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172.翁心親心 (操・翁・お増・蒼紫・黒・漬物屋)
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私達はあれから五日かけて京に戻った。
蒼紫様が事前に手紙を翁に出していたようで、般若君達の供養は手筈よく行われた。
東京へは薫さんの頼みで日記帳を持って行ったことから始まっていろいろ大変だったけど、私としては蒼紫様とずっと一緒にいることが出来て充実した日々だった。
志々雄真実のアジトから帰って来てからの蒼紫様の様子がずっと続いたらどうしようかと思っていたけれど、蒼紫様はやっぱり昔の蒼紫様で、この京都の秋空の下、何処か一緒にお出かけしたいな、なんて思ったりするわけで・・・・。
*******
巻町操は縁側で足をぶらつかせながら空を見ていた。
そこへ日課の掃除が終わった翁がやって来た。
「これ、操。」
「なあに、爺や。」
「いつまで旅の気分を引きずっとるんじゃい。蒼紫が帰って来た今、もうお前が家を飛び出すことも無かろう。お増やお近の手伝いでもしたらどうじゃ。」
「わかってるてば。」
(分かっておればここでのんびり油を売っとる場合ではないんじゃがのぅ。)
肝心な所はいつまで経っても成長しないと翁がため息をついていると、そこへお増が翁にお茶をもってやって来た。
「翁、お庭のお手入れお疲れ様でした。お茶でもどうそ。」
「おお、お増、すまんのう。」
翁は湯呑の蓋を取ってずずっ~っとお茶をすすった。
「うむ、汗を少しかいた後の梅昆布茶はうまいのぅ。流石お増じゃ。」
「いえいえ。あまり無理をしないで下さいね、翁。もういい年なんですから。」
ついこの前まで瀕死の重傷だった翁をお増は心配していた。
「何、お主達とは鍛え方が違うんじゃ!フン、見よこの筋肉を!」
と、翁は腕まくりをして腕の筋肉を披露したが操もお増も冷めた目で翁を見ていた。
「また始まったわ、翁の若さ自慢。」
「爺やの骨すじばった腕見ても面白くなーい。」
「なっ!」
手塩にかけて育てた操にまでそのような事を言われて翁はガーンとショックを受け、しょぼしょぼとお茶を飲みだした。
「もう、翁ったらわざとらしく落ち込まないで下さいよ。そう言えば朝、蒼紫様のお部屋にお茶をお持ちしたんですけどね、先ほどさげに行ったら一口もお飲みになってなかったんですよ。」
「ん?蒼紫は部屋で何をしとったんじゃ?」
「いつものようにずっと本を読んでいらっしゃいましたが・・。」
「ふむ、般若達の葬儀の時はなにやらふっきれた様子じゃったが・・ぼちぼち蒼紫にも葵屋の仕事を覚えてもらわんといかんし。どれ、ちょっと様子を見に行くか。」
翁はリボンで小奇麗に束ねた髭を撫でながら立ち上がった。
翁、お増、操と三人出来るだけ静かに廊下を歩いて蒼紫の部屋に向かった。
蒼紫の部屋の障子は開いていて、蒼紫は廊下側に背を向けて正座をして本を読んでいた。
蒼紫の右側にはお増が置いたままの状態のお盆とお茶が置いてあった。
三人が障子の影から蒼紫を観察していると蒼紫は微動だにせず本の方を向いていた。
だがしばらく見ていても蒼紫は動かないのだ。
そう、本のページもめくりもしないで。
(まさかあのまま寝ているとか?)
(なわけないじゃろ。)
(もしかしたら次をめくらなくても本が読めてしまうという技、名付けて【御庭番衆通し眼の術】をあみ出してる最中とか?)
