手帳を返してもらい部屋へ戻った武尊と蒼紫だったが武尊はそれかも浮かない顔でどこか遠くを見ていた｡



蒼紫はそんな武尊を壁に寄り掛かって見ていたがそのうち口を開いた。



「何をそんなに気にしている。」



「よくわからないけど、なんだろう・・さっきの人・・、知らない人のはずなのにひっかかる・・、どこかで会った事あるのかな。」



「政府の役人なんかと会った事があるのか。」



「ないない、私にそんなツテなんかないし・・・・。」



ないと言いつつ警察の人間でない人たちもあの夜会には来ていたんだと、武尊はあの華やかな会場を思い出した。



軍人だけでなく、確か政府の高官も数名いると武尊は斎藤に聞いていた。



その中に先程の人もいたのではと思ったが、全員の顔なんか覚えているわけがない。



武尊の表情の変化をじっと観察していた蒼紫だったが今は何も言わず、腕を組んで武尊を見ていた。



それでもどうしても武尊は気になるようで、



「蒼紫・・、あの人の名前とか調べられないかなぁ。」



と、語尾を小さくして蒼紫にお願いするように聞いてみた。



もちろんそれは蒼紫とこの宿の主人の関係を知った上での武尊のお願い事だった。



蒼紫もそれを瞬時に察して、



「・・分かった、武尊がそう言うのなら聞いてみよう。」



と言った。



が、武尊にそう言われなくとも蒼紫は蒼紫で先程の人物の態度は裏があると感じていたので後で調べるつもりでいたのだった。



「ありがとう。（いつもお願いしてばかりだ、私・・自分に都合のいい事だけ言ってばかり・・・もう少し蒼紫の気持ちも考えてあげないといけないのに・・。）



武尊はそう思いつつも蒼紫の気持ちをどう対処していいのか武尊は悩んでいた。



蒼紫に気を悪くしてもらわないように自分の事を諦めてもらう事、そうなってくれればいいのにと思いつつも今もこうやって蒼紫を頼っている自分自身に武尊は嫌気がさしてきた。



（私、何やってんだろう、こんなんだから翁（右近）さんに突っ込まれるんだ・・。）



武尊は小さくため息をついた。