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187.隣部屋の話 (蒼紫・夢主)
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いつもより早い就寝、疲れているとはいえ武尊はすぐに眠りに落ちることは出来なかった。
暗がりに目が慣れれば廊下の吊り灯籠の灯りが障子に映り、なんとなく部屋の中の輪郭が見える。
自分は壁側で蒼紫は廊下側。
静かな部屋、武尊がじっと天井を眺めていると、何を言っているのか分からないがぼそぼそと隣の部屋の声が聞こえてきた。
(ぎゃ、壁薄いじゃん!)
武尊は右近に薬湯を飲まされたのが今日でなくてよかったと咄嗟に思った。
(こんな所で喘ぐ声なんて聞かれたらまる聞こえじゃん!最悪すぎる・・。)
だが喘ぎ声というキーワードでせっかく意識しないで済んでいた昨夜の事がまた武尊の頭をめぐった。
(浴衣を着ていたからまだましだったけど・・・だけど・・だけど・・・
・・嗚呼・・・
一とは違う・・・肌に、腕に、・・匂い・・・。)
武尊は虚ろにため息をつき、困惑していた。
蒼紫に抱かれたのは昨晩の事だというのに思い出すのは斎藤の愛を一身に浴びた横浜での日々。
(・・一の声、一の腕、一の匂い・・・。)
斎藤との情事を思い出せば、今も耳元で低い声で囁かれている気がする、と、武尊は布団の中でぎゅっと身体を縮こませた。
(一・・ずるいよ・・。あなたは私の目の前にいないのに・・あなたの幻がこうして私の心を熱くするんだもん・・・。)
横浜での斎藤のもくろみ通り、武尊の身体にはしっかりと斎藤の記憶が刻み込まれていた。
「一・・
今こんなにもあなたに会いたい・・・。」
武尊は想いを堪えきれず小さく小さく吐露し、布団の中で歯を食いしばって震えた。
そして同時に斎藤との事はもう終わった事だ、もう過ぎた過去の話だと自分に言い聞かせた。
(一・・・。)
武尊がひと通り斎藤との思い出を巡らせた時、そういえば蒼紫が戻って来ていない事に気がついた。
「・・随分長い用足しだなぁ・・神経質そうだからお腹でもこわしたのかな。」
そろそろ一時間ぐらいになるぞと武尊は平常心に戻り蒼紫を心配した。
そしてもぞもぞと体を動かし蒼紫の布団を見たがやはり布団は空だった。
自分の所為で気苦労も絶えないだろうと武尊が申し訳ない気分になった時、障子に黒い影がふっと現れた、
・・・と思ったら障子が開き蒼紫らしきシルエットの人間が入って来た。
「・・蒼紫?」
武尊は囁くように確認した。
「嗚呼・・武尊か、まだ起きていたのか。」
蒼紫も武尊が起きていた事が分かり少し驚いていた。
「うん・・ちょっとね・・。」
武尊は斎藤の思い出をそっと心の箱にしまいカチャリと鍵をかけた。
「それより蒼紫大丈夫?」
武尊は何の事を言っているのだろうかと蒼紫は首を傾げながら手に持っていた何かをドサッと布団に落とすと浴衣を脱ぎだした。
(ひいーっ!)
ただでさえ暗い部屋、薄ぼんやりとみえる影のようなシルエットであっても浴衣を脱いでいるのは分かる。
(夜這い!夜這いだー!一応蒼紫の事信じていたのに!!)
