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190.友という名のもとに (蒼紫・夢主・右近)
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京都で操が蒼紫の帰りを待つそんな頃、会津東山温泉ではまた夜がやって来た。
夕餉の後の座禅タイムを武尊は昨晩同様蒼紫よりも先に切り上げた。
「おやすみなさい、蒼紫。お先です。」
と武尊が小さな声で蒼紫に呼びかけると、
「嗚呼。」
蒼紫は瞑想したまま、言葉短く返事を返した。
誰かが見ているという事で障子を閉めて狭い部屋の中でそれぞれの布団の上での座禅をしていた二人、武尊はそのまま自分の布団に潜り込んで目を閉じた。
(明日は東京へ帰るんだ・・。)
会津ではいろいろ慌ただしかったし蒼紫ともいろいろあったと、武尊は会津での出来事を振りかえった。
(恵さん、元気そうでよかったな・・迫力も倍増してたし・・。)
武尊は偶然に飛び込んだ医院で恵に会えたことは幸運だったし、バリバリな恵を見ることが出来てよかったと思った。
(ただし薬の事をすっかり忘れていたという事を除いてはだけどね。)
と、武尊は心の中でしっかりと突っ込みを入れた。
十六夜丸の手がかりは掴めなかったが昔助けた若者が今も生きていてくれた事を知る事が出来た事は武尊の過去に対する負い目を軽くした嬉しい出来事だった。
それがまさか時尾の弟だったとはまったくの予想外の事だったが藤田家は藤田家で幸せに暮らしているのだと思えば武尊はしんみり嬉しく思うのであった。
そして武尊は続けて時尾と盛之輔、そして斎藤と時尾の子、勉の顔を順に思い浮かべた。
(勉君・・可愛かったなぁ・・一も勉君の前では目尻下げてしっかりパパしてるのかなぁ。)
そんな斎藤を想像して武尊はフフッと笑った。
その後の母成峠以降の事は自己最悪の失態だったと武尊は背中側で座禅している蒼紫に対してこっそりため息を吐いた。
それは決して山中で泥で滑って頭打って伸びていたまぬけな自分を助けてくれた恩人に対する態度ではないなと思いながらも連れて来てもらった宿で理由はどうであれ、つながってしまった事は思い出してはいけない事だと思った。
もし一人旅でこんないいお湯の宿に泊まれていたら心身リラックスできたのに、とも武尊は考えたのだが、もとはと言えばここは蒼紫に連れて来てもらった温泉なので蒼紫なしではこんないい湯には浸かれなかったと世の中上手い話だけは転がっていないように出来ていると武尊は思った。
そして何だか胸騒ぎのする政府の役人との出会い。
蒼紫が言ったように武尊もその男から負のオーラを感じていた。
(本当、短い間だったけど会津ではいろいろな事があった・・。)
そんな会津とも今夜が最後かと、武尊は外で鳴く虫の声をしみいるように聞きながら明日の事を考えた。
(東京までまた歩きだ・・特急電車を使えば三時間ぐらいで東京なのに・・。)
歩くしかないのは分かっていても武尊は未来の交通機関を頭の中で望み、明治という現実にまたため息をついた。
(五日間は間違いなくかかるよね・・蒼紫は一日で来たって言ったけどそれってどうなの、さすが昔の人っていうレベルじゃないと思うけど・・ま、職業忍者だからね・・すごいよメイドインジャパン。)
遺伝子操作のおかげで運動自慢の武尊だったがいくら忍者でも素の人間に負けて悔し紛れにそう思った。
ブツブツと頭の中で一通り考え終わり武尊の耳にまた虫の音が聞こえてきた。
そしてその音に、武尊は秋の気配深まる東北の秋を再認識していた。
(いつのまにかすっかり秋だよね・・もうじき冬が来る・・。)
と武尊はこの時代に再び飛ばされて着た時の事を思いだした。
