尊はいつも気を的確に気を聞かせてくれる時尾に今までの全てに感謝をして微笑んだ。
「そんな言い方を・・なさらないで下さい。何だかもう会えないみたいな感じじゃないですか。」
今回用が済んだら武尊はもう会津へ来ることはないだろう、とそう思っていた。
時尾に会うのも、一に会うのも、もう終わりにしよう、それが自分のけじめだと武尊はそう思った。
それでも時尾には感謝でいっぱいで武尊は時尾を抱きしめた。
「時尾さん、いろいろありがとう・・・っ痛てーーー!」
バシっといい音が響いた。
いいムードだったのにと、武尊は悲鳴を上げて後ろを振り向いた。
そこには小さな竹刀を持った勉の姿。
「母上に何をする!父上に言いつけるぞ!」
武尊はお尻を竹刀で叩かれたのだった。
「違うのよ勉、武尊さんは・・。」
と言いかけた時尾を武尊は制した。
「いや、いいんです。男物の洋服を着てれば間違われても仕方がないです・・イテテ。」
と、武尊は笑ってお尻を押さえながら勉の顔を見ると可愛い顔の中にも正義感あふれる強い意志がみえた。
「うんうん、さすが藤田警部補の血を引いてる・・いい剣筋。藤田警部補が戻って来るまでこの家を頼んだよ。」
そう言って武尊は勉の頭を撫でた。
勉は何か言いたそうだったが黙って武尊を見上げていた。
「ふふ・・。」
武尊は勉の頭から手を放し、おにぎりをナップサックに入れると、
「それでは時尾さん、勉君さようなら。」
と、別れの挨拶をして会津を後にした。