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174.会津へ (海軍少尉・夢主・海軍卿・弥彦・薫・剣心・ごうつくばばあ・署長・鯨波)
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「話は聞いたよ。よく来てくれた。」
海軍卿、川村 純義の言葉はねぎらいの気持ちが入っているような印象で武尊は緊張が少し解けた。
「いえ・・。」
武尊は短く返事をして海軍卿を観察した。
カツカツと靴音を響かせながら海軍卿は窓際へ向い外を見つめた。
窓の外は美しい秋晴れの空。
「なあ、土岐君、国の強さとはなんだと思う。」
海軍卿はいきなり武尊に尋ねた。
「え・・・・・・・【人】ですか?」
武尊は難しい質問に面食らいながらもそう答えた。
「人・・そうだな、人の資質も大事だ。だが君も知ってのとおり我が国が開国して二十年あまり、まだまだ我が国は世界の列強に比べて貧弱だ。大国の清でさえ今や見る目もない。人として日本民族は他国に劣る所は一つもないが今どこかの国と戦争になれば我が国は必ず敗北する。それは何故か。」
川村海軍卿再び武尊に向かって問うがごとく話し、そのまま自ら話を続けた。
「それは軍事力が弱いからだ。日本は開国という施策を取ってはいるが諸外国と対等かと言えばそうではない。関税自主権もなければ治外法権といって我が国で犯罪を犯した外国人を裁く事さえできない。つまりは列強のいいなりだ。この不平等な関係を一刻も早く解決しなければ我が国は真の意味で諸国と対等にはなれん。いや・・施策をここで君に説いてもしかたあるまい。山本少尉。」
海軍卿が山本少尉を呼ぶと少尉は部屋の片隅に置いてあった布が掛けてあるお盆を取って持って来た。
海軍卿はその布を取ると、お盆の上には拳銃が一丁置いてあった。
「手に取って見たまえ。弾は入っておらんよ。」
と海軍卿が武尊にそう言ったので武尊はそれを手に取ってみた。
この間警視庁で借りたのとはちょっと違う銃。
(全体的に大きくなっているな・・44口径か・・)
威力でいえばこちらの方の上だと武尊はそう思いながら拳銃をくまなくみていると【S&W】の刻印があった。
武尊が一通り銃を見終わって顔をあげるのを確認して海軍卿が武尊に尋ねた。
「どうかね、その銃は。」
「警視庁にあるやつよりもいいものだとは思います・・。」
武尊は木製の握把の曲線部分を撫でながらそう答えた。
「ほう、分かるかね。」
海軍卿は愉快そうに驚いた。
「少しは・・。」
武尊は何のためにこの拳銃を見せているのだろうと海軍卿の顔色を伺いながら答える。
海軍卿は武尊の疑惑の視線を感じて、
「では本題に入ろう。山本少尉、この拳銃について説明を。」
と命じた。
「はっ。これは警視庁で採用されてるスミス&ウエッソン社の二型の後継の三型と言われる拳銃であり、海軍の制式拳銃であります。我海軍ではこれを【壱番型元折式拳銃】と呼称しております。」
山本少尉がここで説明を終えると海軍卿は更に話を進めるように山本に促した。
「この【壱番型元折式拳銃】はS&W社の三型の露西亜(ロシア)改良型で我が国はこれを露西亜から輸入しております。ですがまだまだ必要数が足らず、今回露西亜に大量発注したところ土耳古(トルコ)も同じく大量発注しているとのこと。そこで露西亜は酔狂にも我が国と土耳古の代表がこの拳銃で試合をして勝った方へ輸出するということであります。」
山本少尉は説明を終わると海軍卿に敬礼をして直立不動の姿勢に戻った。
「だから腕のいい人を探している・・というわけですか。」
「その通りだ。最新の装備をそろえることは強い国作りにはかかせん。たとえそれがこのような個人装備の小さなものであってもな。山本との勝負受けてくれるな。」
「・・・・。」
武尊は拳銃を片手に俯いた。
武尊は当初この話を受ける気はなかった。
自分が歴史に関わるなんてもってのほか、そう武尊は思っていた。
だが今の海軍卿の【最新の装備】という言葉で武尊は一人の男を思い出してしまった。
能力はあるのにその使い方を間違えた為に未だ狭く暗い留置所に置かれたままの彼を。
武尊は彼をなんとかしてやりたかった。
