そんな妄想と心ここにあらずの状態で武尊が横浜駅に着いた時、見た事のある人物が目に入った。



（あれ・・？かふぇおじさんだ。）



昨日教会であったオルガンひき。



もとはと言えば夜会で楽団の指揮をしていた音楽家、そして築地の外国人居留区をうろついていた武尊にコーヒーを飲ませてくれた人だった。



なので武尊はそのおじさん（と言っても外国人の老人であるが）を【かふぇおじさん】と自分の中で呼んでいた。



武尊がそのかふぇおじさんを見ていると向うも武尊の方に振り向いた時に目があった。



「オウ、タケル、グウゼンデスネ！」



と嬉しそうな顔で武尊の方へ近づいてきた。



しかしかふぇおじさんは武尊の前で悲しい顔をして武尊に言った。



「アナタノダイジナヒト、サヨナラシマシタカ。ダイジョウブデスカ？」



武尊は何故そんなことを知っているのかと驚いたが、



（あっ、そうか。マフラー買う時にその理由を言ったんだっけ。）



と、自分の言動を思い出し、



「え、ええ・・・大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」



と、答えた。



「イエイエ。トコロデ　ワタシコレカラ　ツキジニカエル。アナタモデスカ？ゴイッショイカガデスカ。」



「ええ・・まあ・・。」



今は一人でいたいと説明するのも面倒な気分だったので武尊は適当に同行してもいいかなと思った。



（どうせ同じ汽車の中だし、さっさと寝たふりしておけば大して影響はないだろう。）



そうして武尊とかふぇおじさんは汽車の中で向かい合わせで座った。



窓際に座った武尊は少しだけ外の景色を見た後、窓枠に肘をついて寝たふりをすることにした。



ところが随分と心が疲れていたのか、列車の揺れが心地よくすぐさま本当に眠りの世界に入っていった。



その様子をじっと見ていたかふぇおじさんだったが、しばらく武尊を見た後外の景色を遠い目で見つめていた。