「ありがとうございました。斎藤さんもゆっくり休んでください。」



と、手当をしてもらった武尊は斎藤に御礼を言った。



「武尊も座禅はほどほどにしてちゃんと休めよ。それから明日は取り合えず高荷の所へ行ってから警視庁へ来い。ここからの方が近い。」



「はい、では真っ直ぐ診療所に向かいますね。」



「一人で歩いて行けるか。」



「たぶん大丈夫です。たくさん食べましたので大分元気になりましたから。」



武尊は笑顔で斎藤に言葉を返した。



「道中くれぐれも気を付けろよ。いつまた得体の知れない輩が現れるかもしらないからな。」



「わかりました。」



「それから、時尾が昼間の事を気にしていたぞ。」



「え？あ、あぁ・・・・。」



武尊は出掛けに時尾と話していた時のことを思い出し、言葉を詰まらせた。



「変なこと言っちゃいましたから・・・。時尾さん、気にしてたんですね、悪い事しちゃったなぁ・・・。」



斎藤はそう言う武尊の顔をじっと見ていた。



「私が父も母もいない得体の知れない者と知れば私の事を不快に思いますよね・・・。」



ぽろっと本音をぼやく武尊に斎藤は、



「本当にそう思うのか、今日帰って来てからそんな態度を時尾がしていたと武尊は思うのか。」



と言った。



自分に向けられた威圧感のある斎藤のその声の調子｡



斎藤の顔を見なくてもどのような表情で自分を見ているか分かる。



武尊ははっとして答えた。



「いえ、そんな事はなかったです！いつもと同じように接してくれました。」





藤田時尾という女は決して生まれなどで差別する女ではないという事を分かっていたのに、そう思ってしまった自分はなんと愚かだったのか。




自分の発言は斎藤の怒りを買い、自分への信頼をぶち壊しにしてしまうほどの内容だったのだと。



しかし口にしてしまった事はもう取り消すことは不可能だ。



ンあは自分に失望した。



斎藤さんが自分を嫌いになればもうここにはいられない・・・。



武尊は項垂れた。



斎藤はその態度をすべて見ていた。



自分の発言の非を即座に認め正直に話す武尊の事を。



いくら武尊でもこれだけ武尊の事を心底心配、世話を焼く時尾を普通の女のように軽々しい女と同じに思われるのは斎藤の不快さを買うには十分だった。



だが、斎藤はそれと同時に見抜いたことがある。



武尊が卑下しすぎるほどに自分を卑下するその言い方。



それほどまでに自分の生まれを否定したい気持ちがそこにあることを。



それが分かってしまった斎藤は武尊を怒るようなことはしなかった。



沈黙する斎藤に、



「ごめんなさい・・・。」



と、乾く喉から絞り出すように武尊は頭を垂れたまま謝った。



明日、もうここから出て行こう・・・。



どん底の気分の武尊に斎藤は、



「阿呆が・・・、俺も時尾も人を生まれなどで人は見ん。分かっているだろう。」



「・・・・・はい。」



「謝るなら明日、時尾に謝れ。」



「・・・・はい・・。」



堪えているが肩を震わせ今にも泣きそうな武尊を見下ろし、斎藤は、



「阿呆が・・・、泣くな。俺も時尾も武尊の事を不快になど思うわけがないだろう。どこでどう生まれようが武尊は武尊だ。」



と、斎藤は武尊を優しく抱きしめた。



泣く寸前の武尊はそれでも理性を総動員させて斎藤を拒もうと抵抗する。



ここは廊下に近く、障子は開いている。



武尊としてはこんな所を時尾に見られるわけにはいかない。



斎藤は胸の中で暴れる武尊をぎゅっと抱きしめ、



「俺は武尊が何であろうと愛している！」



と、強く言葉を放った。