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166.教会の鐘楼から見える景色 (夢主・かふぇおじさん・左之助)
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それは日曜日のことだった。
朝の早い時間に武尊は陸蒸気で新橋から横浜へ向かった。
もちろん、教会のミサでアヴェ・マリアを歌うと言った約束の為だ。
制服がない今、蒼紫からもらったシャツと京都で翁に用意してもらった一張羅の濃い鶯色の男物の着物、これに男物の帯を締めて草履を履いて、顔立ちの整ったちょっと格好いいお兄さん・・に見える姿で約束より早めに教会に着いた。
たしかに凛々しいといえば凛々しいのだが教会には日本人は武尊一人、地味な着物も相まって少し浮くといえば浮いていた。
武尊より先に来ていたマーティンは何も言わなかったが、チャリティバザーの準備をしていた御夫人方(先回と同じ面子)は武尊を見るとなにやら集まってひそひそと話を始めた。
まさか自分の事を話しているとは知らない武尊はマーティンに呼ばれてオルガンの所で打ち合わせをしていると例の肝っ玉の太そうな御夫人が一人やって来て武尊の肩をたたいた。
『あんたさ、折角いい声してるんだから雰囲気出してよ。見合うサイズの服がこれくらいしかなかったんだけど取りあえずこれを着な。』
と言ってバザーの品の中から服を選んで持ってきてたのだった。
もちろん武尊にはマーティンが通訳した。
武尊は驚いて首を横に振ったが、天使の声にその地味な服は似合わないと御夫人は引かなかった。
マーティンの薦めと御夫人の迫力に押し切られて武尊はその洋服を受け取って着がえた。
白い長袖シャツの上に黒っぽい紺色のベストに同色のズボンと黒のショートブーツ。
古着といえば古着なのだが武尊には本人も驚くほどのピッタリのサイズだった。
その姿を見て先ほどの御夫人は二十五歳にもなる武尊に(日本人は幼く見えるらしい)聖歌隊の少年のようだと喜び、マーティンもとても似合うと微笑んだ。
衣装の所為もあってか武尊の歌声は教会に来た人達を感動させた。
武尊は自分の出番が終わるとそのまま席の最後列に座りミサに参加した。
厳かな空気の中、聖壇の前で司祭が話をする。
英語でないので武尊には何を言っているのか分からなかったがこの場の空気が宗教的行事だからだろうか・・いつもと違っていると感じた。
不思議なことだと武尊が目でそっと辺りを見回すと正面祭壇の上のマリア像と目が合った。
(聖母マリア・・・。)
もちろん本当は彫像が武尊と視線を合わせられるわけがない。
それでもその時武尊にはマリア像が静かに微笑みながら慈悲深くミサに参列している人を包む・・、そんなオーラを出しているように思えた。
(これがキリスト教の力・・?)
初めてのミサで目に見えぬ慈悲パワーに満たされた特別な空間に自分が置かれていることを実感し武尊は圧倒された。
(神ってなんだろ・・・・。)
今まで日本の神社やお寺の敷地に入るとそこの空気がガラリと変わる気がしていた経験は何度もある。
だがそれが異国の宗教でもありえるんだと武尊は鳥肌立った。
第六感に響くこの感覚、神というものは間違いなく存在しうると武尊は今まで以上に強く実感した。
だけれども日本の神仏と違うのはマリア像の前では何故か心底ひれ伏して許しを乞いたい気持ちになるということ。
こんな気持ちは武尊には初めてだった。
気が付けば武尊は
(神・・・様、どうかお許し下さい・・。)
何を許してくださいか分からなかったがとにかくそう心で繰り返した。
ひたすらそんな気持ちになって祈る事約1時間。
気が付けばミサは終り、退出が始まっていた。
少し心を亡失していた武尊は辺りの物音と共に現実の世界へ戻って来た。
すっかり教会内がもとの空気に戻って来た時武尊はすっかり陶酔していた自分に驚いていた。
(へ~、キリスト教信者でなくてもこんな体験が出来るんだ・・・これがキリスト教パワーっていうのかなぁ、ちょっとすごいかも・・。)
少しの間だとはいえ、初めての異教の宗教であんなにもひれ伏した気持ちになったのは初めてだとびっくりするとともに憑き物が落ちたようにすっきり感があると武尊は感心しながら精神的に満足した。
ミサが終わり、人々は外のバザーへと向かった。
武尊は借りた服を返さなければと思ってそれを通訳してもらうためにマーティンの所へ行くとそれは返さなくていいと言われた。
どちらにしても冬物を兼ねて着替えをもう一着探さなければいけないと思っていた武尊は靴がある事に喜んだ。
そして古着とはいえサイズの合った洋服は動きやすくて最高だった。
もしよければ他に欲しいものがあれば見てくればいいとマーティンに言われたが、マーティンは木箱を持って教会の奥へ行こうとしていた。