武尊はまだ襲われる心の準備は出来ていないと布団を握りしめた。
蒼紫の前ではどうあがこうと抵抗さえも出来ないという事を武尊は学習していたからである。
武尊は蒼紫が次にどう出るか、汗ばんだ握り込ぶりを少しだけ震えさせて見ている一方、蒼紫は来ていた浴衣をササッと裏返しに丸め、先程したに置いた物を拾い羽織った。
それは新しい浴衣だと分かって武尊は拍子抜けした。
武尊が安心安堵したのは間違いないが何の為に、と疑問が湧き、
「蒼紫?どうして着替えているの?(・・もしかしてまさかと思うけど肥溜めに落ちていたとか!?)」
と小声で聞いた。
蒼紫は
「・・少し様子を伺いに行って少し汚れてしまった。」
と、淡々と答えた。
そこで武尊はハッと気がついた。
「様子・・ってもしかして・・。」
「嗚呼、あの役人の所だ。天井裏に半時ほど潜んでいた。」
武尊の疑問にそう答えつつ、蒼紫は布団の上に武尊の方を向いて胡坐をかいた。
「だが話は寺社仏閣の事ばかりだった。どうやら奴らは内務省社寺局の連中らしい。」
「内務省社寺局?」
「嗚呼、昨年教部省が廃止になりその後にできた組織だ。宗教に関する全ての行政を管掌している。」
「へぇぇぇ・・。」
そんなのがあったのか、さすが蒼紫は時の人だと武尊は思った。
蒼紫の言葉は明治という時代は宗教が非常に国家に関わっているということを武尊に実感させた。
「いつまでたってもその話ばかりなので戻ってきたが天井裏にいたおかげで浴衣が蜘蛛の巣と埃だらけになってしまったが故、右近に着替えを用意させた。」
武尊は蒼紫はきっと長トイレだと勝手に思い込んでいた事が急に恥ずかしくなり言葉に詰まった。
「それからあの役人の名前分かったぞ、九条道明だ、右近に宿帳を見せてもらったから間違いないだろう。」
「・・なんかすごい苗字だね、高貴な感じがする。」
武尊が思いついたままを口にすると蒼紫は、
「九条家と言えば旧摂家の一つ・・あの九条家の者だとすれば大物だな。」
と言い腕をくんだ。
「旧摂家・・って何?」
蒼紫が何か考え事をしているように見えると思いつつも武尊は分からない言葉を質問した。
蒼紫は武尊の質問にすぐに答えた。
「旧摂家とは、明治になり政府が新体制になり旧をつけてはいるが元は摂家の事だ、つまり摂政・関白を出す家柄の事だ。具体的に言えば近衛家・九条家・二条家・一条家・鷹司家の五家の事を指す。」
「摂政関白・・!」
そんなのは平安時代に終わった話だと思っていたのだが明治の前まであったなんて驚きだと武尊は思った。
「じゃあ、あのいけ好かない人、そんなすごい人なの?」
にしては品が無いなと思いつつ蒼紫に言った。
「その九条家の者だとするならな・・。」
「なんか蒼紫、少し納得してないみたい。」
「嗚呼・・あの九条家にしては、、と思っただけだ。本当に九条家の者ならばもっと政府の中心となるいい役職についてもいいはずだ。」
「そうなの?」
武尊は明治政府の組織の事はまったく知らなかった。
まさかこんな知識があった方がいい日が来るなんて誰が思っただろうか。
「じゃあ偶然苗字が一緒なだけなのかな。」
「だが九条家を縁(ゆかり)なしで名乗れるとは思えん。」
蒼紫が本気で考え始めた雰囲気をかもし出してきたので武尊は、
「蒼紫今日はもういいよ、いろいろ調べてくれてありがとう。・・もう遅いから蒼紫も寝ようよ。」
と言った。
「嗚呼・・、そうだな。」
蒼紫は納得してない様子だったが、とりあえず布団の中に入りだした。
そして、
「武尊・・、あの役人の事だがおそらくただの役人ではない。」
と、言った。
「・・・え?」
武尊は突然そんな事を言った蒼紫の方を見た。
「闇の世界に生きる俺だから分かる・・奴からは同じにおいがする。」
「・・・。」
武尊は目を大きくして蒼紫を見た。
蒼紫は布団に入りながらそんな武尊の顔を見た。
蒼紫にはこの暗がりの中でも十分に武尊の表情が見えるのかもしれない。
そして布団に入りきって上を向き、
「案ずるな何かあったとしても、武尊の事は俺が・・守る・・。」
と独り言のように言い目を閉じた。
暗がりに目が慣れれば廊下の吊り灯籠の灯りが障子に映り、なんとなく部屋の中の輪郭が見える。
自分は壁側で蒼紫は廊下側。
静かな部屋、武尊がじっと天井を眺めていると、何を言っているのか分からないがぼそぼそと隣の部屋の声が聞こえてきた。
(ぎゃ、壁薄いじゃん!)
