「はい・・、蒼紫様。」



蒼紫はスタスタと台所の方へ向かいながら、操はしおしおとその後をついて行く。



「操、お前は仮にも料亭【葵屋】の娘。腕が劣ると思う所あらば精進すべきであろう。もう十六になったのならばせめて料理ぐらい人並みになっていなければ・・・。」



とぶつぶつ言いながら歩く。



「まったく翁達は操どういう教育をしているんだ。何の為に操を葵屋へ置いたと思っている・・・甘やかしすぎではないのか。」



ぶつぶつぶつぶつぶつ・・・・。



蒼紫はぶつぶつ言いながら考えていた。



（そう言えば神谷道場での食事は高荷恵や明神弥彦が仕切っていた。操も一緒にやっていたようだが果たして一人ではどのくらいの腕なのか・・・・確認しなければ。）



二人は台所に着き、蒼紫は操に、



「焼き物はいい。汁物と御飯を作ってみろ。」



と言った。



（ガ－ン！）



操は向かう先が台所だと気付いた時、若しかしたら蒼紫様が夕飯を作ってくれるのではないかと、淡い期待をしていただけにそう言われて慌てた。



蒼紫は操にそう言うと自分は腕を組んで少し釜戸から離れた所に立った。



操は台所を見回すと大根を見つけ、取ろうと近づいた。



「米は水を吸わせる時間がいる。先に米から準備しろ。」



操がお米を研いでお釜に米を入れようとすると、



「米の研ぎかたが足らん。」



とか、



「次から研ぎ汁は捨てずに取っておけ。」



とか、操の動作をじっと見ながらアドバイス・・・いや、プレッシャ－をかけた。



大根は大根で、



「その厚さでは火が通りにくい。その半分の厚さにしろ。」



とか、



「葉も使え｡だが量と入れる時期を考えろ。」



とか、いろいろ指導が入った。



そしてようやく操は汗だらだらになって、



「蒼紫様、出来ました！」



と言った。



蒼紫は小さく頷くと一言、



「操・・・・味噌汁に出汁を入れるのを忘れているぞ。」



と、とどめを刺した。



操はその瞬間石化した。