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120.九月三十日夜(藤田家の続きと、張の場合) (斎藤・時尾・張・伊藤卿)
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一方この夜、沢下条張は小田原にいた。
(ほな・・いよいよわいの出番やな。)
昨日はつい名刀に夢中になり東京を出発するのが遅くなってしまい宴会に間に合わなかったが、今日は口紅まで丁寧に塗り込んで張はある旅籠の厨房に出入りしていた。
「ちょっと!張子とか言ったわね、ぼさーっとしないで早くそれ持ってお座敷へ行ってちょうだいな。」
と、旅館の女将が張を呼びつけた。
「はいな~。」
厨房から一合徳利が十六本のっけられたお膳が二段、重ねられて出てきてそれを持っていくように女将が新人張子に指示をした。
小田原はもとより東海道の宿場町。
明治になって参勤交代がなくなり収入が大幅に落ち込んで廃業に追い込まれた旅籠も数多く、今はかなり寂しい宿場町となっていた。
そんな所に政府のお大臣一向が泊まるような高官用の宿は少なく、今回の伊藤卿御一行のお泊りとなればこの小さな宿場は突如戦場のようになった。
張は猫の手も借りたい宿に女装でまんまとお目当ての伊藤卿の泊まっている旅籠に雇われることに成功した・・・もちろん女中張子として。
昨日からお泊りの伊藤卿一向は東京を離れた解放感からなのか二日目で慣れたからなのか、先程始まったばかりの夜の宴会はすでに無礼講のように飲めや踊れやの大騒ぎとなっていた。
「あんた、お偉いさんには気持ちよく飲んでいただくのがうちの接待なんだからね、ま、あんたみたいなデカイ女に手を出す粋狂様はいないと思うけど、くれぐれも粗相のないように頼むよ。」
「はいな~。」
適当に鼻から抜けたような声で返事をしながら張はお膳を軽々と運びながらお座敷へ向かった。
それを見た古参の女中が女将に言った。
「女将さんいいんですか、伊藤卿の好みは二流三流の女ってことらしいじゃないか。(だからうちの旅籠へお泊りになったという噂だよ。」
「出したら出したでうちの女中に手をつけてもらったもんならそれはそれ、御手付き代でも頂けばいいんだって。」
そんな話が囁かれているのは張はもちろん知っての事。
決して自分の女装がゲテモノの類いではないと信じて疑いは持っていないが伊藤が地元の一流の芸者は呼ばないという理由は知っていた。
一流の芸者は地元の権力者と必ず繋がっている。
伊藤は自分の政策にいらぬ利権問題を絡ませるのは好きではなかったからだ。
「ちゅうて言っとるようやけどホンマは女好きなんを隠したいだけなんやないか。」
と、自分で突っ込んだ声に、
「あかん、ここでは関西弁はひかえんとあかんわ。」
と更に自分に突っ込んだ。
「お待たせいたしました~。」
と、宴会場と化している広間の障子を開けた。
誰もこのデカイ女に違和感を感じないのか、酒が空になったまま待たされた役人が張を呼びつけた。
「おい、こっちに来て酌をしろ。」
「はい~。」
だが呼びつけた役人は知らず知らずのうちに張子の話術にはまり会話が弾んでいく。
直ぐにその隣の役人からも声がかかり張子は左右両方へお酌をしながら話をうまく誘導していったが、どうやら下に座っているのはボンクラ役人らしく張は見きりをつけると次から次へ酌をする席を変えて行った。
そんな中、余興で芸者が入ってきて踊りや三味線を始めたのだが、やはり二流・三流の腕前、いや、たまたま芸者の当りが悪かったのか下手すぎて場が一気に冷めてしまった。
こりゃいかん、と張は半ば強引に三味線を奪うと即興で弾き始めた。
「おお、これは上手い!」
と手をたたいたのは伊藤卿。
張子の演奏が終わると早速伊藤は張子を手招きして呼び、この場がお開きになるまでずっと張子に酌をさせた。
「ぼちぼち終わりかの、よかったらもう少し儂の部屋で話をせんか。」
と、伊藤は張子の着物の裾をぺらりとめくりながら言った。
もちろん張はこんな事もあろうかとすね毛も剃っておしろいまで塗っていた。