武尊は右近に薬湯を飲まされたのが今日でなくてよかったと咄嗟に思った。
(こんな所で喘ぐ声なんて聞かれたらまる聞こえじゃん!最悪すぎる・・。)
だが喘ぎ声というキーワードでせっかく意識しないで済んでいた昨夜の事がまた武尊の頭をめぐった。
(浴衣を着ていたからまだましだったけど・・・だけど・・だけど・・・
・・嗚呼・・・
一とは違う・・・肌に、腕に、・・匂い・・・。)
武尊は虚ろにため息をつき、困惑していた。
蒼紫に抱かれたのは昨晩の事だというのに思い出すのは斎藤の愛を一身に浴びた横浜での日々。
(・・一の声、一の腕、一の匂い・・・。)
斎藤との情事を思い出せば、今も耳元で低い声で囁かれている気がする、と、武尊は布団の中でぎゅっと身体を縮こませた。
(一・・ずるいよ・・。あなたは私の目の前にいないのに・・あなたの幻がこうして私の心を熱くするんだもん・・・。)
横浜での斎藤のもくろみ通り、武尊の身体にはしっかりと斎藤の記憶が刻み込まれていた。
「一・・
今こんなにもあなたに会いたい・・・。」
武尊は想いを堪えきれず小さく小さく吐露し、布団の中で歯を食いしばって震えた。
そして同時に斎藤との事はもう終わった事だ、もう過ぎた過去の話だと自分に言い聞かせた。
(一・・・。)
武尊がひと通り斎藤との思い出を巡らせた時、そういえば蒼紫が戻って来ていない事に気がついた。
「・・随分長い用足しだなぁ・・神経質そうだからお腹でもこわしたのかな。」
そろそろ一時間ぐらいになるぞと武尊は平常心に戻り蒼紫を心配した。
そしてもぞもぞと体を動かし蒼紫の布団を見たがやはり布団は空だった。
自分の所為で気苦労も絶えないだろうと武尊が申し訳ない気分になった時、障子に黒い影がふっと現れた、
・・・と思ったら障子が開き蒼紫らしきシルエットの人間が入って来た。
「・・蒼紫?」
武尊は囁くように確認した。
「嗚呼・・武尊か、まだ起きていたのか。」
蒼紫も武尊が起きていた事が分かり少し驚いていた。
「うん・・ちょっとね・・。」
武尊は斎藤の思い出をそっと心の箱にしまいカチャリと鍵をかけた。
「それより蒼紫大丈夫?」
武尊は何の事を言っているのだろうかと蒼紫は首を傾げながら手に持っていた何かをドサッと布団に落とすと浴衣を脱ぎだした。
(ひいーっ!)
ただでさえ暗い部屋、薄ぼんやりとみえる影のようなシルエットであっても浴衣を脱いでいるのは分かる。
(夜這い!夜這いだー!一応蒼紫の事信じていたのに!!)