「マーティンは何処へ行くんですか?」
と武尊が聞くと、
「キョウカイノカネノオト スコシ オカシカッタ。チョット ノボッテ ミテキマース。」
とのことだった。
ミサの始まりの時に教会の鐘が鳴ったのだがそれを初めて聞く武尊にもちょっと音の響きが悪いように聞こえたのだった。
「え!上に登るんですか?私も鐘見てみたいです、ご一緒してもいいですか?」
と、武尊は興味丸出しで聞いてみた。
「エエ、カマイマセン。コッチ キテクダサーイ。」
と、マーティンは手招きした。
祭壇横の扉から奥へ入ると鐘楼へ続く細い長い階段があった。
それを上った階の奥の天井に穴が開いておりハシゴがかかっていた。
垂直なハシゴを上ると急に明るくなり壁をくりぬいた窓から光が射しこんでいた。
マーティンに続き武尊はそのハシゴを上り鐘楼の一番上へと上がった。
坂の途中に建つ教会の鐘楼、そこは横浜の海を遠く見渡せる位置にあった。
海側から吹いてきた風邪が武尊の前髪をふわっと揺らした。
光の差し込む窓の方へ顔を向けるとそこからは横浜の海と街が見下ろせた。
武尊は風に誘われ窓へと手をかけた。
マーティンは道具箱から金槌を取り出して鐘と支えをカンカンと軽く叩いて点検し始めた。
「オット、ココ、ユルンデマスネ。」
と、緩んでいるヶ所を発見して直した。
簡単に終わった修理にマーティンは道具をしまいながら武尊の姿を探すと武尊は窓から外を見ていた。
「ナニヲミテイルノデスカ?」
マーティンの呼びかけに武尊はゆっくり振り向きながら、
「海・・・を・・・。」
と言った。
斎藤を見送った時と同じ青い海。
景色の良さもよかったが、武尊はそれよりも海の色に魅かれていたのだった。
海を見ると武尊は斎藤が蝦夷地までの遠い道のりをどこまで行ったのだろうとつい思いを馳せてしまう。
「ウミガスキナノデスカ?」
「そういう訳じゃないけど、あの人が旅立った海だから無事に着けばいいなって・・・。」
と遠い目をして視線を海に戻した。
マーティンも遠い海の向こうの娘を想って日本に来た身、大事な人を遠く思う気持ちはよく分かる。
「ソウデスカ。」
マーティンは武尊の後ろに近づくと、ポンと武尊の肩をたたいた。
「うん・・。」
そして武尊と一緒にしばらく海をみていたのであった。
朝の早い時間に武尊は陸蒸気で新橋から横浜へ向かった。
もちろん、教会のミサでアヴェ・マリアを歌うと言った約束の為だ。
制服がない今、蒼紫からもらったシャツと京都で翁に用意してもらった一張羅の濃い鶯色の男物の着物、これに男物の帯を締めて草履を履いて、顔立ちの整ったちょっと格好いいお兄さん・・に見える姿で約束より早めに教会に着いた。
たしかに凛々しいといえば凛々しいのだが教会には日本人は武尊一人、地味な着物も相まって少し浮くといえば浮いていた。
武尊より先に来ていたマーティンは何も言わなかったが、チャリティバザーの準備をしていた御夫人方(先回と同じ面子)は武尊を見るとなにやら集まってひそひそと話を始めた。
まさか自分の事を話しているとは知らない武尊はマーティンに呼ばれてオルガンの所で打ち合わせをしていると例の肝っ玉の太そうな御夫人が一人やって来て武尊の肩をたたいた。
『あんたさ、折角いい声してるんだから雰囲気出してよ。見合うサイズの服がこれくらいしかなかったんだけど取りあえずこれを着な。』
と言ってバザーの品の中から服を選んで持ってきてたのだった。
もちろん武尊にはマーティンが通訳した。
武尊は驚いて首を横に振ったが、天使の声にその地味な服は似合わないと御夫人は引かなかった。
マーティンの薦めと御夫人の迫力に押し切られて武尊はその洋服を受け取って着がえた。
白い長袖シャツの上に黒っぽい紺色のベストに同色のズボンと黒のショートブーツ。
古着といえば古着なのだが武尊には本人も驚くほどのピッタリのサイズだった。
その姿を見て先ほどの御夫人は二十五歳にもなる武尊に(日本人は幼く見えるらしい)聖歌隊の少年のようだと喜び、マーティンもとても似合うと微笑んだ。
衣装の所為もあってか武尊の歌声は教会に来た人達を感動させた。
武尊は自分の出番が終わるとそのまま席の最後列に座りミサに参加した。
厳かな空気の中、聖壇の前で司祭が話をする。
英語でないので武尊には何を言っているのか分からなかったがこの場の空気が宗教的行事だからだろうか・・いつもと違っていると感じた。
不思議なことだと武尊が目でそっと辺りを見回すと正面祭壇の上のマリア像と目が合った。
(聖母マリア・・・。)
もちろん本当は彫像が武尊と視線を合わせられるわけがない。
それでもその時武尊にはマリア像が静かに微笑みながら慈悲深くミサに参列している人を包む・・、そんなオーラを出しているように思えた。
(これがキリスト教の力・・?)