(操・・。(阿呆だとは思っていたがここまでとは・・))
ヒソヒソと廊下で話をしていても蒼紫には筒抜けであった。
いい加減、勝手に話を持って行っては困ると蒼紫が振り向くことなく喋った。
「何だ三人そろって。用事があるなら早く言え。」
どうやら寝ているわけではなさそうだ。
と分かったのはが良かったが、不意を突かれて言葉に困った三人だった。
お増が機転を利かせて、
「いえ、もしよければ暖かいお茶をお持ちしようかと・・。」
と切り出すと蒼紫は、
「かまわん、俺は今集中しているんだ。用がないなら静かにしてもらいたい。・・・・・lハァ。」
と、最後にほとんど聞こえないようなため息をついた。
「翁、操ちゃん行きましょう。」
翁と操はお増に背を押されながら蒼紫の部屋を後にした。
それからしばらく経って翁が昼食を取っていた時の事だった。
「お、翁ぁ!」
今度は黒が血相を変えて翁のところに転がり込んできた。
「何じゃ、黒。儂は食事中じゃぞ。用事があるなら終わってからにせい。それとも一品出し忘れたんかいな。」
翁は片手に茶碗、片手に箸を持ち、まさに今最後の一口のご飯を口に入れようとしたところだった。
落ち着き払っている翁に黒が汗を垂らしながら翁に訴えた。
「そんな悠長な事言っている場合じゃないですぜ翁、御頭が、御頭が・・。」
「ん?蒼紫がどうかしたんかいの。」
またもや蒼紫の事かと翁は思った。
「御頭が急に厨房に来て千枚漬けはないのか、と・・。」
「はぁ?千枚漬けじゃと?うちでは作っとらんのじゃなかったかの。」
確かに蒼紫が自ら厨房に行くことはあまりないこと。
「しかし何でまた千枚漬けなんじゃ?沢庵が気にくわんかったんかのぅ。」
と、翁は沢庵を箸でつまみ、透かして色を見て、口に入れた。
ボリボリボリ・・
「いつもと変わらん味じゃがのぅ。うん、美味い美味い。」
「翁!」
「分っとる、儂に聞けと言うんじゃろ。」
「頼みます、翁。別に何をしてるってわけでもないんですがね、御頭に後ろでじーっと見られると俺も白も変に緊張して仕事がはかどらなくて困るんです。」
「分かった分かった、後で儂から蒼紫に聞いておく。」
「頼みますよ~翁~。じゃ、俺は戻りますんで。」
黒が厨房へ戻っている最中、向うから蒼紫がやって来た。
何事もありませんようにと、黒が軽く会釈をしてすれ違おうとすると、
「黒尉。」
と、蒼紫が呼びとめた。
「はいっ!御頭、何でしょう。」
慌てて直立する黒に蒼紫はけげんな顔をしながらも、
「何をそんなに慌てている。白が手が足りぬと言っていたぞ、早く戻ってやれ。」
と、黒にそう言ってやった。
「へ、へぇ。今すぐ戻ります。」
翁の元に転がり込んだ理由が蒼紫本人だったとはいえ、穏やかにそう言われる事に黒は慣れなくて焦ってその場を逃げるように厨房へ戻った。
蒼紫が般若達の遺骨を抱えて帰って来た時の蒼紫は修羅道に落ちたあの時とは違って完全なまでに落ち着き払っていた。
よく言えばそうなのであるが、それは逆に悲しみの裏返し。
蒼紫の近くにいるだけで蒼紫の気持ちが彼らにも伝わって来て蒼紫がどれだけ心を痛めているかが分かり、葬儀の後も白や黒、お近お増は蒼紫とどう接していいのか考えあぐねていた。
蒼紫と操が東京へ行っている間に翁達は何度もこの葵屋の将来、そして二人の将来の事について話をしたが結局二人が戻ってからしばらく様子を見てみようという事になったのだが、蒼紫に対して翁以外の人間は志々雄の件もありなかなか話しにくい存在であった。
蒼紫も薄々そんな気配を察して自らあまり話しかける事はしなかったのだが・・・。
般若達の葬儀が終わって一段落して来ると、脳裏に浮かぶのは武尊の事であって・・・。
本を開いてもずっと武尊の姿をまぶたの裏に追っていた。
武尊の声。
武尊の眼差し。
思い出の一つ一つを追っていけばお茶を出されたのも忘れるぐらいに。
そして、昼食の御膳の中にあった沢庵を見て、そういえば【千枚漬け】・・・と脳のメモリーが蒼紫を一つの行動に向かわせたのだった。
【武尊に千枚漬けを食べさせたい。】・・・と。