あの時の京都の山にはまだ暑さが残っていた。
だから時空を超えた時裸でも大丈夫だったんだと、そして自分を受け入れてくれた比古を思い出した。
障子も畳もない素朴な山小屋だったけど、最初から安心感のある小屋だったと武尊は薄めを開けてこの時代には高級品だと思われる今の布団をそっと撫でた。
(比古さん・・元気かなぁ・・何やってるんだろう今頃・・。)
そう思うと武尊は本当に比古の事をあれこれ思った。
本当に東京にいる間はこんなにゆっくり比古の事を思う時間がなく武尊は申し訳なく思いながら比古の事を考えた。
(裏切り者で薄情者の私・・どんな顔して帰ればいいんだ・・。きっと今の私の事を知ったら嫌いになるんだろうな・・。)
逃げ出したい、そんな思いが一瞬武尊の脳裏をよぎったが過去だけではなく今も自分から逃げてはいけないと自分に言い聞かせた。
(逃げてどこへ行く?どこにも行く所なんかないのに・・。)
武尊は年末までには約束通り比古のもとへ帰るんだと覚悟を決めた。
(でも手ぶらで帰ったら本当に薄情というか恩知らずというか・・お土産ぐらい買うべきだよね。・・・何がいいかなぁ・・。)
と、武尊は考えた。
けれども何がいいかなんて全く思いつかない。
あれこれこの時代に売ってそうな物を考えるがどれも今一つピンとこない。
「武尊。」
「え。」
坐禅を終えた蒼紫に不意に声をかけられ武尊は我に返った。
武尊が返事をすると蒼紫は、
「今夜も眠れないのか。」
と、言った。
武尊は寝返りをうち蒼紫を見て、
「あ・・別にそういうわけじゃなくてちょっと考え事してただけ。」
と言うと蒼紫は武尊の目を見て、
「そうか。」
と答え沈黙した。
武尊は再び目を閉じ聞こえてきた虫の音に耳を澄ましていると蒼紫がまた声をかけてきた。
「武尊・・何故斎藤と行かなかった。」
「え・・?」
いきなり蒼紫にそのような事を言われ武尊は面食らった。
まさか蒼紫からそのような事を言われるとは露ほどにも考えてなく言葉がすぐに出てこなかった。
「なぜって・・。」
武尊はそう言って天井を見つめ斎藤の姿を思い出した。
そして再び目を閉じ、
「・・・きっと・・幸せな夢だったのよ。」
と、小さく呟いた。
いつの間にか鍵をかけたはずの心の中の思い出の箱が開いていた。
このままでは斎藤との思い出でまた心がいっぱいになり涙があふれてきそうで武尊は慌てて心の中で箱の鍵を探し施錠した。
「ならば・・・
俺はどうだ。」
と蒼紫は言った。
武尊がそれを聞いた時何かが武尊の手に触れた。
蒼紫の手だった。
武尊の手がピクっと動き反射的に手を引っ込めようとしたが蒼紫の手はそれより早く武尊の手を掴んだ。
武尊はそれでも手を引こうと力を入れたが蒼紫の手は武尊の手を放さなかった。
「・・蒼・・紫。」
武尊は首を回して蒼紫を見た。
蒼紫は座禅を半分崩した状態で武尊を見下ろした。
【夢】だったと言った武尊の言葉が未だ武尊が斎藤を想い続けている事を蒼紫に確信させた。
その言葉がどれだけ武尊が切なく思っているか蒼紫にも理解出来た。
緊張で息が心なしか早くなっている武尊を感じながら蒼紫は言った。
「前にも言ったが俺は(今は)無理強いはしない。
・・俺達は【友】だからな。」
最後は声のトーンを落としつつも蒼紫の手は痛いぐらいに武尊の手を握った。
「だが・・俺の事まで夢にするな、・・・俺はここにいる。俺の前から消えるな武尊。」
まるで武尊がこれから蒼紫の前から消えようとしているのが蒼紫にばれたかのような蒼紫の言葉だった。
武尊は何も答えられず蒼紫をただ見つめた。
そして武尊の目から大きな涙が一粒づつ零れた。
それを見て蒼紫はようやく手の力を緩めて、そして言った。
