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200.早馬 (夢主・蒼紫・剣心・薫・山本少尉)
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剣心は部屋の中に武尊がいるのを見た。
武尊と二人、今なら出来なかった話が出来そうだ、そんな気がして剣心は畳の上へ一歩足を踏み出した。
部屋へ足を踏み入れた瞬間剣心に見えた紫の空にどこまでも続く石だらけの河原。
「!!」
まやかしのごとき景色と今まで感じた事のない異質な気に剣心は思わず出した足を引っ込めた。
ひと度のちにハッと驚きの眼差しを武尊に向けると今度はちゃんと普通の部屋の景色が見えた。
その中で武尊はゆっくり目を開いて剣心を見た。
武尊が眠りに落ちて約二時間、熟睡したのち浅い睡眠の中、好ましくない気配にふと目を覚まし剣心と目が合った。
「・・緋村さん、何を驚いているんですか?」
武尊は度々起こるこのような奇異な事実が分かっており、剣心に何が見えたのかだいたい想像がつき思わずくすりと笑った。
「大丈夫です、私が寝ていると時々起ることなのでご安心ください。」
武尊は身体を起しながら剣心に向かって正座した。
「今のは・・?」
剣心は理解できず武尊に問うた。
「あの世とこの世を繋ぐ場所だそうですよ。私の周りにいる人に見える事があるそうです。」
武尊がそう言うと剣心は、理解できないという顔をした。
「私もそれがどうしてだかわかりませんけど。でもそんなものが見えたからって、無敵の緋村さんに怖いものなんてないでしょう。ご活躍は斎藤さんから聞いてますよ。」
と皮肉をちょっと込めてそう言った。
剣心は流石に笑えなかった。
「武尊、それは拙者を抜刀斎として言っているのでござるか。」
「・・別にどちらを指しているというわけではありませんよ。」
武尊がそう答えたあと、剣心も武尊も沈黙した。
少し時間を置いた後に口を開いたのは武尊の方だった。
「あなたは自分を過去の名前で呼ばれるのはそんなに嫌がるのに、私の過去の姿しか見ようとしなかった。男だとか女だとかは関係ない。私は『土岐武尊』。それ以外の何物でもない。」
強い意志で剣心を睨む武尊。
「最初の二回の訪問であなたのことが嫌いになりましたが、ここに泊めて頂いていることには感謝をしています。そして・・」
武尊は少し息を溜めて一気に吐き出すように言った。
「神谷さんとお幸せに。」
剣心は自分の事が嫌いと言った相手から祝福の言葉を言われたことに驚いた。
そんな剣心の心を見透かし武尊は付け加えた。
「私がそんな事をいうのはおかしいですか?私だって人の幸せを願う気持ちぐらい普通にありますよ。」
女の身ひとつで頑張っている薫を応援したい気持ちは嘘じゃない。ただそれだけの事。
「嗚呼・・ありがとうでござる。」
剣心がそう礼を言った後また二人は沈黙した。
時は明治も十一年。
あの幕末を武尊も知らないわけではない。
この十年、近代化する日本で刀の時代が終わるのなら剣客だったこの人は何を支えに生きるのだろう。
師匠のお弟子さんが人斬り抜刀斎と恐れられるほどに人を斬ったという事を知り、過去に犯した人斬りの罪に対し今どういう気持ちでいるのかという事を武尊は聞きたかった。
それは武尊自身がたとえ十六夜丸である時に人を斬ったとはいえ人の命を奪った事に対し罪の意識を持っていたから。
この手が葬ったであろう命に詫びることしかないと思っていたのに斎藤と再会し考えが変わった。
幕末闘った相手は志士や武士。果ては新選組や御庭番衆まで、己の生き様に誇りと信念を持った者達が相手だった。
負けた(死)としてもその闘いにおいて相手を恨まず。
そう言う事を教えられた。
結束意識が強い御庭番衆御頭の蒼紫からも同じような事を言われた。(蒼紫の場合は十六夜丸を恨んではいないが憎んでいる。)
むろん殺しが良いことだとは武尊は今でも思っていない。だけど、
悪が罪もない人を傷つけるのなら自分は牙をむく。
相手が自分を殺しにかかるのなら全力で抵抗する。
それが自分の中の真実だと武尊は気付いた。
人が過去の罪をどう償っているかなんてその人の思う所の償い方にしかならない。人それぞれだという事にも気が付いた。
だからこの人に聞くことはもう必要ない、と武尊は思った。
ただ、話を聞きに東京に来たことで自分の心の中の整理が一つついた。それは間違いない事。