その蒼紫が向かっているのはやはり翁のところ。
「翁。」
「なんじゃ、今度は蒼紫か。昼食ぐらいゆっくり食べさせてはくれんかの。」
翁がそう言うと蒼紫は、
「ではここで待つ。」
と、自分の部屋に戻らず廊下に正座をした。
「何もそんな所で待たんでも・・。」
と、翁は最後の茶をすすった。
「で、何の話じゃ。千枚漬けの話か?」
「そうか、黒はそれを言いに翁の所に来たのか。」
「漬物に興味が出るなんぞ、ようやく葵屋の跡を継ぐ決心がついたか蒼紫。」
「それと千枚漬けは関係ない・・。翁、知っていたら教えてくれ。京で一番美味い千枚漬けを作っている漬物屋はどこにある。」
葵屋の跡継ぎは操だろう、と、蒼紫は今更何をと翁に目で訴えた。
そんな蒼紫を翁はちらりと見ると、
「・・確か新京極辺りにあったと思ったが・・、どれ、儂も昼から手が空いとる事じゃし、出かけるか、蒼紫よ。」
と、御膳を持って立ち上がった。
蒼紫様が事前に手紙を翁に出していたようで、般若君達の供養は手筈よく行われた。
東京へは薫さんの頼みで日記帳を持って行ったことから始まっていろいろ大変だったけど、私としては蒼紫様とずっと一緒にいることが出来て充実した日々だった。
志々雄真実のアジトから帰って来てからの蒼紫様の様子がずっと続いたらどうしようかと思っていたけれど、蒼紫様はやっぱり昔の蒼紫様で、この京都の秋空の下、何処か一緒にお出かけしたいな、なんて思ったりするわけで・・・・。
*******
巻町操は縁側で足をぶらつかせながら空を見ていた。
そこへ日課の掃除が終わった翁がやって来た。
「これ、操。」
「なあに、爺や。」
「いつまで旅の気分を引きずっとるんじゃい。蒼紫が帰って来た今、もうお前が家を飛び出すことも無かろう。お増やお近の手伝いでもしたらどうじゃ。」
「わかってるてば。」
(分かっておればここでのんびり油を売っとる場合ではないんじゃがのぅ。)
肝心な所はいつまで経っても成長しないと翁がため息をついていると、そこへお増が翁にお茶をもってやって来た。
「翁、お庭のお手入れお疲れ様でした。お茶でもどうそ。」
「おお、お増、すまんのう。」
翁は湯呑の蓋を取ってずずっ~っとお茶をすすった。
「うむ、汗を少しかいた後の梅昆布茶はうまいのぅ。流石お増じゃ。」
「いえいえ。あまり無理をしないで下さいね、翁。もういい年なんですから。」
ついこの前まで瀕死の重傷だった翁をお増は心配していた。
「何、お主達とは鍛え方が違うんじゃ!フン、見よこの筋肉を!」
と、翁は腕まくりをして腕の筋肉を披露したが操もお増も冷めた目で翁を見ていた。
「また始まったわ、翁の若さ自慢。」
「爺やの骨すじばった腕見ても面白くなーい。」
「なっ!」
手塩にかけて育てた操にまでそのような事を言われて翁はガーンとショックを受け、しょぼしょぼとお茶を飲みだした。
「もう、翁ったらわざとらしく落ち込まないで下さいよ。そう言えば朝、蒼紫様のお部屋にお茶をお持ちしたんですけどね、先ほどさげに行ったら一口もお飲みになってなかったんですよ。」
「ん?蒼紫は部屋で何をしとったんじゃ?」
「いつものようにずっと本を読んでいらっしゃいましたが・・。」
「ふむ、般若達の葬儀の時はなにやらふっきれた様子じゃったが・・ぼちぼち蒼紫にも葵屋の仕事を覚えてもらわんといかんし。どれ、ちょっと様子を見に行くか。」
翁はリボンで小奇麗に束ねた髭を撫でながら立ち上がった。
翁、お増、操と三人出来るだけ静かに廊下を歩いて蒼紫の部屋に向かった。
蒼紫の部屋の障子は開いていて、蒼紫は廊下側に背を向けて正座をして本を読んでいた。
蒼紫の右側にはお増が置いたままの状態のお盆とお茶が置いてあった。
三人が障子の影から蒼紫を観察していると蒼紫は微動だにせず本の方を向いていた。
だがしばらく見ていても蒼紫は動かないのだ。
そう、本のページもめくりもしないで。
(まさかあのまま寝ているとか?)
(なわけないじゃろ。)
(もしかしたら次をめくらなくても本が読めてしまうという技、名付けて【御庭番衆通し眼の術】をあみ出してる最中とか?)