武尊は決意を決め海軍卿を見た。
「海軍卿。」
「何だ。」
「海軍卿は強い国作りを目指しているんですよね。」
「そうだ。」
「では・・・私が本気で山本少尉と勝負をして勝ったら聞いて欲しい事があります。きっとそれは海軍にとって損にはならないはず。」
武尊はゴトっと拳銃をお盆に戻すとその話の内容を海軍卿に話した。
そして海軍卿も武尊の話に頷いたのだった。
その後、海軍兵学校で行われた二人の拳銃の勝負は武尊の圧勝だった。
山本少尉は武尊の腕前に度胆を抜かれてすっかり感心していた。
そして、今後の予定を武尊に説明した。
「土岐殿、露西亜の船が着くのは来月(十一月)の十日だ。その日の朝九時に海軍兵学校へ来てくれ。その時また詳しい事を説明しよう。」
「わかった・・。でも山本少尉の腕でも十分いけると思いますよ。」
「謙遜するな、実力の違いっていうのを思い知ったよ。」
ハハハと照れ笑いする海軍少尉を武尊は目を少し丸くして見た。
(渋い男の人が笑うのって・・なんかいいな。)
武尊は築地からの帰り道、自分の親しい人達の笑顔を思い浮かべながら歩いた。
比古の得意げな笑顔、・・斎藤の慈しみの瞳持った優しい微笑み、・・・無言ではあるが口元に微笑を浮かべる蒼紫。
(みんな・・元気にしてるかなぁ・・・。)
藤田家へ戻る間、ずっと三人のいろいろな表情が武尊の胸を埋め尽くした。
(答え・・私の生きる答え・・。ううん、まだはっきりは分からない。ただ、比古さんの所へ帰る前に十六夜丸の事がもっと分かればいいんだけど・・。手がかりはないけど、会津に行けば何か痕跡が残っているかもしれない・・。それに恵さんに預けた薬も回収しないといけないし。)
武尊は藤田家へ戻ってからこれからやるべき事を考えると頭がいっぱいになって、ウンザリしていた馬糞もあまり気にせず庭にさっさと埋めた。
そして手荷物をすべて持ち戸締りをした。
振り返ると藤田と書かれた表札が懐かしい。
「一・・・。」
想うだけで切ない気持ちがこみ上げる。
だけど一とは区切りがついたのだと武尊は自分に気合を入れた。
「よっし!いよいよ会津に行けるぞ!東京に戻って来なくちゃいけないからのんびりもしてられないしね。行くぞー!」
と、会津へと旅立った。
秋の空は天高く武尊を見守っていた。
海軍卿、川村 純義の言葉はねぎらいの気持ちが入っているような印象で武尊は緊張が少し解けた。
「いえ・・。」
武尊は短く返事をして海軍卿を観察した。
カツカツと靴音を響かせながら海軍卿は窓際へ向い外を見つめた。
窓の外は美しい秋晴れの空。
「なあ、土岐君、国の強さとはなんだと思う。」
海軍卿はいきなり武尊に尋ねた。
「え・・・・・・・【人】ですか?」
武尊は難しい質問に面食らいながらもそう答えた。
「人・・そうだな、人の資質も大事だ。だが君も知ってのとおり我が国が開国して二十年あまり、まだまだ我が国は世界の列強に比べて貧弱だ。大国の清でさえ今や見る目もない。人として日本民族は他国に劣る所は一つもないが今どこかの国と戦争になれば我が国は必ず敗北する。それは何故か。」
川村海軍卿再び武尊に向かって問うがごとく話し、そのまま自ら話を続けた。
「それは軍事力が弱いからだ。日本は開国という施策を取ってはいるが諸外国と対等かと言えばそうではない。関税自主権もなければ治外法権といって我が国で犯罪を犯した外国人を裁く事さえできない。つまりは列強のいいなりだ。この不平等な関係を一刻も早く解決しなければ我が国は真の意味で諸国と対等にはなれん。いや・・施策をここで君に説いてもしかたあるまい。山本少尉。」
海軍卿が山本少尉を呼ぶと少尉は部屋の片隅に置いてあった布が掛けてあるお盆を取って持って来た。
海軍卿はその布を取ると、お盆の上には拳銃が一丁置いてあった。
「手に取って見たまえ。弾は入っておらんよ。」
と海軍卿が武尊にそう言ったので武尊はそれを手に取ってみた。
この間警視庁で借りたのとはちょっと違う銃。
(全体的に大きくなっているな・・44口径か・・)
威力でいえばこちらの方の上だと武尊はそう思いながら拳銃をくまなくみていると【S&W】の刻印があった。
武尊が一通り銃を見終わって顔をあげるのを確認して海軍卿が武尊に尋ねた。