武尊が色々思っていると今度は剣心が口を開いた。
「武尊が此処を出れば恐らく二度と会うこともあるまい。ならば二つ、拙者から伝えたいことがある。」
「何でしょう。」
「幕末、拙者は確かに多くの人の命を奪った。人を斬って幸せになどなれるはずもない。斬った方も、斬られた方も、、。拙者はこの手で幸せを奪ってしまった事実を確実に一つは知っている。それ故、新時代が来たらもう人は殺さぬと誓った、でござるよ。だが新時代になっても理不尽な暴力はなくならない。すべての理不尽を自分一人でなくしていくのは無理とは分かっているがせめて目の前の助けを求める声には答えたい、それがこの逆刃刀を持ち続ける理由でござる。」
「・・・。」
武尊は剣心の話を聞いてふと思い出したのが東京へ来る時に船で蒼紫は話した日記だった。
奪った幸せというのが日記の人のことだと直感した。
如何に維新志士として刀を振るっても、それが『個』の幸せを守るということにはならなかった・・むしろその手で奪ってしまったということ。
剣心は言葉を続けた。
「弱き人々のために剣を振るい続けることが拙者に出来る唯一の真実。それが拙者に飛天御剣流を教えてくれた師匠への恩返しにもなると思うでござる。それともう一つ。先日鯨波が武尊に礼をと此処へ来たでござる。鯨波は海軍に入ったようでござる。」
「え?」
武尊は嬉しい知らせにパッと顔を輝かせた。
それは剣心と話している時には見せない嬉しそうな顔。
「そうですか、知らせてくれてありがとうございます。」
武尊は鯨波の就職にとても喜んだがすぐに元の険しい顔に戻った。
すると突然剣心に、
「武尊は蒼紫の事をどう考えているでござるか。」
と聞かれた。
「え・・?」
意味が分からず・・いや、恐らくあのことだろうと思うもここで話を持ち出す意味が分からず
「どうしてそんな事を聞くのですか。」
と聞いた。
「蒼紫には蒼紫の事をずっと昔から思い続けている娘御がいるでござるよ。」
「それって操ちゃんのこと?」
そんなことは操を見ていればすぐにでも分かる。そしてどれほど蒼紫の事を想っているのかも。
「左様でござる。あの蒼紫が女と一緒の部屋で寝泊まりするのは蒼紫の性格からすれば考えられんでござる。操殿の涙はもう見たくはないでござるからな。」
と、眉毛を下げて言った。
操の涙が見たくはないのは武尊も同じだった。
「私も操ちゃんの涙なんかみたくありません。だけどそもそも第三者のあなたが口出しする問題ではありません。どうしても気になるのだったら蒼紫に言って下さい。」
まっとう正論な武尊の言い分。
剣心は返す言葉もなかった。
「私からも一つお伺いします。」
「何でござるか。」
「長州藩関係者に『九条高明』という公家はいませんでしたか。」
「はて・・その名は聞いたことがあるでござるが会った事はないでござる。桂さんだったら知っていたでござろうが拙者は政治にはかかわらなかった故よくわからないでござる。九条殿がどうかしたでござるか。」
「いえ・・知らないのなら別にかまいません。」
聞いたことがあるというというだけでも収穫だ。
(とりあえず長州藩がらみだってことは間違いなさそうだな・・どう絡んでるかは分からないけれど・・。)
そんな話をしていた丁度その時、
「剣心ー!武尊さん部屋にいる?」
と、薫の声がした。
「おろ?何でござるか?また弥彦の稽古に武尊を当てるのでござるか?」
「違うわよ、あの海軍さんがいらっしゃったの、武尊さんはいるかって。急ぎの用だからって早馬で来たって言ってるわ。」
「急ぎ?山本少尉がでござるか?」
剣心の言葉に武尊が反応し立ち上がった。
(海軍とのあの約束の日は確か今月の十日だったはず。今日はまだ五日。何かあったのかな。)
と思っていると早足で近づいてくる足音が聞こえた。
「ここでしたか土岐殿。」
「約束の日は確か十日でしたよね。」
「それがどういう理由だか今朝・・。」
と山本少尉は後ろに剣心と薫がいるので話を止め、
「とにかく今すぐ私と一緒に来てください。話は横浜でします。」
と武尊を急かした。
武尊は用事が終わったら戻って来るつもりで昼御飯用にとお財布を手に取り山本少尉について行った。
(東京・会津編)はこれでおしまいです。
この度は丁度五月の連休にに会津に行くことが出来、現地の空気を感じることが出来てよかったです。
それにしても蒼紫の危険度が増してきております。
武尊は十六夜丸の謎を解明出来る事ができるのでしょうか・・。