(操・・。(阿呆だとは思っていたがここまでとは・・))
ヒソヒソと廊下で話をしていても蒼紫には筒抜けであった。
いい加減、勝手に話を持って行っては困ると蒼紫が振り向くことなく喋った。
「何だ三人そろって。用事があるなら早く言え。」
どうやら寝ているわけではなさそうだ。
と分かったのはが良かったが、不意を突かれて言葉に困った三人だった。
お増が機転を利かせて、
「いえ、もしよければ暖かいお茶をお持ちしようかと・・。」
と切り出すと蒼紫は、
「かまわん、俺は今集中しているんだ。用がないなら静かにしてもらいたい。・・・・・lハァ。」
と、最後にほとんど聞こえないようなため息をついた。
「翁、操ちゃん行きましょう。」
翁と操はお増に背を押されながら蒼紫の部屋を後にした。
それからしばらく経って翁が昼食を取っていた時の事だった。
「お、翁ぁ!」
今度は黒が血相を変えて翁のところに転がり込んできた。
「何じゃ、黒。儂は食事中じゃぞ。用事があるなら終わってからにせい。それとも一品出し忘れたんかいな。」
翁は片手に茶碗、片手に箸を持ち、まさに今最後の一口のご飯を口に入れようとしたところだった。
落ち着き払っている翁に黒が汗を垂らしながら翁に訴えた。
「そんな悠長な事言っている場合じゃないですぜ翁、御頭が、御頭が・・。」
「ん?蒼紫がどうかしたんかいの。」
またもや蒼紫の事かと翁は思った。
「御頭が急に厨房に来て千枚漬けはないのか、と・・。」
「はぁ?千枚漬けじゃと?うちでは作っとらんのじゃなかったかの。」
確かに蒼紫が自ら厨房に行くことはあまりないこと。
「しかし何でまた千枚漬けなんじゃ?沢庵が気にくわんかったんかのぅ。」
と、翁は沢庵を箸でつまみ、透かして色を見て、口に入れた。
ボリボリボリ・・
「いつもと変わらん味じゃがのぅ。うん、美味い美味い。」
「翁!」
「分っとる、儂に聞けと言うんじゃろ。」
「頼みます、翁。別に何をしてるってわけでもないんですがね、御頭に後ろでじーっと見られると俺も白も変に緊張して仕事がはかどらなくて困るんです。」
「分かった分かった、後で儂から蒼紫に聞いておく。」
「頼みますよ~翁~。じゃ、俺は戻りますんで。」
黒が厨房へ戻っている最中、向うから蒼紫がやって来た。
何事もありませんようにと、黒が軽く会釈をしてすれ違おうとすると、
「黒尉。」
と、蒼紫が呼びとめた。
「はいっ!御頭、何でしょう。」
慌てて直立する黒に蒼紫はけげんな顔をしながらも、
「何をそんなに慌てている。白が手が足りぬと言っていたぞ、早く戻ってやれ。」
と、黒にそう言ってやった。
「へ、へぇ。今すぐ戻ります。」
翁の元に転がり込んだ理由が蒼紫本人だったとはいえ、穏やかにそう言われる事に黒は慣れなくて焦ってその場を逃げるように厨房へ戻った。
蒼紫が般若達の遺骨を抱えて帰って来た時の蒼紫は修羅道に落ちたあの時とは違って完全なまでに落ち着き払っていた。
よく言えばそうなのであるが、それは逆に悲しみの裏返し。
蒼紫の近くにいるだけで蒼紫の気持ちが彼らにも伝わって来て蒼紫がどれだけ心を痛めているかが分かり、葬儀の後も白や黒、お近お増は蒼紫とどう接していいのか考えあぐねていた。
蒼紫と操が東京へ行っている間に翁達は何度もこの葵屋の将来、そして二人の将来の事について話をしたが結局二人が戻ってからしばらく様子を見てみようという事になったのだが、蒼紫に対して翁以外の人間は志々雄の件もありなかなか話しにくい存在であった。
蒼紫も薄々そんな気配を察して自らあまり話しかける事はしなかったのだが・・・。
般若達の葬儀が終わって一段落して来ると、脳裏に浮かぶのは武尊の事であって・・・。
本を開いてもずっと武尊の姿をまぶたの裏に追っていた。
武尊の声。
武尊の眼差し。
思い出の一つ一つを追っていけばお茶を出されたのも忘れるぐらいに。
そして、昼食の御膳の中にあった沢庵を見て、そういえば【千枚漬け】・・・と脳のメモリーが蒼紫を一つの行動に向かわせたのだった。
【武尊に千枚漬けを食べさせたい。】・・・と。
その蒼紫が向かっているのはやはり翁のところ。
「翁。」
「なんじゃ、今度は蒼紫か。昼食ぐらいゆっくり食べさせてはくれんかの。」
翁がそう言うと蒼紫は、
「ではここで待つ。」
と、自分の部屋に戻らず廊下に正座をした。
「何もそんな所で待たんでも・・。」
と、翁は最後の茶をすすった。
「で、何の話じゃ。千枚漬けの話か?」
「そうか、黒はそれを言いに翁の所に来たのか。」
「漬物に興味が出るなんぞ、ようやく葵屋の跡を継ぐ決心がついたか蒼紫。」
「それと千枚漬けは関係ない・・。翁、知っていたら教えてくれ。京で一番美味い千枚漬けを作っている漬物屋はどこにある。」
葵屋の跡継ぎは操だろう、と、蒼紫は今更何をと翁に目で訴えた。
そんな蒼紫を翁はちらりと見ると、
「・・確か新京極辺りにあったと思ったが・・、どれ、儂も昼から手が空いとる事じゃし、出かけるか、蒼紫よ。」
と、御膳を持って立ち上がった。