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195.影宮の野望 (永倉・斎藤・影宮)
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月齢は上弦。
とうの昔に沈んだ月と曇った空で境内は闇に近かった。
永倉と斎藤が更に進んでいくと本殿の前に動く人影を見つけた。
ジャジャジャジャ。
しんと静まり返った境内の敷石を小早やに踏む音がする。
不審な影は行ったり来たり、また何かを巻くようなしぐさがをしていた。
何をしているのか二人にはさっぱりだった。
他にも手下がいるのかと影宮の様子と辺りの気配を伺ったがどうやら影宮一人のようだと分かった。
ただずっと挙動不審な動作を見ているのにも飽きて二人は影宮の背後から刀に手をかけて近づいた。
ジャリ、ジャリ、ジャリ・・。
敷き詰められているジャリが人が近づくのを影宮に教えた。
もちろん向こうも気づくであろうことは永倉も斎藤も承知の上である。
影宮は足音のする方へおもむろに振り返った。
そして警官姿の斎藤と袴姿の永倉の姿を暗闇のなかにおぼろげに確認した影宮は落ち着き払っていた。
「このような夜更けにこのような所までわざわざ・・見回り御苦労様ですね。」
斎藤に負けないぐらい細い目を更に細くしてそして口元は何が可笑しいのか口角がゆっくりと上がっていく。
永倉は自分達を目の前にしてその余裕の顔が気に入らなくて皮肉をたっぷり込めて言ってやった。
「嗚呼、今も昔も俺たちゃ悪の臭いには敏感でね、今夜もそのくっさい臭いに釣られてここまで来た訳。正直に何やってたか言った方がいいぜ、影宮さんよ。」
「はて・・影宮とはいったい誰の事ですか?私は内務省社寺局長の九条・・と、警官ならば紹介しなくともあなた方は私を知っているはずですよね?蝦夷の輩どもから私を守るように命令されているはずですよね。」
「何が『蝦夷の輩ども』だ、アイヌを利用し新型阿片をばら撒いていたんじゃないのか、調べはついているんだぜ!」
永倉は往生際が悪いと影宮に喰いついた。
「先程から『影宮』とか『新型阿片』だとか何の事だかさっぱり・・。濡れ衣もいい加減にしてください。」
影宮落ち着きはらいながらもその口調が少しきつくなった。
「別に話す気がないなら構わん。貴様は今ここで死ぬのだからな。壬生狼の目を誤魔化せると思うな。」
間髪入れず斎藤が影宮の後から言いかぶせた。
斎藤は鋭い視線を影宮に向けながら刀を抜いた。
「・・いいんですか?私を誰だと思っているんですか?明治政府内務省の役人なんですよ。その私を斬るという事は明治政府に刃向うという事なんですよ。」
影宮は流石に斎藤の気迫に押されたのかじりっと後ずさりした。
そこへ永倉が影宮を挟むように移動しながら懐から特製の南蛮千鳥鉄(※1)を取り出した。
「年貢の納め時だぜ、影宮さんよ。」
永倉は自分用に特別に作ってもらった二つ折りの南蛮千鳥鉄を元の長さに組み立てながら影宮にそれを突き出すように構えた。
影宮は観念したのかうなだれた。
だがすぐに首をもたげ目を左右に動かし境内を見回した。
「・・ここは・・【地】が悪い・・。」
影宮は永倉や斎藤に聞こえるか聞こえないかの声で呟くと今度はフッと曇った夜空を見上げパンパンと高らかに二度拍手を打った。
その音は静まり返った境内に乾いた音をたてて通り抜けて行った。
「今更神頼みかよ。神頼みにしても拝む方向が違うんじゃないのか。神様は後ろの本殿の中、まぁ俺達に向かって柏手打っても御利益なんかないけどよ!」
永倉もそう言って影宮に詰め寄ろうとしたその時、本殿の裏手がボォッと明るくなった。
「何だ!?」
斎藤と永倉はその方向を同時に振り返り、そして二人が同時に思った予感は的中した。
火事だったのだ。
不審火と思われたその火は急激に大きくなった。
このままでは本殿が全焼する可能性がある。
永倉と斎藤がそう思い一瞬気を取られた隙に何か黒い影が二人の前に飛び出した。
永倉はとっさにその影に向かって南蛮千鳥鉄を投げつけた。
同時に影宮が
「【足】!」
と叫んだ。
その影は短く返事をしたかと思うと影宮を背負って瞬く間に神社の杜の中へと消えた。
「ちくしょう!」
影宮を目前に取り逃がした悔しさで永倉は叫んだ。
すぐに追いかけようとしたが永倉の足は動かなかった。
ここは外国領事館も立ち並ぶ函館の要所、万が一にもこの街を焼くわけにはいかない。
永倉は火事を目の前にして放っておくわけにはいかなかった。
「斎藤!お前は奴を追え!誰か人を呼んでから俺も向かう!頼んだぞ斎藤!」
「分かった!」
斎藤は刀を収めると即座に影宮を追った。
*******
(※1)南蛮千鳥鉄:江戸時代に犯罪者の捕縛の際に使用された武器の捕り物道具の一つ。
だいたい長さは一般の物で一尺六寸(約48cm)、永倉のは特注で柄の部分が真ん中で折れ短くして携帯することが出来る。(使用時組立)
先端に千鳥型の鋭い分銅がついており、下部の鎖を引けばその部分で相手を直接切りつけたり、また、敵の刃を受けたりすることが出来る。
もちろん鎖を振り回し先端部分で攻撃も可能。