>>『織成す糸【明治編・上巻(東京~京都)】クロスワード』に続く
2015.8.27
武尊と二人、今なら出来なかった話が出来そうだ、そんな気がして剣心は畳の上へ一歩足を踏み出した。
部屋へ足を踏み入れた瞬間剣心に見えた紫の空にどこまでも続く石だらけの河原。
「!!」
まやかしのごとき景色と今まで感じた事のない異質な気に剣心は思わず出した足を引っ込めた。
ひと度のちにハッと驚きの眼差しを武尊に向けると今度はちゃんと普通の部屋の景色が見えた。
その中で武尊はゆっくり目を開いて剣心を見た。
武尊が眠りに落ちて約二時間、熟睡したのち浅い睡眠の中、好ましくない気配にふと目を覚まし剣心と目が合った。
「・・緋村さん、何を驚いているんですか?」
武尊は度々起こるこのような奇異な事実が分かっており、剣心に何が見えたのかだいたい想像がつき思わずくすりと笑った。
「大丈夫です、私が寝ていると時々起ることなのでご安心ください。」
武尊は身体を起しながら剣心に向かって正座した。
「今のは・・?」
剣心は理解できず武尊に問うた。
「あの世とこの世を繋ぐ場所だそうですよ。私の周りにいる人に見える事があるそうです。」
武尊がそう言うと剣心は、理解できないという顔をした。
「私もそれがどうしてだかわかりませんけど。でもそんなものが見えたからって、無敵の緋村さんに怖いものなんてないでしょう。ご活躍は斎藤さんから聞いてますよ。」
と皮肉をちょっと込めてそう言った。
剣心は流石に笑えなかった。
「武尊、それは拙者を抜刀斎として言っているのでござるか。」
「・・別にどちらを指しているというわけではありませんよ。」
武尊がそう答えたあと、剣心も武尊も沈黙した。
少し時間を置いた後に口を開いたのは武尊の方だった。
「あなたは自分を過去の名前で呼ばれるのはそんなに嫌がるのに、私の過去の姿しか見ようとしなかった。男だとか女だとかは関係ない。私は『土岐武尊』。それ以外の何物でもない。」
強い意志で剣心を睨む武尊。
「最初の二回の訪問であなたのことが嫌いになりましたが、ここに泊めて頂いていることには感謝をしています。そして・・」
武尊は少し息を溜めて一気に吐き出すように言った。
「神谷さんとお幸せに。」
剣心は自分の事が嫌いと言った相手から祝福の言葉を言われたことに驚いた。
そんな剣心の心を見透かし武尊は付け加えた。
「私がそんな事をいうのはおかしいですか?私だって人の幸せを願う気持ちぐらい普通にありますよ。」
女の身ひとつで頑張っている薫を応援したい気持ちは嘘じゃない。ただそれだけの事。
「嗚呼・・ありがとうでござる。」
剣心がそう礼を言った後また二人は沈黙した。
時は明治も十一年。
あの幕末を武尊も知らないわけではない。
この十年、近代化する日本で刀の時代が終わるのなら剣客だったこの人は何を支えに生きるのだろう。
師匠のお弟子さんが人斬り抜刀斎と恐れられるほどに人を斬ったという事を知り、過去に犯した人斬りの罪に対し今どういう気持ちでいるのかという事を武尊は聞きたかった。
それは武尊自身がたとえ十六夜丸である時に人を斬ったとはいえ人の命を奪った事に対し罪の意識を持っていたから。
この手が葬ったであろう命に詫びることしかないと思っていたのに斎藤と再会し考えが変わった。
幕末闘った相手は志士や武士。果ては新選組や御庭番衆まで、己の生き様に誇りと信念を持った者達が相手だった。
負けた(死)としてもその闘いにおいて相手を恨まず。
そう言う事を教えられた。
結束意識が強い御庭番衆御頭の蒼紫からも同じような事を言われた。(蒼紫の場合は十六夜丸を恨んではいないが憎んでいる。)
むろん殺しが良いことだとは武尊は今でも思っていない。だけど、
悪が罪もない人を傷つけるのなら自分は牙をむく。
相手が自分を殺しにかかるのなら全力で抵抗する。
それが自分の中の真実だと武尊は気付いた。
人が過去の罪をどう償っているかなんてその人の思う所の償い方にしかならない。人それぞれだという事にも気が付いた。
だからこの人に聞くことはもう必要ない、と武尊は思った。
ただ、話を聞きに東京に来たことで自分の心の中の整理が一つついた。それは間違いない事。
武尊が色々思っていると今度は剣心が口を開いた。
「武尊が此処を出れば恐らく二度と会うこともあるまい。ならば二つ、拙者から伝えたいことがある。」
「何でしょう。」