「もう一度言う、俺の前から消えるな・・俺達は友だ・・。」
と先程の言葉を繰り返し蒼紫は布団に入った、手は離さないままで。
武尊の頭の中は真っ白になった。
どうすれば蒼紫を傷つけずに消える事だけを考えていた武尊はどうしていいのか分からなかった。
この場しのぎで嘘でもいいから消えないと言うべきなのか。
真面目過ぎる目の前の男に嘘がつけるほど武尊もまた口が上手くはなかった。
蒼紫の自分への態度をよく考えてみるとその根底には恋愛感情がある事は武尊も分かっている。
ただあえて意識しないようにしているだけだった。
【友】という言葉を借りて武尊も自分に都合よく解釈していた。
分かっているのにそうする自分に嫌気が差しながらもその一方で蒼紫の純粋さ、学問への好奇心教養の高さに武尊は魅かれつつあるという事は自覚していた。
知識・学問に関して話をしている時は武尊は蒼紫に男を感じない。
正に個と個でぶつかり合える。
そしてそれを楽しいと感じる。
(蒼紫が友達だったらきっと楽しいだろうな・・。)
武尊は蒼紫の指先を手で感じながらそう思った。
「蒼紫・・。」
武尊は指先で少しだけ蒼紫の手を握り返した。
蒼紫の指先は武尊の次の言葉を待っていた。
武尊はズルいと思いながらも心のどこかで蒼紫に自分に都合の良い友達でいて欲しいと思った。
「【友】として・・でいいのなら・・私は・・。」
武尊は迷いながらも自分の気持ちを口にした。
それを武尊は蒼紫のことを【友】でいて欲しいと願った事を認めた瞬間でもあった。
それを聞いて蒼紫は、
「嗚呼・・今はそれでいい。」
と言った後に数呼吸おいてから、
「・・人の気持ちは変わるものだ、実際俺もそうだった・・武尊が斎藤を諦めたというなら俺は待つ。」
と言い、武尊の手は離さないまま布団に入った。
武尊がその後指先の力を抜いてだらりとして目を瞑ったが蒼紫は武尊の手を優しく掴んだままだった。
武尊は先程まで寝れずに考え事をしていたはずなのに蒼紫に片手を握られそこから安らぎを感じた。
不思議だと思いながらも武尊はすっと眠りの世界へ落ちていった。
夕餉の後の座禅タイムを武尊は昨晩同様蒼紫よりも先に切り上げた。
「おやすみなさい、蒼紫。お先です。」
と武尊が小さな声で蒼紫に呼びかけると、
「嗚呼。」
蒼紫は瞑想したまま、言葉短く返事を返した。
誰かが見ているという事で障子を閉めて狭い部屋の中でそれぞれの布団の上での座禅をしていた二人、武尊はそのまま自分の布団に潜り込んで目を閉じた。
(明日は東京へ帰るんだ・・。)
会津ではいろいろ慌ただしかったし蒼紫ともいろいろあったと、武尊は会津での出来事を振りかえった。
(恵さん、元気そうでよかったな・・迫力も倍増してたし・・。)
武尊は偶然に飛び込んだ医院で恵に会えたことは幸運だったし、バリバリな恵を見ることが出来てよかったと思った。
(ただし薬の事をすっかり忘れていたという事を除いてはだけどね。)
と、武尊は心の中でしっかりと突っ込みを入れた。
十六夜丸の手がかりは掴めなかったが昔助けた若者が今も生きていてくれた事を知る事が出来た事は武尊の過去に対する負い目を軽くした嬉しい出来事だった。
それがまさか時尾の弟だったとはまったくの予想外の事だったが藤田家は藤田家で幸せに暮らしているのだと思えば武尊はしんみり嬉しく思うのであった。
そして武尊は続けて時尾と盛之輔、そして斎藤と時尾の子、勉の顔を順に思い浮かべた。
(勉君・・可愛かったなぁ・・一も勉君の前では目尻下げてしっかりパパしてるのかなぁ。)
そんな斎藤を想像して武尊はフフッと笑った。
その後の母成峠以降の事は自己最悪の失態だったと武尊は背中側で座禅している蒼紫に対してこっそりため息を吐いた。