「まあ嬉しい、私もこのまま帰るのは名残惜しいと思っていたところでございますわ。」
ホホホ、ハハハと両人はそのまま伊藤の部屋へ向かった。
(ほな・・いよいよわいの出番やな。)
昨日はつい名刀に夢中になり東京を出発するのが遅くなってしまい宴会に間に合わなかったが、今日は口紅まで丁寧に塗り込んで張はある旅籠の厨房に出入りしていた。
「ちょっと!張子とか言ったわね、ぼさーっとしないで早くそれ持ってお座敷へ行ってちょうだいな。」
と、旅館の女将が張を呼びつけた。
「はいな~。」
厨房から一合徳利が十六本のっけられたお膳が二段、重ねられて出てきてそれを持っていくように女将が新人張子に指示をした。
小田原はもとより東海道の宿場町。
明治になって参勤交代がなくなり収入が大幅に落ち込んで廃業に追い込まれた旅籠も数多く、今はかなり寂しい宿場町となっていた。
そんな所に政府のお大臣一向が泊まるような高官用の宿は少なく、今回の伊藤卿御一行のお泊りとなればこの小さな宿場は突如戦場のようになった。
張は猫の手も借りたい宿に女装でまんまとお目当ての伊藤卿の泊まっている旅籠に雇われることに成功した・・・もちろん女中張子として。
昨日からお泊りの伊藤卿一向は東京を離れた解放感からなのか二日目で慣れたからなのか、先程始まったばかりの夜の宴会はすでに無礼講のように飲めや踊れやの大騒ぎとなっていた。
「あんた、お偉いさんには気持ちよく飲んでいただくのがうちの接待なんだからね、ま、あんたみたいなデカイ女に手を出す粋狂様はいないと思うけど、くれぐれも粗相のないように頼むよ。」
「はいな~。」
適当に鼻から抜けたような声で返事をしながら張はお膳を軽々と運びながらお座敷へ向かった。
それを見た古参の女中が女将に言った。
「女将さんいいんですか、伊藤卿の好みは二流三流の女ってことらしいじゃないか。(だからうちの旅籠へお泊りになったという噂だよ。」
「出したら出したでうちの女中に手をつけてもらったもんならそれはそれ、御手付き代でも頂けばいいんだって。」
そんな話が囁かれているのは張はもちろん知っての事。
決して自分の女装がゲテモノの類いではないと信じて疑いは持っていないが伊藤が地元の一流の芸者は呼ばないという理由は知っていた。
一流の芸者は地元の権力者と必ず繋がっている。
伊藤は自分の政策にいらぬ利権問題を絡ませるのは好きではなかったからだ。
「ちゅうて言っとるようやけどホンマは女好きなんを隠したいだけなんやないか。」
と、自分で突っ込んだ声に、
「あかん、ここでは関西弁はひかえんとあかんわ。」
と更に自分に突っ込んだ。
「お待たせいたしました~。」
と、宴会場と化している広間の障子を開けた。
誰もこのデカイ女に違和感を感じないのか、酒が空になったまま待たされた役人が張を呼びつけた。
「おい、こっちに来て酌をしろ。」
「はい~。」
だが呼びつけた役人は知らず知らずのうちに張子の話術にはまり会話が弾んでいく。
直ぐにその隣の役人からも声がかかり張子は左右両方へお酌をしながら話をうまく誘導していったが、どうやら下に座っているのはボンクラ役人らしく張は見きりをつけると次から次へ酌をする席を変えて行った。
そんな中、余興で芸者が入ってきて踊りや三味線を始めたのだが、やはり二流・三流の腕前、いや、たまたま芸者の当りが悪かったのか下手すぎて場が一気に冷めてしまった。
こりゃいかん、と張は半ば強引に三味線を奪うと即興で弾き始めた。
「おお、これは上手い!」
と手をたたいたのは伊藤卿。
張子の演奏が終わると早速伊藤は張子を手招きして呼び、この場がお開きになるまでずっと張子に酌をさせた。
「ぼちぼち終わりかの、よかったらもう少し儂の部屋で話をせんか。」
と、伊藤は張子の着物の裾をぺらりとめくりながら言った。
もちろん張はこんな事もあろうかとすね毛も剃っておしろいまで塗っていた。
「まあ嬉しい、私もこのまま帰るのは名残惜しいと思っていたところでございますわ。」
ホホホ、ハハハと両人はそのまま伊藤の部屋へ向かった。