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120.九月三十日夜(藤田家の続きと、張の場合) (斎藤・時尾・張・伊藤卿)
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伊藤の部屋に二人きり。
(脅して聞きたいことを聞くなら今か?)
女装も酒のお酌も役者になったつもりになれば苦ではないが、こうやってふと我に返ると、
(何やっとんじゃわいは。)
と思ってしまう張であった。
ノリはいいが飽きっぽい所が玉にきずである。
(ここで伊藤をズバッーっと半分に斬ったら気持ちええやろうな。)
と一瞬そんなことが頭をよぎったが、『殺すな』と言った斎藤の顔と、『頑張ってね』と言った武尊の顔が同時に思い浮かんで本来の任務を思い出した。
張は無意味にしなを作りながら、
「お疲れになったでしょう、肩でもお揉みしましょうね。」
と言って伊藤の背後をとった。
肩を揉むつもりで伊藤の首を羽交い絞めにしてやろうとした瞬間、
「君は何が知りたいんだね。」
と、伊藤は張に背を向けたまま質問を投げかけた。
「!」
相手に背を向けて無防備そのものの伊藤の首など刀などなくともへし折ってやることは張にとっては容易い事だ。
それを根拠に脅してやるのはあくまでも自分で、今現在優位に立っているのは自分の方だと確信するのに張は伊藤に指すら触れることが出来ない。
志々雄様とも斎藤とも違う、張を圧する空気がいつの間にか張を取り巻いている。
(何や、こいつ!)
内心焦っている張とは反対に伊藤は、
「ハハハ、そんなに硬くならんでもよいではないか。何も取って食おうという訳ではないんだよ。」
と、余裕の口調で話す。
張は仕切り直しと、伊藤から三歩後ろに下がった。
その気配を感じてゆっくり伊藤は張の方を向いた。
睨んでる顔ではないのにその鋭い眼光が張を固まらせた。
「これは経験の差というものだよ、張子君。」
これはもう猫をかぶってる場合ではないと判断した張は、
「何や、わいがただの女中やないともうバレたんか、おもろうないのう。」
と、認めた。
「ハハハ、全く君は面白いね。確かに女装した君は他のどの女中よりも美しかったが入って来た時より隙がなさすぎだよ。その場でお帰り戴こうとも考えたが、何せ聞こえてくる会話が面白くてね、それにいい三味線を聞かせてもらったんで話ぐらいは聞いてやろうかと思ったわけだよ。」
「ほんならこっちの話、聞いてもらいましょうか。まあ、『嫌』ゆうても聞いてもらうねんけどな。」
「ほほう、筋金入りの関西弁だな。そっち方面の間者か?」
「質問するのはわいのほうや。ぐだぐだいらんことは言わんでええから簡潔に話してぇや。」
「儂に分かる事かのう。」
「それがいらん事ちゅうんや、わいが『何処ぞの間者』と思うんならあんた、命狙われてるんやないかともっとビビってもええんやないか。」
「儂の人生は刀はなくとも常に命の駆け引きがかかっていてのう、それくらいの脅しでは何の効果ぞ。」
“それくらい”と言われて張がぶちっと切れた。
「何やて!わいのどこが“それくらい”や、ちゅうねん!あんたのようなヘボはわいにかかったら瞬時になます斬りやで、口に気いつけえな。」
と、張は袖から懐刀を取り出した。
「こいつをただの護身用の短刀やと思うたら大きな間違いやで、見てみい。」
と、張は鞘を抜くとヒュンと一振りした。
すると約20cmぐらいの刀身がカカカと伸びて約50cmの刀身の刀となった。
「これは新井赤空中期の作で自在刀と言うんや。ほんで使う時はこうやって刃を伸ばせるんや。斬撃力には劣るやねんけどそれでも人の腕ぐらいやったら簡単に落とせまっせ。」
と、張は刃先を伊藤に突き付けながら、
「単刀直入に言うで、あんたの工部省時代の右腕だった平田を殺ったんはあんたか。」
「平田の事を聞いた時は本当に残念に思ったよ。しかし何で儂が平田を殺さなくてはならないんだ。」
「それはわいがこの耳で平田が死ぬ前に殺ったんは“あんた”や、と言うたんと聞いたからや。」
「ほほう、平田がねぇ・・。君の方こそそんな嘘を言ってはいかんな、平田が儂だと言うわけがないだろう、全く有り得ない話だ。」