「どうかね、その銃は。」
「警視庁にあるやつよりもいいものだとは思います・・。」
武尊は木製の握把の曲線部分を撫でながらそう答えた。
「ほう、分かるかね。」
海軍卿は愉快そうに驚いた。
「少しは・・。」
武尊は何のためにこの拳銃を見せているのだろうと海軍卿の顔色を伺いながら答える。
海軍卿は武尊の疑惑の視線を感じて、
「では本題に入ろう。山本少尉、この拳銃について説明を。」
と命じた。
「はっ。これは警視庁で採用されてるスミス&ウエッソン社の二型の後継の三型と言われる拳銃であり、海軍の制式拳銃であります。我海軍ではこれを【壱番型元折式拳銃】と呼称しております。」
山本少尉がここで説明を終えると海軍卿は更に話を進めるように山本に促した。
「この【壱番型元折式拳銃】はS&W社の三型の露西亜(ロシア)改良型で我が国はこれを露西亜から輸入しております。ですがまだまだ必要数が足らず、今回露西亜に大量発注したところ土耳古(トルコ)も同じく大量発注しているとのこと。そこで露西亜は酔狂にも我が国と土耳古の代表がこの拳銃で試合をして勝った方へ輸出するということであります。」
山本少尉は説明を終わると海軍卿に敬礼をして直立不動の姿勢に戻った。
「だから腕のいい人を探している・・というわけですか。」
「その通りだ。最新の装備をそろえることは強い国作りにはかかせん。たとえそれがこのような個人装備の小さなものであってもな。山本との勝負受けてくれるな。」
「・・・・。」
武尊は拳銃を片手に俯いた。
武尊は当初この話を受ける気はなかった。
自分が歴史に関わるなんてもってのほか、そう武尊は思っていた。
だが今の海軍卿の【最新の装備】という言葉で武尊は一人の男を思い出してしまった。
能力はあるのにその使い方を間違えた為に未だ狭く暗い留置所に置かれたままの彼を。
武尊は彼をなんとかしてやりたかった。
武尊は決意を決め海軍卿を見た。
「海軍卿。」
「何だ。」
「海軍卿は強い国作りを目指しているんですよね。」
「そうだ。」
「では・・・私が本気で山本少尉と勝負をして勝ったら聞いて欲しい事があります。きっとそれは海軍にとって損にはならないはず。」
武尊はゴトっと拳銃をお盆に戻すとその話の内容を海軍卿に話した。
そして海軍卿も武尊の話に頷いたのだった。
その後、海軍兵学校で行われた二人の拳銃の勝負は武尊の圧勝だった。
山本少尉は武尊の腕前に度胆を抜かれてすっかり感心していた。
そして、今後の予定を武尊に説明した。
「土岐殿、露西亜の船が着くのは来月(十一月)の十日だ。その日の朝九時に海軍兵学校へ来てくれ。その時また詳しい事を説明しよう。」
「わかった・・。でも山本少尉の腕でも十分いけると思いますよ。」
「謙遜するな、実力の違いっていうのを思い知ったよ。」
ハハハと照れ笑いする海軍少尉を武尊は目を少し丸くして見た。
(渋い男の人が笑うのって・・なんかいいな。)
武尊は築地からの帰り道、自分の親しい人達の笑顔を思い浮かべながら歩いた。
比古の得意げな笑顔、・・斎藤の慈しみの瞳持った優しい微笑み、・・・無言ではあるが口元に微笑を浮かべる蒼紫。
(みんな・・元気にしてるかなぁ・・・。)
藤田家へ戻る間、ずっと三人のいろいろな表情が武尊の胸を埋め尽くした。
(答え・・私の生きる答え・・。ううん、まだはっきりは分からない。ただ、比古さんの所へ帰る前に十六夜丸の事がもっと分かればいいんだけど・・。手がかりはないけど、会津に行けば何か痕跡が残っているかもしれない・・。それに恵さんに預けた薬も回収しないといけないし。)
武尊は藤田家へ戻ってからこれからやるべき事を考えると頭がいっぱいになって、ウンザリしていた馬糞もあまり気にせず庭にさっさと埋めた。
そして手荷物をすべて持ち戸締りをした。
振り返ると藤田と書かれた表札が懐かしい。
「一・・・。」
想うだけで切ない気持ちがこみ上げる。
だけど一とは区切りがついたのだと武尊は自分に気合を入れた。
「よっし!いよいよ会津に行けるぞ!東京に戻って来なくちゃいけないからのんびりもしてられないしね。行くぞー!」
と、会津へと旅立った。
秋の空は天高く武尊を見守っていた。