初めてのミサで目に見えぬ慈悲パワーに満たされた特別な空間に自分が置かれていることを実感し武尊は圧倒された。
(神ってなんだろ・・・・。)
今まで日本の神社やお寺の敷地に入るとそこの空気がガラリと変わる気がしていた経験は何度もある。
だがそれが異国の宗教でもありえるんだと武尊は鳥肌立った。
第六感に響くこの感覚、神というものは間違いなく存在しうると武尊は今まで以上に強く実感した。
だけれども日本の神仏と違うのはマリア像の前では何故か心底ひれ伏して許しを乞いたい気持ちになるということ。
こんな気持ちは武尊には初めてだった。
気が付けば武尊は
(神・・・様、どうかお許し下さい・・。)
何を許してくださいか分からなかったがとにかくそう心で繰り返した。
ひたすらそんな気持ちになって祈る事約1時間。
気が付けばミサは終り、退出が始まっていた。
少し心を亡失していた武尊は辺りの物音と共に現実の世界へ戻って来た。
すっかり教会内がもとの空気に戻って来た時武尊はすっかり陶酔していた自分に驚いていた。
(へ~、キリスト教信者でなくてもこんな体験が出来るんだ・・・これがキリスト教パワーっていうのかなぁ、ちょっとすごいかも・・。)
少しの間だとはいえ、初めての異教の宗教であんなにもひれ伏した気持ちになったのは初めてだとびっくりするとともに憑き物が落ちたようにすっきり感があると武尊は感心しながら精神的に満足した。
ミサが終わり、人々は外のバザーへと向かった。
武尊は借りた服を返さなければと思ってそれを通訳してもらうためにマーティンの所へ行くとそれは返さなくていいと言われた。
どちらにしても冬物を兼ねて着替えをもう一着探さなければいけないと思っていた武尊は靴がある事に喜んだ。
そして古着とはいえサイズの合った洋服は動きやすくて最高だった。
もしよければ他に欲しいものがあれば見てくればいいとマーティンに言われたが、マーティンは木箱を持って教会の奥へ行こうとしていた。
「マーティンは何処へ行くんですか?」
と武尊が聞くと、
「キョウカイノカネノオト スコシ オカシカッタ。チョット ノボッテ ミテキマース。」
とのことだった。
ミサの始まりの時に教会の鐘が鳴ったのだがそれを初めて聞く武尊にもちょっと音の響きが悪いように聞こえたのだった。
「え!上に登るんですか?私も鐘見てみたいです、ご一緒してもいいですか?」
と、武尊は興味丸出しで聞いてみた。
「エエ、カマイマセン。コッチ キテクダサーイ。」
と、マーティンは手招きした。
祭壇横の扉から奥へ入ると鐘楼へ続く細い長い階段があった。
それを上った階の奥の天井に穴が開いておりハシゴがかかっていた。
垂直なハシゴを上ると急に明るくなり壁をくりぬいた窓から光が射しこんでいた。
マーティンに続き武尊はそのハシゴを上り鐘楼の一番上へと上がった。
坂の途中に建つ教会の鐘楼、そこは横浜の海を遠く見渡せる位置にあった。
海側から吹いてきた風邪が武尊の前髪をふわっと揺らした。
光の差し込む窓の方へ顔を向けるとそこからは横浜の海と街が見下ろせた。
武尊は風に誘われ窓へと手をかけた。
マーティンは道具箱から金槌を取り出して鐘と支えをカンカンと軽く叩いて点検し始めた。
「オット、ココ、ユルンデマスネ。」
と、緩んでいるヶ所を発見して直した。
簡単に終わった修理にマーティンは道具をしまいながら武尊の姿を探すと武尊は窓から外を見ていた。
「ナニヲミテイルノデスカ?」
マーティンの呼びかけに武尊はゆっくり振り向きながら、
「海・・・を・・・。」
と言った。
斎藤を見送った時と同じ青い海。
景色の良さもよかったが、武尊はそれよりも海の色に魅かれていたのだった。
海を見ると武尊は斎藤が蝦夷地までの遠い道のりをどこまで行ったのだろうとつい思いを馳せてしまう。
「ウミガスキナノデスカ?」
「そういう訳じゃないけど、あの人が旅立った海だから無事に着けばいいなって・・・。」
と遠い目をして視線を海に戻した。
マーティンも遠い海の向こうの娘を想って日本に来た身、大事な人を遠く思う気持ちはよく分かる。
「ソウデスカ。」
マーティンは武尊の後ろに近づくと、ポンと武尊の肩をたたいた。
「うん・・。」
そして武尊と一緒にしばらく海をみていたのであった。