縁側で武尊は、



「すみません、手ぬぐいをいただけませんでしょうか。」



と、勇気を出して時尾に声をかけた。



「はい、今お持ちいたしますね。」



と、時尾は武尊に対してはいつも通りの口調で答えると奥へ取りに行った。



「時尾さん・・・なんか迫力ありますね。」



「嗚呼・・。」



「こんな時の時尾は・・・。」



と斎藤が話そうとすると、



「はい、武尊さん。」



と時尾が戻って来て縁側に膝を付き、外で立っている武尊に手ぬぐいを差し出した。



「武尊さんはどうかお部屋へ戻られてゆっくりしていてくださいね。お怪我もされているようですから。」



と、いつも通り柔らかく言われるがそれがかえって不気味である。



ありがとうございますと、武尊が礼を言って髪を拭き始めると時尾は立ち上がり、



「五郎さんは私と玄関へ、さあ参りましょう。」



と、斎藤の先に立ち歩き出した。



武尊が頭を拭きつつ手ぬぐいの隙間から見る斎藤の後ろ姿は少し哀れ・・・。



（斎藤さんもこうやってみれば普通の夫だなぁ・・・。）



と、武尊は拭き終わった手ぬぐいを物干しざおに干すと、自分の部屋へ向かった。









武尊は部屋の敷居を一歩またいでその場に立った。



たった三日。



それなのにものすごく帰ってなかった気がするこの部屋。



診療所での出来事がまるで夢だったような気さえする。



だが背中の痛みが紛れもなくそれは事実だった事を教えてくれる。



「とりあえず、疲れたぁ。」



と、武尊は壁際に腰を下ろし、持ってきた斎藤の上着を畳んだ。



いくらゆっくりとはいえ、五時間以上歩いた。



だるさと疲労で一杯だったが気合でなんとか帰って来た。



だが、それも限界だ。



「大丈夫かなぁ、斎藤さん・・・・。」



と呟きながら武尊は壁にもたれかかり睡眠に入っていった。