「幕末、拙者は確かに多くの人の命を奪った。人を斬って幸せになどなれるはずもない。斬った方も、斬られた方も、、。拙者はこの手で幸せを奪ってしまった事実を確実に一つは知っている。それ故、新時代が来たらもう人は殺さぬと誓った、でござるよ。だが新時代になっても理不尽な暴力はなくならない。すべての理不尽を自分一人でなくしていくのは無理とは分かっているがせめて目の前の助けを求める声には答えたい、それがこの逆刃刀を持ち続ける理由でござる。」
「・・・。」
武尊は剣心の話を聞いてふと思い出したのが東京へ来る時に船で蒼紫は話した日記だった。
奪った幸せというのが日記の人のことだと直感した。
如何に維新志士として刀を振るっても、それが『個』の幸せを守るということにはならなかった・・むしろその手で奪ってしまったということ。
剣心は言葉を続けた。
「弱き人々のために剣を振るい続けることが拙者に出来る唯一の真実。それが拙者に飛天御剣流を教えてくれた師匠への恩返しにもなると思うでござる。それともう一つ。先日鯨波が武尊に礼をと此処へ来たでござる。鯨波は海軍に入ったようでござる。」
「え?」
武尊は嬉しい知らせにパッと顔を輝かせた。
それは剣心と話している時には見せない嬉しそうな顔。
「そうですか、知らせてくれてありがとうございます。」
武尊は鯨波の就職にとても喜んだがすぐに元の険しい顔に戻った。
すると突然剣心に、
「武尊は蒼紫の事をどう考えているでござるか。」
と聞かれた。
「え・・?」
意味が分からず・・いや、恐らくあのことだろうと思うもここで話を持ち出す意味が分からず
「どうしてそんな事を聞くのですか。」
と聞いた。
「蒼紫には蒼紫の事をずっと昔から思い続けている娘御がいるでござるよ。」
「それって操ちゃんのこと?」
そんなことは操を見ていればすぐにでも分かる。そしてどれほど蒼紫の事を想っているのかも。
「左様でござる。あの蒼紫が女と一緒の部屋で寝泊まりするのは蒼紫の性格からすれば考えられんでござる。操殿の涙はもう見たくはないでござるからな。」
と、眉毛を下げて言った。
操の涙が見たくはないのは武尊も同じだった。
「私も操ちゃんの涙なんかみたくありません。だけどそもそも第三者のあなたが口出しする問題ではありません。どうしても気になるのだったら蒼紫に言って下さい。」
まっとう正論な武尊の言い分。
剣心は返す言葉もなかった。
「私からも一つお伺いします。」
「何でござるか。」
「長州藩関係者に『九条高明』という公家はいませんでしたか。」
「はて・・その名は聞いたことがあるでござるが会った事はないでござる。桂さんだったら知っていたでござろうが拙者は政治にはかかわらなかった故よくわからないでござる。九条殿がどうかしたでござるか。」
「いえ・・知らないのなら別にかまいません。」
聞いたことがあるというというだけでも収穫だ。
(とりあえず長州藩がらみだってことは間違いなさそうだな・・どう絡んでるかは分からないけれど・・。)
そんな話をしていた丁度その時、
「剣心ー!武尊さん部屋にいる?」
と、薫の声がした。
「おろ?何でござるか?また弥彦の稽古に武尊を当てるのでござるか?」
「違うわよ、あの海軍さんがいらっしゃったの、武尊さんはいるかって。急ぎの用だからって早馬で来たって言ってるわ。」
「急ぎ?山本少尉がでござるか?」
剣心の言葉に武尊が反応し立ち上がった。
(海軍とのあの約束の日は確か今月の十日だったはず。今日はまだ五日。何かあったのかな。)
と思っていると早足で近づいてくる足音が聞こえた。
「ここでしたか土岐殿。」
「約束の日は確か十日でしたよね。」
「それがどういう理由だか今朝・・。」
と山本少尉は後ろに剣心と薫がいるので話を止め、
「とにかく今すぐ私と一緒に来てください。話は横浜でします。」
と武尊を急かした。
武尊は用事が終わったら戻って来るつもりで昼御飯用にとお財布を手に取り山本少尉について行った。
(東京・会津編)はこれでおしまいです。
この度は丁度五月の連休にに会津に行くことが出来、現地の空気を感じることが出来てよかったです。
それにしても蒼紫の危険度が増してきております。
武尊は十六夜丸の謎を解明出来る事ができるのでしょうか・・。
>>『織成す糸【明治編・上巻(東京~京都)】クロスワード』に続く
2015.8.27
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