張は伊藤が本当に知らないのか、それともしらを切っているのか全くしっぽを掴ませない喋りだった。
平田殺しでは話が進まないと思った張はこれではどうかと武器の密輸について言ってみた。
「ほんなら、こないだの海軍がやりおった武器の密輸の件はどうや、あんたの指示で政府の裏金使うて何企らんどったんか喋ってもらいましょっか。こればかりは知らへんとは言わせへんで。わいらはあんたの圧力の所為で書類書くのにお陰でどえらい目にあったんや。」
「ほっほう・・、何処の間者かと思ったら君は政府関係者かね、こりゃ参った。」
「ちゃらけとる場合やないで、わいの努力を無駄にしおってからに。真面目に答えてえな。」
「・・先日の海軍倉庫沖の軍の船が沈没した件、あれについては密輸された武器が積まれていたらしいという噂があったことは聞いておる。それは警視総監からの情報であった。ということは君は警視庁の密偵か。」
「せや、内務卿や言うて、警察舐めたらあかんで。」
どの立場でお前がそんな事を言うか、と斎藤が聞いたら間違いなく突っ込まれるセリフも頭に血が昇っている張は勢いで言える。
「そうか、なるほど・・な。一片でも疑いがあれば全力を持って解明に挑む・・・頼もしい限りだ。だがその件はすでに終わっているのだ。無駄な調べをするよりも他にやることは山ほどあるんじゃないのか。」
「あんたがそういう態度ならわいも実力行使させてもらわなあきまへんな・・・命は一つしかあらへんで、よう考えて答えてな。あの多量の武器、密輸してどないするつもりやったんや、ちゃんと答えてーや!」
「そうそう、一つ言い忘れていたが、大警視(警視総監)も密偵の・・そうそう、藤田とかいった警部補もすでに任から外れたはずだ。君がなんと言おうがもう、調査する権利は君にはないんだよ。」
「なっ・・・、なんやてー!冗談晒すのも大概にせえよ。」
「冗談なんかではないぞ、嘘だと思うなら帰って確かめて来るといい。儂の居場所は密偵の君ならすぐに分かるだろう、異存があるならいつでも内務省へ来るがいい、三味線を持ってな、ハッハッハッツ。」
「こっ・・・こなくそ・・・。」
「君は剣客をやってきてその刀で今まで生きてきたかもしれんが、儂の刀は儂のこの口先だ。これで今まで幾度も危機を乗り越えてきた。政治家とはこういうものだ。この勝負君の負けだ、もういいだろう、帰りたまえ。」
豆知識:
小田原ですが、明治11年にはまだ鉄道は来てません。
そして後年、当初小田原ではなく国府津(小田原より東京より)には駅が出き、江戸時代には栄えた宿場町小田原は更に後年、鉄道が開通するまでは寂れてしまっていたらしいです。
でもその分、私鉄(今の小田急電鉄とか箱根登山鉄道のもとになる交通機関が発達したとのこと、でした。)
なるほど・・、昔、どうしてJRがあるのに小田急電鉄ってあるの?って思った答えがもしかしたらここにあったのか。
(脅して聞きたいことを聞くなら今か?)
女装も酒のお酌も役者になったつもりになれば苦ではないが、こうやってふと我に返ると、
(何やっとんじゃわいは。)
と思ってしまう張であった。
ノリはいいが飽きっぽい所が玉にきずである。
(ここで伊藤をズバッーっと半分に斬ったら気持ちええやろうな。)
と一瞬そんなことが頭をよぎったが、『殺すな』と言った斎藤の顔と、『頑張ってね』と言った武尊の顔が同時に思い浮かんで本来の任務を思い出した。
張は無意味にしなを作りながら、
「お疲れになったでしょう、肩でもお揉みしましょうね。」
と言って伊藤の背後をとった。
肩を揉むつもりで伊藤の首を羽交い絞めにしてやろうとした瞬間、
「君は何が知りたいんだね。」
と、伊藤は張に背を向けたまま質問を投げかけた。
「!」
相手に背を向けて無防備そのものの伊藤の首など刀などなくともへし折ってやることは張にとっては容易い事だ。
それを根拠に脅してやるのはあくまでも自分で、今現在優位に立っているのは自分の方だと確信するのに張は伊藤に指すら触れることが出来ない。
志々雄様とも斎藤とも違う、張を圧する空気がいつの間にか張を取り巻いている。
(何や、こいつ!)