武尊はまだ襲われる心の準備は出来ていないと布団を握りしめた。
蒼紫の前ではどうあがこうと抵抗さえも出来ないという事を武尊は学習していたからである。
武尊は蒼紫が次にどう出るか、汗ばんだ握り込ぶりを少しだけ震えさせて見ている一方、蒼紫は来ていた浴衣をササッと裏返しに丸め、先程したに置いた物を拾い羽織った。
それは新しい浴衣だと分かって武尊は拍子抜けした。
武尊が安心安堵したのは間違いないが何の為に、と疑問が湧き、
「蒼紫?どうして着替えているの?(・・もしかしてまさかと思うけど肥溜めに落ちていたとか!?)」
と小声で聞いた。
蒼紫は
「・・少し様子を伺いに行って少し汚れてしまった。」
と、淡々と答えた。
そこで武尊はハッと気がついた。
「様子・・ってもしかして・・。」
「嗚呼、あの役人の所だ。天井裏に半時ほど潜んでいた。」
武尊の疑問にそう答えつつ、蒼紫は布団の上に武尊の方を向いて胡坐をかいた。
「だが話は寺社仏閣の事ばかりだった。どうやら奴らは内務省社寺局の連中らしい。」
「内務省社寺局?」
「嗚呼、昨年教部省が廃止になりその後にできた組織だ。宗教に関する全ての行政を管掌している。」
「へぇぇぇ・・。」
そんなのがあったのか、さすが蒼紫は時の人だと武尊は思った。
蒼紫の言葉は明治という時代は宗教が非常に国家に関わっているということを武尊に実感させた。
「いつまでたってもその話ばかりなので戻ってきたが天井裏にいたおかげで浴衣が蜘蛛の巣と埃だらけになってしまったが故、右近に着替えを用意させた。」
武尊は蒼紫はきっと長トイレだと勝手に思い込んでいた事が急に恥ずかしくなり言葉に詰まった。
「それからあの役人の名前分かったぞ、九条道明だ、右近に宿帳を見せてもらったから間違いないだろう。」
「・・なんかすごい苗字だね、高貴な感じがする。」
武尊が思いついたままを口にすると蒼紫は、
「九条家と言えば旧摂家の一つ・・あの九条家の者だとすれば大物だな。」
と言い腕をくんだ。
「旧摂家・・って何?」
蒼紫が何か考え事をしているように見えると思いつつも武尊は分からない言葉を質問した。
蒼紫は武尊の質問にすぐに答えた。
「旧摂家とは、明治になり政府が新体制になり旧をつけてはいるが元は摂家の事だ、つまり摂政・関白を出す家柄の事だ。具体的に言えば近衛家・九条家・二条家・一条家・鷹司家の五家の事を指す。」
「摂政関白・・!」
そんなのは平安時代に終わった話だと思っていたのだが明治の前まであったなんて驚きだと武尊は思った。
「じゃあ、あのいけ好かない人、そんなすごい人なの?」
にしては品が無いなと思いつつ蒼紫に言った。
「その九条家の者だとするならな・・。」
「なんか蒼紫、少し納得してないみたい。」
「嗚呼・・あの九条家にしては、、と思っただけだ。本当に九条家の者ならばもっと政府の中心となるいい役職についてもいいはずだ。」
「そうなの?」
武尊は明治政府の組織の事はまったく知らなかった。
まさかこんな知識があった方がいい日が来るなんて誰が思っただろうか。
「じゃあ偶然苗字が一緒なだけなのかな。」
「だが九条家を縁(ゆかり)なしで名乗れるとは思えん。」
蒼紫が本気で考え始めた雰囲気をかもし出してきたので武尊は、
「蒼紫今日はもういいよ、いろいろ調べてくれてありがとう。・・もう遅いから蒼紫も寝ようよ。」
と言った。
「嗚呼・・、そうだな。」
蒼紫は納得してない様子だったが、とりあえず布団の中に入りだした。
そして、
「武尊・・、あの役人の事だがおそらくただの役人ではない。」
と、言った。
「・・・え?」
武尊は突然そんな事を言った蒼紫の方を見た。
「闇の世界に生きる俺だから分かる・・奴からは同じにおいがする。」
「・・・。」
武尊は目を大きくして蒼紫を見た。
蒼紫は布団に入りながらそんな武尊の顔を見た。
蒼紫にはこの暗がりの中でも十分に武尊の表情が見えるのかもしれない。
そして布団に入りきって上を向き、
「案ずるな何かあったとしても、武尊の事は俺が・・守る・・。」
と独り言のように言い目を閉じた。