この夢小説の中の設定では永倉は正規の警官ではないので剣術指南以外の時にはこのような道具を持ち歩くことがある。
とうの昔に沈んだ月と曇った空で境内は闇に近かった。
永倉と斎藤が更に進んでいくと本殿の前に動く人影を見つけた。
ジャジャジャジャ。
しんと静まり返った境内の敷石を小早やに踏む音がする。
不審な影は行ったり来たり、また何かを巻くようなしぐさがをしていた。
何をしているのか二人にはさっぱりだった。
他にも手下がいるのかと影宮の様子と辺りの気配を伺ったがどうやら影宮一人のようだと分かった。
ただずっと挙動不審な動作を見ているのにも飽きて二人は影宮の背後から刀に手をかけて近づいた。
ジャリ、ジャリ、ジャリ・・。
敷き詰められているジャリが人が近づくのを影宮に教えた。
もちろん向こうも気づくであろうことは永倉も斎藤も承知の上である。
影宮は足音のする方へおもむろに振り返った。
そして警官姿の斎藤と袴姿の永倉の姿を暗闇のなかにおぼろげに確認した影宮は落ち着き払っていた。
「このような夜更けにこのような所までわざわざ・・見回り御苦労様ですね。」
斎藤に負けないぐらい細い目を更に細くしてそして口元は何が可笑しいのか口角がゆっくりと上がっていく。
永倉は自分達を目の前にしてその余裕の顔が気に入らなくて皮肉をたっぷり込めて言ってやった。
「嗚呼、今も昔も俺たちゃ悪の臭いには敏感でね、今夜もそのくっさい臭いに釣られてここまで来た訳。正直に何やってたか言った方がいいぜ、影宮さんよ。」
「はて・・影宮とはいったい誰の事ですか?私は内務省社寺局長の九条・・と、警官ならば紹介しなくともあなた方は私を知っているはずですよね?蝦夷の輩どもから私を守るように命令されているはずですよね。」
「何が『蝦夷の輩ども』だ、アイヌを利用し新型阿片をばら撒いていたんじゃないのか、調べはついているんだぜ!」
永倉は往生際が悪いと影宮に喰いついた。
「先程から『影宮』とか『新型阿片』だとか何の事だかさっぱり・・。濡れ衣もいい加減にしてください。」
影宮落ち着きはらいながらもその口調が少しきつくなった。
「別に話す気がないなら構わん。貴様は今ここで死ぬのだからな。壬生狼の目を誤魔化せると思うな。」
間髪入れず斎藤が影宮の後から言いかぶせた。
斎藤は鋭い視線を影宮に向けながら刀を抜いた。
「・・いいんですか?私を誰だと思っているんですか?明治政府内務省の役人なんですよ。その私を斬るという事は明治政府に刃向うという事なんですよ。」
影宮は流石に斎藤の気迫に押されたのかじりっと後ずさりした。
そこへ永倉が影宮を挟むように移動しながら懐から特製の南蛮千鳥鉄(※1)を取り出した。
「年貢の納め時だぜ、影宮さんよ。」
永倉は自分用に特別に作ってもらった二つ折りの南蛮千鳥鉄を元の長さに組み立てながら影宮にそれを突き出すように構えた。
影宮は観念したのかうなだれた。
だがすぐに首をもたげ目を左右に動かし境内を見回した。
「・・ここは・・【地】が悪い・・。」
影宮は永倉や斎藤に聞こえるか聞こえないかの声で呟くと今度はフッと曇った夜空を見上げパンパンと高らかに二度拍手を打った。
その音は静まり返った境内に乾いた音をたてて通り抜けて行った。
「今更神頼みかよ。神頼みにしても拝む方向が違うんじゃないのか。神様は後ろの本殿の中、まぁ俺達に向かって柏手打っても御利益なんかないけどよ!」
永倉もそう言って影宮に詰め寄ろうとしたその時、本殿の裏手がボォッと明るくなった。
「何だ!?」
斎藤と永倉はその方向を同時に振り返り、そして二人が同時に思った予感は的中した。
火事だったのだ。
不審火と思われたその火は急激に大きくなった。
このままでは本殿が全焼する可能性がある。
永倉と斎藤がそう思い一瞬気を取られた隙に何か黒い影が二人の前に飛び出した。
永倉はとっさにその影に向かって南蛮千鳥鉄を投げつけた。
同時に影宮が
「【足】!」
と叫んだ。
その影は短く返事をしたかと思うと影宮を背負って瞬く間に神社の杜の中へと消えた。
「ちくしょう!」
影宮を目前に取り逃がした悔しさで永倉は叫んだ。
すぐに追いかけようとしたが永倉の足は動かなかった。
ここは外国領事館も立ち並ぶ函館の要所、万が一にもこの街を焼くわけにはいかない。
永倉は火事を目の前にして放っておくわけにはいかなかった。
「斎藤!お前は奴を追え!誰か人を呼んでから俺も向かう!頼んだぞ斎藤!」
「分かった!」
斎藤は刀を収めると即座に影宮を追った。
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(※1)南蛮千鳥鉄:江戸時代に犯罪者の捕縛の際に使用された武器の捕り物道具の一つ。
だいたい長さは一般の物で一尺六寸(約48cm)、永倉のは特注で柄の部分が真ん中で折れ短くして携帯することが出来る。(使用時組立)
先端に千鳥型の鋭い分銅がついており、下部の鎖を引けばその部分で相手を直接切りつけたり、また、敵の刃を受けたりすることが出来る。
もちろん鎖を振り回し先端部分で攻撃も可能。
この夢小説の中の設定では永倉は正規の警官ではないので剣術指南以外の時にはこのような道具を持ち歩くことがある。