内心焦っている張とは反対に伊藤は、
「ハハハ、そんなに硬くならんでもよいではないか。何も取って食おうという訳ではないんだよ。」
と、余裕の口調で話す。
張は仕切り直しと、伊藤から三歩後ろに下がった。
その気配を感じてゆっくり伊藤は張の方を向いた。
睨んでる顔ではないのにその鋭い眼光が張を固まらせた。
「これは経験の差というものだよ、張子君。」
これはもう猫をかぶってる場合ではないと判断した張は、
「何や、わいがただの女中やないともうバレたんか、おもろうないのう。」
と、認めた。
「ハハハ、全く君は面白いね。確かに女装した君は他のどの女中よりも美しかったが入って来た時より隙がなさすぎだよ。その場でお帰り戴こうとも考えたが、何せ聞こえてくる会話が面白くてね、それにいい三味線を聞かせてもらったんで話ぐらいは聞いてやろうかと思ったわけだよ。」
「ほんならこっちの話、聞いてもらいましょうか。まあ、『嫌』ゆうても聞いてもらうねんけどな。」
「ほほう、筋金入りの関西弁だな。そっち方面の間者か?」
「質問するのはわいのほうや。ぐだぐだいらんことは言わんでええから簡潔に話してぇや。」
「儂に分かる事かのう。」
「それがいらん事ちゅうんや、わいが『何処ぞの間者』と思うんならあんた、命狙われてるんやないかともっとビビってもええんやないか。」
「儂の人生は刀はなくとも常に命の駆け引きがかかっていてのう、それくらいの脅しでは何の効果ぞ。」
“それくらい”と言われて張がぶちっと切れた。
「何やて!わいのどこが“それくらい”や、ちゅうねん!あんたのようなヘボはわいにかかったら瞬時になます斬りやで、口に気いつけえな。」
と、張は袖から懐刀を取り出した。
「こいつをただの護身用の短刀やと思うたら大きな間違いやで、見てみい。」
と、張は鞘を抜くとヒュンと一振りした。
すると約20cmぐらいの刀身がカカカと伸びて約50cmの刀身の刀となった。
「これは新井赤空中期の作で自在刀と言うんや。ほんで使う時はこうやって刃を伸ばせるんや。斬撃力には劣るやねんけどそれでも人の腕ぐらいやったら簡単に落とせまっせ。」
と、張は刃先を伊藤に突き付けながら、
「単刀直入に言うで、あんたの工部省時代の右腕だった平田を殺ったんはあんたか。」
「平田の事を聞いた時は本当に残念に思ったよ。しかし何で儂が平田を殺さなくてはならないんだ。」
「それはわいがこの耳で平田が死ぬ前に殺ったんは“あんた”や、と言うたんと聞いたからや。」
「ほほう、平田がねぇ・・。君の方こそそんな嘘を言ってはいかんな、平田が儂だと言うわけがないだろう、全く有り得ない話だ。」
張は伊藤が本当に知らないのか、それともしらを切っているのか全くしっぽを掴ませない喋りだった。
平田殺しでは話が進まないと思った張はこれではどうかと武器の密輸について言ってみた。
「ほんなら、こないだの海軍がやりおった武器の密輸の件はどうや、あんたの指示で政府の裏金使うて何企らんどったんか喋ってもらいましょっか。こればかりは知らへんとは言わせへんで。わいらはあんたの圧力の所為で書類書くのにお陰でどえらい目にあったんや。」
「ほっほう・・、何処の間者かと思ったら君は政府関係者かね、こりゃ参った。」
「ちゃらけとる場合やないで、わいの努力を無駄にしおってからに。真面目に答えてえな。」
「・・先日の海軍倉庫沖の軍の船が沈没した件、あれについては密輸された武器が積まれていたらしいという噂があったことは聞いておる。それは警視総監からの情報であった。ということは君は警視庁の密偵か。」
「せや、内務卿や言うて、警察舐めたらあかんで。」
どの立場でお前がそんな事を言うか、と斎藤が聞いたら間違いなく突っ込まれるセリフも頭に血が昇っている張は勢いで言える。
「そうか、なるほど・・な。一片でも疑いがあれば全力を持って解明に挑む・・・頼もしい限りだ。だがその件はすでに終わっているのだ。無駄な調べをするよりも他にやることは山ほどあるんじゃないのか。」
「あんたがそういう態度ならわいも実力行使させてもらわなあきまへんな・・・命は一つしかあらへんで、よう考えて答えてな。あの多量の武器、密輸してどないするつもりやったんや、ちゃんと答えてーや!」
「そうそう、一つ言い忘れていたが、大警視(警視総監)も密偵の・・そうそう、藤田とかいった警部補もすでに任から外れたはずだ。君がなんと言おうがもう、調査する権利は君にはないんだよ。」
「なっ・・・、なんやてー!冗談晒すのも大概にせえよ。」
「冗談なんかではないぞ、嘘だと思うなら帰って確かめて来るといい。儂の居場所は密偵の君ならすぐに分かるだろう、異存があるならいつでも内務省へ来るがいい、三味線を持ってな、ハッハッハッツ。」
「こっ・・・こなくそ・・・。」
「君は剣客をやってきてその刀で今まで生きてきたかもしれんが、儂の刀は儂のこの口先だ。これで今まで幾度も危機を乗り越えてきた。政治家とはこういうものだ。この勝負君の負けだ、もういいだろう、帰りたまえ。」
豆知識:
小田原ですが、明治11年にはまだ鉄道は来てません。
そして後年、当初小田原ではなく国府津(小田原より東京より)には駅が出き、江戸時代には栄えた宿場町小田原は更に後年、鉄道が開通するまでは寂れてしまっていたらしいです。
でもその分、私鉄(今の小田急電鉄とか箱根登山鉄道のもとになる交通機関が発達したとのこと、でした。)
なるほど・・、昔、どうしてJRがあるのに小田急電鉄ってあるの?って思った答えがもしかしたらここにあったのか。
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