それは決して山中で泥で滑って頭打って伸びていたまぬけな自分を助けてくれた恩人に対する態度ではないなと思いながらも連れて来てもらった宿で理由はどうであれ、つながってしまった事は思い出してはいけない事だと思った。
もし一人旅でこんないいお湯の宿に泊まれていたら心身リラックスできたのに、とも武尊は考えたのだが、もとはと言えばここは蒼紫に連れて来てもらった温泉なので蒼紫なしではこんないい湯には浸かれなかったと世の中上手い話だけは転がっていないように出来ていると武尊は思った。
そして何だか胸騒ぎのする政府の役人との出会い。
蒼紫が言ったように武尊もその男から負のオーラを感じていた。
(本当、短い間だったけど会津ではいろいろな事があった・・。)
そんな会津とも今夜が最後かと、武尊は外で鳴く虫の声をしみいるように聞きながら明日の事を考えた。
(東京までまた歩きだ・・特急電車を使えば三時間ぐらいで東京なのに・・。)
歩くしかないのは分かっていても武尊は未来の交通機関を頭の中で望み、明治という現実にまたため息をついた。
(五日間は間違いなくかかるよね・・蒼紫は一日で来たって言ったけどそれってどうなの、さすが昔の人っていうレベルじゃないと思うけど・・ま、職業忍者だからね・・すごいよメイドインジャパン。)
遺伝子操作のおかげで運動自慢の武尊だったがいくら忍者でも素の人間に負けて悔し紛れにそう思った。
ブツブツと頭の中で一通り考え終わり武尊の耳にまた虫の音が聞こえてきた。
そしてその音に、武尊は秋の気配深まる東北の秋を再認識していた。
(いつのまにかすっかり秋だよね・・もうじき冬が来る・・。)
と武尊はこの時代に再び飛ばされて着た時の事を思いだした。
あの時の京都の山にはまだ暑さが残っていた。
だから時空を超えた時裸でも大丈夫だったんだと、そして自分を受け入れてくれた比古を思い出した。
障子も畳もない素朴な山小屋だったけど、最初から安心感のある小屋だったと武尊は薄めを開けてこの時代には高級品だと思われる今の布団をそっと撫でた。
(比古さん・・元気かなぁ・・何やってるんだろう今頃・・。)
そう思うと武尊は本当に比古の事をあれこれ思った。
本当に東京にいる間はこんなにゆっくり比古の事を思う時間がなく武尊は申し訳なく思いながら比古の事を考えた。
(裏切り者で薄情者の私・・どんな顔して帰ればいいんだ・・。きっと今の私の事を知ったら嫌いになるんだろうな・・。)
逃げ出したい、そんな思いが一瞬武尊の脳裏をよぎったが過去だけではなく今も自分から逃げてはいけないと自分に言い聞かせた。
(逃げてどこへ行く?どこにも行く所なんかないのに・・。)
武尊は年末までには約束通り比古のもとへ帰るんだと覚悟を決めた。
(でも手ぶらで帰ったら本当に薄情というか恩知らずというか・・お土産ぐらい買うべきだよね。・・・何がいいかなぁ・・。)
と、武尊は考えた。
けれども何がいいかなんて全く思いつかない。
あれこれこの時代に売ってそうな物を考えるがどれも今一つピンとこない。
「武尊。」
「え。」
坐禅を終えた蒼紫に不意に声をかけられ武尊は我に返った。
武尊が返事をすると蒼紫は、
「今夜も眠れないのか。」
と、言った。
武尊は寝返りをうち蒼紫を見て、
「あ・・別にそういうわけじゃなくてちょっと考え事してただけ。」
と言うと蒼紫は武尊の目を見て、
「そうか。」
と答え沈黙した。
武尊は再び目を閉じ聞こえてきた虫の音に耳を澄ましていると蒼紫がまた声をかけてきた。
「武尊・・何故斎藤と行かなかった。」
「え・・?」
いきなり蒼紫にそのような事を言われ武尊は面食らった。
まさか蒼紫からそのような事を言われるとは露ほどにも考えてなく言葉がすぐに出てこなかった。
「なぜって・・。」
