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107.抜けない刀 (斎藤・夢主・張・川路)
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川路は武尊のそんな様子を見て、持って来た刀が武尊
の欲しがっていた情報につながるものだと確信したが、それにしてはひどく気落ちしていると川路は疑問に思った。
が、そんな事を聞いても自分には言わないだろうし何かあったら斎藤に聞けばよい、と考え、
「暫く寺から借用するという事にしてあるからゆっくり見てくれ。不要なら総務の方へ返しておいてくれればよい。」
と言って部屋を出ようとするが斎藤に、
「これが何故その寺にあったのか、いきさつは分かっているのか。」
と聞かれた。
「その刀は鶴ヶ城が落城してまもなく、幕府軍でもなく新政府軍でもない男が血まみれの服と共に供養をしてくれと持って来たと言われている。だが、その寺に新政府軍が駐屯することになってとりあえず住職はそれを隠してなんとかこれまで残っていたということだそうだ。」
「刀を持って来た男については何か聞いてないのか。」
「新政府軍が来た途端、姿が見えなくなったという事だが・・・。その男の名は分かってないそうだ。」
「そんな刀やったらそのまんま武尊にくれてやったらええんちゃうんか。もともと供養に、ちゅうて持って来たんやろ。」
と張が口出しすると、川路が渋い顔をして、
「それがだな・・・刀に詳しい者がおったらしくその刀が高価な物だと言い出して寺の方が手放さんのだ。」
と言った。
「坊主がそんなセコイことでええんか!」
張は呆れながらぼやいた割にはその刀が高価だと聞いて興味深々といった顔をしている。
刀の収集家としてはちょっと見てみたい。
まして【刀狩の張】と自称するだけに刀の鑑定には自信がある。
「ほんなん、すごい刀かどうかちゅうのは見たら分かるやんか。武尊、ちょっと見してみい・・・・。」
と、張が武尊の方へ振り返ると武尊は刀を抱えるようにしてソファーにうずくまっていた。
流石に張もその姿を見て、
「武尊・・・、ちぃと、わいに貸してくれんかの、その刀。」
と、武尊の背中を軽くポンポンと叩いた。
武尊は俯いたまま、無言で首を縦に振ると腕の力を弛めた。
「おおきにな、武尊。」
と張は刀を受け取った瞬間、
「!」
と何やら閃いたものがあるようだった。
「まじかこれ・・・。」
と、張はゴクリと唾を飲むと、刀をランプの光に照らしながら、長さ、反り、形など何度も角度を変えて目を凝らして何かを確認しているようだった。
そして一通り見終わると一回深呼吸をして額からジワリと滲み出た汗を手の甲で拭った。
「こりゃえらい昔のこしらえやな・・・外見もええもんで作っとる・・・せやけど肝心なのは中身や・・・わいが思うとる刀やったらこれはどえらいもんや・・・いや、せやけどそれはありえへん・・・。」
ぶつくさ言いながら張はいよいよ刀を抜こうといつものように力を入れた。
・・・が、刀は抜けなかった。
「ん?」
張は首を傾げて、そしてもう一度抜こうとするが、
「うん、んん~~っ!」
と、どれだけ力んでも鯉口はウンともスンとも言わなかった。
「あかん!抜けへん、何でや!」
と叫んだ張を見て川路は、
「お前でもだめか・・・、実はな、それは【抜けない刀】なんだと住職から言われておる。」
と、川路が後ろで補足説明した。
「中で錆びとんちゃうか。ほんなら銘見るで!目釘抜くわ。」
と張が机に刀を置いて道具箱の中から目釘抜きを取り出しているとまた川路が、
「それもやったが抜けなかったそうだ。」
と言った。
「そんなんやってみいへんとわからへんやんか。」
と張が目貫を試みるが、
「・・・・抜けん。」
と、キツネに包まれたような顔つきで刀を見た。
「なんでや・・?」
どんな刀か見れるかと期待を持っていた川路も無駄な結果に終わったのを見てため息をつくと、
「ということだ。儂は戻るぞ。」
と言って部屋を出て行った。