武尊はそう言って天井を見つめ斎藤の姿を思い出した。
そして再び目を閉じ、
「・・・きっと・・幸せな夢だったのよ。」
と、小さく呟いた。
いつの間にか鍵をかけたはずの心の中の思い出の箱が開いていた。
このままでは斎藤との思い出でまた心がいっぱいになり涙があふれてきそうで武尊は慌てて心の中で箱の鍵を探し施錠した。
「ならば・・・
俺はどうだ。」
と蒼紫は言った。
武尊がそれを聞いた時何かが武尊の手に触れた。
蒼紫の手だった。
武尊の手がピクっと動き反射的に手を引っ込めようとしたが蒼紫の手はそれより早く武尊の手を掴んだ。
武尊はそれでも手を引こうと力を入れたが蒼紫の手は武尊の手を放さなかった。
「・・蒼・・紫。」
武尊は首を回して蒼紫を見た。
蒼紫は座禅を半分崩した状態で武尊を見下ろした。
【夢】だったと言った武尊の言葉が未だ武尊が斎藤を想い続けている事を蒼紫に確信させた。
その言葉がどれだけ武尊が切なく思っているか蒼紫にも理解出来た。
緊張で息が心なしか早くなっている武尊を感じながら蒼紫は言った。
「前にも言ったが俺は(今は)無理強いはしない。
・・俺達は【友】だからな。」
最後は声のトーンを落としつつも蒼紫の手は痛いぐらいに武尊の手を握った。
「だが・・俺の事まで夢にするな、・・・俺はここにいる。俺の前から消えるな武尊。」
まるで武尊がこれから蒼紫の前から消えようとしているのが蒼紫にばれたかのような蒼紫の言葉だった。
武尊は何も答えられず蒼紫をただ見つめた。
そして武尊の目から大きな涙が一粒づつ零れた。
それを見て蒼紫はようやく手の力を緩めて、そして言った。
「もう一度言う、俺の前から消えるな・・俺達は友だ・・。」
と先程の言葉を繰り返し蒼紫は布団に入った、手は離さないままで。
武尊の頭の中は真っ白になった。
どうすれば蒼紫を傷つけずに消える事だけを考えていた武尊はどうしていいのか分からなかった。
この場しのぎで嘘でもいいから消えないと言うべきなのか。
真面目過ぎる目の前の男に嘘がつけるほど武尊もまた口が上手くはなかった。
蒼紫の自分への態度をよく考えてみるとその根底には恋愛感情がある事は武尊も分かっている。
ただあえて意識しないようにしているだけだった。
【友】という言葉を借りて武尊も自分に都合よく解釈していた。
分かっているのにそうする自分に嫌気が差しながらもその一方で蒼紫の純粋さ、学問への好奇心教養の高さに武尊は魅かれつつあるという事は自覚していた。
知識・学問に関して話をしている時は武尊は蒼紫に男を感じない。
正に個と個でぶつかり合える。
そしてそれを楽しいと感じる。
(蒼紫が友達だったらきっと楽しいだろうな・・。)
武尊は蒼紫の指先を手で感じながらそう思った。
「蒼紫・・。」
武尊は指先で少しだけ蒼紫の手を握り返した。
蒼紫の指先は武尊の次の言葉を待っていた。
武尊はズルいと思いながらも心のどこかで蒼紫に自分に都合の良い友達でいて欲しいと思った。
「【友】として・・でいいのなら・・私は・・。」
武尊は迷いながらも自分の気持ちを口にした。
それを武尊は蒼紫のことを【友】でいて欲しいと願った事を認めた瞬間でもあった。
それを聞いて蒼紫は、
「嗚呼・・今はそれでいい。」
と言った後に数呼吸おいてから、
「・・人の気持ちは変わるものだ、実際俺もそうだった・・武尊が斎藤を諦めたというなら俺は待つ。」
と言い、武尊の手は離さないまま布団に入った。
武尊がその後指先の力を抜いてだらりとして目を瞑ったが蒼紫は武尊の手を優しく掴んだままだった。
武尊は先程まで寝れずに考え事をしていたはずなのに蒼紫に片手を握られそこから安らぎを感じた。
不思議だと思いながらも武尊はすっと眠りの世界へ落ちていった。